第1章 32話 「第3戦」
川村が黒い長髪をなびかせ西門から出てくる
装備は……弓と矢
遠距離で戦うつもりだ
防御より動きやすさを重視したのだろう
アシンメトリーな左肩と胸当てを守る革製の装備を付けていた
東門からやや遅れて囚人が現れた
装備はこちらも動きやすさを重視した
革製の鎧
手には木製の槍が見られた
装備から間合いを詰めて中距離戦に持ち込む狙いが見て取れる
囚人は器用に木槍をくるくると回転させた後ピタリと止めた
穂先は川村に向けている
両者が一定の距離まで迫るとドラが響く
直ぐに川村がバックステップで身体を相手に向けたまま後ろに跳ぶと
背中から矢を取り出し弓にセットしそのまま弓を引いた
動きが速く滑らかだ
相当弓を使い慣れている様子が見てとれる
囚人に向かい矢が放たれる
囚人はというと開始直後から
川村との距離を詰めようと直線距離を突っ込んできた
こちらも結構速い
囚人は走りながら飛んできた矢を身体を器用に捻って躱す
続けて矢が飛んでくる
しかしその矢は囚人から僅かに逸れ左を掠めていった
川村はバックステップして矢を放つを一連の動作として繰り返している
当然の事だが距離が縮まれば
矢の速度も正確さも上がる
第3射目は囚人を捉えた
走りながら前から飛んでくる矢を躱すのは至難の技
躱しきれず左肩に矢が突き刺さる
しかし、残念ながら刺さった場所は防具の上
衝撃を受け体勢を崩したものの転ぶには至らず、また距離を詰める様に走り出す
囚人と川村の距離はもうかなり近い
後20m位だろう
更に川村の後ろにはもう壁がある
バックステップで距離を取れない
左右に壁沿いに走っても中央の囚人が合わせて動けば距離は縮まってしまうだろう
かなり危険な状態に見える
川村は弓を左手に持ったまま右手を前に出す
法術の構えだ
………何が出るのか
”アクアフィルム”
川村がそう唱えると
川村を囲む様に半球状の幕が姿を現した
丁度後ろの壁に接する様に発生しており隙間は見当たらない
……アレは……防御の法術?
しかし相手は貫通力の高い槍だ
防げるものなのだろうか?
固唾をのんで見守っていると
川村は再び矢を取った
囚人は川村の法術を見ると、目を見開き驚愕の表情を作ってから減速する
(……聖結界だと!?
何故、あんな小娘が高位の聖法術を!?)
苦々しい表情を作ってとうとう立ち止まり、飛んできた4射目の矢を右に軸をずらして躱す
川村は近距離で矢を躱されても無表情を貼り付けたまま、背中の矢筒に手を伸ばしている
(アレを展開されたら法術の無い俺に勝ち目は無い
先程のガキ共と同じくこいつも化け物か
……一体何者なんだこのガキ共は!
……うん?)
違和感を感じる
聖結界にしては妙に分厚くはないか?
川村が5射目の矢を放つ
放たれた矢は水の幕に波紋を作って囚人に襲いかかる
が、今度は左に躱されてしまう
囚人はニヤリと口元を歪ませた
(聖結界に波紋が起こる筈が無い
つまり、アレは聖結界では無く水防壁
この女が展開した法術はアクアフィルムだな)
ならば警戒する必要は無いと
囚人が一気に加速して川村へと迫る
(小細工を使いやがって!
まさか、槍に水防壁を張って対応してくるとは思わなんだ)
川村が背の矢筒から矢を取り出す
(アレは俺の動きを止める為のブラフ
……なるほど確かに聖結界を見慣れているアデンの人間には水防壁との区別はつき難い
だが、俺は見破った!
水防壁なら恐るるに足らん!
アレは法術の攻撃に対して有効な防御法術
物理的な槍相手では効果が薄い
……防壁毎貫いてやろう!)
川村は弓を引いたが、一手遅い
囚人の木槍が先に来る
囚人は走って加速の付いた勢いそのままに
木槍に全体重を乗せ、川村の心臓めがけて
刺突を放った
バキッ
手応えあり!
囚人は勝ったと確信して顔を上げる
すると妙な事に顔の前に矢があった
「あ、アアアアァァ!!!」
囚人の悲鳴が響き渡る
(目、目に矢が!!?
俺の目に矢がぁぁァァ!!
熱い!熱い熱い熱い!!目が熱い!!
何故だ!俺はあいつの心臓を貫いた筈だ!!
矢など射つ余裕等ある筈な………?)
自分の頭が意識とは関係無く
カクリと上を向いた
(……何だ?、何をする気だ!?
あいつ何故まだ生きている!?
あの女!やめろ!!何をする気だ!
やめろ!やめろ!!やめろ!!!)
囚人の口から弱々しく
「やめろ……」と聞こえたが
川村は構わず囚人の目から矢を抜いた
囚人の目があった場所から勢い良く血が吹き出す
その内、血の勢いが徐々に弱くなると
パタリと囚人が地面に横たわった
「勝者!川村!」
審判はそう宣言したが
暫くの間、修練場は静まり返っていた
しかし、王が
「見事なり!皆の者!鬨の声を上げよ!!」
と発すると
また割れんばかりの声が修練場を埋め尽くした
川村は修練場の壁に当たって曲がった槍を眺めながら、その場に立ち安堵して息を整えていた
「賭け」だった
魔物も人間も相手を仕留めた
と思ったその瞬間だけは必ず隙が出来る
私はこの決闘でその隙だけを狙っていた
相手の囚人は槍術にかなり自信を持っている
それに対して
私の矢は所詮弓道部で習ったままごとレベル
まともに戦って仕留められるとは思えない
遠距離を保っていられるとさえも思えない
時間が掛かればむしろ危険は増すだけ
隙を突いて、至近距離から急所に一撃
私がとれる戦術はそれだけだと考えていた
相手は正に正道というセオリー通りの構えで突進して来た
弓相手にはまず距離を詰める事が肝要なのだろう
私に向けた身体の面積は最小限
その状態をキープしつつの突進
嫌な相手だと思った
しかし、私の水法術を見てあの囚人は笑った
狙いがバレている訳では無い
まだ勝ち目は残っていた
槍での突進攻撃の最大の弱点は
まず刺突を外した後の無防備状態だろう
その為、刺突は必ず必殺の急所を狙って打たれる
額か、目か、首か、心臓か
もしくは武器を握る利き腕
相手はセオリー通りの戦術で王道を往く
ならば狙うのは10中8、9心臓
額はやや狙いやすいが目の近くにある為
私にとっては避けやすい場所でもある
目と首はそもそも小さく細く狙い辛い
距離を詰めた時点で
弓の脅威はほぼ無力化に成功している
相手から見て、私の心臓の前に
アクアフィルムを使い、実は二重に展開していた
アクアフィルムは物理に対して効果は薄い
それは勿論、理解はしている
おまけに槍は貫通に特化した形状で
防壁との接触面積も極々僅か
尚の事、防ぎ辛い
ただそれでも、私のアクアフィルムは
あのジャイアントマミーの攻撃からも仲間の命を護った法術だ
二重になってる部分を貫こうとすれば
負荷が掛けることになるのは間違いない
少しの遅れで良かった
射線軸から身体をズラす時間さえ稼げれば
そして、私は賭けに勝った
槍を紙一重で回避し
躱した後は事前に用意しておいた矢を放つだけ、振り向いた顔に合わせて思いきり矢を射った
かなり疲れた
個人戦なんてこれが最初で最後にしたい
観客席を見ると
月柳と春馬が手を挙げてるのが見えて
思わずいつもの笑顔で返していた
階段を休み休み登っている途中
田沼とカチ合った
「……あーあダサいとこ見られちゃったな」
田沼は首を振った
「……川村さん、凄かったよ」
ハハッと笑って田沼にの肩に手を回した
「女の子がコレだけ頑張ったんだからさ…」
「あんたもちょっとはカッコイイとこ見せてよね」
田沼は私と目も合わせないで頷くと
「ああ、僕も行ってくるよ」
力強い声が返ってきた
(……チェッ、
ちょっとは照れろっつーの、
ホント内の男共は可愛く無いんだから)
その内、田沼の姿が視界から見えなくなると
川村は階段に座り込んで壁に背を預けた
「はぁー、しんどー」




