第1章 57話 「司祭 レイバン」
31日
戦争開始まで残り1:10:00
長峰は司教の1人エルクを倒してから
木村と共に野間を探していた
方向は合っている筈なのだが野間が中々見つからない
今、野間はレイバンとかいう大男の司祭と敵兵2人を相手に交戦している筈だ
司祭の危険度はE-〜D- 野間のランクはD-
もしあの大男がD-ならば敵兵2人分だけ野間が不利
俺達は地形で有利が取れるがあまり楽観視出来そうには無かった
「長峰!ちょい待ち!」
木村が何かを見つけた様でその場で止まり
続いて俺も急停止した
木村は目を閉じ耳を澄ましている
「………この先から微かに音が聞こえる
行ってみよう」
俺には何も聞こえないのだが
木村は俺達の中で一番耳が良い
ここは木村に付いて行くのが正解だろう
俺達は音の元に方向を変え走り出す
走り始めて1分位で開けた場所が見えた
木々の間から敵司祭の大男の姿も確認できる
「ビンゴ!見つけた!」
木村が嬉しそうに指を鳴らしてみせた
……木村の地獄耳には気をつけなければ
俺達はそのまま走って開けた場所に飛び出す
正確には俺達と木村の火球が飛び出した
火球は大男の背にぶつかって火花を散らしたが
大男は前のめりに倒れかけた体勢を踏ん張って
俺達に向き直る
大したダメージにはなってなさそうだ
最初見た時より男は大きく感じた
身長190cmはあるだろう
筋骨隆々な為に大きく感じるのかも知れない
右手に握られている武器はハチェット
これも敵の身体が大きい為に軽そうに見える
俺達の姿を見るや、大男の顔が驚愕の表情に変わる
「馬鹿な!司教がやられたってのか!?」
大男の背後に野間が見えたが、……大分消耗している
プレートメイルの肩当ての左部分が消失して左手がダラリと下がり
武器だった木槍も折れてしまっている
短くなった木槍を右手に構えて何とか立っているが、既に肩で息をしている状態だ
幸いなのは野間の近くに敵兵2人が倒れているのも見える事か
敵は後こいつ1人と考えていいだろう
「チッ!司教様もヤキが回ったもんだ!
こんなガキにやられちまいやがって」
大男は手に持ったハチェットを俺に向けた
いいさ、俺が相手になってやる
パンサーを構えて正対すると
木村が大男の背後に大きく回り込む
大男が木村をチラリと見た
「挟み撃ちってか、小賢しい!」
……なるほど、それは名案だ
何とでも言うがいいさ、そもそも最初は圧倒的にお前らに数の有利があったんだ
走って大男と間合いを詰める
木村も動いた様だ
大男は間合いに入った俺に向かって大振りでハチェットを思い切り振ると
空気を裂く音と共に目の前の空間が削り取った
相当な怪力が伺える
しかし、あんなに振りかぶってからの攻撃では軌道がバレバレだ
バックステップで余裕で躱す
俺にあくまでも意識を向けるなら、わざわざ懐に入って攻撃しなくとも良い
俺の代わりに木村の剣がお前を襲ってくれる
「くっ!」
しかし、何故か苦悶の声を上げたのは木村の方だった
「チッ!防いだか、勘はいい様だな」
俺に顔を向けたまま大男が言葉を漏らした
右手にハチェットを掴んだまま
左手を木村の方向に向けていた
恐らく光の法術を木村に放ったのだろう
……この大男も法術を使えるのか
舐めない方が良さそうだ
……しかし攻略する術はある
あのハチェットの大振りが間合いに入らせない為の牽制目的ならば
躱した直後に再度攻撃を仕掛ければ敵は防げない
次の俺の攻撃は二段階で仕掛ける
その巨体でパンサーの突きを躱す事は難しい筈
俺は再び走って間合いを詰めた
すると俺の動きを察知したのか合わせる様に木村がヘルファイアを放った
ナイス!木村!良い援護射撃だ!
大男の左手から光の矢が放たれるのが見えた
アレでヘルファイアを相殺するつもりか
という事は俺には必ず大振りの斧が来る筈
大男は俺の走りに合わせカウンター気味に斧を振ってきた
予想通り!
再度バックステップで楽々躱す
が、そこで急激に自分と周囲の動きが遅くなった
え?
これは「時間圧縮」?
何故……
大男を見てみると敵の手元から躱した筈のハチェットの刃が向かって来ていた
あ、あいつ!斧を投げやがったのか!
マズイ!
俺はバックステップで足が着いたばかりだ!
跳んで避ける事は無理!
右に転がって躱すしかない!
地面に身体をぶつけるつもりで荷重を右に移動させる
頼む!動いてくれ!
流石に光の槍の時より圧縮比は小さい様で
ゆっくりと地面に身体が倒れていく
倒れる前に居た空間を斧が通った所で
圧縮が解除された
ツッ!!
地面に勢い良く顔面をぶつける羽目になった
これ位いいさ、斧を避けられただけで上出来だ
手で身体を起こし素早く立ち上がる
斧の後に鎖が見えた、アレで引き戻すつもりだろう
寝ている暇は無い
大男は表情を歪ませながら右手から伸びている鎖を引っ張ると、予想通り勢い良く斧は一度通り過ぎた軌道を戻って来た
それを今度は確実に跳んで避ける
大男は飛んで戻る斧を器用に掴み睨みを効かせた
……何て奴、この大男考え無しの大振りをする様な隙を見せてはいるが
その実、とても計算高く用意周到だ
そもそも、考え無しの大振りだけなら野間が後手を取るはずが無い
数で有利に立って隙が出来ていたのかも知れない
大男は軽口を叩くのを辞め
ハチェットを構えたまま警戒している
種は割れたが、遠近両用のハチェットに
光の法術
ハッキリ言ってパンサーの間合いに入るのすら難しい
……危険を承知で踏み込むしかないのか
木村の姿が対角に見える
目線を送ると木村が頷く
同時に仕掛けよう
「……テメーら2人で随分楽しそうだな」
野間が声を出した
自然と意識が野間に向く
野間は倒れている敵兵から剣を拾っている
「そのデカブツはオレの獲物だ
……って言いたい所だけどな」
「……正直、1人じゃ厳しい
手伝ってくれねーか?」
手伝ってくれないかだって?
野間はまだ戦うつもりなのか?
野間は剣を右手に構えるとスッと切っ先を大男に向けた
……無茶だ
あの状態では斧を投げられたら躱せない
「野間、それはダメだ!
こいつは俺と木村に任せて休んでくれ」
野間は俺の声に答えない
木村が黙ったまま俺を見て頷いた
クソッ!木村も野間も何のつもりなんだ
今の野間は自殺行為をしようとしている
止めなきゃ殺されてしまう
大男がそのやり取りを聞いてニヤリと笑う
「付け焼き刃の剣を持って闘おうってか
グハハハハハ!こいつは傑作だ!
次の標的は貴様に決めたぞ、死に損ない!
そぉら覚悟しろ」
大男が俺を横目でチラリと見て斧を振りかぶる
させるか!
パンサーを握り締めて間合いに飛び込む
この大男のやり口は良く分かった
10中8,9、野間に攻撃すると見せ掛けて
本当の狙いは俺だろう
しかし、実際に野間へ投擲はさせられない
罠だと分かっていても飛び込むしかない
こうなったら強制的に俺に斧の標準を合わせさせる
神経を尖らせれば何とか躱し続ける事位は出来るだろう
大男が俺に向けて斧を横薙ぎに払った
最小限のバックステップで躱す
良し見切った
次に斧の投擲を予測して真上に跳躍する
しかし大男は俺に斧は投擲しなかった
跳躍の最中、大男の眼球が俺から離れ野間に動く
……嘘だろ
……俺に振ったのはフェイントで
投擲の目標は最初から野間だったのか
大男が野間に斧を投擲した瞬間
木村の姿が大男の左手の上に現れた
顔の前で腕を交差させている
法術を避けず喰らいながら突っ込んで跳んだのか
木村は交差を解くと、大男の左腕に向かって
斬撃を放った
左腕から血飛沫が上がる
大男の目が今度は野間から木村へと動いた
ダメだ!僅かに遅い
既に斧は……
!
斧は確かに野間に向かって投擲された筈だったが野間の姿が射線上から消えていた
野間はどこに……!
消えた野間の姿は直ぐに見つかった
大男の直ぐ前、いつの間にか懐に入っている
野間の眼光がいつもより一層鋭く見えた
野間の持った剣がゆらりと動く
剣閃は滑らかに大男の右足をなぞる
間をおかず大男は左腕に続き右足からも
血を吹き出す事になった
大男は体重を支えていた右足を斬られて
バランスを崩す
結果、本人の意思とは関係なく顔が野間の目の前に向かって倒れる事になり
野間は流れる様な動作で左の腰へ垂直に剣を
構えた
剣の知識の無い俺でさえあの型は知っている
「居合」
初めて目の前で見たその型は凛として
とても美しかった
「ま、待て!まってく……」
大男は倒れる最中、野間に向かって何かを言っていた様だったが
野間が大男の横をスッとすれ違うと
今度は首から血飛沫を上げてうつ伏せ
もう何も言わなくなった
敵の奇襲部隊、全滅
何度死にかけたか、手強い相手だった
野間は大男がうつ伏せても振り返る事すらしなかったが
一拍置いて、ダラリと右手を下げると
剣を手から落として倒れる様に木村にもたれかかった
「野間!」
慌てて俺は木村の元に走った
野間をかかえている木村の表情が凍りついている
嫌な予感がする
俺は直ぐに野間の顔を覗き込んで見た
灯りが無い為、顔色が良くわからないが
野間の顔色はどう見ても木村の顔より白い
「長峰!のまっちの身体触ってみてくれ!」
木村が悲鳴の様に声を上げる
野間の腕に触れて見る
!!冷たい!?
温度が感じられない!
「木村……これちょっとやばいかも知れない」
木村は唇を噛んで一瞬考えたが、直ぐに結論に至った
「……長峰、治癒法術部隊まで戻ろう」
俺は直ぐに頷いた




