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第1章 37話 「ボッタクリ武具屋」

28日

戦争開始まで残り84:00:00



ーエルムサルト郊外 廃墟ー


……結論から言うとその女の子はその店の店主の娘だった訳で

幽霊でも何でもなかった

階段に登り見えなくなったのは

単に女の子の身長と角度的な問題だ


強いて言えばかなり色白ではあったが


二階にその武具店はあった

店主は髭ボーボーのおじさんで、日本なら警官に質問攻めを受けそうな風貌をしている

この店主の娘がこの子? どうにも信じがたい



「遅かったね?何かあったのかい?」

カール先生は首を傾げている


「ここが武具屋なんですか?

そうは見えないんですが……」


率直な質問をぶつけてみる

部屋はボロボロの壁紙に包まれていて、正に廃墟の一角だ

更に武具の類は一切置かれていない


この質問にはカール先生の代わりに

ヒゲの店主が答えた


「奥の部屋に所狭しと並んでるよ

ただ、その部屋は見せられねぇがな」


クックッとカール先生が笑う

「ここの店はね、お客が商品を選ぶんじゃなく

店主がお客に合う商品を選ぶんだ

変わってるでしょう?」


「言っておくが、買わないなんて選択肢はさせねぇ

俺の持って来たものが、例えガラクタだろうと必ず買ってもらう

値段も俺が決める

気に入らなきゃ金をドブに捨てるんだな」


……なんて横暴な店なんだ

恐喝一歩手前なんじゃないか?

ボッタクリのBARは聞いた事があるが

ボッタクリの武具屋なんて初めて見たぞ


「心配しないでも、お代は私が持つよ

何が欲しいか言ってごらん」


木村が最初に注文を出した

流石は木村だ、言わずとも自ら進んで毒味を買って出る姿勢はブレない


「えーっと、じゃあ胴の防具を」


店主はふん、と鼻を鳴らすと

マジマジと木村を観察する

そうして暫くの間木村を見たかと思うと

カーテンで間仕切りしてるだけの隣の部屋に入っていった


木村が何か言いたそうな顔付きを俺に向ける


いや、俺知らないからね



店主が戻ってくると

確かに胴を保護する防具を持っていた


「ほれ、つけて見な」

木村に胴防具を投げる


木村以外の俺達3人が木村の元に集った


店主が投げて渡した事から

結構軽いんだろうなと予想はしていた


近くで見てみると

全体的に深い紅色で鈍い光沢を放っている

蛇腹の形状が正中線を覆っており

甲虫の翅を思わせる肩当てがセットになっている

材質は……

甲虫の甲殻とでも言えばいいのだろうか

とにかく、コレは昆虫を加工して作った防具の様だ


「うっわ、虫かよ……おまえの防具キモ!」

野間が木村から離れた


そう言えば、そうだった

森で解った事だが、野間は昆虫が苦手だ


肝心の木村は

「へぇー、でもコレ何か脆そうじゃない?」

と言いながら頭から虫の鎧を被った


サイズはぴったりだ

店主は見ただけでサイズが分かるのだろうか?


虫の鎧を木村が着てみて分かった事だが

鎧の何箇所かに傷が見える

新品では無いのだろうか?


木村は城で防具の重さを懸念していたが

殆ど重さは感じてない様だ

そういう意味では合格ラインなのだろう

まぁ、いいか位の表情をしている


「気に入ってもらえて何よりだ

……次の注文はどいつだ?」

店主が面倒くさそうに聞いた


野間が顎で俺を促す

……もう、しょうがないな


「……じゃあ俺も木村と同じ上の防具で」

直ぐに店主の視線が俺に注がれ、目線が上下する


な、何だかとても恥ずかしい


店主は一通り目線を動かすと髭の間から歯をのぞかせる

「……面白い小僧だ」

そう残すと、再びカーテンの中に消えていった


カール先生もクックッと笑っていたが

俺の視線に気づくと

これは失礼、といった感じで口元を手で抑えた



店主は木村の時より時間がかかっている様で中々戻ってこなかったが、

皆それぞれの意見を木村の鎧に浴びせてる内に姿を現した

因みに虫の鎧は溝尾からは概ね好評だった



店主が持って着たのは折り畳まれた布だった

唖然としていると

その布を木村の時と同じく、俺に投げて渡してくる


俺は……これ、防具?と木村を見たが

木村は首を傾げただけだった


布を広げてみるとローブが姿を現わした

色は黒に近い深緑 フード付きだ

布製だけあって重くは無い


しかし、これは防具なんだろうか?

どう見ても防御力は期待できなさそうだ


店主の見てる手前だ、一応着てみようか


頭を通して腕を袖に通してから、首を動かし

ローブを確認する


俺のもサイズは合ってるみたいだ

袖がブカブカなのは元からそういうデザインなのだろう


「へぇ、なんか戦士より魔法使いって感じだな」

「うんうん、魔導師って感じだね!似合ってると思うよ」

木村と溝尾がそれぞれ感想をかけてくる


あの……俺の法術、そよ風起こすだけなんだけど……


野間は窓の外を見ている

単に俺のローブに興味が無いのだろう


「そんじゃ次な、

そこの縞々頭の小僧、お前は何が欲しい?」

店主は野間に顔を向けた


縞々頭…、メッシュという言葉がきっとバルハラッドには無いのだろう


「めんどくせーな……

先生!あんた装備一式って言ってなかったか?

一個ずつとか出してねーで

一式全部出すようにそこのヒゲオヤジに言ってくれよ」


それは俺も気になっていた、

先生は一式って確かに言ってたけど…


俺は買ってもらう立場というのもあり

何だか聞きずらかったのだが


先生は人差し指を立てて振ると野間に顔を向けた

「ここの店主は変わり者で、一回の買い物で

一点しか売ってくれないのです。」


「その他の揃ってない武防具は街で揃えるとしましょう」


野間はイライラしている様だ

頭を掻きながら零した

「んなら、最初から街で揃えりゃ良かったのに……」


「で? どうするんだ?縞々頭、

いらないって言うのなら俺は構わんぞ

とっととこの店から出て行きな」

店主はやや機嫌を崩したしまった様だ

声のトーンが先程より下がっている



野間は店主を睨む

「……武器だ、オレには武器を用意しろ」


野間が注文を言うと

店主の表情が俺の時より更に笑顔に変わる


……しかし何故だろう

その表情は、とても不吉な出来事の兆しに感じられた


店主は、野間をジロジロ観察した後

カーテンの奥へ姿を消した




店主がカーテンをくぐり此方に出てくると

その手には腕防具を携えていた

……何だか先程と打って変わって上機嫌だ

口角が上がっている


野間の注文は武器だ、腕防具では無い


しかしもう流石にこの店主にも慣れた

俺達の予想を裏切るのが好きなんだろう


つまり腕防具

……ガントレットって名称だったかな?

あのガントレットも実は武器でしたってオチなのだろう


ガントレットは不気味な紫色を帯びている

色だけでは無くその形状も不気味だ

アレから何を連想する?と聞けば、10人中8人はエイリアンと答えるであろう

あの化け物を連想させるに一役買ってるその材質もまた今までに見た事が無い


店主はガントレットを野間に投げて渡した



放物線の軌道を描いて

野間の元へガントレットが落ちる


同時にカール先生が目にも止まらぬ速さで

ガントレットを叩き落とす



……え?何で?


間を置かず

ガントレットから悲鳴の様な声が上がった


ガントレットは自らの腕をビタンビタンと床に叩きつけると

掌に当たる部分から青い液体を吐き出し

その後はもう一度も動かなかった



俺達2班のメンバーは皆、硬直していた

どこから理解すればいいものか



今起こった一連の流れを整理しようとしたが

それはカール先生の声に遮られる事になった


「……どういうつもりですか?グリフ?」

カール先生がそう言うと空気が変わった



「……あんたこそ何の真似だ?

カール先生よ?」


空気がピリピリしている

気のせいじゃ無い、実際に変わっているんだ


多分、2人の体から漏れ出した「何か」が影響しているのだろう


カール先生はともかくとして

この店主も単なるヒゲオヤジじゃ無いのかも



「……俺の店では俺のルールに従ってもらう

例え、あんたでも、だ」


「……それは理解していますよ

ただ教え子の命を奪おうとするなら

話は別です」


命を奪おうとした?


……そうか、段々話が見えてきたぞ

あのガントレットに仕掛けがあったんだな


もし野間が手を入れれば命の危険があった

だからカール先生はガントレットを叩き落とした、そういう事だろう



「カールさん、それは大きな勘違いだ

俺は命を奪おうとした訳じゃない

あの縞々頭に適した武器がアレだった

それだけの事よ」


「あの魔物は宿主の命を際限無く喰いつくしてしまいます

……それに、あの魔物と適合できる人間は1割に満たないという噂

とても見過ごせない」


カール先生が眼鏡の位置を直した

肌を刺す様な圧迫感が一段と強くなる


「……ふー、やれやれ

まぁいい、あんたと事を構えるつもりは無い

だがあの武器を壊したのはあんただ

お代は頂くぞ」


カール先生が頭を振ると張り詰めた空気が

弛緩した

チラリとこちらを伺う


「……正直、納得はしていませんが

これ以上続けて教え子達に負担を掛けるのも馬鹿馬鹿しい

私が折れましょう」


……一段落着いたみたいだ


それにしてもなんて物を渡そうとするんだ

あのヒゲオヤジ

命を際限無く食い尽くす?

ヒゲオヤジにも言い分があったみたいだが

野間の命の危機だったのは間違いなさそうだ


カール先生が叩き落としたのは正解だったのだろう


「待てよ、先生」

野間から声が上がる

苛ついてる時のトーンだ


「その魔物だか何だか知らねーけどよ

それはヒゲオヤジがオレに渡した武器なんだろ?

命が喰われるとか適合?とか意味わかんねーけどヤバそうな代物なのは解ったよ

先生が俺の為にぶっ壊したのも解った


でもその武器を使うかどうかは俺が判断する事じゃねーのか?」


野間?何を言ってるんだ?

野間が命を犠牲にして着ける必要なんて無いはずだ


ニィとヒゲオヤジが笑ったのが見えて

思わず野間に声を掛ける

「野間、他の武器でいいんじゃないかな

あのガントレットをわざわざ……」

「てめーは黙ってろ!!これは俺の問題だ」


……野間との付き合いはそんな長くは無いけど

こうなったらもう何を言っても耳に届かない

それは知ってる


「縞々頭、おまえの言う通りだよ

あの武器を使うも捨てるもおまえさん次第だ

だが悪いな、生憎オレの店の商品は全て一点物

替えは効かねぇ」


チッ、と野間の舌打ちが聞こえる


「……だが縞々頭

お前さん気に入ったぜ

普段、出張サービスはしてねぇんだが」


店主はポケットから何かを取り出すと野間に投げた


!!?

咄嗟にカール先生を見たが

行動を起こす素振りは見せていない

苦々しい顔にはなっているが


野間は片手でその何かを受け取り

掌を上にして何かを確認する様に見る


野間の掌を見ると

その何かは古そうなお札の様だった


「あの武器を捜すにはちょいと時間が掛かる

そうさな

今から一年だ、一年で何とかしてやろう

一年経ってまだあの武器が欲しけりゃ

その札をオレの名前を言いながら燃やせ

オレの名はグリフ=アンマジェル

覚えておけ」


「………….」

野間は暫くお札を見ていたが

その内、ポケットに突っ込んだ


「野間君、後でお話があります」

カール先生が口を開いた


「悪いけど、聞きたくねぇな」

「いい加減になさい!!」


カール先生の怒号が響く


普段怒った所を見た事が無かった事もあって

野間以外の俺達も驚いた




野間は暫く無言を貫く事で抵抗していたが

「のまっち、それは違うんじゃないかな」

と木村に言われると観念した様で


「………あー、うぜぇな!!

わかったわかった、

説教でも何でも好きにしろよ!」

と吐き捨てた



「よろしい」

いつかと同じ様に手をパンと叩くと

「この話は今はここまでと致しましょう」

と加えた

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