日常
——この世には人類と敵対する「鬼」と呼ばれる種族がいた。
赤鬼、青鬼、黄色、白鬼、黒鬼、桃鬼と六つの種族に分けられ、それぞれに鬼の上位互換である鬼神が統括している、またその鬼神を統括する鬼の頭領酒呑童子が存在した。
時は平安時代、鬼から人々を守る存在である陰陽師が安倍 晴明により大きく力を付けていた天徳4年、奇しくも桜が生い茂る雲もない晴天の日、酒呑童子が率いる百鬼夜行が安倍 晴明率いる陰陽師との全面戦争が勃発した。
熾烈をきわめた戦いは1週間もの間続き、多くの犠牲を払いながらも、鬼神を五匹と、酒呑童子を封印する事に成功し、人類の勝利と終わった。
「晴明様ついにやりましたね、我らの勝利です」
「あぁ、だがまだ喜ぶのは早いぞ我らは鬼神供を封印したに過ぎない、奴等は再び復活するだろう……」
晴明はいつか再び訪れる最悪に立ち向かえる力を後世に伝える為に、日本各地に弟子である陰陽師を向かわせ陰陽の力を説き、それを広め日本に陰陽師の集団、陰陽道を開設した。
それから多くの時が流れ2028年、近代化した日本にはまだ鬼の脅威は続き、陰陽道との争いは続いていた。
——『こちら仙台第1支部、東北本部応答して下さい』
陰陽道東北本部に無線で一報が入る。
「こちら東北本部」
緊急の事なのか、少し早口で焦っている様に報告し続ける。
『呪術占いにより本日、鬼泣村にて鬼の軍勢が出現すると結果が出ました、こちらの戦力では心許なく、本部より援軍を申請します』
「了解した、直ちに小野目隊を向かわせる」
6月6日僕の人生が変わる大きな事件が起こる事になる。
時は遡り前日6月5日
ジリリリリリッッ……カチッ
目覚しを止め、僕はいつものように起き上がる。
窓からは光が差し込み、チュンチュンと小鳥のさえずりが聞こえる、最近は真夏日が続き寝苦しい日々が続いていたからだろうか……それとも週初めの月曜日だからだろうか、まだ体が怠く思える。
「二度寝したい所だが、中学校に行く時間に起きれる自信がないし、起こしてくれる人もいないからな……」
ゆっくりとベットからおり、いつものように洗面台に向かい寝癖が酷い真っ白な髪と格闘する事5分……髪の毛が丈夫なのはいい事なのだが、毎日の寝癖直しは面倒と思ってしまう程硬く直しづらいのである。
その為髪型は耳や目にかからない程のベリーショートにしている、それからは軽く庭の掃除、柴犬の松五郎にご飯をあげ、僕も昨日準備していた朝食を食べ、中学校に向かう。
これが伏見 明のいつもと変わらない朝の日常。
「行って来ます」
このいつもと変わらない日常はつまらなそうに思えてそうではない、この変わらない事がこの世の中で一番幸せな事だと思っている。
日常とは前触れも無く、唐突に壊される事が必ず訪れる、自分に至ってそんな事は無いと言う人は山ほど居るだろう、けれどこれは誰にしろ必ず待ち受ける運命と言っていいものだと推奨する。
僕は不運にも15年間で2度経験している、僕には両親、姉、妹がいた……。
「あっ伏見君、おはよー」
僕を呼ぶ声、振り向くと艶やかな肩まで下ろした黒髪をなびかせ、手を振りこちらに走り寄って来る。
「あぁ真美か、おはよ」
桜 真美、僕と同じ学校で同級生である……まぁ同級生と言っても僕が住む宮城県隅にある鬼泣村は人口たった40人余りで大半は高齢者、今僕が向かっている学校も村に1つしかない小中一貫校で全校生徒8人しかも全員同級生……、来年には生徒数0になる訳だ。
「伏見君、そろそろ夏休みだけど何か予定とか入れてる?」
「別に何も予定無いよ……っで、何処に行きたいの?」
「クラスのみんなで東京に行ってみたい!」
「東京の何処に行きたい?」
「ん〜そうだな、ディズニーランド」
残念だけどディズニーランドは場所的には千葉なのだが、真っ白な頬を赤く染め、大きな黒い瞳がキラキラ光らせながら話す姿を見ていると言い出し辛い。
「そうなると仙台市から新幹線か、村から1番近い駅がここから歩いて2時間、そこから仙台駅まで2時間、新幹線が東京まで大体2時間時間もかかるし、予算的には1人6〜7万って所かな」
「夏休みは1ヶ月もあるんだよ! 時間なんて気にするなってやつだよ、あとお金の事は気にしなくて大丈夫だよ私のお小遣いから200万位は貸せるから」
……さすが仙台市に10件、鬼泣村の全ての土地を持つ地主の孫、スケールが違いすぎる。
「そう言えば仙台市に土地持ってるのに、なんでわざわざ不便なこんな村に?」
顔色が曇る。
「……うん、人が多い場所で1人は怖いから」
軽率な質問をしてしまったと後悔した。
そうだ……、真美は仙台から小学校3年生の時この村に引っ越して来た、その頃はこの様子だと多分原因は鬼関係だろう。
今現在世の中には鬼による孤児は沢山存在している、現に僕もそうだ7年前まで僕は東京に暮らしていた……。
鬼は未だ不明瞭な部分は、多く残るのだが分かっている事もある。
現在知られている事は、鬼は人の邪念、悪質感情、恐怖などの感情がこの世を怨んで逝った霊に絡み復讐する為の力、呪力を開眼しこの世に生を受ける……っとテレビで有名な陰陽師東北本部長の清水 龍御さんが言っていた。
何が言いたいかというと、鬼は人口が多く集まる所に出現する事がデータ上分かっている事だ、なので都会に行くほど、街のあちこちに地下シェルターに繋がる扉がある。
東京は近年人口が増えていき、鬼も次第に増えていった
そこで僕の父は陰陽師をしていた、あれは忘れもしない父の非番の日、みんなで出掛けたその先で黒い鬼に僕以外殺された……なんで僕だけ助かったのかは分からない、その時は死ぬも生き残るのも地獄に思えて僕は何も出来なく、ただ声を押し殺し泣く事しか出来なかった……。
それからこの村の祖母の家に来たのだが、僕が中学1年生の頃突然祖母が失踪した……急な出来事であった。
それから2年未だに手がかりすら見つかっていない。
「あ……あの真美ごめ……」
真美はパンッと柏手を打ち僕の話を遮った。
「はい! この話終わり、伏見くん学校の予鈴まで後10分だよ急ご」
「そうだね……急ご」
——キィ〜ンコォ〜ンカァ〜ンコォ〜ン
6時間目の始業のチャイムが鳴る
「みんなー席に着けー、6時間目は歴史だったなこの前どこまでやったかな」
村で唯一の先生である能村先生は全教科を教えているので「この前どこまでやったかな」は口癖の様になっている。
「先生、確か鬼神を封印した辺りじゃないですか?」
「あぁ、そうだったなありがとう桜 真美さん」
見た目穏やかそうなぽっちゃりとした生徒が疑問を抱く。
「それにしてもおかしく無いか?」
「春紀、何がおかしいのよ」
「水音、だってさ鬼神は酒呑童子を抜きで6匹いるはずなのに封印されたのは何匹だよ」
「春紀お前勉強は全然なのに、感は本当に冴えてるよな……太ってるけど」
「充彦、それ褒めてんのか、バカにしてるのか、わかんねーよ……太ってるは関係ねぇーだろ!」
「……っふ」
不意に笑ってしまった、僕は春紀と充彦のこんな下らない会話が好きなのだ
「お前ら〜少し静かにしろ」
チョークで黒板をカッカッっと少し先生の苛立ちが外に漏れ出して、言葉は緩かったが僕らはすぐ口を閉じ緊張感が漂う
「じゃあ松永 愛さん、教科書13ページの慈愛の白き鬼の所読んでくれますか?」
「はい!」
『鬼童丸、六種族の白鬼の王として、鬼の頭領酒呑童子の実子として生を受ける。
鬼童丸は戦を嫌う博愛主義者であった、だが白鬼の王として争いには出ないといけなかった、そうしなければ父である酒呑童子に白鬼の存在意義を問われ、みんな殺されてしまう。
鬼童丸は考えた結果、天徳4年平安時代、酒呑童子率いる百鬼夜行と安倍 晴明の率いる、後に陰陽道と言われる事になる陰陽師集団との平城京での戦争の中、仲間の白鬼と共に逃亡。
逃亡中も平城京で逃げ遅れた人達を救って周り、怪我人が居たら治して回った』
「はい、そこまででいいよ。じゃあ次は木浦 相楽くん、続き読んでくれる?」
「はーい」
『鬼童丸の能力は「癒し」どんなに傷ついた人でも治す事が出来る鬼として珍しく優しい力の持ち主であった。
鬼童丸は京都を出てから、東北の宮城県に渡り鬼の象徴である角を折り人間として生きていくことを選んだ。
それから数年後、鬼童丸と人間の間に子供が出来ていた、そんな幸せな生活も長くは続かなかった。
鬼神が封印されても、配下の鬼たちは各地で裏切り物の白鬼を探し暴れ回っていた』
「はいありがとう、時間も余り無いから後は先生が要点を伝えるなー
遂に鬼童丸は見かってしまい暮らしていた村に鬼達が攻めて来た、鬼たちは村人を食料として殺して回った、だが鬼童丸には止める事が出来なかった……はい、それはなぜか折原 美由さん」
「えー急に言われてもな、うーん……角を折ったから?」
「おっ! 正解。鬼の角は力の象徴、呪力を使う為の触媒みたいなものだったらしく鬼童丸はただ村人を殺されていくのを見て泣き叫ぶ事しか出来なかったという」
鬼も人間と同じ感情を持っている? そんな事はあり得ないだろう……鬼は感情が無い化け物なんだから。
「教科書には書いて無いが鬼童丸が住んでいた村ってのが、ここ鬼泣村って言われているんだ」
「えーこの村ってそんな凄い所だったんだ」
ガタァっと真美が立ち上がり、驚きの表情を全面に出していた。
……そこまで驚く事? とは思ったものの口には出さなかった。
そんな事いったら蹴り2発は覚悟しないといけない。
「そっか真美ここの生まれじゃ無いもんね、ここで産まれた子達は4歳の頃に白銀の儀っていう儀式をやるのが習わしなんだけどね」
「白銀の儀?水音それ僕も知らない」
「伏見……この村の生まれじゃなかったんだっけ?」
「産まれはこの村だけど、すぐ東京に引っ越したらしいから……」
生まれたばかりだったので、らしいとしか言えないのである。
「そうなのか、じゃあ近いうち鬼泣神社に行った方がいいよ」
【鬼泣神社】
学校から東3キロ先にある今や神主の71歳のおじいちゃんが1人で守るボロボロの神社が建っている。
「……どうして?」
「じゃ先生が教えてやろうか、この村の伝承で産まれてくる子供に鬼童丸の力が受け継がれて産まれてくるらしく、特徴として呪力を解放すると白銀の角が出てくるらしいぞ、まぁ今になっては迷信だがな」
キィ〜ンコォ〜ンカァ〜ンコォ〜ン
「おっと時間か、今日はホームルーム先生用事あるから、このままもう帰っていいぞ〜」
——「ねぇみんな夏休み何か予定ある? もしなかったらみんなでディズニーランドに行かない?」
「いいね〜最後の夏休みだからね、みんなで思い出作りたいね!」
「行きたいけど……家今金欠なんだよな」
「相楽君、この真美様に任しとけ!」
「さすが、美人お金持ち!」
「水音ちゃん褒めても、何も出ませんよ〜」
とても楽しそうだ……よかった、朝に気を悪くさせたんじゃ無いかと心配していたが問題無いみたいだ
「じゃあ確か水曜日祝日だったよね、なので水曜日14時に私の家に集合して計画しましょうって訳でよろしく、かいさーん!」
——「ただいま」
帰ってからは、朝と同じでやる事は決まっている。
取りあえず今日学校で習った事の復習、それから松五郎と戯れごはんをあげ、自分の夜ご飯を作り、テレビを観ながらゆっくりと食べる。
少し休憩したらお風呂掃除をしてお湯を張りゆっくり湯船に浸かる、そして明日の朝ご飯の準備をして23時に就寝する。
今日も何事もなく楽しい1日だった、明日も何事もない日常を過ごせるよう願おう……おやすみ
次の日僕は非日常に脚を踏み入れる事になる。
神様は人間に平等に試練と幸福を持たせると言うが、僕は神様に嫌われ捨てられた存在何だと思う、そうでなければこの世界に神様なんて存在しないと確信出来る……。
読んで頂きありがとうございます。
初心者なので誤字など多いと思いますが、また読んで頂き、感想も貰えると幸いです。
これからも書くいく予定ですので、よろしくお願いします