あの場所
今日もまた、特に用事がある訳じゃない。
それでも僕は、あの場所へと足を運ぶ。いや、運ばずにはいられなかった。
--僕だけが知っているあの場所。
この場所を見つけたのは、高校2年の夏。両親が事故死してから生きる気力をなくした僕が、死に場所を探していた時に、偶然辿り着いた場所だ。
もしかしたら、他にもこの場所の存在を知っている人がいるかもしれない。
生きている人でさえ、日常生活における悲しみや苦しみから救ってくれるかのように思わせてしまうこの場所は、自分自身でさえ、生きていることを忘れさせてしまうほど天国に近いように思える。
まあでも、世の中には死んだことにすら気づかず、彷徨っている幽霊もいるかもしれない。
この世の何処かには……
ーー数年後
「ねえ知ってる?」
「何が?」
「この場所って美しい風景だけど自殺の名所って言われてるらしいよ〜」
「そうなのか⁉︎ 新婚旅行にこんな場所選ぶなよ……」
「まあまあ来ちゃったものはしょうがないし……でね、噂によると高校生ぐらいの男の子がね、両親の事故死をきっかけにこの場所から飛び降りたって」
最初は小さな火の粉でも、いずれは大きな火事になる。それは火だけとは限らない。噂や嘘でも同じことになるのだろうか。