第1章 45話 「極めるべきは……」
31日
戦争開始まで残り23:00:00
……暗い天井を眺める
深夜に目が覚めてしまった
戦争前の興奮とギルドで感じた自分の無力感が原因かも知れない
いつかと同じくベッドを抜け出してパンサーを手にし部屋を抜けた
季節で言えば晩夏といった所か
暗い廊下に等間隔に設けられている窓から
忍び込む風が生温い空気を攪拌する
思えば、ただの中学生が今や一国の戦士
随分と環境が変わったものだ
ここたった2ヶ月で様々な事があった
木村、野間、溝尾と強制的に班を作られ
カール先生に法術、魔導長に知識
軍曹に森で生き延びる術を教えられた
決闘では囚人をなぶり殺しにし
そして、明日戦争に参加する
第二修練場につくと夜空に見事な三日月が現れた
月を見るとどうしてもあの夜の化身、巨獣を思い出す
俺はパンサーを構え、突いた
間髪入れず、ひたすら突く
人間の急所を想定してひたすら突く
俺は弱い
しかしこの槍は俺とは違う
この槍はこの地エルムサルトそのものだ
森から生まれ、森の夜の名を与えた
あの巨獣は俺達を救った
あの森は俺にベラの枝を与えた
偶然かも知れない、いや普通に考えれば偶然だ
だがいずれにしろ、この槍を扱う以上森の誇りを持つべきなんだ
そして、森を護れる程度の強さは持つべきだ
アデンに負ければエルムサルトの領地の森がどう扱われるかわからない
今度は俺が森の命を救わなければ
少しでも強くならなければ
頭の中に自身への弱さへの怒りや使命が洪水の様に押し寄せ、パンサーが汲み取る
そう言えば丁度、最終試練の扉の前
俺は今の様な状態だった気がする
そう頭のどこかに残っていた
……サンドワインダーとは何だ?
俺が使える技なんだ、使っている技なんだ
突く。突く。突く。
突いてる最中に手元を動かして穂先をブレさせて軌道を変化させる
ベラの柔軟性を活かした森で習得した技
と、そこで気づく
……コレがサンドワインダーか
森では穂先を任意的にブレさせ対象の回避運動に合わせたり、硬い部位を避ける為に編み出した技
人間相手に使うとどの様な効果が得られるのか?
軌道が読みにくくなるのは間違いないだろう
通常の木槍は決して任意的に柄をしならせてブレさせる事など出来ない
その為、奇襲性も期待できる
……ピンポイントと併用する事が出来れば
鎧の隙間を通す事すら出来るかも知れない
今日の鍛錬はしなりを制御して着地点よりも軌道に意識を置いて行おう
まずは普通に突いてから着地点寸前でブレさせる
軌道は真っ直ぐ走ってからやや動く程度
俺が現在ギリギリ制御して使えるのはコレだ
つまり寸前でのブレはLv.3という事か
次に手元を振りブレさせてから突いてみる
これはそもそもブレなかった
これでは単なる突きでしかない
では今までベラへのダメージを気にして殆ど使わなかった「払い」からの突きはどうか
試しに払ってみる
手元と肘の2点でパンサーを固定して右方から払う
パンサーがゴムの様にしなり眼前の空気を勢いよく切り裂く
流石はベラ、植物とは思えない柔軟性だ
払い自体が既に一つの技として使えるレベルになっている
では払いと突きを複合してみたらどうか
先程と同じく払う、そして中心に到達した瞬間間合いを伸ばす様に利き足を出し突く!
穂先が大きくブレた
……これではダメだ
払える間合いなら払いを振り抜いた方が良い
払い終わりに突きに変えると柔軟性がこれでもかと発揮され穂先のコントロールが全く出来なくなり、戻りの隙も大きい
確かに敵兵の意表はつけても覚えがある者ならその場で軌道に対応されるだろう
……ならば払いが対象に到達する前に突きにチェンジしてはどうか
突きと違い払いのコントロールは異様に難易度が上がる為、両手でパンサーを構える
払う。
正対する前に左手でパンサーを押し出す様にして突きへ無理矢理もっていく
これもダメ
軌道は面白い線を描いてはいるが、
突き自体の性能が著しく落ちる
通常の突きは腰の捻転を原動力にして行う為
穂先の速度はかなりの高速に達する
しかし、払いから突きに変化させた場合
どうしても手のみの力で突く事になってしまう上、流れに逆らう動作故に、当然速度が落ちる
あくまで最後は突きなのだ
突きの威力は出来るだけ落としたくない
では逆に払いを手で行い、突きに腰を入れてみる
払いを攻撃手段としては見ず、あくまでも突きの強化、変化の為の予備動作とするのだ
手でゆらりと払う。
正対する点の前で身体を思い切り開き腰を入れ
突く。
穂先は正対点の左にややオーバーした後
勢い良く軌道を突きに変え
そして、夜の空気が鋭く切り裂かれた
……手応えを感じる
まだまだ払いからの突きで狙ったポイントに持っていくのは時間が掛かりそうだが
もし、これをマスター出来ればパンサーは
変幻自在の軌道を描けるだろう
コレを今日から鍛錬して磨いていこう
新たな技の息吹を感じ、心が踊る
そして、その為の第一歩は……
やはり「払い」のコントロールか
たかが予備動作だとしても、初期動作の払いがいつも違う軌道を描くのであれば、当然突きまでの流れに淀みが生まれてしまう
正確な精密な払いが出来る事
それはサンドワインダーのレベルアップに必須であり、前提条件だ
俺はその後二時間程、修練場で払いを振り続けた
「今日はこれ位にしとこう……」
誰もいない修練場で一人呟く
頭も大分冷えていた
明日の夜は戦
体力を温存しておかないといけないのに
全く何をこんなに熱くなっているんだ
少し反省して、修練場を後にする
部屋に戻ると、木村の布団が空になってる事に気がついた
出る時は気づかなかったが、いつ抜け出したのだろう?
……恐らく木村も眠れないんだろうな
俺は直ぐにベッドに入り目を閉じた




