プロローグー2
まだプロローグです。投稿こそ早いものの始まりが夢だったので話の整合性、展開に難があるでしょうが、宜しければコメントでご指摘お願いします!
男は悪夢の中にいた。
草一本も生えていない灰色の荒野。鳥のような名状し難きナニカが群れを成して飛んでいく血の色に近い赤黒い空。大気は鉄錆を含んだ枯れ草の香りを纏い、視界の隅に偶に動くものを見かけたかと思えば瞬く間に朽ちる。神の恩寵はこの地に満ちることはなく、正しくこの地は死んでいた。
誰にも教えられる事なく事実を事実として自然に理解できる事。自身の知らない筈の知識が自身の中にある事に疑問を抱く事もなく、男の意識はいつの間にか聞こえていた彼方からの呼び声に導かれる儘に現実へ浮上していった。
(ーーーーーーまだ生きている、のか……)
意識が現実に帰還して最初に男の意識に昇ったのは、未だ生存している自分への無念だった。が、間もなく男は自分の状態が意識が途切れる前までと異なっている事を自覚する。
まずは自分がいる場所。薄緑色の謎の液体に満たされている円筒形の容器の中に男はいた。
次に着衣。着ていた筈の服が無くなり、代わりに釣り鐘のような簡素な着衣に着替えさせられている。
そして体調。精神と言い換えても良いが、意識を失う前は塞ぎ込んだような心地だったが、今は不思議な解放感に満ちている。
(なくなった、のか?“あれ”が)
今まで何度となく彼を苦しめてきた胸の中を塞ぐ障害の感触。今までに無い爽快感にその消失を確信した男は、安らかな気分のまま再び意識を途切れさせた。
ーーーーーーーーー
「来たぞ!ーーーで?私が持って帰ってきた“あれ”はどうだった?ネムノンよ」
男が眠りに就いて数分後。薄緑色の光に暗く照らされた部屋に、何者かの声が響いた。誰もいない部屋の中に何故声をかけたのか?そんな疑問に応える様に、誰もいなかった筈の部屋に呼応する影が現れていた。
「ーーーーーー順調だとも…。我が、同胞……、…ベリト、よ……。貴様、何処で…見つけた……?」
部屋の暗がりに負けぬ暗灰色のローブで全身を覆い隠した男---『探求者』ネムノンは、その特徴的な嗄れ声で、ぶつぶつと返答と問い掛けを返した。問い返されたベリトは、しかし返答の後に続くであろう詰問を面倒がってその問いに知らん顔を作ると、話を逸らそうと眼前の薄緑色の液体に満たされた円筒に触れた。
「何処でも良いだろう?そんな些事。ーーーところでネムノン。お前、研究も良いが魔王さまからの命令は進んでいるのか?人間どもは既に勇者の選定を済ませたそうだがーーー」
「問題、無い……。魔、王さまに命じられし……勇者への先兵、の制作は……もう、済んでいる……。事、此処まで進めば……我に出来る事は、最早…無い……」
そのネムノンの返答に納得したのか、それきりベリトは口を開かないままで眼下に並ぶ薄緑色の円筒の群れを眺める。しかしその瞳には、只々虚ろが満ちていた。
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赤黒い空の下。一筋の光も生まない純黒の城塞の一室で、部屋の主は部下の五感に同調させていた眼が視た光景に満足気な吐息を漏らす。
「ここまで、長い時間が掛かってしまったな……。だが、ようやくだ。ようやく嘗ての雪辱を果たせる……。それまでは、せいぜい束の間の喜びに浸るが良い」
部屋の壁に掛かった拙い出来の花の絵や、友と肩を組んで笑いあう懐かしい日の写し絵をぐるりと見回す。そこで一息つくと、部屋の主は空っぽの杯を掲げて残りの言葉を言い放った。
「ーーーーーーだが今度こそは、我々が勝利させてもらう」
郷愁の笑みを消し気迫を一気に言い切ると、杯を煽った部屋の主ーーー魔王ウィルヘルムは、先程まで存在していなかった筈の葡萄酒の味を腑で感じながら挑発的に嗤った。