5話 人王国の密談
静かに怒る王女と侍女に、勇者が全力の土下座を敢行していたその時。エルディン王国から国を2つ挟んだ大国で、その会議は静かに進行していた。
「ーーーエルディン王国がようやく勇者を召喚したらしいな」
「正にようやく、といった具合ですがな。全く、人生だの誇りだのと下らん屁理屈ばかり捏ねていたが、あの国は今が非常時だという認識に欠けているのではないか?」
「仕方ないでしょう。国中が『誇り』だの『尊厳』だの妄言を吐きながら、輝かしい過去の栄光に縋っている国です。寧ろ早い方でしょう」
人類最大国家にして人類連合の宗主国、アーリオ・エルス人王国。この大国家を国王である人王ソロモンの名の下に実質統治する三権人は、エルディン王国をそうこき下ろした。
「それよりも、ワーズワス、ザントレ。あの様な小国よりも、私達の優先してすべき事項はまだあるでは無いですか」
「ネビリス、貴様の言う事項とはどれの事だ?我らが勇者の事か?未だ出兵を渋る神殿の連中か?それともあの忌々しいカサス族についてか?まさかエルディンの愚王の唱える勇者共の尊厳とやらでは無かろうな」
「最後を除く全てですよ、我らが『智者』ワーズワス。貴方程の御人がまさか何の采配もしていない筈はありませんが、あくまでも念の為です。あぁ、言うまでもないですが貴方もですよ『拓者』ザントレ」
「ふん、ソロモン様に申しつけられたら全ては滞りなく進んでいる。敢えて問題を探すならば、精々他国の召喚した勇者への教育が予定されている過程から二つ遅れている程度だ。まぁ異界の住民がソロモン様の偉大さを容易に理解出来る筈も無いのは当初から予想されていた事だ。いざとなれば『刷り込め』ば良い」
「儂の方も同様だ。カサス族も八割ほど削る事は出来たしの。まぁ勇者共が揃うまでにはこの大地から奴らも駆逐出来よう。そういう貴様はどうなのだ?『見者』ネビリス。貴様御自慢の『目』には何が見えるのだ?」
憮然とした表情で吐き捨てる中年男性『拓者』ザントレと、重なった皺をクシャクシャにして問う老人『智者』ワーズワスに、三権人の代表『見者』ネビリスは、当たり前の事実を告げるかの様に仄かに笑んで答える。
「ーーー無論、遍く大地にソロモン様の威光が降り注ぐ理想郷ですよ」
その答えに何を見たのか無言に戻る男たちに、ネビリスは笑んだまま音頭を唱える。
「さぁ、行動を起こしましょう。勇者を揃え、不浄を討ち、この大世界マグノリアにソロモン様の威光を満たしましょう」
「ーーー人の意志を纏めよう。統一された思想の下にこそソロモン様の威光は輝きを増す」
「人の幸福はソロモン様の下でこそ実現される。最高の王の統治の下、マグノリアは真の平和を手に入れられる」
「「「我ら三権人。旧き智の下に地平を拓き、未来を見る者。我らの全てはソロモン様の意志の下に!」」」
三権人の声が唱和される。誰の目も届かぬ場所で、人の意志が導かれる先は決定された。
こんばんは、月猫ネムリです。例にもよって例の如く行き当たりばったりで突っ走った結果、作者が想像もしなかった設定がばたばた出て来てしまいました。
取り敢えず勇者サイドをもう一話書いたら勇者サイドの設定出そうと思います。
なんか既に手に負えない感が凄いですが、お付き合い下さると光栄です