第1章 19話 「狩猟」
ーエルムサルト 南の森 朝ー
危険度 G〜Eランク
光を顔に浴びて目が覚めた
いつの間にか眠っていた様だ
周りを見渡すと溝尾が既に起きていた様子で
布のみが残っているだけだった
中心の焚き火は既に消えている
そこで気づいた
……鬼軍曹がいない!?
……まさか
そんな馬鹿な!
実践訓練とはサバイバルの事なのか!?
……いや、今はそれよりも
流石に空腹を何とかしないといけない
腹が減りすぎて力が入らない
ヤバい
これは本格的にヤバい
そう考えていた時
「おう、起きたか!クソ虫!」
右手の森の中から
鬼軍曹が現れた、鹿?を担いでいる
更にその後ろから溝尾が現れた
手にバケツを持っている
何処からか水を汲んできたのだろう
どうやらサバイバルは杞憂だった様だ
それから皆起き始め
食事を取った
神軍曹は鹿を手際よく解体すると
再び木村が点けた焚火で炙り
モモ肉をホレ!と投げて寄越した
俺達は肉に一心不乱に食らいつくと
直ぐに渡された分を食い尽くした
鹿肉は涙が出るほど美味かった
溝尾が汲んできた水を飲むと、ようやく落ち着いた
皆んな食い終わった所で神軍曹からお告げがあった
「フン!卑しい豚共め!
少しは元気が出たのか!
亡者みたいな面をしくさって!」
「元気が出たならまず槍を作れ!
貴様らはブレアの兵法を修得しておらん
よってとても剣では獲物を仕留められん!!
木槍を作り、自分の腹の面倒位、自分で解決してみせよ!」
そーゆー訳で
各々神軍曹からナイフを一本もらい
適当な落ちている枝を尖らせ木槍を作った
うん、中々良い出来だ、使いやすい
これなら直ぐに鹿の一匹や二匹、仕留められるだろう
人間、武器を持つと強くなったつもりになる生き物である
自作の槍を見て満足していた所で
溝尾が浮かない顔が目に入った
「溝尾?どうしたの?」
軽く声をかけると
「実は…… 」
と心中を打ち明けた
……なるほど、動物を殺したくないと
まぁ、気持ちは分かるけどな
食うためなら問題無い!と割り切れないものかと説得してみたがどうやら難しいらしい
「ごめん、ガルグリフさんに相談してみる」
ガルグリフ?
……ああ軍曹の事か
いや、それはヤメた方がいいんじゃないか
何を言われるか解らないぞ
溝尾を引き止めると俺は暫く考えて
木村と野間を呼んだ
事情を話してから
1つの提案をしてみる
「もし鹿を二匹捕らえられた人が居たら
溝尾に一匹分けない?
ほら、俺達チームだしさ、まぁ、一応」
木村は「いいぜ!任しとけ!
一匹じゃなくて10匹位やるよ」
と大方、予想通りの反応だった
野間がどう出るか分からなかったが
「あん、別にいいけど」と快諾してくれた
ただし
「おまえ、もうちょっとしっかりしろや」と
溝尾の尻に蹴りは入れてはいたが
こうして俺、木村、野間の狩りが始まった
俺達は三手に別々に別れ獲物を探す
そちらの方が仕留める確率は下がるが
遭遇する確率が高い
それに俺達は自作の槍に自信満々で
獲物を取り逃がす事等、思考に無かった
俺の当面の目標は勿論さっき食べた鹿だ
どうやって探せばいいだろうか?
……そうだ
鹿を探すより足跡を探そう
足跡を追えば鹿にいつか出会うはず
そう考えると早速足元を見る
……俺の足跡のみ、ハズレ
という事は、足跡を探す為に更に獣道を探す必要があるか
地面を見ながら慎重に歩を進めて10分
迷わない様、木に印を付けながら進むと
見つけた!
獣道!
獣道の上に立ち
足元を覗くと……ビンゴ!
何かの足跡がある
今日は特に冴えている、俺はサバイバルの才能があるのかも知れない
意気揚々と槍を携え、足跡を追った
足跡を追って、更に10分
音を立てぬ様、慎重に、かつ素早く歩を進めると
足跡の主はそこに居た
どうやら鹿では無かったらしい
野生のイノシシの様だ
体長80cm位か、思ってたより迫力がある
まぁ四足歩行の足跡だったしね
そうじゃないかって気がしてはいた
イノシシ、ベストでは無いがベターだ
今日はボタン鍋を軍曹に作ってもらおう
幸い、こちらに気付く様子は無い
草か何かを食べている
チャンスは今しか無い!
勢いを付けて走った
イノシシがこちらに気付き振り向く
遅い!もう間合いだ!
片手で槍を突く
「許せ!イノシシ!これも自然界の理!
……あれ?」
ここで想定外の事態が起こった
槍はイノシシに達すると刺さらずに
何故か手で持っていた所からボキリと折れた
お、俺の木槍が……
更にイノシシは俺に攻撃を受けて逃げるどころか
俺の姿を確認すると
頭を低くし前脚で地面を掻き始めフゴフゴ唸り始めた
威嚇している様だ
体長差のある俺相手に
逃げるどころか威嚇してくるとはいい度胸だ
だが、こちらとしてもそれならそれで良い
木槍が折れたのは痛手だが
軍曹にもらったナイフがある
こいつで仕留めてやる
ナイフを右手で抜くと同時に
イノシシが突進してきた
え!?
思っていたより全然速い
しかも直進しか出来ない動物かと思っていたのに軸から体をズラした方向に器用に微調整してきやがる!
俺は全力で左手に避け
間一髪、突進を回避した
イノシシは勢いあまって遠い所で止まって
振り向くと
またこちらに標準を合わせ、頭を低くした
……まるで小型バイクだ
いや、重量的にはそれ以上か
どうする?逃げるか!?
そう考えている内に突進して来た
……何か手が有るはずだ
……何か
昔の偉い人は言っていた
”己を知り、敵を知れば、百戦危うからず”
そうだ、まず敵を見るべきだ
成る程速い、ただし躱す事のみに専念すれば…
その突進をギリギリまで引きつけた後、
身体を転がして躱した
躱せる!
やはり左右への動きに多少は対応できるものの
急激な回避行動にはついてはいけない様だ
更に運が味方した
イノシシは、俺の位置を通り過ぎた後
ブレーキが間に合わず大木に突っ込んだ
力無く横にゴロンと一瞬転がったが、
ピクッと動くと起き上がり
鼻息荒くこちらに向き直した
額から血を流している
成る程、アレがヒントか
バイクにも言えるが時速30km程度でも電柱に突っ込めば無事では済まない
ハッキリ言ってあの速度で大木に突っ込み
小さな怪我で済んでいるイノシシは
相当タフだ
周りを見渡してみると
あった、大きな岩
イノシシの突進をもう一度躱すと
岩のやや前に立った
あのイノシシも極小とはいえ脳味噌はある
もし岩を警戒されて逃げられでもしたら
骨折り損、槍折り損だ
そもそも3回も躱した所為で突進する前に考える素振りを見せ始めている
恐らくこれがラストチャンスだ
ただ岩の前方に位置しただけとは言え
俺が居るのは避ければ確実に岩にぶつかるのは間違いない位置
さぁどう出る!?
イノシシは頭を下げて、突進態勢に入った
キタ!
だがまだ終わりじゃ無い
早めに回避すれば微調整されて当たらない可能性が出てくる
俺が居るのは岩の丁度中心部の延長線
ギリギリで躱す必要がある
ギリギリで躱せばまず間違いなくアイツは岩に突っ込む
俺の勝ちだ
だがもし躱せずに擦りでもすれば
イノシシは意識的にスピードを緩める上に
俺に当たった衝撃で岩に到達しない可能性がある
そうなれば最悪だ
逃げられるか、それどころが当たりどころが悪ければ足をやられ
次の突進をまともに喰らう羽目になるかもしれない
集中しろ!
集中!
イノシシが眼前で徐々に大きくなってきた
まだ、早い
イノシシは今度こそ捕らえたと思ったのだろう
より前傾姿勢になり速度を上げた
もう、少し
ポイントにイノシシが到達
今だ!
身体を全力で右に転がした
スローモーションの様にイノシシが自分のいた場所をゆっくりと貫くのが見えた
刹那、大きな衝突音が響き
イノシシの叫び声が木々の間にコダマした
……はぁ、はぁ
肩で息を整える
強敵だった
い、いやまだだ
イノシシの絶命を確認しなければ……
ヨロヨロとイノシシの前に立つと
ピクッと痙攣を起こして白目を向いてはいるものの、まだ辛うじて生きているようだ
呆れる、なんて生命力だ
岩を見ると血がポタポタと滴り肉片がこびりついていた
……ごめんな、今、楽にしてやるから
イノシシの前で手を合わすと
ナイフで喉笛を切った




