11話 探求者はかく思えり
バトルを書くつもりが気が付いたら…………。なんてこったい!?
カランーーーと軽い金属の落ちる音が聞こえる。
カチンーーーと糸を鋏で断つ様な音がする。
グチャリーーーと湯気がたつ新鮮な肉塊が掻き回される。
カシンーーーと使用済みの縫い針を後方に投げ捨てて、ネムノンは最終調整を終えた死兵を前にどこか満足そうな吐息を漏らした。
「さ、て……。これ…で通常、の死兵はか、んせいした………。しか、し…、今更ながら……魔王さ、まも酔狂、な考えをされた…もの、だ……。よも、や人間共、に死した同族をぶ…つけるとは……」
深く被った外套の影で、内心の愉悦を顕すように細い唇が三日月を描く。
魔王ヴィルヘルムの考案した、数に劣る自分たちの兵力を増強する手段、死兵。擬似的な死者の復活という、非現実的を通り越してお世辞にも頭脳派とは言い難い魔王の配下たちにすら荒唐無稽と評されたこの考えは、魔王配下随一の頭脳と研究欲の持ち主であるネムノンにとっては最高の玩具であった。
「古の…魔術王、にす、ら不可能…と言わしめ、た外法……。例え、可能性、が……微塵、も無かろうと………挑む価値、はある」
魔王に死兵創造の命を受けた後、旧友に心配された時に放った台詞である。例え結果が無であろうとも、伝承にのみ語られる偉人英傑の領域に触れられるならば命など安いもの、という意志を込められたこの言葉を胸に、ネムノンは倫理も危険も踏み越えて死兵の創造に邁進し、踏破した。
そして、死兵創造はネムノンに新たな楽しみを与えてくれた。
旧友ベリトが持ち込んだ男は、今まで四桁を余裕で超える人間を解剖し、かつ弄ってきたネムノンをして未知の“ナニカ”を持っていた。
(“これ”の調整も既に完了している。神経も筋肉も無事なのに何故まだ目を覚まさないかは分からない。が、私の“目”が正しければ、これは勇者にとっては最高の切り札になるに違いない)
「あぁ……。戦、が…待ち遠、しい……」
グチャリ、グチャリと手元も見ずに屍肉を弄るネムノンは、来るべき戦の時を。自身の見いだした傑作の成果が発揮される時を、心待ちにした。
次こそはバトルを書こう…。勇者たちの俺ら強え、を書くんだ……