1話 ネムノンの検証
こんばんは、月猫ネムリです。なんか本編始まっていないのにブクマ付けてくれた人が二人もいてくれて、感動です。では、ようやく始まりました本編1話目。どうかお楽しみ下さい
コポリと薄緑色の液面に水泡が浮かぶ。
ヒトガタが詰まった円筒の立ち並ぶ、相も変わらず不気味な薄暗い部屋。
その部屋の中で、部屋の主である魔王の臣下にして随一の狂博士『探求者』ネムノンは一つの円筒を前になにかを書き留めていた。
彼が今熱心に観察しているのは知り合いが持ち込んだ一体の検体。かつて鬼面の騎士が戯れに持ち帰った、あの死にたがりの男だった。
「ふ、む。やはり…。これはどこか、おかしい、な。肉体、にも……精神、にも……異常と言える変化が…無い。…否…なさすぎ、る……」
ネムノンが首を捻っているのには理由がある。彼は、鬼面の騎士ことベリトから、自分の目の前の検体が剣を掲げるベリトに対して恐れを見せなかった事を聞いている。
この話を聞いたときまずネムノンが抱いたのは、この旧友の話に対する猜疑だった。
ネムノンとて、その付き合いの長さから旧友の性格が嘘や欺瞞に(控え目な言い方でも)不向きなのはよく知っている。だが、同時にネムノンは旧友が人間に対してどうしようもない恐怖を呼び起こさせる事も知っている。
理屈ではない。体面も理性も超えた本能が、人間にベリトに対する畏れを叫ぶのだ。抗い様など微塵も無い。
だからこそ、ベリトに立って向かい合い、更に安らいだ表情まで浮かべたこの検体に興味が沸いた。そして調べれば調べる程に、この検体への興味は増大していった。
(ベリトに対して恐れなかった、と言われた時点で薄々予想はしていたが……この人間は本当にどうかしているな…)
この検体を手に入れたネムノンが最初に取り掛かったのは、検体の記録の照会だった。
生きとし生ける全ての生命は、誕生した瞬間からその魂に記録を刻まれる。それは人生の一覧であり、その生命が辿った感情と事象の早見表だ。故にネムノンは、この記録を見て検体がベリトに対面した時の記憶と情動を知ろうと試みたのだ。が、しかし結果はーーー
(ーーーなんだこれは……?一切の動揺が無い。いや、寧ろ情動が一定以上に達した瞬間に強引に押さえつけているのか……?どちらにせよ人間業ではないな。魔王でもやらんぞ)
はっきり言って想像以上だった。本能からの指令を精神力で強引にねじ伏せるなど、ふざけているとしか思えない。よっぽど自制心が強いのか、それとも普段から本能をねじ伏せる経験でもあったのか。
「ふ、ふふ……。面白い、な。俄然…興味が出てきた」
この時点でネムノンから自制は消えた。
それからネムノンは検体に対し肉体が崩壊しない程度の様々な実験観察を実行した。
したい実験があれば検体の肉体を趣味と魔王からの命令も兼ねて改造を施し、あくまで死なない程度に肉を弄んだ。そして現在、旧友ベリトを前に、ネムノンは結果を伝えた。
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「……はぁ?」
整った顔を奇妙に歪め、ベリトは目の前の旧友に気の抜けた声を出した。
「ふ、ふふ。らしくも無い、な。そんな顔…をする、とは」
相も変わらぬ喋り方の友人に、ベリトは思わず信じられない思いで詰め寄る。
「らしく無いのは貴様だろう、ネムノン!いくら前例が無いとは言え、お前がたかが人間を理解出来ないなどーーーーーっ」
悔しげに唇を噛むベリトに、ネムノンは寧ろ満足な様子で鷹揚に頷きを返す。
「だが、事実、だ。俺には、この人間、は…。理解、できなかっ、た……。それに…。なんの収穫が無かった、と言う訳でも…ない……」
その発言に目を見張るベリトに、ネムノンは淡々と要求を伝えた。
「陛下に…。お伺いを、立て、たい……。頼め、るか?ベリ、トよ…」
今、マグノリアに風が吹こうとしていた……
連日投稿六日目です。もしかしたら気付かれた方も居られるかもしれませんが、プロローグの3話目のタイトルを訂正しました。ようやく本編始まりましたRed Rum、詰まりながらも明日も投稿したいです