第1章 39話 「銀兎の娘と銀刀」
28日
戦争開始まで残り81:00:00
ーエルムサルト城下町ー
俺達が街の市場に辿り着いた頃
もう既に陽は傾いており
先生が連れて来てくれた街の武具屋は
方向から何となくココじゃないかと予測していた「銀の兎」だった
「ごめんください」
先生が中に入ると
扉に付いた鐘がカランカランと音を立てる
「はぁい、どうぞ」
お婆さんの声が返ってくる
「あら、先生お久しぶりね
お城は戦の準備で大変でしょう?
せめてこの店でゆっくりしてって下さいな」
「ありがとうございます
ミーナさんもお元気そうで何よりです
今日はこの子達の装備を整えようかと思いまして此方に寄らせてもらいました」
お婆さんは先生の後について中に入った
俺達に視線を向ける
「! あら、あなたはこの前の」
「こんにちは、また来ちゃいました」
「あらあら、まぁそうなの
お客さん、お城の方だったのね
この前は話を聞いてくれてありがとねぇ」
先生とみんなが俺を見た
「実は、この前こちらで穂先を買いまして
その際ちょっとお婆さんとお話したんです」
「先生、この子はとってもいい子よ
大切に教えてあげて下さいね」
「ええ、勿論ですとも」
先生は笑顔を作って答えた
それから俺達は散開し店の品を見ていた
はっきり言って俺はもうパンサーとローブがあるので大丈夫なのだが
時間もあるので一応ガントレットとグリーブを
見ている
ガントレットも色々種類があるな
革製の物、鉄製の物、銀製の物
俺がもし使うとしたら革製のガントレットだろう
革製に絞っても種類が豊富だ
豚革のガントレット……………銀貨5枚
牛革のガントレット(ステア)…金貨2枚
牛革のガントレット(キップ)…金貨2枚銀貨3枚
山羊革のガントレット…………金貨4枚
馬革のガントレット……………金貨10枚
魔牛革のガントレット…………金貨20枚
ふむ、何がどう違うのかさっぱりだ
多分値段が高い物程、優秀な品なんだろう
魔牛革のガントレットは別格だ
希少価値が高いのか、加工が難しいのか
……ちょっとグリーブも見てみるか
グリーブは全て金属製で出来ていた
鉄製、鋼製、銀製がある
(ブレスド)と付いてる品もあった
そうだ、このブレスド
前回この店に来た時に俺を混乱させた言葉
今こそ、その秘密を解き明かすべきなんじゃないのか!
ガントレットも含めて色々と聞いてみよう
俺が先生の元へ直行すると
先生は武具のコーナーに居て木村と話していた
「先生、ちょっと聞きたい事があるんですが」
「何でしょう?長峰君」
「ブレスドってどういう意味なんですか?
何か気になっちゃいまして」
「ブレスド効果の事ですね?
いいでしょう、説明致しましょう」
「ブレスドとは基本的に金属製の武具や防具を
作った際ランダムで付与される能力の総称です。
ただ、ブレスドと一言で言っても
発揮される効果は千差万別
例えば、使用者の力や速度を強化したり
種族特効が付いたり
または特定の攻撃に耐性が付いたりします。
ブレスド効果の扱いはお店によって表記が変わりそもそもブレスド表記を記載しないお店
ブレスド表記を記載するお店
こちらのお店の様に更に強弱を記載するお店
または、付与される効果を記載するお店
事細かに詳細を記載するお店
等ですね。
因みに付け加えますと
長峰君の穂先に使われている精霊銀という金属
此方はまたちょっと特殊な金属でしてね
必ずブレスドが付与されます
そもそも自然銀が天然の状態を保ったまま
長い年月を掛けて変化した金属が精霊銀です
結構、希少価値が高いんですよ
ブレスドの言葉の意味は被祝福。
反対にカーズドという物もあります
カーズドは被呪
一概に悪い効果とも言い切れないのですが
触らない方が無難ではありますね。」
いかがでしょうか?と先生は説明を終えた
なるほど、そういう事か
しかしだとすると
パンサーにもブレスドが付いてるって事になるけど、どういう効果が出ているんだろ?
「よく分かりました、ありがとうございます。後……もう一ついいですか?」
結局、俺は牛革製のガントレット(ステア)
を買ってもらう事になった
先生によると基本的に革製の製品はそこまで機能性に違いが無いそうで、希少価値や手触りで価値が変わるらしい
ただし、魔牛革だけは斬撃や法術に対し他の革と比べ耐性に大幅な差があるとは言っていた
普通に考えたら「代金先生持ち」のこのチャンスに魔牛革を買っておくべきなんだろうけど…
まぁ、普通の物を使って
物足りなくなったらで構わないだろう
あまり先生に負担を掛けるのも悪いし
そもそも槍とローブの時点で受けを考えていないセットなのだ
ガントレットで攻撃を防ぐ機会も少ない筈
ガントレットの会計を先生が済ますと
俺の後ろから木村がハイテンションで飛んできた
手には長い刀を持っている
「先生!どうですか!?コレ!
俺、先生のオススメで悩んでたんですけど
コレ見た時にビビッ!と来ちゃいまして!」
先生は木村から刀を受け取ると
興味深そうに確かめていた
「………ふむふむ
この武器は片側にしか刃が無いのですね
……剣身も随分と薄い
素早く斬る事のみに特化した剣の様です」
更に先生が観察を行なう
木村は先生の表情を見て生唾を飲む
どうやら先生は刀を知らなかったらしい
「……木村君 あなたがこの剣を気に入ったならば先生も止める気はありませんけど」
「しかし、この剣は見てわかる通り耐久性には
期待出来ませんよ
ロングソードとぶつかったり、盾で防がれた場合
剣身が歪んだり折れたりする恐れがあるでしょう
扱うには相応の技量が必要と思われますが……」
「大丈夫ですよ!先生!俺それにします!」
先生に聞いた意味は何だったのか、と
ツッコミたくなる返答が返ってきた
……う〜〜ん
そのやり取りを見てたお婆さんが唸り声を上げる
「それはやめといた方がいいんじゃないかねぇ」
え!?と木村はお婆さんに顔を向ける
「その剣は私の孫娘の処女作でね
綺麗な剣を作ったもんだから、取り敢えずと
置いては見たんだけど……」
「お城の方って事は戦で使うんでしょう?
孫娘は筋は良いんだけど、まだまだ経験不足
その剣はお客さんが命を預けるに足る品とは思えませんよ?」
お婆さんにまでそう言われ
流石の木村も口に手を当てて考え始めた
……考えてる振りかも知れないけど
ドタドタドタドタ
お婆さんの裏から階段を降りる音が聞こえてくる
番台の裏の扉が勢い良く開き女の人が顔を出した
「ばあちゃん!今私の剣の話してたでしょ!」
「これマロン
お客さんの前だよ、大人しくしてなさいな」
マロンと呼ばれた女の人は木村の持ってる刀を見つけると、やっぱり!と満面の笑みを浮かべる
このマロンさん
見たところ年は日本でいえば高校生位か
髪はオレンジでポニーテール
孫娘だけあり確かに何処かお婆さんの面影があった。
「その武器を選ぶとはお目が高いねお客さん!
その子は凄いよー!何と言っても斬撃が速い!
一般のロングソードと比べて2倍か2.5倍は速く
攻撃出来るんだから!」
「えー……っと」
木村は照れた様な困った様な顔をしている
お婆さんはやれやれ…と溜息をついた
「このお客さん達はお城の兵隊さんでね
今回の戦で使う武器を買って下さってるんだよ
マロン、あんたの打った剣はあまりに薄いだろう
戦には向かないと説明してた所なんだよ」
「えー!?お婆ちゃん!なんで!?
戦でもこの子はぜ〜〜ったっい!活躍するよ
相手の鎧や盾なんてスパスパ斬っちゃうんだから!!」
ふいにお婆さんが険しい表情を作る
「……マロン うちの爺さんはぶっきらぼうで武具を作るしか取り柄が無かった人だけどね
お客さんの前で嘘は一度たりとも付いた事は無いんだよ?
爺さんは武具は命を奪う物で命を守る物
どんな武具だろうとそこを曲げちゃならねぇ
それが口癖の人だった
あんたは曲がって無いんだろうね?」
口調はいつものお婆さんだったが、芯に強い物を感じる
「……………」
「木村君?どうしますか?
武具選びは直感が正しい時も多々あります
私は木村君が感覚で選ぶと言うのなら
それでもいいと思いますが?」
「……………」
店内は客側の1人と店側の1人が考え込んでいるという奇妙な光景を構築していた
「……マロン、さん? ごめんなさい
俺やっぱりこの刀はまだ早いかも知れない」
木村は他の武器を選ぶ様だ
まぁそれが無難だろう
「刀? あ、いや、うん
やっぱそうだよね……」
木村は武器コーナーへトンボ帰りして
やや細身のロングソードを持って来た
先程先生と木村が話していた時に見ていた武器だ
細身といってもレイピア程は細く無い
ロングソードより軽そうだがそれでも直剣としてしっかりと機能しそうな武器だ
あの剣ならそうそう折れる事は無い
その上、重量に振り回される事も無いだろう
成る程、先生が選んだだけあって木村に良くあっている気がした
「やっぱ俺はコレにしようかな……」
木村の持ってきた剣を見たマロンさんは悔しそうな顔を浮かべると、目を伏せ2階に戻ってしまった
その後、各々が買い物を済ませ店を後にした
野間はプレートメイル一式(兜を除く)と木槍
溝尾は鋼の胸当てを買っていた
野間が木槍を買ったのはちょっと意外だったが
「オレだって森で振り回してたのは木槍なんだ
正直今じゃ木槍が一番使いやすいんだよ
……おまえまさか
パクったとか思ってんじゃねーだろーな?」
との事
まぁそれはそうだ
そして、扱い慣れてるという視点で言えば
野間だけじゃなく木村にも言える事なんだが
木村は何となく剣が合ってる気もする
「さて、買い物も終わりましたね
明後日は戦に備え作戦を皆さんに伝えようと
思っておりますので予定は空けておく様に
明日は各自好きに使うといいでしょう」
と先生から解散が告げられた
空を見るともう黄昏時だ
何だか今日は随分と濃い一日だった気がする
少し修練場でパンサーを突いてから早めに眠ろう
俺達は城へと戻った




