第1章 22話 「ベラ」
朝の軍曹のお説教が終わり
槍の材質に頭を悩ませていると
野間と木村に呼ばれた
まぁ、何と無く察しは付く
昨日のイノシシの事だろう
二人に獣道、足跡
更にイノシシとの激戦を話してやった
イノシシの倒し方は参考になるかどうか分からないが
獣道、足跡の情報で
遭遇する確率はグンと上がるだろう
二人共狩に役に立ちそうな火の法術を持っている
今日は恐らくこの二人も獲物を取ってくる事だろう
二人と別れ
まず槍作りに専念した
昨日の様に獣の皮膚すら貫通できない様じゃお話にならない
耐久性を上げる為、太い枝を見つける必要がある
更に先端に刃が必要だ
軍曹から貰ったナイフを着けても良いのだが
ナイフは色々と他にも用途があり
腰に差していた方が何かと便利だ
それに、出来ればこの森にある物で一から自作したい
正直、昨日イノシシに槍を折られて結構悔しかったのだ
是非自作の槍でリベンジしたい
暫く歩いた所で太めの枝を見つけた
指が一周しない位の太さがあり
枝の曲がりも少ない
密度も申し分ない様だ
少し扱いにくいのは持つ部分をちょっとナイフで削れば解消する筈
うん!これがイイ!
運命の出会いに気分を良くし
次なる刃作りに向かった
向かった先は溝尾が水を汲んできた川だ
しかし、想像とは違い川はあるのだが
石が少ない
黒曜石はどうやら見つかりそうに無かった
さて、頓挫した
幾らいい枝を見つけても枝の先をナイフで削り尖らせただけでは宝の持ち腐れだ
やはり刃は必要
そこら辺の石で我慢するか
いや、しかし……
……うん?
何か忘れてる様な……
ピコ--ン!
閃いた!!
……うん、確かにアレなら最適だ!
良し直ぐ行こう!
50分程度かけて
再び激戦を行なった地へ戻ってきた
そう、あのイノシシを殺した岩を刃にすれば良い
実績もある
木の陰に隠れてあの野犬がいないかどうか
一応、確認してみる
……いない様だ
夜行性って言ってたしな、まぁ当然
さて、肝心の岩だが
昨日イノシシを昏倒させた血塗られた部分を確認する
……どこも欠けてはいない様だ
硬度は十分
では早速、刃作りに取り掛かろう
ナイフを岩に立て肢の後ろを適当な石で叩く
簡易的な杭代わりだ
考古学者の真似事をして早1時間が経過した
……思ったより全然難しい
力を弱めると、岩は割れないし
かといって力を入れ過ぎると必要以上に細かくなってしまう
ただ確実に力の入れ具合のコツを掴んできてはいる
いいサイズの石が出来始めていた
更に20分石を叩き続けて
完璧なサイズの石が精製された!
……長かった!
しかし苦労は報われたんだ
石はトランプのダイヤの形になる様に作った
枝に食い込ませる為だ
刃の反対方向を慎重にナイフで削った枝のくぼみにセットしてみる
予想どおりぴったり嵌った
道中で拾ったツタを上から強く巻きつけ固定する。
最後に手で握る肢の部分を削って
……完成!!
振るったり突いたりしてみても刃は動かない
不安はあったがしっかり固定されている様子だ
更に嬉しい誤算はこの枝
振るった時に強めに木の幹にぶつけてしまったのだが
槍に異常は見られなかった
それどころか木の幹に傷が付いていた位だ
こうなって来ると
自作した刀に名前を入れた刀匠の気持ちが分かる
何か名前をつけてやろうか?
しかしその瞬間
脳内で木村がへるふぁいあ〜あへあへ〜
とアホ顔で浮かんでしまった
うん、取り敢えず名前は保留で
結構、いい時間になったので
ベースキャンプへ向かう事にした
流石にこの時間から狩りは無理だ
ゲンコツ食らいたくないし
とその道すがら木に何か見た気がして振り返る
大きな蛇がこちらを見て舌をチロチロ出している
蛇か….うん、まぁアリかな
思うが早いか
木槍を蛇に向けて突く
木槍は思ったより上に刺さり
蛇は慌てて木から落ちて草むらに隠れてしまった
しまった
折角、獲物を見つけたのに外してしまった
地面を見るが草が生い茂り
居場所を探すのは難しい
それから10分程、蛇を探して草むらを踏破していたが空が赤みがかった為
仕方なくベースキャンプへ戻った
ベースキャンプでは
木村と野間が一匹の鹿を前に上機嫌だった
どうも二人で協力して鹿を倒したらしい
武勇伝の聞き役は溝尾が務めている
木村は俺の槍を見ると
「何それ?」と早速興味を示した
「作った」と短く返すと
近くで薪を割っていた軍曹が反応した
「貸してみろ」と言われ槍を渡すと
振ったり、断面を見たりしている
あ、舐めた!
やめてくれよ!それ時間かかったんだから!
刃より枝の方が気になるらしい
そこに気が付くとは流石軍曹
プロには枝の良さが分かるらしい
暫く調べた後、槍を返してもらった
「……貴様、まさかとは思うが森の奥地までは行っとらんだろうな?」
どういう意味だろう?
勿論行ってなどいない
「ふむ、ならば
……ここら辺りにもまだ残っていたのか」
軍曹は暫く考えた後
この槍について教えてくれた
「その枝はベラと呼ばれる木の枝だ
……貴様等を信じて話すが
ベラはこの森にしか見当たらない希少な木なのだ」
そんな凄い木なの?コレ?
「ベラの繊維は植物としては驚く程柔軟で耐久性がある
更に香木としても人気が高い木だった」
故に!と付けて少し軍曹は哀しそうに続けた
「色々な人間からの乱獲にあってな
今ではこの森の奥地にひっそりと生えるのみとなってしまったわい」
成る程、それで、その木の枝を
俺が奥地から知らずに折って持って来たのではと疑った訳か
野間が首を傾げて質問する
「じゃ、あの木っていくら位になんの?」
やれやれと軍曹は首を振る
「もはや、公にはどこにも自生していないと認識されている木だ
値段等つけられんわ!馬鹿めが!」
「……それでも、そうよのう
無理に付けるとすれば
……g換算で金と同価と言った所か」
な!?
俺含めて4人が一斉に槍を注視した
「まぁ、槍として見れば
素人仕事にしては良く出来ておる
大切に使ってやれ!」
今更過ぎるお褒めの言葉を受け取った




