第1章 27話 「森の恩恵」
ー第2修練場ー
既に夜になっている
暗くて多少見えにくいが第2修練場は青天井だ
月明かりが差し込んでいて、妙に美しく見えた
森の夜は完全な闇の世界だった
木が重なり合って、月明かりすら通さない
アレに比べれば大分明るい
この位の明るさなら剣筋も見えるだろう
鉄剣に目を落とす
先程、軍曹の部屋の戸を叩き
剣の話をすると
「先ずは一つの武器を一人前になるまで
使い込むモノだ! バカモン!」と言われ
快く貸してもらった鉄の直剣だ
恐らくポピュラーな剣なのだろう
それでも、かなり重量感がある
片手で持ってみるが
っ!やはり重い
森でかなり筋肉を付けたつもりだったが
槍を扱う筋肉とはまた違った筋肉を使う様だ
片手で持って横向きに払う
ブォンと空気がなる
遅い
上段に構え縦に剣を降ろす
ブォンと空気を切る
やはり遅い
これでは話にならない
構えて振り始めた時点で鹿に逃げられる
勿論、今回の相手は鹿では無いんだが
剣を離し
パンサーを手に取って
上段に突いてみる
やはり早い
そして正確、精密に意図した場所に刃はある
森では一回のミスでも命に関わる場合がある
鹿相手ならば槍を突く槍を引く
この動作間に頭の方向を転換して逃げる準備が完了してしまう
マッドドッグ相手と仮定すれば横の死角に回り込まれる
パブーン相手と仮定すれば
既に奴等のリーチの届く間合いまで距離を詰められる
鹿が相手だと仮定するならば突いた場所は喉笛、即死はしないが長くは走れない
速く、タフな奴で視界から姿を失っても
血の跡を追えば
その内、瀕死で転がっている姿が見える筈だ
更に突いてみる
今度は下段突き
槍の後ろを跳ね上げ右手を逆手に持ち替えし
動きを止めずに前方を左手で標準を取る様に添えてから一突き
マッドドッグ等の頭の低い相手と仮定した
下段突き
森で二回目のミスは致命的
万が一、鹿相手ならば頭を狙い外したならば次に狙うべきは後脚の付け根
後脚の損傷は直接的には死なない
しかし、鹿が生命線の速さを失えば
必殺の2撃目がいずれ待っている
コレを外せばもう槍が届く範囲から抜けて駆け出している
マッドドッグ相手ではどうか
初撃を外し、死角に回り込まれ
2撃目を外せば、背後を取られる
奴等は目を探すのが上手い
攻撃を仕掛けてくる時は徹底して死角からだ
背後を取られれば、仕掛けられる
首か肩に強靭な顎と発達した犬歯の噛みつきを受ける事だろう
パブーン相手ではまず2撃目をあいつらは許さない
初撃の槍を引いた所で腕を取られるだろう
腕を取られれば瞬時、驚異的な握力を持って握り潰される
そして巣にお持ち帰りだ
更に突く
中段突き
自身と同等の体格を持つ相手用の中段
狙いは正中線のやや上
つまり相手に人間を仮定し心臓を突いた
そのまま暫く突きを繰り返していたが
疲れのせいで切っ先がブレ出したので部屋に帰る事にした
帰る時、月は既に修練場の上から姿を消していた
翌日、俺は街に出ていた
軍曹の元を訪ね鉄剣を返した後に
麻袋を担いで街に向かった
目的はパンサーの新しい刃、切っ先だ
イノシシを殺し、また俺達を殺しかけた
呪いの大岩
……かどうかは分からないが
兎に角、使い込んだ為に流石の大岩の切っ先もボロボロだったのだ
武具屋には以前興味本位で入った事があり
切っ先が単品で売ってる事を既に確認済み
…街は人通りが少なく以前より閑散としている、戦前となれば確かに寄る旅人も少ないだろう
今朝、不安になって店は開いているのか?と軍曹に訪ねたら
俺の心中を察したのだろう
「フン!エルムサルトの民草は此度の戦
我等の勝利を信じておるわい!
怯えて、故郷を去る軟弱者等おらんわ!
貴様らヒヨッコ兵士共が心配する等おこがましいわ!!」
と説明して頂いた
なるほど、街は閑散としているが
見ると八百屋の主人がやぁ、と片手を挙げた
軽く会釈を返して、逞しいなと素直に感じる
さて、武具屋の場所は把握してあるが
先に寄るところがある
「ギルド」だ
「ギルド」
は元々城が請け負う
魔物の討伐依頼を受ける部署を前身とし
5世紀程前に商魂逞しいその部署の御隠居が
退役した後に民間で立ち上げたのだと
資料室で大臣から聞いた
エルムサルトに構えてあるギルドは
支社の一つだ
ギルドの役割の一つに獣、魔物素材の
買い取りがある
俺はそれに用事があった
切っ先を買うにもまず金を作らなければ
お金はどこに行っても大事なのだ
ギルドに付くと早速門もくぐる
中に宅があり、傭兵に見える風貌の人間が
宅を囲んでいた
カウンターに向かうと女の人が出迎える
「いらっしゃい、どんな御用かしら?」
「実は売りたい物がありまして……」
背中の麻袋に目線を送る
「買い取りですね?
それでは此方にどうぞ?」
カウンターから女の人が出ると
店内の隅の大きな宅へと案内された
椅子に座る様促された後
向かい合う様に女の人は対角に座り
さて、ではどんなお品を売って頂けますか?
と俺に優しく声をかけてくれた
さて、どれを売ればいいのだろう?
というか、どれが売れるのか?
正直、皆目検討がつかない
麻袋の中身は森で狩ったり拾ったりした
自己判断による「役に立ちそうな物」だが…
俺はちょっと緊張して
すいませんと切り出す
正直に価値が分からない事を伝えると
女の人はちょっと驚いた表情になったが
「では、一通り拝見致しましょう」
と言われた為
麻袋の中身を次々と宅に出す流れになった
これは後で分かった事だが、驚いた表情をしていたのは
親のお使いで来たのだろうと思われていた為らしい
……そりゃ俺はまだ身長160位しか無くて
小さいけどさ
宅においた森の品を女の人は慣れた手付きで一つずつ手に取るとパッパッと素早く鑑定していった
俺は顔を真っ赤にして俯いていた
……想像すらしていなかったが
もし全部買い取れませんと苦笑いされたら
とんだ赤っ恥だ
森ではお宝だった数々の輝かしい戦利品も
何だか子供がガラクタを質屋に持ち込んでいる様に思えて来た
「なるほど…… 拝見させて頂きました」
と女の人は言うと
次々に指を森の品へ向け、品名と買い取り額を伝えてくれた
以下、ギルドのお姉さんから聞いた
麻袋の中身で値段がついた物の名称と
買い取り価格
カブラナのツタ乾燥品 2m25cm……1銅貨
アリマダ茸 乾燥品 170g ……2銅貨
マッドドッグの犬歯 5本 ……5銅貨
ジャイアントリザードの革(キズ小)
……1銀貨と3銅貨
カラランバの茎 乾燥品 51cm(欠け大)
……1銀貨と6銅貨
シルバーバックの大腿骨 (経年劣化品)
……3銀貨
クラムガーデン原石 185g
……1金貨と8銀貨
計、2金貨4銀貨7銅貨となった
森の中で見つけた綺麗な石の一つに高値がついた
10個位綺麗な石は拾ってあったのだが
値が付いたのはその石のみだった
確かにその石は約1ヶ月間森を歩き回っても
一つだけしか見つからなかった物だ
気紛れに拾っておいて本当に良かった!
そして意外だったのが草の茎だ
なんと大した額ではないものの第3位の値がついた
森の中心よりやや奥の池に群生していた草の茎だ
良い香りがするので何本か持ち帰り
乾燥させた後
輪状にスライスして湯に入れて見たら
案外、美味しい出汁が出たので
森生活では重宝していた物だ
用途を聞いてみると
削って粉状にした後
高級料理の香辛料として使うらしい
森の深い所の水場に生えているが
あまり市場に出回らず、やや希少価値が高いとの事
結果、ツタとキノコを手元に残し
2金貨4銀貨4銅貨を持ってギルドを後にした
貨幣価値は知っている
金貨1枚で約1万円位
銀貨1枚で約千円位
銅貨1枚で約百円位て所だ
つまり手持ちは24.400円
いや〜
森で拾ったお宝がお金に化けるとはね
大金でも無いが予想より多いお金を手にして
俺は麻袋も足取りも軽く、武具屋に向かった




