第1章 35話 「試練の後で」
決闘が終わった後
俺は観客席に戻らず、部屋に直行した
溝尾が出迎えてくれたが
俺の顔を見ると心配そうに「大丈夫?」
と声を掛けてもらったが
「一人にして欲しい…」と呟くと
何も聞かずに頷いてくれて
溝尾は部屋を後にした
その後、強烈な吐き気に襲われて
何度も何度も吐いた
今はベッドの上で空中に視線を泳がせている
……あそこまでやるつもりじゃなかった
途中から自分が自制出来なくなっていた
俺は森で少し変わったと思っていた
間違いだった、少しでは無かった
自分で自分が恐ろしい
今は木村と野間の試練の最中だろう
応援に行かなくて良いのか?
……どんな顔して会えばいい?
木村と野間だけじゃない、軍曹、カール先生
みんなには俺がどう映ったのだろうか
わかってくれよ
アレは違うんだ、本当の俺はあんな事しない
本当の俺は……
目が覚めた時には夜になっていた
起きると、木村と野間と溝尾が談笑しているのが見える
一瞬、アレは夢だったのかとも思ったが
口の中に吐いた感触が残っている
「お!ようやく起きたな!
何度も心配かけやがって!こいつ〜!」
と木村にヘッドロックを掛けられた
ごめん、ごめんと普段なら返す所だ
しかし、今は何も返せなかった
「何だ?元気無いなぁ?
風邪なのかな?風邪なのかな?」
と木村が戯けてみせる
「……どーせ、
やり過ぎたとすたかくだらねー事考えてんだろ? ゲロ峰の考えそうな事だ、ほっとけほっとけ」
野間から図星を突かれた
あ!
何かに気付いた様に野間が立ち上がる
俺の前に立つと、手から1本火の針を髪に落とされた
「……っつ!?あっつ!!あちちちち!!」
堪らず洗面器に頭を突っ込み水を髪にかけた
「お、おい!何すんだよ、野間!」
意味が分からず突っ込む
「てめーだけ、先部屋帰りやがってよ
チームの奴の決闘位、見届けらんねーのか
バーカ!
今のはその罰だ!謝りやがれ、バーカ!」
野間はざまぁみろと言わんばかりの
ニヤケ顔でそう言った
頭のてっぺんのポイントパーマを摩りながら
「ごめん……」
と反射的に返すと
「ハッ!それでいいんだよ、許してやる」
と自分のベッドに戻っていった
「でも、ヒデーよなー
一人だけ帰っちゃうんだもんよー」
と木村が乗っかって来た
「ごめん、悪かったよ、」
「まぁいいけど!
でも残念だなー、俺の新必殺法術
”真・ヘルファイア”を見せられなくて」
真・ヘルファイア?
新しい法術を編み出したのだろうか?
しかし直ぐに野間のツッコミが入る
「はぁ?前のと全然変わってねーだろ
パチこいてんじゃねーよ」
「いや!のまっち、分かってないね!?
従来の性能より、スピードも威力も……」
「その従来とか、知らねーし」
「よっしゃ!教えてやろーじゃんか!
従来のは……
気付いたら俺はいつの間にか笑っていた
やっぱり俺この班で本当に良かったな……
ーエルムサルト城 3階 儀礼の間ー
「さて、お三人方
皆に集まってもらった理由は分かるな?」
「一応は想像付きますけどね……」
「現人の能力……ですか?」
「……覚醒は結局、誰一人として起こりませんでしたね」
「そうだ、最終試練で
覚醒に至る者を期待したんだが
結果、空振りに終わってしまった」
「ですが、今の状態でも我が軍にとっては
貴重な戦力になるとは思いますが?」
「……当初の予定より大分戦力は下回るがな
ブレア其方はどう考える?」
「どうもなにも、御大臣
「戦士」の称号を与えたのですよ
月柳と春馬は戦力として期待できるでしょう
川村も援護に専念すれば軍の助けになります」
「ふむ………」
「……大臣が懸念されているのは、彼等の精神的な問題でしょうか?」
「うむ、ブレアが今言った3人は声を出して
決闘のルールを破り
期待していた長峰勇気はあの凶行だ
やはり考慮しない訳にはいかんだろうよ」
「つまり、彼等が裏切る可能性があると?」
「リーゼリット!貴様!
俺の教え子を愚弄する気か!」
「愚弄するなんてとんでもない
しかし、コレは私達にとって負けられない戦
……大臣の仰る通り、あらゆる可能性を考慮するのは当然です」
「落ち着けブレア、ワシもそこまで思ってはおらん
だが規律を乱す者は軍に混乱をもたらす
特に戦場ではたった一人の命令無視が
時に多数の兵士の命を奪う
それが分からんお前では無かろうな」
「………失礼致しました」
「魔導長、私に一つ案がありますが?」
「ふむ、聞こうではないかカールよ」
「規律を軽視するのは軍内では確かに問題が
あるのでしょう
しかし、彼等は覚醒には至らずとも
法術、身体能力共に中々高い物を備えております。 エルムサルトに対する忠誠心も高い
この戦、彼等の力を眠らせて挑むのは
得策とは言えません」
「……ではどの様に扱うと?」
「指揮系統を最初から作らず
遊軍として配置してみるのはいかがでしょうか?
自分で考え、自分で動かせてあげれば良いのです」
「……何を言うかと思えば遊軍だと?
あいつ等は戦の経験も無いのだぞ!?
下手に動けば、囲まれて各個撃破されるのがオチだ
みすみす教え子を死なせる様な真似は出来ぬ」
「ならば、ブレアさん
あなたの教え子の月柳君、春馬君、川村さんはあなた直属の部下として面倒を見てはいかがです?
軍規違反を犯さぬ様にあなたが指導し、あなたが指揮すれば安全でしょう?」
「………では2班の3人を遊軍とする訳か?」
「ええ、いかがでしょう?」
「カールさんは、2班を随分と買っていらっしゃる御様子
よろしいのではないでしょうか?
勿論、2班の3人の戦死やその他自己判断での撤退等、軍規に触れる事項が発生した場合は
カールさんに責任を取ってもらう必要が
ありますけど」
「ええ、勿論構いませんよ」
「では1班は私の直属の部下として組み入れ
指示、指揮等全て私に一任して貰おう
……よろしいか?御大臣」
「よかろう
では1、2班についてはその様に手配しておく
その度の班は如何する」
「でしたら、345班は私の指揮下に所属させてもよろしいでしょうか?
戦が始まれば、治癒場は長蛇の列が出来る事でしょう
戦力としては未成熟な3班でも治癒法術は
中々光るモノを持ってる子もいます。
4班と5班には城下町の警護を担当して貰いたいのですが」
「あい分かった、それで構わん
戦まで時間も残り少ないのでな
次の議題に移るとしよう」




