第1章 9話 「才覚2」
ーエルムサルト城3階儀礼の間ー
「さて、現人がバルハラッドに招かれ一週間を経た
今夜、予定通り定例会議を執り行うとする
経過を報告してもらおうか
リーゼリット、カール、ブレア」
テーブルを4方囲む様に座り、お互いを一瞥すると
御歳80を超えるであろう皺だらけの大臣
もとい魔導長が口を開く
では先ず私から、と柔らかで透き通る様な声を
元大司教が出す
「治癒法術担当リーゼリット
第1班メンバー
月柳君、春馬君、川村さん、田沼君、新川さんについて報告致します。
やはり当初の目論見通り
どの子も成長に目を見張るモノがあります。
特に尤も初期魔力値が高かった月柳君は
既にケア、フレクスを習得
現在パリス、デパワー、プロテクト
更には中級治癒法術のラルケアの習得を同時進行で目指しています。
そしてもう一つ注目すべきは春馬君
初期魔力値第2位のこの子は現在未だにケアの習得を行なってる最中ではありますが
どうやら
光系統の適正者である可能性が高い様です
ケアの効果が一般の法術師のケアと比較して3倍から4倍の効果が出ている事より判明致しました。」
アウグストはなんと!と目を見開き驚いた様子だった
ブレアはへぇ、それはそれはと笑みを浮かべている
カールは
……特に普段と変わらない笑顔を貼り付けている
「……当初まだ年端のいかぬ童ばかり招かれ
どうなるものかと危惧したが
やはり此度の戦、現人が鍵になるのは変わらぬか」
その後、リーゼリットは残り3人の習得状況等を報告し、それが終わると以上でございます。と一礼した
「……では、次は私が報告致しましょう。」
ブレアはチラリと今声を出したカールを見たが
直ぐに視線をアウグストに戻す
妖魔のカール
3ヶ月前にエルムサルトに現れ、兵法指南の俺や
以前、大教国からこちらの引き抜きに応じて移った
元大司教リーゼリットと比肩する
いわば幹部の位を与えられた妖魔
大臣はやたらとこの妖魔を買っているらしいが
俺は正直こいつが信用ならない
どれだけ腕が立とうと所詮妖魔は妖魔
此度のアデンとの緊張状態を見て
興味本位で首を突っ込んだのだろう
……まぁ今はよい
だが、もし不穏な行動をとり、エルムサルトに不利益をもたらす様な事があれば
その時は俺が直々に……
と考えた所で
聞き逃す事が出来ない単語がブレアの耳に入った
……雷系統保持者である可能性が高く
今、この妖魔は何と言った?
……雷系統だと?
は、何を馬鹿な事を
「カ、カール!今申した事は誠か!?」
大臣が妖魔に聞き返している、当然の事だ
雷系統を人の身に宿す確率は超極小
いや、そんなレベルではない
各地に部隊を率いて遠征してきた、この俺でさえ未だ見た事が、いや聞いた事すらない
神官様も驚きのあまり目を丸くしている
「はい、魔導長殿
私が担当させて頂いている長峰 勇気
彼は雷系統保持者の可能性が高いと思われます。」
ー第2班部屋ー
アレから一週間全く進展が無かった
いや、あまり風を出しても疲れなくはなっては来た
そういう意味では成長しているのだろう
しかし相変わらずそよ風が地面を這うだけ
……どう考えても役に立ちそうに無い
部屋内では野間と木村がトランプで賭け事をしていた
この一週間で随分仲良くなったもんだ
あのトランプは3日前休日を貰った際に街で買ったのだろう
城を囲む様に存在している城下町は
人が多く行き来していて活気があった
見るもの全てが新鮮に映り
中々楽しい時間を過ごせた
ただやはり隣国との影響なのだろう
どの店内にも武器が店員の近くに配置されており
緊急時に直ぐ手に取れる様になってはいたが
法術の進展は木村と野間が相変わらず目覚ましい
木村の”ヘルファイア”は大きさこそ
サッカーボールからバスケットボール程度になった位だったが
手を天にかざしてから発生させる事により
手を振る遠心力を利用しやや遠くへ飛ばせる様になったみたいだ
とは言え 木村とカカシとの距離は15m程あり
定位置から放つと10m付近で地面に落ちてしまうのだが
一度、近づいて発生させ
カカシに当てたのを見た
カカシに火球が触れた瞬間
カカシから勢い良く火の手が上がり
瞬く間にカカシを灰に変えた
正直その光景に、カール先生以外皆んなビビっていた
因みに他ならぬ本人が一番ビビってたみたいだったが
野間は安定して火の針を出せる様になって来たみたいだった
火力も上がった様子で
三本程度カカシに当たると
カカシの腹から火があがり徐々に燃え始めた
火の針は現在10連射程度が限界らしかったが
あの発射速度ならば目標に当てるのは容易だろう
俺は前述の通り
溝尾はと言うと
以前修練場で法術を見せてもらった事があった
溝尾が念じる様に目を閉じると
溝尾の手が青く淡く光り出し
次の瞬間驚きの事態が起こった
ウォータースプラッシュ!
と溝尾が叫んだのだ
……どうやら、木村に続いて溝尾も多少痛い所があるらしい
木村は「お!いいネ!!」とか言っていたが
まぁ兎に角、溝尾がそう言うと
予想通り、水が掌から現れた
ただその水は大体500ml程度だったろうか
チョロチョロと掌から弱々しく出ると
次第に勢いを無くし出なくなった
溝尾の前に俺と木村が立ち見ていたのだが
見た後は二人共顔が歪んでいた
なんて事はない
笑いを堪えるために必死だったのだ
ただ何処からか野間が見ていたらしく
何だソレ!ションベンじゃねーか!!
ワハハハハ!と爆笑していた
勘弁してくれ!こっちだって限界なんだ
俺も木村もプルプル震えていた
それが原因で溝尾は野間からションベン小僧という
不名誉なアダ名を付けられてしまった様だ
ドンマイ溝尾
そしてカール先生の指導の元
俺達はバルハラッドでの12日目を迎えた
「明日から皆さん
魔導長の元で知識のお勉強となります
明日は朝こちらでは無く
資料室に向かって下さいね」
といつもの笑顔でそう言った
……魔導長
恐らく初日並んでた4人の中のお爺ちゃんの事だろう
なるほど
1つの班を10日毎、休みを含めると11か12日毎に
担当をローテーションさせていくのだろう
確かに25人を一人が一度に教えるより効率的だ
ん?
ただ…だとすると…
気になってカール先生に尋ねて見ると
なんと1つの班だけはローテーションに組み込まず
既に西方軍団長ガルグリフの元で城外実践をしているらしい
…西方軍団長ガルグリフ
カール先生が
ほら、皆さんも初日に会ったではありませんか
と付け加えていた
多分こちらで初めて目にした
豪華な甲冑を付けた騎士の事だろう
実践……
実戦……
何だか最近薄れていた
もうすぐ戦という恐怖が蘇って来た気がした




