第1章 29話 「溝尾の決断」
部屋に戻ると
直ぐにパンサーを手に取り岩の穂先を外した
まずはお婆さんがこんなお婆ちゃんの昔話に付き合ってくれたお礼にと
サービスで頂いた口金をつけて見る
ふむ、少し口金が大きい様でブカブカになってしまった
何か一手間かける必要があるのかも知れない
……色々試してみるべきなんだろうが
正直俺が下手にいじってベラの柄を削る事になっても困る
こんな時は……
うえ〜ん、軍曹〜、口金が嵌らないよ〜
道具出して〜
と言わんばかりに軍曹の部屋を訪ねた
軍曹は
「この甘ったれたクソ虫が!
口金を付ける事も満足に出来んのか!!」
と言った後
”ふつうのトンカチ〜”を取り出して
良く見ておけクソ虫が!と足した
ヒヨッコ兵士からクソ虫に戻っているが
まぁこれだけ頼ればそれも仕方ないだろう
軍曹はパンサーの口に口金をセットした後
精霊銀の穂先を柄に嵌めた
なるほど、良く覚えておこう
そして隆々たる筋肉を振るい
カンカンと口金をハンマーで叩き始めた
叩かれる度に口金の余剰部分が柄に密着していく
暫く叩くと口金を見る
そしてまた口金を叩く
これを2、3回繰り返すと
フム、まぁこんなものか!とパンサーを投げられた
口金と穂先が柄の延長上に真っ直ぐピタリと
嵌っている
すごい!!感動した!!
ありがとうございます!と
頭を深々と下げると
「フン!口金を叩く等、何年振りの事か
次はもう叩かんぞ!
穂先が傷んだら見様見真似で貴様が交換せい!!」
「はい!!」
「返事だけは良いクソ虫だ!!
そして貴様、分かっているな」
声のトーンが少し下がる
俺も表情を引き締め返事を返した
……最終試練の事を言っているのだろう
「………はい」
「ならば良い!
さっさと部屋へ戻れ!!」
「失礼致します!」
新生パンサーと共に軍曹の部屋を後にした
石畳の廊下を歩きながら
チラリとパンサーの様子を伺うと
キラキラと精霊銀が眩い光を見せてくる
んふふ、と自然に笑みが溢れた
「感謝しろよ、それ高かったんだからな」
ニヤケ顔で槍に話しかける俺は傍目から見れば相当アブナイ人に映った事だろう
巡回中の兵士が不思議そうに見ていた
俺達の部屋へ帰ると木村が珍しく椅子に座っている
野間は部屋の壁にもたれ掛かって木村と同じ方向を見ていた
木村と野間の視線の先には……溝尾?
溝尾は俺に気付くと
「あ、ごめん長峰君」
といつものお決まりの返しを言ったが
溝尾の目はいつもより赤かった
溝尾は俺が椅子に座ると
ポツリポツリと話し始めた
……何と無くそういう話だとは予想していた
溝尾は言った
「僕に人を殺すなんて無理だよ……」
……確かに森でも溝尾だけは結局
最後まで獣一匹殺さなかった
水を運んだり雑務を率先して行ったり
溝尾は溝尾が出来る事を行なっていた
軍曹は特に溝尾に冷たく当たる事はしなかったし
俺達はそれはそれで有り難かったのだが
「だから最終試練、僕は辞退しようと思う」
……やはりそうなるか
俺は少なくとも森で獣を狩って命を奪った
食う為に狩ったのだ
喰った命に感謝こそするが
自然の掟と割り切っていた
そんな俺でも人と相対するのは恐ろしい
多分、俺だけじゃない
木村も野間もそれは同じだと思う
獣を狩った俺達でさえそう思うのに
あの優しい溝尾が囚人との決闘なんてできるはずも無い
溝尾は心根の優しい奴だ
俺達2班の仲間だ
誰が何と言おうとそれは変わらない
だが戦士には向かなかった
ただそれだけの事
溝尾は
「みんなの迷惑になりたくない
みんなの足を引っ張りたくない
そう思って
……そう思って僕も今まで頑張ってきた
でも……ごめん………」
そう言って
いつの間にか涙を流している
「迷惑とか言うなよ!!
足引っ張ったっていいじゃねーかよ!!」
木村が声を荒げて返した
「……俺だって足引っ張ってるよ!
森からおまえと一緒に!野間に背負われながらここまで来たんだよ!!」
「……あの時だって
長峰と野間が来なかったら
……俺なんか殺されてたよ
溝尾が俺の位置教えてくれたんだろ?
野間から聞いたぞ」
木村も目から涙を零していた
「溝尾!おまえ!
この国の役に立って一緒に戦いたいって
俺と約束したんじゃねーのかよ!!」
「ごめん! ……本当にごめん!
……でも僕には無理なんだ!
……僕は木村君とは違うんだよ!!」
「溝尾………」
木村はそれだけ言うと俯いてしまった
「………木村、いいんじゃねーのかそれで」
黙って聴いていた野間が口を開く
木村、とは言っているが目線は溝尾に向いている
「溝尾の言った通り
虫も殺せねーのに決闘とか無理だろ
殺されるだけだ」
そんな言い方は…と流石に声を出しかける
が続きがありそうなので口を紡ぐ
「学校でだってほら、頭いい奴とか
喧嘩つえー奴とかオタクっぽいきもい奴とか
色々居ただろーが
……まぁ、何つーかそーゆー事なんだよ
だからえーっと……」
野間がポリポリと頭を掻く
「……おまえに死なれると困るしな
長峰のまずい飯食わなきゃいけなくなる
……それでいいんだろ?」
溝尾が小さく頷いた
ゴシゴシと袖で顔を拭いてから
木村も顔を上げる
「ハハ、何か意外だ
….…のまっちに説教されるなんてさ」
同感だ
こんな事言う奴じゃ無かったのに
野間が一番森で成長したのかも知れない
「チッ、ほんとだよ
柄にもねー事言わせてんじゃねーよ
……あー!うぜーな!マジで!」
ちょっと照れながらそう言って
部屋を出て行った
口下手だが、そう、野間の言った通りだ
向き不向きがある
戦士にならなくても何も変わらない
溝尾は俺達の仲間だ
これからも何処にだって共に行こう
「溝尾、話してくれてありがとう」
俺はそれだけ溝尾に掛けることにした
言いたい事はもう木村と野間が全て言ってくれた
……いや、そういえば
一つだけ聞き逃せない言葉があったな
まぁ恐らく野間の軽口なんだろうけど
「あの、俺の料理って不味いの?」
「え!?あ、も、勿論美味しいよ!」
……溝尾の目が泳いでいる
木村に視線を移すとサッと顔を逸らされた
嘘だろオイ




