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終末への旅  作者: パウエル
第1章
8/33

第8話 友達と稽古

 今日は午後から練兵場での訓練に参加する。


 サラが五日一度訓練に顔を出す日で、別名“地獄シゴキの日”と言われている。俺とアリスはサラより先に練兵場に着くと、俺たちよりも年上の子供たちが寄ってくる。


「おっす、二人とも。」

「おはよう、オルド。」

「おはよう、今日は随分とご機嫌ね。」


 話しかけてきた子供の名前はオルド、この町のガキ大将的な存在。年齢は9歳で父親譲りのいい体格をしている。少々乱暴なところもあるが、年下の子供たちの面倒もみるので割と慕われている。


「へっへー、聞いてくれよ。ついに親父が警備隊の入隊を許してくれたんだよ。来年には俺も兵士だぜ。」

「えっ、本当に。」

「ああ、これで勉強しなくても母ちゃんに怒られないな。」

「あんた馬鹿ね。兵士になっても勉強しなきゃダメよ。」

「なんでだよ!」

「兵士は剣を振り回しているだけじゃないのよ。みんな兵舎で書類仕事してるわよ。」

「マジか」


 始めて知った事実にオルドが落胆し、その様子をアリスが心底呆れた顔で見ている。まぁ、オルドが机にじっとしていられないことを俺は知っているので苦笑いした。


「マジでショックだわ。」

「それでも兵士になれるんだから良かったじゃん。」

「まぁなー。」


 普通、10歳前後になると子供たちは仕事に就き始める。家業の手伝いや親の伝手を使って職人や商人の弟子入りするのが一般的だ。オルドの父親はパン屋を営んでいるが、オルドの手先は不器用なので家を継がせるか悩んでいた。オルドは兵士になりたいと両親に訴えていたので、どうやら両親が許したようだ。


「僕も来年の春から山に連れて行ってくれるって、お父さんに言われたんだ。」


 会話に参加してきたのはエル。オルドと同じ歳で、大分なよっとした男の子だ。親父さんが狩人をしているので、家業を手伝うようだ。


「そっか、おめでとうエル。」

「ありがとう、クルス君。」

「二人とも働き始めたら、なかなか会えなくなるわね。」


 アリスが少し寂しそうにしている。二人と知り合って一年も経っていないが、始めて出来た同年代の友人だから寂しいのは仕方ないか。


「稽古にはなるべく来るようにするよ。だってお父さんよりもサラ奥様のほうが弓上手だからね。」

「俺もしばらくはこの街で訓練するから、いなくなったりはしないさ。」

「しばらくってことは、何時かは街を出るの?」

「まぁ、領内の別の街に行く可能性はあるな。聞いた話だと成人するまでに1,2年は別の街に行くんだってよ。」

「そうなんだ。」


 俺もちょっとしんみりとする。だげど、オルドは鈍感なので俺たち兄弟が寂しがっているのがいまいち分かっていないみたいだ。


「それよりもお前らはなんかないのかよ?」

「何が?」

「面白いことだよ。」

「うーん……。」

「今度、王都に行くわよ。」

「えっ、マジか。何しに行くんだよ。」


 アリスの発言にオルドが食いつく。エルもびっくりしている。商人でもない限り、王都へ出かけることはあまりないので興味津々なのだろう。


「毎年、お父様が新年の挨拶に王都に出掛けているの。今回は私たちも一緒に行くことになったのよ。」

「マジかよ、ずりな~。」

「お土産くらいは買ってきてあげるわよ。」

「ホントか、頼むぜ。」

「僕は王都がどんな所なのか教えてね、アリスさん。」


 そんなこんな子供たち10人でワイワイ騒いでいるとサラが登場して、空気が一気に緊張した。子供たちも兵士も私語を止めて整列し始めた。だが俺には分かる。今日のサラはいつも持ってきている木剣を持っておらず手ぶらだ。あと、何故かナターシャも一緒だ。


「みなさん、それでは訓練を始めますが、少し報告があります。」


 サラの言葉にみんなが少しざわつく。まあ、無理もない。サラはこれから言うことが少し恥ずかしいのだろう、いつもの厳しい顔つきではない。


「私事ですが、昨日妊娠したことが分かりました。ですので、夫から訓練するのを止められていますので、しばらくは見学というか助言のみなります。」


 周りから「オゥー」と驚きの声や祝福の声が上がる。領主の祝い事という側面もあるが、正直ボリスよりもサラのほうが人気あるので、本当にみんな嬉しそうにしてくれる。なんだか一気に訓練する雰囲気ではなくなったが、みんなが少し落ち着き始めると副隊長のコンラートが前に出てきた。


「静粛に!」

「みなさん、ありがとうございます。」


 みんなに謝意を伝えるとサラは後ろに下がり、ナターシャが用意した椅子に座った。ナターシャも斜め後ろで待機している。なんとなくナターシャがいる理由が分かってきた。これはサラが訓練に参加しないようにするためのお目付け役だ。多分、アルフォンスの差し金だろ。


「それでは訓練を始める。まずはランニングの用意。」


 コンラートの号令に兵士たちは壁際にある土嚢を背中に背負い並び始めた。俺たち子供組はその最後尾に続く。用意が完了するとランニングが開始された。最初の訓練は土嚢を背負ってのランニング、土嚢は大人にとってそんなに重いもの(約5kg)ではないが鎧と一緒になるとかなりの負担になる。


 そんな状態で練兵場の周りを10周するとだいたい3限(30分)ほどかかる。終わる頃には、正直くたくたになって座り込みたくなるが、それをするとサラからランニングの追加が言い渡されるのでみんな気合で立っている。俺たち子供組も荷物がないとはいえ、結構きつい。


「はぁ、はぁ、きっついぜ。」

「そうだね。」

「お前、全然余裕そうじゃん。俺よりも小さいのに体力あんな。」


 オルドはぜぇぜぇと息を吐きながら、俺の答えが納得いかないようだ。一方で、エルとアリスも余裕がありそうだ。そしてアリスは次の訓練に備えて、肩を回しながら体をほぐしている。


「土嚢を片付けて、次の準備をしておけ。」


 ちょっとの休憩後、またコンラートの号令が響き渡る。各自、剣や槍などを取に行く。これからは素振りが始まる。


 兵士の訓練は主に3種類ある。ランニングや素振りなどの体力づくり、陣形の構築や変更をスムーズに行うための集団訓練、そして剣や槍などの個人の技量の向上。サラが指導するときは体力づくりと技量向上だ。我が領の兵士数は多いとは言えないが、サラの指導のもと練度は近隣領で随一である。


「よぉーし、構えろ。」


 準備が整ったのを見計らってコンラートが号令をかける。


「始めー。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「良し、止め。しばらく休憩にする。」


 コンラートが静止の号令をかけると、兵士たちも尻餅をついたり、槍で身体を支えたりして休憩に入る。半刻|(1時間)程の間、素振りしっぱなしなので流石にこたえる。訓練に参加していない兵士が大きな水瓶を運んでくるので、兵士たちは水を飲んだり、汗を拭いたりと休憩に入る。


 兵士たちも堪えるが、俺たち子供も当然堪える。オルドなんか大の字になって地面に倒れている。オルド、この体たらくで来年から兵士になるなんて大丈夫か?エルも疲れは見えるが、まだ余裕はありそうだ。


 1限|(10分)ほどの休憩後、コンラートの号令が響き渡るとエルと数人の兵士が離れていく。彼らは弓兵なので的のある訓練場にいって別行動だ。通常はサラとの模擬戦が始まるところだが、サラは見学のためコンラートが兵士をしごくようだ。


 模擬戦は戦っている二人以外は見学だ。人の戦いを見るのも勉強になるからだ。実際、模擬戦が始まるとコンラートの剣技は流石だ。確かサラよりも5歳年長だが、下っ端時代からサラに相当しごかれていたらしい。


 今も相手の兵士は終始押されっぱなしで、コンラートはまったく危なげない。コンラートは戦闘中にも関わらず相手の悪い所を指摘し、相手に打撃を与えている。コンラートの魔力操作は流石だ、業物の剣に対して切断力を落として硬さを強化している。あれなら鈍器と変わらないので訓練にちょうどいい。ただ、そんなコンラートに対してもサラから指導が時々入るのはご愛嬌だ。


 そんなこんなで、コンラートが5人を相手して流石に疲れが見え始めた頃、サラから交代が言い渡された。


「リリ、アリスの相手をしてあげて。」

「はっ、了解しました。」


 この威勢のいい返事をしてくれた女性はリリさん。若手兵士たち中で今一番才能があると思われる兵士だ。年齢が14歳で周りの兵士たち比べるとやや小柄|(150cm)だが、鍛え上げられた身体はいい具合に日焼けしている。


 両社とも木剣を持って対峙する。


「始め!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「始め!」


 言うが早いか両者が全力で地を蹴り、突撃する。中間地点で2つの木剣が交錯した。それによって生じる金属音がとても木剣同士の衝突とは思えない。パワー勝負ではアリスが不利なのは明白だから、アリスはスピード重視の連撃へとつなげていく。それに対してリリさんは木剣と盾を使い分けながら防御中心のらしくない戦い方をする。


 アリスは自分の攻撃が全て防がれていることに若干の焦りと、リリさんの消極的な戦い方に違和感を覚えていた。が、攻撃を止めるわけには行かない。硬い防御を綻ばせるため、力をのせた横薙ぎの一撃を入れようとした……。そこをリリさんに狙われた。


 私の一撃はリリさんにとって剣を持つ右手側からの攻撃であり、普通は剣で防御するところを盾で突撃してきた。リリさんの踏込みが大きかったため、私の木剣が中途半端な位置で盾と激突した。その結果、剣に力が乗らずにリリさんの一撃に力負けしてしまった。私の身体は吹っ飛ばされて体勢を崩されたがリリさんは追撃してこなかった。


「リリ、反撃に移るまでの時間がかかりすぎよ。」

「はい。」


 私は悔しかった。おくれをとった自分が怒られる訳でもなく、見事自分に一撃を入れたリリさんがお母様に注意を受ける。悔しい気持ちをねじ伏せて、リリさんに再び切り掛かる。


 先ほどと同じようにスピード重視の連撃で攻めるが、今度はリリさんも積極的に反撃してくる。ただ、攻撃の中心は盾による打撃で、これまで自分が知っていたリリさんの戦い方じゃない。体格の小さい自分にはその一撃が決定打になりかねない。


 しかし、リリさんの剣と盾の連携がまだぎこちない気がする。そこに決定的な隙が生じて、私はリリさんの左脇腹に一撃を入れてから後退する。リリさんにダメージはないが今のは有効打。嬉しいが次の戦いに備えて息を整える。


「リリ、左脇が開いてるわ。」

「すみません。」


 褒められるとは思っていなかったが、少し落胆してしまった。やはり私にも声をかけて欲しい。


「アリス、あなたの攻撃も単調になっているわ。突きも混ぜないさい。」

「はっ、はい。」


 声をかけて貰えると思っていなかったので、きちんと返事できなかった。けど、ちょっぴり嬉しかった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 二人の戦いぶりを眺めていると思うことは、まさに異次元の戦いだ。14歳と5歳の戦いでは決してない。リリさんもこの半年で相当腕を上げた。今は軽装のアリスを気づかって、身体に打撃をいれないように配慮している。現状ではリリさんの方がアリスよりも一枚上手だ。これだけ動ければ兵士たちの噂通り、そろそろ近衛騎士に推薦されるかもしれない。


 通常、平民出身で近衛騎士になるにはかなりハードルが高いがサラの推薦があればどうとでもなる。いま目の前で繰り広げられている慣れない盾術も近衛騎士になるための布石だろう。


 そして、そんな騎士と互角な攻防を繰り広げているアリスもやはり化け物だろう。昨日、自信のない姿を晒した人物とは思えない。顔つきにも良いし、昨日のことは気にしなくていいだろうと考えていたらアリスの三段突きの一発がリリさんの小手を捉えた。


 そこで、二人の戦いに静止が入った。


 リリさんも大分疲れたようでコンラートさんに交代して稽古は続く。俺やオルドの相手はコンラートさんだったが、文字通りボコボコやられてしまった。


 得意戦法とは言え、子供相手にパワー勝負はズルい……。


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