5. 後輩(仮)の新生活準備
「...説明は以上となります。何か質問はありますか?」
「・・・」
「まぁまたわからないことがあったら、気軽に総務まで尋ねに来てください。
あと、アパートに関してはそれぞれの場所に先輩もいるので、
わからないことは先輩に聞いてみてください。
私の方から「後輩来るから、困ってそうだったら教えてやってよ」とはあらかじめ言っといたから。
以上で私の話は終わりです。じゃ、解散!!
...そうだ、忘れてたけど一人暮らしでアパート借りる人は残ってー。」
入社と一人暮らしのアパートにおける注意事項について総務の山田さんから説明が終わり、
現在の時刻は14時10分。
会社の打刻場所やトイレの位置やそれぞれの部署の場所などが主な内容であり、
約四十分程度の短い時間で終了した。
この後、一人暮らしの人はそれぞれのアパートの鍵をもらい、それぞれそのアパートに向かい新生活の準備をすることになる。
「えー、そんじゃ名前読んでいくから、呼ばれた人はここで鍵をもらっていって。
まず、篠島くん。「メトリアル・グランバザード」の2階の3号室ね。
ここはいいところよ。
少し会社から遠いけど、一人暮らしの道具の一式ははじめからそろっているから
特別準備しなくても大丈夫で、かつ部屋も広いし。
アパートの場所を記した地図もわたしとくから、困ったらこれを見なさいね」
「えっと、次ねー花菱くん。
花菱君も「メトリアル・グランバザード」で、2階の4号室ね。
あら、篠島くんの隣なのね。二人とも仲良くやってね。」
「のぶちゃんとなり!!まじか!!!!」
「やったぁ、花菱くん。一緒に朝行こうね!!!」
「いや、まじか!!!」と何度も何度も言う花菱くんとうれしくてぴょこぴょこ跳ねているはなちゃん。
相思相愛な感じで実に微笑ましい。同時にちょっとうらやましく思う。
例えるなら小学校の席替えで第一声は「よかったぁ」と言ってしまうあれである。
一気に不安を拭い去ってしまう不思議な力が友達にはあるのだ。
そのあと、別の二人のアパート場所が発表されるが、私の名はまだ呼ばれなかった。
「次に、成せ...くんはまだ来ていないから、森高さ...」
「やっと私だ」と思ったその瞬間、部屋の扉がおもいっきり開けられる。
「遅れてほんまに申し訳ございません!!!
田舎育ちなもんで、新幹線になれへんもんで、乗り間違えてしもたのです。
しかし、あれなんですか。
あの新幹線の改札入る時に、切符と特急券っていうんですか
二枚入れるもんなんですねぇ。それと...」
彼は成瀬龍馬くん。わたしと同じ新入社員で大阪の田舎で育ったらしい。
とてもおっちょこちょいで、よく遅刻をしている。
ただその反省や一生懸命さが伝わるため、あまり他人からは悪い印象を与えない人だ。
関西弁を無理やり標準語に直そうとして、いつも少し変な口調になっている。
「あぁもういいから、あなた成瀬くんよね。わかったから。
ただ、今度から事前に連絡を入れてください。
こちらも心配をするし、社会人のマナーとして」
「ほんま...ほんとすみませんでした。」
「ちなみに、あなた大阪のどこ出身なの?」
「××です。」
「えっ、私の出身地よそこ。言ってなかったけど私も関西人なの。
高校はもしかしてあそこじゃない。えーと...」
その後地元とーーーーくが盛り上がり、
私のアパートの鍵が渡されたのは私の名が呼ばれて二十分後だった。
うん、やっぱ地元トークって盛り上がるよね....しょうがない...はぁ。
わたしのアパートは会社まで5分ほどのとても近い場所にある
「フレグランス西川」というところの104号室になった。
ほかのアパートと違って、
家具や電化製品が用意されていない何もない部屋であるため、
全て必要なものは購入しなければいけないとこだとか。
しかし、「フレグランス西川」って絶妙にダサいね。
とりあえずそのトイレの消臭剤みたいな名のところに向かって歩いていると、
急に電話がかかってきた。慌てて出ると、
「やっほー、ママだよ。」
とのんきな一声。
「何?」
「う~その言い方つめたいよ、はるぅ。」
なんかこのくだり既視感を感じる。
「一人暮らしの準備手伝いに会社の最寄駅まで来ちゃったよ~。
ここまで来てから思ったんだけど、わたしそういや、
はるの住むアパート知らないやぁ~て。
そんで電話かけてたの~。」
「えっ、そうなの!?ありがとう。とりあえず、そっちに迎えにいくよ」
「来なくても大丈夫よぉ。
お母さん、最近ネット検索できるようになったから~。
アパートの名前なんていうのぉ?」
「えっ...ふ、フレグランス西川」
なんか、いうの恥ずかしい名前だと思いました。
すごく遅れちゃいました(毎回のことですみませんほんと)。
よろしくお願いします。