深淵
——6月9日、東北地方は梅雨に入り暑さと湿気でジメジメとした気候が続いた
鬼泣村の事件はニュースで流れ、宮城県知事の御堂 伸次郎は村人の追悼の為、慰霊碑を建ててくれた……けどそこの下には、誰も眠っているわけでは無い。
あれから鬼泣村には誰一人として脚を踏み入れていないらしい……そう鬼泣村は腐敗臭が漂う死者の村になった訳だ。
鬼泣村は見捨てられたのだ。
——コンコン、扉をノックする音
「伏見君おはよう、体の調子はどう?」
「お早う御座います、小野目さん。体なんですがまだ点々と痺れている所があります」
「初めて死んで、3日でそこまで回復するのは何を基準にしたのか分からないけど、良い方らしいわよ」
そう僕は一度死んでいる……、6月6日の日僕は間違いなく小野目さんに銃で頭を撃たれ死んだ筈だった、けれど僕は逝け無かった。
目が醒めたのは次の日6月7日、目を開けると今僕がいるこの個室の完全密封された一部屋のベッドに横たわっていた。
余りの不条理な事が起き僕の頭はパンクぎみであったが、小野目さんが僕が起きてすぐ今起きている事の説明をする為、近くで見守ってくれていたらしい。
殺した事への罪悪感だろうか……
「2日間もこの部屋に閉じ込めてごめんね。やっと、伏見君を……伏見君の力を知っている人が陰陽道東北本部に到着したわよ」
「いえ、冷房は付いてテレビも好きに観れたので意外と快適空間でしたよ」
「そう、なら良かった……じゃあ伏見君、私から逸れないようしっかり付いて来てね」
「子供ではないんですから、大丈夫ですよ」
暗く静かな狭い通路を進む——ここは何処なのだろう
「ここは東北本部って所なんでしょうか?」
「ここは一応東北本部よ、一般の隊員は入れない特別な場所、世間に公けに出きない人物を投獄する地下機密人物監獄所……っと着いたわよ」
コンコン、小野目さんは第一会議室と書かれた部屋をノックし、ドアノブを回し中へ入って行く。
「待ってたよ、小野目ちゃん! それと……伏見君」
こちらに話しかけてきたのは、子……供?
部屋には3人、テレビでよく観ており陰陽道の顔と言われている東北本部長の清水 龍御さん
60才ぐらいだろうか、一般からしたらただのおばあちゃんかもしれないが……近くに行くとわかる気ってやつかな? うまく言葉に出来ないが近寄りがたい存在って感じだと
それよりもだ……
「おい、天城何でこんな所に子供がって顔されてるぞ」
「あっいや、すみません」
昔からよく分かりやすい顔だなと言われて来たが、本当だったらしい
「いよいよ、そこはもう慣れてるから気にしないよ。初めまして伏見くん、僕は天城 テンコ。
これでも陰陽道関東本部長なんだよ」
「まさか! って感じの顔だな、まぁ気持ちは凄くわかるぞ俺も最初会った時は同じような事を思ってたなぁ」
「清水君は、伏見君より分かりやすかったよ。
……なんだって思った事全部口に出してたからね」
「そんな事もあったな!」
「今でも偶に出てるよ」
「あんた達いい加減にしなさい、今日集まったのはそんな下らない話をする為じゃない筈だよ」
穏やかな口調の筈なのだが、場が冷たく緊張感がはしる
……比喩ではなく本当に身体が冷えてきている。
「悪かったよ〜怒らないでよ、しーちゃん」
「しーちゃんは辞めろと言った筈だぞ、テンコ。
はぁ……伏見君、呼び出したのに挨拶が遅くなって悪かったね私は下国 雪北海道本部長をしている」
「……よし、伏見君じゃあ本題を話すねそこに座ってくれる?」
先ほどの天城さんとは違い、真面目なトーンとなり緊張感が増す
「それだは私はこれで失礼します」
「いや、小野目ちゃんもそこに座って話を聞いてくれるかな?」
「私もですか? ……分かりました、失礼します」
小野目さんも僕の隣に座り、そしてこの力と非日常の世界のことを綴り始める……
「まずは、白銀の角の事の前に僕ら妖について話しておかないとね」
妖……空想上の生き物として物語に使われる存在。
「そんな存在しているわけが……」
「しているんだよ、現に目の前にいるじゃないか」
その言葉の意味はすぐに分かった、僕の目の前で天城さんから狐の様な大きな尖った耳と、ふわふわしていそうな尻尾が生えてきたのだ……いや、生えていたのだ
「僕は妖狐、しーちゃんは雪女……そして、たっつみーはゴリラ男なのです!」
「違う、俺はただの鍛えているだけの人間だ。天城真面目なトーンでそんな分かりづらい冗談はけやめとけ、みんな反応に困っているぞ」
「うっ……ちょっと、しーちゃんまた空気が冷たいよ」
「今は何もしてないわよ」
「うー、じゃあ続き話すねー」
ふてくしている……
こう見ると、本当に子供みたいだ……清水さんが僕を見て笑いを堪えている、また僕は顔に出ていたらしい気を付けよう。
「えぇー、妖は物語の中では人を惑わし、殺しもするっと言われてはいるが現実は違うんだよ」
「そうだねぇ私達は別に人が嫌いって訳でもないしねぇ、私達に害を加えなければ人に力を振るう事もない」
「僕たちは人間と共に人間として生きて来た、だから人間の敵鬼は僕たち妖の敵でもある訳だ……現に僕達の仲間も大勢殺されている」
「妖……存在していたなんて、マスコミでも何でもそんな事どこにも書いてない」
「それはまぁ陰陽道の上層部しか知らない機密事項だからな、小野目も初めて聞く話だろ」
「……はい、私が聞いて良かったんでしょうか?」
「まぁ成り行きだが、お前は口が固そうだから良しとなった」
「それにしても僕のこの力と妖の因果関係とは何なんですか?」
「もう伏見君はせっかちだなぁ〜、せっかちはモテないよ〜」( ˊ̱˂˃ˋ̱ )
うっ……何だろう凄く偉い人なのになんかムカついてくる顔してる。
「プフッ、冗談だよー」
でも何故だろうこの人なら許してしまう自分がいる……何故かそれは小動物みたいに可愛いのだそれが男の子だとしても。
「伏見君、多分だけど勘違いしてるみたいだから言うねぇ、僕はメスだよ」
幼女……隣で小野目さんが泣いている。
「小野目お前の変態過ぎる程の幼女好きなのは知ってはいたが……まずよだれを拭きなさい」
「うっ……」
流石にあの天城さんが引いている。まぁでも気持ちは凄く分かります。
この感じの小野目さんに捕まったら何されるか、という恐怖……天城さん引くの次のステップ怯えるまできている。
「あんた達さっきから話脱線させ過ぎ、もう私が話すわね……次くだらない話になったら分かっているわねぇ」
「はい」
皆んなの気持ちが一心した、殺されると。
「伏見君の角の力は鬼童丸と妖によって造られた力なんだ
伏見君は慈愛の白き鬼の物語を読んだ事はあるかい?」
「一応教科書では……」
「あの物語では最後に鬼童丸が住んでいた村に鬼が攻めて来て村人は殺されて、角を折った鬼童丸は何も出来ず泣き叫ぶ事しか出来なかったと書いているが本来は違う。
村人は2人生き残っていた。鬼童丸と、その娘……名を雪」
「その娘というのは……」
「あぁ私の事だ、それとあの物語では私の母は人となっておるが、もう察しはつくだろう……妖だ。
そうだのぉその角が造られるまでの少し私の昔話をしてやろう」
——優しかった鬼と妖の物語を——