第1章 14話 「遊興」
エルムサルトへ向かい馬を走らせていると
突如、目の前に人が現れた
……いや、人ではない
紫色の肌
……なるほど
ヴェスティエラの側近の報告にあった
エルムサルトに与する変わり者の妖魔か
……確か幹部と言っていたはずだが
自ら一人で私の前に出て来るとは
相当腕が立つのか、
それとも頭が悪いのか
ふん、どちらにしろこれは幸先が良い
ここで幹部一人の首を断っておくとしよう
「エルムサルトに御用ですかな?」
……ぬけぬけと良く言う
いや、もしや
…少し芝居に付き合ってやるか
「……ああ、貴殿はエルムサルトの民か
実は道に迷ってしまってな
困った事に宿の検討もつかない
良ければエルムサルトまで案内してはもらえぬか」
「はて、これは異な事を
ここに来るまでに関所があった筈ですが?
そちらはどの様に抜けてこられたので?」
ふん、やはり気づいている様子か
ならば芝居をする意味は無い
「何、大した事では無い」
そう言い馬から降り
「首を刎ねたら
我らを止めなくなったのでな
堂々と通らせてもらったわ」
剣を抜いた
背後にいたハンス大司教は呆れていた
ルガー卿が幾ら血に飢えた殺人狂といえ
相手がただモノでない事くらい分かりそうなモノだが
あの得体の知れない妖魔から漏れ始めている魔力……
流石に卿が負けるとは思わないが……
虚を突かれでもしたら
戦に慣れているルガー卿も無事ではすまない
「……ハンス、貴様は手を出すなよ」
「はっ!」
……元よりそのつもりですよ
あなたの遊興に命を賭けてたまるかっての
両者しばし睨み合いが続いたが
ルガーは”ウィング”と呟くと
地面スレスレを滑走し
驚異的な速度でカールに迫った
剣を下段に構え
駆け抜け様に逆袈裟に切り捨てる算段だ
ルガーはカールが間合いに入ると
予定通り逆袈裟に払った
……斬ったと思ったが手応えが無い
紙一重で躱したか
そのままカールの後ろに勢いを殺さず抜ける
その瞬間、背後に気配を感じた
ルガーは素早く地に足を付けると
反動を利用し腰を捻転
振り向き様に刹那の速度で剣を振るった
今回は手応えを感じて振り返ると
剣は異形の腕を浅く斬りつけた様だ
妖魔の右肩から闇が漏れ出し
そこから薄紅色のおぞましい異形の腕が現れている
手応えはあったのだが斬る事が出来たのは腕の表面のみの様だ
間を置かず、妖魔がこちらに左腕を向ける
法術か?
それとも妖魔特有の能力か?
温い!
どちらにしろ、弾き返してくれるわ!!
しかし妖魔が放ったソレは法術でも能力でも無かった
”目覚めよ、フレア”
っ!!!?
ルガーの懐に光が収束したかと思うと
直後、強烈な爆風と轟音と共に大規模な爆発が発生した
辺り一面の土が舞い
埃で視界が隠れる
ブレスドミスリルの鎧に穴が空いている
……しかし
「……面白い
が、それで終わりか?妖魔よ」
ルガーは傷一つ負ってはいなかった
「……フッ、フフフフフフ」
「いや、流石に驚きましたよ
魔法を受けてまさか無傷とは
……あなた本当に人間ですか?」
カールもルガーも共に手を降ろし
笑みを浮かべた
「まさか魔法を行使してくるとは思わなかったぞ妖魔よ、貴様の名を聞こうか?」
「……今はカール、と名乗っておりますが」
「よかろう!妖魔カールよ!
貴様との決着…
ここで付けるのはあまりにも味気ないと判断した!」
「………」
「我が名はルガー
アーデナル聖教国枢機卿第三席のルガーだ
2ヶ月の開戦の後、貴様の命を貰い受ける者よ!」
ハンスは頭を抱えた
何故、自己紹介をする必要があるのか
妖魔が真名を言うはず無い
敵に情報を与えて不利になるだけだ
ああ、胃が痛い
ルガーは”バック”と呟くと
姿を消し
カールの背後で頭を抱えていたハンスの横に現れた
カールが背後を振り向くと
ルガーが続けた
「しかし、貴様だけが手の内を晒した状態では不公平やも知れぬ
……ふむ、これは貴様の魔法への返礼だ
しかと見るといい」
ルガーはそう言うと
腰に差した鞘に剣を納め
両手を合わせた
”ルナ・アルティマ”!!
ルガーがそう吠えるとルガーの両手を弾き飛ばし
強烈な光を放つ光の柱が天に向かい走った
まさかとは思ったが
あの魔法にさえ耐えたルガーが
肩で息を切らしている
……どういう事だ?
本当に切り札を見せたというのか?
それともまだ奥の手を隠しているのか?
しかしあの光の柱、相当危険を感じる
カールが訝しんでいると
光の柱は薄く消えて行き
ルガーの前に1本の眩い剣が現れた
「…ふっ 見事、避けてみせい」
ルガーがそう口にした瞬間
カールの全細胞が警報を鳴らした
ルガーは剣を右手で掴むと横薙ぎに払う
カールは現在、地上100mもの上空に静止し
地上を眺めていた
……あの光の剣
あの枢機卿が横薙ぎに払った場所から放物線状に地表が吹き飛んでいた
草原の緑が消し飛び
土が剥き出しになっている
10km以上先のエルムサルト城下町に届く事こそ無かったものの
エルムサルトの民に食料をもたらし
アデンとの緩衝材の役目を果たしていた豊かな森が姿を消していた




