第1章 41話 「畑中 善地」
29日
戦争開始まで残り62:00:00
正直、思ったより楽勝では無かった
3連続サイドステップ
爪先と親指の付け根のみを使った荷重移動
森で学んだ回避技だが結構足に負担が掛かる
3連続ともなると俺が態勢を崩してしまう
今回何とか上手く成功したが
下手したら転んでいたかも知れない
パチパチパチパチ
拍手? 誰から……?
音の鳴る方を見ると修練場の入り口に野間がいた
え? 野間? 寝てたんじゃ……
「ふざけんじゃねぇ!!!」
野間に気を取られてる間に、玉城が起き上がったらしく殴り掛かって来た
が所詮は大振り、難なく躱し、その際ついカウンターの左フックをお見舞いしてしまった
わざとじゃない、あくまでも「つい」だ
そこは強調しなければ
玉城は憐れ鼻血を出しながら倒れる
……何がしたかったんだろう?
野間から笑い声が聞こえた
「オイ!長峰!
てめー喧嘩ならオレも呼べや
1人で楽しんでんじゃねーぞ」
佐倉と安田はもう野次を飛ばしていない
いや飛ばせないか
「別に喧嘩じゃないよ、なんて言えばいいかな?
えーっと…… 模擬戦?」
「あーあー、そーゆーのいいわ ダルいから
途中から聞いてたんだよ
玉城と安田が調子こいてたからシメたんだろ?」
野間はポケットに手を入れたまま、安田の方へ歩いていく
安田は玉城が倒れ、野間が現れ
完全に混乱状態になっていた
「い、いや、俺別に……」とかブツブツ言ってる
野間は安田の胸ぐらを掴んで立たせると
「おう雑魚コラ!
テメーはオレが相手してやるよ」
と後ろにぶん投げた
安田は涙目で畑中を見るが
「いや、俺知らねーよ
自分が喧嘩売ったんじゃないの?
野間、こいつ好きにしていいよ」
と冷たく突き放されてしまった
「邪魔しちゃって悪ぃな、瞬コロすっから」
と野間が畑中に返すと
絶望の渦中にある安田は次に軍曹に顔を向けたが
「どうした!?クソ虫!臆したか!!
そこのヒヨッコとの模擬戦を認める!!
さっさと剣を構えろ!」
とあろうことか催促されてしまう
藁にも縋るように安田は佐倉を見たが……
「………え? べ、別に私関係ないし」
佐倉は無関係を決め込むつもりらしい
しかし残念
野間は佐倉も逃がすつもりは無かったらしい
「あ?関係無い? ブチ殺すぞ!ブス!
この雑魚ボコったら次はテメーだよ
女とか関係ねーぞ顔の形変わるまで殴り続ける」
今度は佐倉がターゲットの様だ
畑中に助けを求めている
……うん、やっぱり野間は怖いな
畑中は面倒くさそうに頭を掻くと
「だから知らねーっつーの
ボコられたくなきゃ取り敢えず謝っとけば
良いんじゃねーの? 知らねーけど」
佐倉は畑中からそれを聞くと野間に向かって
「………ご、ごめん」と呟いた
「あ?何それ?」
「ごめんなさい、調子こきました」
「だから!!テメー!
謝る相手がちげーだろーが!!」
佐倉は既に泣いていたが
崩れた顔を俺に向けて頭を下げた
「……だってよ どーすんだ?」
「ああ、も、もう俺はいいんだけど」
煽られた時はイラっとしてたのに
泣きながら謝る佐倉を見てると同情心が顔を出すから不思議だ
「うし!
じゃ取り敢えずこいつボコって終わりにするわ」
野間が定位置に立つ、手には木刀を持っている
何で木刀?と思ったが元の世界で使い慣れた武器なのかも知れない
……深く考えるのは止めよう
安田が震えながら定位置に立つと
「始めっ!」と軍曹が放った
結果、安田は野間のただの大振りを肩にもらい
吹っ飛んで負けた
アレは骨にまでいってるかも知れない
あいつには同情しないけど
「マジでクソ雑魚じゃね?こいつ
長峰!腹減ったからメシいくぞ」
野間はスッキリした顔を俺に向けた
「ああ」
今日は何か野間に奢らなきゃいけないな
そんな事を思って背を向けたのだが……
「くぉら!!ヒヨッコ共ら!!何処へ行く!
模擬戦は終わったがまだ訓練は終わっとらんぞ」
ピタと俺と野間の足が止まる
「……え? オレも?」
野間が目を見開き軍曹を見る
「当たり前だ!!先の振りは全然なっとらんわ!!無論、貴様等クソ虫共もだ!!
いつまで座っとる!素振り千回開始!!
もたもたするな!!」
倒れている玉城と安田を担いで軍曹はそう言った
……結局、夜の8時まで軍曹の訓練は続いた
「ゲロ峰ー!! テメー!
マジでぶっ殺すからな!クソが!!」
野間の怒りの矛先は完全に巻き込んだ俺に向ってしまった
まさか、素振り、走り込み、筋トレをこの時間までさせられるとは思って無かった
「長峰ー!恨むぞー!恨んでやるからなー!」
木村が叫ぶ
木村がここに何故いるのか
10:00位だっただろうか
彼はアホそうな鼻歌を歌いながら修練場に現れた
修練場の光景を目にしてサッと身を隠した様だったが、時既に遅し
身を隠す前に鼻歌を止めるべきだった
そうして軍曹の訓練に木村も加わる事になる
そして今、2人から恨み節をぶつけられている俺
勿論、濡れ衣だ、俺のせいじゃない
俺だって予想外なんだ
悲痛な叫びを心に響かせる
4班の女子2人は既に訓練を抜けている
最後まで剣を振ってたのは俺と木村と野間
そして畑中だった
畑中 善地
クラスでは2年1組の番長とでも言うべきか
ヤンキーグループの中心にいつも居た人だった
野間、ヤナ、藪田と一緒に居るのをよく見かけた
美形とは言えないが身長が高く、何処か垢抜けた感じを纏っていた為、凄くモテる人だった。
正直言えば俺はちょっと畑中君が怖い
野間や藪田の暴力的な怖さとは違う何か根本的な恐怖を畑中君から感じるのだ
畑中君にヤバい噂がある訳じゃない
ただ何となく
しかしその何となくを皆感じるから中心に座っているのかも知れない
「本日は以上!良くこなしたぞクソ虫共!!
全員風呂に入ってさっさと寝ろ!!」
軍曹の終了の声が響く
俺達は流石にもうクタクタだったが
畑中君は唯一まだ余裕がありそうだ
凄いスタミナをしている
一体どうゆう鍛え方をしていたんだろう
そんな事をぶっ倒れながら考えていると
その本人が俺に近づいてきた
「えー……っと、名前なんて言ったっけ?」
「……長峰です」
「ああ、そうそう長峰
今日はとばっちりだったね
雑魚に絡まれて大変だったっしょ?」
「いえ、別にもういいです
何だか俺もすいませんでした」
「すいませんって何が?」
「いや、えーっと、その
班のメンバー……殴っちゃいまして」
「あー、別に
俺あの雑魚達の仲間でもツレでも何でもないから
あいつ等が怪我しようが、死のうが関係無い」
「そう…ですか……」
「ねぇ長峰、お前さヒデと仲良いんだね」
ヒデ? 誰のことだろう?
「ああ、ほら野間」
野間の事か
「まぁ、はいそうですね」
「因みに長峰…… 下の名前は?」
「えっと、勇気です」
「オッケー、ユウキね
ヒデはさ、あの雑魚と違って俺のツレなんだよ」
「はい」
「ヒデは面白い奴だけど馬鹿だから結構、無茶して危なっかしくてさ
ほらユウキ強いじゃん?
ヒデが突っ走りそうになったら守ってやってよ」
「え?、あ、え……」
「んじゃ、そう言う事で
後、俺にはタメ語でいいよ
何かユウキの敬語距離感じるし」
畑中君はそう言うと野間の近くに行き楽しそうに喋り始めた
……俺が距離を取って話していたのは事実だ
やはり何か身構えてしまう
俺の気にし過ぎなのだろうか?
兎にも角にも今日は丸一日訓練に費やしてしまった
明日はゆっくり出来ると良いんだけど




