第1章 23話 「パンサー」
槍の価値を知ってから
その夜は槍の名前付けに熱が入った
単純にベラスピアでもいいかと思ったが
即座に却下した
材料がバレると多分ロクな事が無い
出来るだけ推測しにくい名前にしなくては
……エルムサルトでしか取れないなら
エルムサルトでいいか?
とも思ったが大仰すぎる
軍曹や野間に爆笑されるであろう
却下だ
何と言ったか
そう言えば同じくエルムサルトにしか生息しない生き物がいたな
確か……そうだ、エルムサルトパンサー
……パンサーか
いいかも知れない
いや、むしろコレしか無いだろう
木槍パンサー
君に決めたっ!
パンサーを手にしてから2週間が過ぎた
もう森の生活にも慣れた物だ
俺と木村と野間は1人で森に置いていかれても問題無く生きていけるだろう
10日経った頃に
「もうおまえらだけで何とかせい!
いつまでもクソ虫共に甘えられてもワシも困るのでな!!」
と軍曹は今後の予定を伝えて森を離れた
軍曹には沢山の事を教えてもらった
深々と頭を下げ軍曹を見送った
今後の予定は
3週間つまり21日経つまでは、その森で生き延びる事
経った時点でエルムサルトまで徒歩で戻る事
到達刻限は24日まで
25日目追って大臣から指示が下る
との事だった
後一週間、まずは森で過ごす
正直、楽勝だと思った
最早俺達はこの森の生態系の頂点だ
他の生き物は全て俺達の食料だ
そう思っていた
森に入って20日が過ぎた
21日になればこの森ともお別れか
ベースキャンプで捕らえたイノシシを焼いて食べていた
森の間から漏れ出る夕日を見ながら
少し感慨深い物を覚えた
?
走ってくる足音
これは野間か?
野間は勢い良く茂みを飛び出すと
焦った声で俺に言った
「長峰!付いて来い!
溝尾のバカがクソパブーン二匹に囲まれやがった!
このままじゃアイツ、マジで殺されるぞ!」
ただ事では無いと思ったが
ウッドパブーンが何故溝尾を?
あいつらは体長の小さい生き物しか襲わない筈じゃ……
すっかり手に馴染んだパンサーを拾い
野間の後を全速で追う
「……木村は?」
「あいつはパブーン共の注意を引きつけて
溝尾を逃がすって言ってやがった」
「………」
「馬鹿が!
そんな事すりゃ餌食になるのはテメーだっつーのに!」
「……木村は多分、大丈夫」
根拠など無い
ただこの森の事は知り尽くしていたつもりだった
だから今回も大事には至らないと何処かで思っていた
実際には「森」を半分すら知らなかったのだが
やっとの事で
溝尾と木村の元に着いた
溝尾は腕を負傷している様で木にもたれかかっていた
………木村は?
木村がいない!?
溝尾に尋ねると弱々しく右方を指差した
指を指した方をよく見ると
遠くで炎の光がチラついた
木村の炎だ
一目散に野間と俺は木村の元へと向かった
木村の姿を確認したと同時に
妙な既視感を覚えた
……そうか、ここは
木村は最初にイノシシを殺したあの岩へと寄りかかっていた
木村の元へたどり着くと木村の左右に俺と野間が付いた
「不細工な猿如きがナメやがって
俺がボコって……」
野間が吠えるが……途中で止まった
木村の傷を確認する
幸か不幸か
身体に無数の傷が付いてるが
大きな欠損や致命的なダメージは無い
しかし木村は「ごめん…… ごめん……」
と俺達に謝っていた
「大丈夫だよ、もう大丈夫だから」
敵の姿を確認しようと木の上を見る
パブーン共は木の上に居るはず
……俺達の乱入で逃げてくれれば
こちらも助かるのだが
木村の火球が岩の前を照らす
陽は既に完全に落ちていた
!!?
正に地獄がそこに具現していた
木の上、枝に無数のパブーン
……総数30匹以上はいただろうか
……そんな馬鹿な
パブーンは群れない筈では
中央の木の枝に座っていた
一際大きなパブーンが木から降りる
地面に着地すると
大きなパブーンはゆるりとこちらに向かい歩き、炎の目前でピタリと歩を止めた
炎を挟み、そのパブーンと向かい合うと
その異常性が目に入った
……こいつ火を恐れていない?
……それにやたらと大きい
パブーンにしては大き過ぎる
通常のパブーンは大人の個体で平均身長80cm程度だ
大きな個体でも1mはいかない
こいつは悠に身長2mを超えている
毛の色も違う
パブーンは茶色の体毛をしている
こいつは全身真っ白だ
……なんなんだ、こいつは
こんな奴がこの森に……
「ごめん…… 俺のせいだ
こいつら、俺を餌にして2人を呼ぶまで待ってやがったんだ」
………っ!!
元からパブーンは罠を仕掛けたりする種族で
魔物の中では賢い
しかし流石にここまでするとは
と不意に大きなパブーンが両手を地面に付き
低く不気味な声を上げた
「アロアロアロアロ…………」
その声に応えるように無数のパブーンが
甲高い声を上げる
「ウキャウキャー!ウキャキャキャキャ!!
そして一匹二匹とパブーンが枝から降りてきた
……流石にこれは無理だな
パンサーを握った手を緩めて
ダラリと下げた
「てめぇ!諦めたら俺が殺すぞ!!
上等!一匹でも多く道連れにしてやるぜ
来いよ!エテ公!!」
野間の側に居た3匹が同時に野間に飛びついた
刹那
夜よりも黒い巨大な影が闇を纏って真横に疾った
野間に飛びついた三匹は野間の目の前で
バラバラと崩れ落ち
「アガ……アロアロ…アガアガ……」
白い猿から悲鳴が上がる
3人はその時点でようやく巨大な影を目に捕らえた
……アレは
……まさか
……エルムサルトパンサーなのか?
その黒い巨大な影は
白い猿が小さく見える程巨大だった
全身5〜6mはあろうかと思われる巨躯
月と見間違う程の金色の瞳
小型の豹とは何だったのか
黒豹は白い猿の首筋に牙を立てていたが
白い猿がグッタリするとぺッと吐き捨てた
しかし、グッタリとしていたのは
演技だったのかも知れない
白い猿は地面に着くとカッと目を見開き
一目散に逃げていった
無数に居たパブーンもいつの間にか消えて居る
黒豹は白い猿を暫く目で追っていたが
フッとこちらに首を向けた
背筋に戦慄が走る
その圧倒的な存在感に声が出ない
身体も動かない
……隻眼?
暗くて良く見えなかったが
片目の位置に古そうな傷痕があった
(ヒトヨ…………キコエルカ)
!!
話し掛けられた!?
コクコクと頷く
(オオキナヒトニ……ツタエテクレ)
大きな人? 大きな人とは誰の事だ?
(ヒトヲマモッタゾ……………)
再び頷く
……もしかして、軍曹の事だろうか
(モウモリニクルナ……………)
………何故
何故そんな事を言うんだ?
軍曹は森が好きだ
森に来たっていいじゃないか
なんでそんな事を……
(モリニクルナ………)
頷けない
軍曹は…
軍曹は森が大好きなんだ
少しの間だったけど
俺達に色々森の事を教えてくれた
……軍曹の話を聞いていてわかったんだ
ああ、この人が密猟者から森を護ったんだな
と、だから
だから、きっと君にも迷惑なんてかけない
森に来るななんて言わないでくれ
黒豹は俺達から目線を外した
(…………モウ……ネムラセテクレ)
……え?
(……………………モウイチド)
そう残すと
黒豹は森に消えた
黒豹が消えて月が見えた、綺麗な満月だった




