8話 座する魔王
日が開けてしまいました、月猫ネムリです。ブックマークがまた2人増えていてなんか嬉しいです
招集を受けた勇者たちが人王国に集結していた頃。遡る事、一週間前。一見して明らかに威圧的な雰囲気を漂わせる黄金の大広間で、鬼面の騎士ベリトは玉座に君臨する存在に微動だに出来ず平伏を続けていた。
「ーーーさて?それでは用件とやらを聞かせてもらおうか、我が配下ネムノンよ。願わくば、そなたの用件に我の時間を割くだけの価値があると良いな」
何の意志も込められていない、その声だけで聞いている方の膝が思わず挫けそうになる圧倒的存在感。
深い黒の髪と人成らざる紅金色の瞳の男ーーー現魔王、ヴィルヘルム・オールド・レメゲトンの問いに、問われた『探求者』ネムノンは怯む様子も無く胸を張った。
「え、えぇ…。恐らく、ですが……陛、下のご期待を……裏切る、事、は…無いで、しょう……」
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堂々といつも通りの調子を崩さず意見を奉る旧友の姿に、ベリトは平伏の姿勢を崩さないまま密かに冷や汗を流していた。
(本当に大丈夫なんだろうな、ネムノン!勇者が召喚された今、陛下にはほんの少しの時間も惜しいのだぞ!それを押して申し込んだ謁見、もし陛下のしますがお気に召されなければそのまま処刑される事もあり得るのだぞ!)
ベリトの緊張と心配を反映するかの様に、ヴィルヘルムは淡々と
「世辞は良い、端的に用件だけを述べよ」
と言い放つ。ネムノンは気にする様子も無く、ここまで温めてきた用件を上申した。
「で、は…お言葉に、甘え、て……、陛下、の…御命令、に従い製作していた……『死兵』…。材料、は全て…使い完成、したので、すが……。その中より、一体…だけ……。もう少、し…お時間、を頂きた、い」
瞬間、広間に霜が降りたと錯覚するほどの気配が走った。
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「で、は…お言葉に、甘え、て…、陛下、の…御命令、に従い製作していた……『死兵』…。材料、は全て…使い完成、したので、すが……。その中より、一体…だけ……。もう少、し…お時間、を頂きた、い」
用件を紡ぎ終えた瞬間、広間に落ちた寒気にネムノンは思わず肩を震わせた。
「ーーーーー当然不許可だ。一考の価値も無い塵以外のナニモノですら無い。我に無駄な時間を浪費させるとは、怒りを通り越していっそ感心すーーー」
「もし、許可、頂けたなら、ば……。その、死、兵は…勇者、への…切り札、に……なり、ます……」
無礼を承知の上でヴィルヘルムの恫喝を遮ると、ネムノンは一層烈しさを増した寒気を振り払って己の考えを告げた。
「ーーーーー続けろ」
何倍の時間にも感じられる数秒の空白を挟んで、ヴィルヘルムは続きを促す。
「で、は……。い、ま、研究し、て…いる死兵、に中々…興、味深い個体が……いまし、て…。詳細、は……まだ報告、出来ません、が…。成功、すれ、ば……我らにとって、も、心…強い味方、になるで…しょう……。しか、し…陛、下に申し付け、られた…期日では…他、はともか、く……その一体、は不完全、な状態、で…出陣する、事に成ります…」
濃度を増し続ける寒気にも止まらず言葉を紡ぎ終えたネムノンに、ヴィルヘルムは冷然とした魔王の顔で思索する。そして………
「ーーー良いだろう…。外に出ない貴様が地下から這い出てまで我に訴える、その“切り札”とやらに興味が沸いた。ふむ、下手に生半可な状態で出されても迷惑だ。時間はくれてやる。存分に振るえ!…但し、勇者への切り札として効果を発揮しなかったならばーーー」
「その時、は……この身、を捧げ…陛下の力、を喚びましょう…」
その返答に嗤うと、ヴィルヘルムは玉座から立ち上がる。
「聞け、皆の者。戦いの刻はより近くに迫っている。4人の勇者が地に降り、人間共は虎視眈々とその爪牙を研ぎ我々の命脈を断とうと画策を巡らせている。備えよ、奴らに致命の逆撃をくれてやる為に!」
その言葉に、その場の全てが跪いた。
「「「「「「仰せの儘に!」」」」」」
と、言うことで今回は魔王サイドの話でした。次の話から話が加速していく予定ですが、その分更新が遅くなりそうだと前もって告知しておきます。出来るだけ毎日投稿したいので、応援宜しくお願いします