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終末への旅  作者: パウエル
第1章
9/33

第9話 王都へ

 サラの妊娠が判明して12日が経過した。


 今日は王都への出発日、使用人たちが忙しそうに最後の準備をしている。王都へ行くメンバーはボリス、アリス、俺、使用人として執事のオーラン、侍女のナターシャ、シルビィの6人と兵士8人、御者3人だ。伯爵の旅としては質素な人数といえるが、王都には祖父母とその使用人がいるため問題はない。


 俺とアリスとシルビィは忙しそうな大人たちを眺めながら、暇を持て余している。アリスも暇そうだが、シルビィは大分興奮している。


「いよいよですね、アリスお嬢様。」

「そうね。でもまだながそうよ。」


 アリスの視線の先で、ボリスが王都での注意事項をサラから受けている。横で聞いているオーランとナターシャの顔つきのほうが真剣。サラの声はうっすら聞こえてくるが、俺とアリスの紹介に関することがほとんどだ。俺とアリスを他の貴族に紹介することが、今回の王都行きの真の目的とサラは考えている。オーランとナターシャもそれが分かっているが、ボリスにはいまいちなようだ。


「王都ってどんな所なんでしょうね?」

「綺麗で、大きなところみたいね。この街よりも何倍も大きなところって聞いたわ。」

「本当に楽しみです。私、実は大聖堂に行ってみたいですよ。」

「“ポーラニャの花嫁”の話ね。」

「はい、昔からとっても憧れているんですよ。」

「私は西広場の噴水を見に行きたいわ。」

「あっ、“カローナ令嬢の指輪“の話ですね。私も行ってみたいです。」

「あとは……」


 アリスとシルビィは王都の行きたいところを言い合って、話が弾んでいる。二人の行きたい場所は童話などで登場する定番の観光スポットだ。残念ながら俺は何度も足を運んでいるので、特に行きたい場所はないかな。と思っていたら一人の人物のことを思い出した。


 若干、苦い思い出だ。


 だが、100年以上も墓参りに行っていない。時間があれば寄ってみようかと考えていると、アリスが俺に話題を振ってきた。


「クルスは何処か行きたいところないの?」

「そうだな、王立魔法協会とか行ってみたいかな。」

「クルスお坊ちゃまはそこで働いてみたいですか?」

「別にそういう訳じゃないんだけど、王立魔法協会では色々な魔法研究をしているみたいだから興味あるだけだよ。」

「さすがに中には入れないわよね?」

「たぶん無理だけど、僕は外から見るだけでも十分だよ。」


「アリス、クルス、そろそろ出発するぞ。」


 ようやく準備が整ったようだ。俺たちはボリスのもとに小走りで駆け寄る。


「三人は二台目の馬車に乗りなさい。」

「はい、お父様。」

「アリス、クルス、王都では礼儀正しくしているのよ。」

「はい、お母様。ヴァンフォール家の一員として恥ずかしくない振る舞いを心掛けてまいります。」

「分かりました、お母様。」


 アリスの返事にサラは頷き、そしてアリスの髪を整えている。今回の王都行きに際して俺がアルフォンスから貴族について教育を受けている間に、アリスもサラから淑女教育を受けていたらしい。ここ最近は満足に剣が振れなくて、愚痴を言っていた。


「二人とも特にマリアーゼ公爵夫人とお会いした際は失礼のないようにするのよ。」

「はい、お母様。」

「分かりました。お母様。」


 サラは俺のほうを向いて、頭を撫でてくれる。慈しむように何度か撫でると、ナターシャに顔を向ける。


「ナターシャ、あとはお願いね。」

「はい、奥様。」

「三人とも馬車に入りなさい。」

「「「はい。」」」


 俺たちが中に入ってしばらくするとナターシャも入ってきた。前の馬車にボリスとオーランが乗り込んで準備が完了した。


「では、行ってくる。アルフォンス、留守は任せた。」

「いってらっしゃいませ、旦那様。」

「あなた、気をつけて。」

「サラこそ風邪など引かないようにしなさい。」

「ええ。」

「それでは出発してくれ。」


 ボリスの号令で馬車が動き出す。俺とアリスは馬車の窓を開け、玄関前に並ぶ人達に手を振る。ゆっくりと遠ざかっていくと、大袈裟だが少し寂しい気持ちになった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 俺たちは王都に向けて馬車を走らせている。領都から王都までは馬車で8日の予定だが、これはゆっくりとした旅程だ。普通の商人なら5、6日で王都まで行く。馬車の速度は徒歩と同じくらいだが、これには理由がある。


 まず、俺たち子供組が乗り物酔いにならないか心配しているようだ。俺たちは長時間馬車に乗った経験もないので、乗り物酔いなる可能性がある。もう一つの理由として、貴族の旅は急ぐものじゃないからだ。特に野宿などは論外なので、夕方までに街に入れるように速度を調節する。そして王都までのこの街道は西部と王都を繋ぐ主要街道なので、旅慣れた人なら徒歩でも毎日街に宿泊できるようになっている。


 このゆっくりとした旅に正直俺は暇だが、シルビィは窓に張付いて景色やすれ違う旅人の様子を見て、あれこれ言ってる。


「あっ小さい子供が手を振ってます。かわいい。」

「子供たちは遊んでいるのかしら?」

「もう収穫期は終わっているから、農民の人はあんまり忙しくないのかもね。」


「えっ、でも大人の方々は何か作業されてますよ。」

「そうね、何やっているのかしら?」

「たぶん堆肥づくりか冬野菜の手入れじゃないかな。」


「堆肥ってお野菜の栄養になる土のことでしたっけ?」

「落ち葉とかで作るのようね?」

「うん、落ち葉や家畜の糞や野菜の皮とかを材料に作るんだよ。」


「あと、お野菜を育てている場所は何故狭いのでしょう?」

「本当ね、何も植えていないところのほうが多いわ。」

「空いている所は小麦の畑だよ。農民の税は小麦だから、今は空き地が多くなっているんだよ。それで余っている土地で野菜を作っているんだ。それに今年は小麦が豊作だったから、野菜の栽培は……」


「……(じーー)」

「クルス、あなた見もしないでよく答えが分かるわね。」


 この時になって始めて読んでいた本から二人に視線を向けると、アリスの呆れた顔とシルビィの尊敬の眼差しが俺を迎えてくれる。


「クルスお坊ちゃまは本当に物知りですね。」

「農村に来たことはないのに、なんでも答えそうね。」

「あははは、一応真面目に勉強しているからね。」


 ちょっと冷や汗が出た。あまりにもおなりな対応してしまった。あっぶねー。


「それよりも二人は疲れたりとかしてない?」

「さすがにお尻が痛いわね。」

「そうです、馬車に乗るのがこんなに痛いとは知りませんでした。」


 馬車内はあまり広くないが、子供が3人いる為スペース的には余裕がある。馬車内の座席は柔らかい素材でできているが、それなりに衝撃があるため旅慣れていない俺たちにとっては尻が痛い。


 これが旅の第1関門だが、俺も久しぶりに痛い。


「この村を抜けてしばらくした所で、昼食のご予定です。」


 これまで、ほとんど喋っていなかったナターシャが教えてくれた。のんびりとした旅もひとまず休憩だ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 この日の移動は日が沈む1刻(2時間)前に終わった。初日は特にのんびりとした旅だった。到着した街はヴァンフォール領のラスターという街だ。今日の宿はこの街の代官の屋敷に泊めてもらった。晩餐でボリスはそつなく、貴族らしい振る舞いをみせていて、俺は結構見直した。ボリスも家の外では伯爵らしく出来るようだ。


 晩餐は何事もなく無事終了し……、いや一つあった。代官の末っ子がどうやらアリスに惚れてしまった。挨拶してからアリスのことをチラチラ見ていて本当に分かりやすかった。何かしてくる訳でもなかったのでほっとくが、アリスも母親と同じ道を歩むんだろうか?アリスは末っ子に対して全く興味無さそうだったから、あの末っ子が不憫だ。


 こうして、この日は就寝して一日の疲れを癒した。


 翌日からは馬車の速度も上がり、順調で退屈な旅が続いた。案の定、アリス達はいつまでも続く同じような景色に暇を持て余すようになっていた。相変わらずお喋りはするが、丸一日喋りっ放しといかないようだ。俺は相変わらず持ち込んだ本で時間を潰していた。


 退屈でしかたなかったが主要街道のため、盗賊も出なければ獣もでない。はっきり言って護衛なんていらなかったと思う。街道の安全は領主の管轄で、特に王都までのびる街道で盗賊など出ればなかなかの赤っ恥になる。何度か巡回の兵士たちとすれ違ったが、安全なものだ。


 6日目になってルマール川を渡ることになった。ルマール川はアルケリア王国の西部を分断するような大きな川であり、物流と農業を支える大動脈でもある。ルマール川の両岸にある大きな街がラガールの街。ラガールの街は貿易の拠点として非常に発展した街だ。地方都市でありながら万の人々がおり、我が領都と比べると羨ましくなる。


 そして王都に行くためにはルマール川を越えなければならない。橋は架かっていないので、船で渡ることになる。これにアリスとシルビィが大興奮で一日中大騒ぎしていた。川渡りの船はそんな豪勢なものではなかったが、船を渡っているときかなり大きな船とすれ違った。俺はその船が外洋船だと分かっていたが、見上げるよう大型船に他の客も驚いていた。


 川を渡るとボリスと一緒にラガール侯爵に挨拶しに行った。ラガール侯爵はなかなかいかつい顔をした人で、実は祖父と仲がいいことをアルフォンスに教えてもらっていた。ボリスとも仲良さそうに話して、俺の頭を力一杯撫でてくれたが痛かった。挨拶が終わると宿を見つけて、昼過ぎには移動を終えてしまった。


 どうやら晩餐に呼ばれたらしいが、他にも多数の貴族が出席するようだ。王都へ向かう西部、北部貴族たちはかなりの人数がラガールを通過する。自分もこれから王都に行かなければならないのに、その全員を屋敷に招待していては侯爵も大変なのだろう。だから晩餐だけでもどうですか、ということらしい。


 ただ良かった事として余った時間を自由行動に当てることが出来た。俺たち子供組はお目付け役と一緒に街へ出かけた。ラガールの街はやはり商売が盛んで、見たことのないような商品が沢山あったので結構楽しかった。シルビィは露店のアクセサリに夢中になり、アリスは武器屋の飾ってあるアダマタイト製の剣に目を奪われていた。


 そんなこんなで順調に旅が進み、王都の城壁が見えてきた。これで8日間の旅は無事終了する。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 王都にある平民向けの大衆食堂……。


「どうだ?」

「こちらは終わった。予定通りだ。」


 既に日も落ちて、一日の労働を労うために食堂はなかなかの盛況ぶりだ。酒が入って騒がしい連中が大半を占める中で、軽食だけで済ましているこの二人は少数派。一見すると行商人か町人のようだが、それは本当の姿ではない。


「そうか、こちらも明後日には終わる。」

「そうなればいよいよ決行だ。」

「ああ、準備に抜かりない。」

「……」


 二人の間に沈黙が訪れる。どちらも考えていることはこの後の仕事のことだが、一人は緊張感に、もう一人は高揚感に堪えない面持ちでいる。


「あまり舐めてかかるなよ、難しい仕事だ。」

「そっちこそ、気負うなよ。難しいのはいつものことだ。」


 それを最後に二人は何も言わずに店を出た。一人は表通りの人混みに消えていった。もう一人は反対方向を歩きながら獰猛な笑みを浮かべていたが、それは誰にも気づかれることはなかった。



さて王都に到着して、少々ドンパチしてもらいます。

また、物語の重要人物もたくさん登場させて物語を加速(?)させたいです。


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