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FILE5:状況

「師匠、一つお伺いしたいことが御座いますわ」

「な、なな何でしょうか??姫様…」

少しびくつき、どもりながらも使用人はセリウスを見ながらそう言う。

「何で私が姫だということが分かったんですか??」

言うとセリウスは少し頬を膨らませ、悔しそうな表情を浮かべた。

変装に自信があったつもりだったが、見破られて少々不機嫌なようだ。

「………………」

使用人は言おうか言わないか迷っているようで、目をあっちこっちに泳がせている。

「それは…………え!!!!」

使用人がようやく言おうと決心して言いかけた丁度その時、誰かが物凄い早さでこちらに向かって来るのを彼女の目が捉えた。

「大変!!!!誰か、こっちへ来る!!!!」

「???…どうかしまし…きゃっ!!!」

使用人は言うと、セリウスをあの埃だらけの部屋の中に突き飛ばした。

セリウスは訳がわからないまま埃だらけの部屋に倒れ混む。

急いで体制を立て直すが、よろめいて上手く立てない。

ようやく壁を使って立ち上がった時は、部屋のドアは閉められていた。

(と、閉じ込められた?!?!)

そう思ったセリウスは急いでドアの方へ行き、力任せにドンドン叩いて叫んだ。

「師匠!!師匠ー!!!!!一体何がいきなりどうしたんですか??詳しく説明して欲しいですわ!!!」

するとドアが少し開き、使用人が深刻そうな顔をしてセリウスに言った。

「姫…お願いですから静かにしていてください…誰かがこっちへ来てるんですよ…姫の姿を見せる訳にはいきません。きっと色々と厄介なことになりますからね…。ですから大人しくしててください。…いいですね??決して物音を立ててはいけませんよ」

「…はい…大人しくしていますわ」

セリウスが頷くと使用人も頷き、パタンとドアを閉めた_________________________。



セリウスは特にやることがないため、ドアを背もたれ代わりにし、鞄から本を取り出した。

しかし今のこの薄暗い室内の状態では文字が全くと言っていい程見えない。

どこかに明かりがないかと手探りで探すセリウスだが、結局のところマッチ1本すら見つけられなかった。

(いつまでこうしていればいいのです〜???)

セリウスは何も出来ない事に苛立ちを感じ、腕を組んで頬を膨らませる。



[…何ですって?!セリウス様が??……]

[ああ、気の毒………お前………]

不意にドア越しにさっきの使用人の悲痛な声が聞こえてきた。

どうやら誰かと話しているようで、相手の声も少しだが聞こえる。

(…私のこと話してますわ。相手はだれなんでしょう??)

セリウスは好奇心にかられ、音を立てないようにドアをそっと開けた。

使用人の話し相手は運悪く、セリウスの角度からでは丁度顔が見えないところに立っていた。

唯一見えるのは、背中。

(くっ…!!!顔ぐらい見せて欲しいですわ!!動け!!動け!!)

セリウスは使用人の話し相手をこれでもかってぐらい見つめ、念力らしきものを唱えてみるが、頑として動く気配がない。

でも、喋ってはくれた。

「葬式は近いうちにやるみたいだ」

(口調をきくとどうやら男性みたいですわね。…にしても、誰のお葬式を執り行うのでしょーか??)

首を捻ってセリウスは考えてみるが、誰の葬式なのか検討もつかない。

男は続けた。

「頼むがお前には葬式の準備を手伝って貰いたいんだが…」

「私でよければいつでもお手伝い致しますよ、そのための使用人です」

そう言って使用人はにっこりと男に微笑んだ。

「じゃあ早速だがお前は今から現地へ向かえ。ご遺体が見つかり次第、俺に連絡しろ」

それを聞いた使用人は深々と頭を下げて言った。

「分かりました、アルセウス」

(男の人、アルセウスって名前なのですかね??うーん…確かどこかで聞いたよーな…聞いてないよーな…)

セリウスが思い出しているうちに、使用人はすたすたとどこかへと歩いて行ってしまった。

「あっ!!!師匠が…!!」

セリウスは思わず声を出す。

「背後に人の声!!誰かいるのか?!」

アルセウスと呼ばれた男はサッと後ろを振り向く。

セリウスは慌てて薄暗い部屋に飛び込むが、バケツに躓いてこけてしまった。

水が全身にぶっかかる。

「いやぁー!!!」

悲鳴をあげるセリウス。

だが数秒もたたないうちにアルセウスによって口を塞がれた。

「黙れ!!!大人しくしてたら何もしないし傷つけねぇから」

そう耳元で囁く。

セリウスはただびくびくと震えていた。

「お??」

不意にアルセウスがセリウスの顔をじっと見つめる。

「……………」

妙な沈黙が訪れる。

でもこの沈黙はさっきより長続きしなかった。

「なんだ、セリウス姫でしたかー」

そう言うとアルセウスはセリウスの口を塞ぐのをやめてニヘラと笑った。

「もう、吃驚させないで下さい♪危うく殺す所でしたよー??」

そんなこと言いいながら再度ニヘニヘと笑うアルセウス。

「…………」

セリウスは何がどうなったのか理解できずに、さっきと態度がまるっきり変わったアルセウスを見てただただ呆然としていた。



「ところでアナタ、さっきあの使用人と何の話を??」

「あー、それは…」

セリウスの言葉を聞いたアルセウスは笑うのを止め、後頭部に当てていた手を引っ込めた。

「???」

アルセウスは言おうか言うまいか迷っているようで、チラチラとセリウスを見ている。

そんなアルセウスの様子をセリウスは不思議そうに眺めていた。

「葬式をいつにしようかなぁと、話し合ってまし、た」

目線をあちらこちらに逸らしながらアルセウスは言った。

「誰のお葬式を執り行うのです?」

「それは…」

アルセウスは表情を歪ませる。

「???」

セリウスは首を傾げる。

「あなたの、です」

アルセウスは申し訳なさそうに呟いた。

「はい?」

アルセウスの声が聞こえなかったのか、セリウスは再度聞き返す。

「もう1回言って欲しいですわ」

「あなたの葬式の話をしてました」

「私の…ですか??」

セリウスは自分を指差し言った。

アルセウスはコクリ、と頷く。

「はい…あなたの、です」

「…私生きてますわ」

「実を言うと、あなたは死んだことになってるんですよ」

「わ、私が死んだことになっている?!?!何で!!どうして!!!!!」

「お、落ち着いて下さい姫!!」

大声で騒ぎ立てるセリウスをアルセウスが必死で落ち着かせる。

どうにかしてセリウスは落ち着くと、ポツリと呟いた。

「…そう言えば確か大広間でも、そのような事を言っていた家臣達がいましたわね」

セリウスは先程の大広間であった出来事を思い返してみた。

「…………………」

セリウスは何か思うことがあるのか、アルセウスをじぃっと見つめる。

「何でしょう?」

「何であなたは死んでいるはずである私を見ても、びっくりしなかったのですか??」

「それは…あなたが自殺した、なんて全然信じてなかったからですよ」

そう言うとアルセウスは微笑んだ。

「私が自殺したですって?!?!」

セリウスはアルセウスのやんわりとした口調とは裏腹に、すっとんきょうな声をあげた。

アルセウスは笑うのを止めて首を少し傾げる。

「おや?聞いてませんでしたか?」

「聞いてませんわそんなの!!というか、聞きたくもありませんわ!!」

セリウスはプイ、とそっぽを向く。

(…ま、確かに生きてんのに死人扱い(しかも自殺)されたら誰だって怒るだろーよ)

ふー、とアルセウスは長い溜め息をつくとポリポリと頭を掻いた。

「誰がそんな嘘っちぱを流したのですか!!!」

セリウスはアリセウスにつかみかかる。

そんな怒り全開のセリウスにアルセウスはやれやれと、また溜め息。

「嘘っちぱじゃなくて嘘っぱちですよ、姫。それと、嘘流した人調べる以前に、戸締まりをしっかりして下さい」

姫が戸締まりさえしていたら自殺なんてことに結びつかなかったハズですよ、とアルセウスが付け足す。

それを聞いたセリウスは顔を歪ませた。

「自殺と戸締まり…??何の関係が????」

セリウスの頭上にクエスチョンマークがたくさん浮かんでいるのを目撃したアルセウスは持ってた鞄から1枚の写真を取り出し、それをセリウスに渡した。

「…何の写真ですか?」

セリウスは渡された写真を眺める。

(…まさかわからない、とか流石にねーよな??)

アルセウスはそんな面持ち(?)で写真と睨めっこしているセリウスをただ静かに見守るのだった…。



◆◇数分後…◇◆



「良く見たらこれ、私の部屋ですわ!!!!」

セリウスはまるで世紀の大発見をしたかように声高々と言った。

「………………」

(普通自分の部屋ぐらいパッと見りゃ分かるだろぉぉぉおお!!!!)

アルセウスは呆れて言葉も出ないようだが、心の中はかなり荒れていた。

そんなことは露知らず、セリウスは写真をアルセウスに返す。

「ところで、なんで私の部屋の写真なんかをアナタが??」

ポツリとそう呟くセリウス。

「証拠写真のようなモンですよ」

アルセウスは少々投げやりに答えた。

「証拠写真?」

セリウスはぽかんとする。どうやらもう少し説明が必要なようだ。

アルセウスは写真のある部分を指差して言った。

「ホラここ。窓が開いているでしょう??」

「んー…あ、本当ですね。誰が開けたんでしょーか?」

いやアナタしかいないでしょう、とアルセウスは小声で呟いた。

この姫様、突っ込み所満載である。

只の天然なのかわざとなのかは分からないが、まず一緒にいると疲れること確実であろう。

「何で窓なんて開けたんですか」

アルセウスがきつくそう言う。

「だから私は開けてないですわ………あ!」

セリウスは何かを思いだしたようで手を合わせた。

「何か思い出しましたか?」

アルセウスがそう聞くとセリウスはコクコクと頷き、言った。

「私、旅に出ようとしてたんですわ!!」

「…何で旅へ出るのに窓を開ける必要があるんですか」

普通逆でしょーよ、とアルセウスは呆れ顔で言う。

セリウスは部屋にいた時の情景を思い出しながらぽつりぽつりと呟いた。

「…窓から抜け出して旅に出ようと思ったんですわ…でも部屋は3階…流石に飛び降りる勇気がなくって…仕方なく諦めたんですわ…」

「もし3階の窓から飛び降りる勇気がアナタに備わっていたのならきっとこうして俺と喋ることも出来なかったでしょうね」

「当たり前ですわ、ああ…何であの時勇気が出せなかったのでしょう…私今とても後悔してますわ」

セリウスは悔しそうに拳を握り締めた。

(寧ろ俺はそんな勇気出なくて良かったと思う)

アルセウスは心の中で苦笑する。

「真相はそんなことだろうと思ってましたよ。しかしまさか旅に出る為に…」

「クシュン!!」

セリウスがくしゃみをし、アルセウスの言葉を遮った。

「そう言えば姫さっき俺のせいでバケツに躓いて水浸しに…」

アルセウスが先程の事を思い返して言う。

「私も今頃思い出しましたわ…クシュン!」

「このままでは風邪を引きかねません。急いで乾かさねば!!」

「でも乾かす所などどこにも…」

そう言ってセリウスは辺りをキョロキョロと見回す。

「心配ないですよ。ただ少しじっとしてて下さいね」

そう言うとアルセウスは鞄から細長いケースを取り出した。

「???…はい」

セリウスはいまいち良く分からないのか疑問符つきで頷く。

アルセウスはケースを開けて中の物を取り出した。

ケースの中から出て来たのは、一本の杖。

アウセウスは杖の先端をセリウスに向けた。

「あっ…それは!!!」

セリウスは驚いて目を見開く。

「動くな騒ぐな黙ってろ!!!!!」

アルセウスの怒声。

先程の彼とは遠く離れている、まるで別人のようなアルセウス。

瞳の色も淡いオレンジから血のような赤に変わっていた。

この突然のアルセウスの変貌ぶりにセリウスはあまり驚かなかった。

(もしかして、今の状態が彼のいつもの普通のスタイル…??)

「………………」

セリウスは目を固く瞑って何かが起こるのをただただ待っていた。

「…サリュフレイムスリスト!」

ぼそっとアルセウスがそう呟くと、杖の先端からセリウス目掛けて火の玉が飛び出した。

先端から飛び出たそれはセリウスを取り囲むと、1つの火の輪となってセリウスの周りを回り始めた。

(これは…火??)

セリウスは目を開け、恐る恐る自分の周りを回っているものに手をかざしてみる。

(…熱く、ない…????)

セリウスは信じられず何回も何回も手を突っ込む。

「凄い!!凄いですわ!!!」

セリウスは興奮して手を突っ込んだままくるくると回り出した。



「…何やってんだ??」

アルセウスはくるくる回っているセリウスを見て顔をしかめた。

瞳の色はちゃんと戻っている。

「後でちゃんと教えてやらねーとな…っと、そろそろか」

アルセウスはおかしそうに笑うと指を鳴らした。

途端、セリウスの周りを回っていた火の輪が一瞬にして消える。

「あ、あれ??」

突然火の輪が消えて驚くセリウス。

いきなり回るのを止めたせいでセリンスはバランスを崩し倒れ込んでしまった。

「あ、あははは…お星様が見えますわ〜」

そんなセリウスのところにアルセウスが歩み寄り、手を差し伸べた。

「大丈夫ですか?」

「あ、はい…有難う…御座います」

セリウスはアルセウスの力を借りてよろよろと起き上がる。

「あの…さっきの炎は…?」

「俺が出して、跡形もなく片付けましたけど?」

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