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第1章 61話 「大司教 竜殺しのデズモンド」

ーアデン右翼軍本陣最後方ー



そこはアデン軍の中に於いて最大戦力を割かれた隊であり、正に中枢と形容するに相応しい兵数、兵力、武装を備えていた


兵卒は一糸乱れぬ整列を保ちその行進は練度の高さを伺わせ

またそれを束ねる6人の司祭も軒並み実力派が務める


隊全体を見渡す事を可能とする祭壇の一角に座す来賓者は、その圧巻の光景を眺めながら葡萄酒を傾けた


血生臭い戦場を高みから見下ろす絢爛豪華な祭壇

それはこの戦の為だけに拵えた物であり

教国の富と権力を象徴する建造物でもある


祭壇は巨大で優に100人を許容出来る広さを持ってはいたが、その図体に反して門は狭い

そこに座る事が許されているのは僅か三名ばかりの神官と、外から招かれた四名の賓客のみであった


「デズモンド殿、教国の律とは中々見事なものですな

この私もこれ程統率された兵を見た事はありませぬ」

大陸中央の国家サントリアスの貴族アルスター伯爵が感嘆の声を漏らす


「お気に召して頂き光栄に存じます。

……ですが、教国は規律で信徒を縛っている訳ではありませぬ

勿論、基本的な動きは教えますが

あくまで彼等は徴集された兵では無く、信仰を守る為に自主的に集った信徒

士気や意欲が高いのはその為かと」

祭壇に座す三人の神官の一人にして右翼軍の総括を担うデズモンドは、重鎮の伯爵に堂々と言い放つ


サントリアスは多様な民族を受け入れる永世中立国家であり、大陸の商業の中心点でもある

その為、教国の信仰も許されるが武力による介入は難しく信徒を増やす事が滞っていたのだ

この戦時の際に教国の権威がどれ程の物か見せておく必要がある、そう女帝から命を受けていた


それを聞いた伯爵はほう、と髭を撫で

興味深そうに兵達を見る


「勿論、アルスター伯爵の私兵団に比べればまだまだ練度が足りないのでしょうがね」


「ハハハ、なに私の兵団はゴロツキの集まり

練度で言えば信徒の方々には遠く及びませんよ」


伯爵の心中を察するのは難しく、貴賓の対応は気疲れする

そもそもこういったやり取りはオウルの爺さんの担当の筈だったのだが……


「ちょっと良いかしら? デズモンドさん」


声を掛けたのはこれまた賓客の豪商マダムピグマ

大陸南部の経済を牛耳る大富豪で

時には武力、また時には唸る様なその財で、望む物全てを手に入れる金のバケモノ


その強引なやり口と容姿に「豚商」と不名誉な俗称が付けられている


「何か御用ですかな? ピグマ婦人」


デズモンドは大司教である私にを顎で呼ぶとは大した豚だなと心中で毒突くが、努めて冷静に笑顔を見せる


「葡萄酒が切れてしまったのよ。

折角のショーですし楽しみながら拝見したいわ、注いで頂ける?」


「畏まりました、今すぐお持ちしましょう」


そう言って彼はチラリと祭壇の最上段を見る


空席になっている最上段は本来ならばヴェスティエラ卿が座っている筈だが

……何故開戦を過ぎてもまだ現れないのか


女帝お得意の気紛れが顔を出したか

と初めは思っていたのだが、どうにも遅い

使いをやった方が良いだろうか?


と、デズモンドがそこまで考えた所で

また三名の神官の一人、司教テトラから呼ばれた


デズモンドはどいつもこいつも!

とやや早足でテトラの下へ急ぐ

「何用だテトラ

見れば分かるだろうがオウルの爺が来ない為に、私が賓客の応対をしなければならんのだ

些細な用事はお前に任せた筈なのだが?」


賓客の前で怒りをぶち撒ける訳にもいかず

小声でテトラを見据えていたが、その目には苛立ちの光が灯っている


「大変失礼なのは重々承知しておりますが

今しがた、伝令から聴き逃せない報告を受けた物で」


……聴き逃せない報告?


「……何があった?」


「それが……



テトラの報告を受けたデズモンドは首を撫ぜながら整列した兵達のその先を見る


「……面白い、実にあやつらしいやり方だ

頭を落とせばそれで済む、か

5年を経たと言うのにまるで変わらぬなブレア(スカーフェイス)よ」


「今すぐ兵達に戦列を……」


「それでは無理だ」


「っ、……無理ですか?」


「あやつ相手では恐らく雑魚を何人束ねて

ぶつけても傷一つ付けられん

ここまで強行突破して来たのがその証拠よ」


「…………では」


「いや、私が直々に相手をしよう

テトラ、其方はあのお喋りな賓客達へ飛び火しない様、祭壇に防壁を展開しておけ」


「な! それはなりません大司教

むざむざ指揮官の首を敵に晒して一体何になると言うのです!」


「…… ハッキリ言わぬと解らぬか?

お前でもあやつには勝てぬ

つまりそれ程の相手だ、私が殺るしか無い」


「…………」



ふむ、退屈な戦もこれで少しは楽しめそうだ

久しぶりに剣を交えようぞ、ブレア(スカーフェイス)

……今度は親善試合では無いがな


”竜殺し”デズモンド

無精髭を揺らし、腰の魔剣に手を置いた彼は

ブレアが最奥へ到達するのを待ち侘びるが如く居心地の良い祭壇を後にする




それから暫くして、本陣の前方で兵が勢い良く宙に投げ出されたのが目に入った


「……来たな」


デズモンドは風に運ばれ自分へ飛んで来た兵を肩慣らしに一刀両断する

魔剣カサスの刃によって左右に分割した元部下の間からここまで入り込んだ敵の姿を見ると

確かに、そこに居たのはブレアであった


暴風を身体から解除させ、軽やかに立つブレアに対し、腕を組んでどっしりと構えるデズモンド


両者の視線が交差し、戦場の空気は凍りつく



暫く睨み合いが続き

徐にブレアは腰の剣に手を掛けたが……

デズモンドが声でそれを制止した


「久しいな、スカーフェイス

相も変らず嵐の如き男よ」



「…………」



「フン、そう構えずとも良い

貴様と話がしてみたくて制したのだ」



「……話?」


「そうだ、俺も貴様も剣に生きた人間

凡そ人には到達できぬ域に座す者同士、斬り結ぶ前に問答を交わすのも悪く無かろう」



「何を言うのかと思えば問答を交わすだと」


「問おうスカーフェイス、貴様は剣の先に何を見る

貴様の剣に信念は宿っているのか」


「……悪いが、俺は話をしに来た訳じゃない

あんたの首を取りに来たんだ」


ブレアは一方的にそう言い捨てて右手を上げると魔力を集中させる

右手に集まった魔力は球状になり、周囲の風を飲み込み始めた


「……まだ答えを聞いておらんぞ」

デズモンドは不快そうに呆れた声を上げる


”トルクトリプル”

ブレアは取り合わず長年親しんだその法術を完成させて放つ

圧縮された風刃の球が飛翔し、デズモンドへと襲い掛かった


対してデズモンドは一つ舌打ちを付いてから体勢を低く構える

腰の魔剣に手を掛けると、法術に合わせて斬り返した


本来ならば着弾と同時に魔力を帯びた鎌鼬を撒き散らすブレアの風法術

並の剣で弾こう等とすれば剣の持ち主はズタズタに引き裂かれる事になるのだが……


カサスの特性がそれを許さない


・魔力喰いの剣カサス

斬った物の魔力を強制消失させる鱗剣

黒竜アンカサスの鱗を用いて鍛えられており

その鱗が特性となって

それが法術であれば雲散霧消し、生物であれば斬った範囲によっては虚脱させる力を持つ


デズモンドが竜殺しと呼ばれる所以でもある


斬られた法術は例に違わず霧と変わり、空中を漂うが

……その霧中から刃が伸びた


法術を放った後、間を置かずブレアは一気に距離を詰めていたのだ


しかし、デズモンドの反応も早い

瞬速の袈裟斬りをこれまた閃光の様な返しの一撃で弾く


瞬間の応酬


殺意を抱擁しつつも、清流の如く滑らかなニ対の剣筋はお互いの皮一枚削り合うかの様に月光に煌めく


二度、三度紙一重の回避と、空間すら断つ様な剣戟を繰り広げた後

機を掴んだのはデズモンドだった


ブレアが逆袈裟に薙いだ後、僅かばかり体勢を崩してしまったのだ


それはほんの僅かな隙

……しかし、回避と攻撃を一連の流れとして澱みなく動く達人同士のやり取りの中に於いては、それが大きな隙となる


デズモンドは開いて躱した体勢から、余す事なく魔剣に流れを加えると

隙を作ったブレアへ斜めに瞬速の斬撃を放つ


しかも、それだけでは無い

同時に左手でもう一振り腰の剣を握っていた


これは彼の集大成でもある奥義と呼べる秘技

その名も「二の太刀」

一瞬の隙を見逃さず最大限に活かす抱擁するかの如く放たれる二重の斬撃は正に回避不能の必殺剣


魔剣と秘剣の完全同時斬撃がブレアを襲い

回避不能なその技は快音を響かせると……



一振りの剣が宙を舞い彼方へと飛んでいく

その剣は地面に落ちてカランと音を立てた





「……き、貴様! どうやって!」


……彼方へと弾かれたのは、デズモンドの魔剣カサス


デズモンドの二の太刀は確かに一瞬の隙を突き、相手の絶命を決定付ける必殺の奥義ではあったのだが

ブレアが魅せた隙がまず幻

謂わばデズモンドの技を呼び込む誘い水


二、三度のやり取りで魔剣の軌道を読み切ったブレアは、必ず来る袈裟斬りに合わせて左拳で弾き

更に左から放たれた秘剣を自身の剣で受けたのだ


ギチギチとデズモンドの左手の刃とブレアの右手の剣が火花を散らしてはいたが

運命の天秤はブレアに傾いていた


「……さて、頼みの綱が無くなった今

あんたはこいつをどう受ける?」


不敵な笑みを浮かべ、魔剣を弾いた左手へと魔力を込める


「法術だと!? 舐めるで無いわ!」


状況だけを見れば、実はまだ拮抗状態に戻っただけだったのだが……

デズモンドは冷静さを失なっていた


その動きに即座に反応し、右手に魔力を込め迎撃しようと試み

……左手から意識が遠ざかってしまう


それが致命的な隙を産む事になる


”エンチャントメント・ストーム”


ブレアが溜めた法術

これもまた実の所ブラフ

意識を釣る擬似餌だった


刃を擦り合わせて止められていた剣が、再びその鋭さを取り戻すと

ブレアは素早く空中で逆手に持ち替え

デズモンドの秘剣をスルリとすり抜ける


そして

地から天へと昇龍の如き一閃を放った


一閃はデズモンドの聖結界(ホーリーフィールド)を嵐の加護により易々と貫き、深々と身体を通り風の柱を立てた



間を置いて、デズモンドは血塗れで背後へ倒れ

最後の言葉を絞り出す


「……御見事」



ブレアは既に絶命しているデズモンドに向かって歩くと小さく呟いた


「……デズモンド、剣に信念等必要無い

剣は剣、ただ斬る為の道具であれば良い」


ブレア対デズモンド

総指揮同士の闘いはブレアの勝利で決着した

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