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終末への旅  作者: パウエル
第2章
31/33

第30話 平穏と不穏

すいません、ドアホな失敗をしてしまいました。昼間見たことは忘れてください。

 魔人騒動から早二ヶ月、事態は全くの進展を見せないまま時間だけが過ぎていった。


 このような状況の中、俺ことクルス・ヴァンフォールは弟のマイスと一緒に木登りをしている。先日ようやく謹慎を解かれたがその直後に外へ出掛けに行くようでは全く反省していないような気もするので、ここ最近の日課通りにマイスと遊んでいる。


 魔人捜索のため王都から近衛騎士を含む500人程の大部隊が領都に派遣された。他にも近隣領への派遣隊として500人の部隊が散っており、合計1000名の部隊が動員されている。したがって、当初は領都も相当慌ただしかったが、今はその雰囲気も大分緩和されている。


 勿論、これは魔人が見つかったからではない。元々、この派遣隊は王宮から機密文章を盗み出して国外に持ち出そうとする犯罪者たちの捜索が目的と公表されている。犯罪者が大量殺戮者でもないので領民たちの不安はそう長続きすることはなく、緊張感は持続しなかった。


 余談だが、派遣団の指令官として領都に滞在していた近衛騎士テリーナさんの話によると街の警備強化や大規模な山狩りを実施した影響で、魔人とは関係ない犯罪者や山賊・盗賊を大量に捕縛したらしい。


 基本的に派遣団の目は街の外に向いており、街の出入りを取り締まることに関しては領主に任された。この出入り強化に対して商人たちには不評だったが派遣団の殺気だった態度に表立って文句を言うような猛者はほとんどいなかった。また、街の住民たちにとっては治安改善の恩恵を感じることのほうが多かったらしく特に不満は上がらなかった。


 そして、この捜索もあと一週間ほどで打ち切るらしい。表向きは機密文書の回収と犯罪者の捕縛が完了したことするらしい。確かに時間を掛ければ見つかるという保証もないので、ここら辺で一区切りつけるのは悪くない。


「にーさま、みてみて、みむしー。」

「はいはい、マイス。おっきな毛虫だね。」

「しるびぃにみしぇるとたのひいのー。」


 俺が魔人のことを考えていると木の上にいるマイスが無邪気な顔して毛虫を俺に見せてくる。家族は俺とマイスに似ているところがあるとよく言っている。それがこの好奇心旺盛な行動力、マイスは毎日元気一杯に屋敷の中を駆け回り、日夜新しいモノを探し求めている。


 そして、マイスは庭に繰り出すと毛虫やらバッタやら蝶やらを捕まえシルビィに見せに行くらしいのだが、シルビィは基本的に虫が好きではので時々悲鳴を上げている。そんな態度が面白いらしく、マイスは止めようとはしない。シルビィも時々だが俺に愚痴を言っている。


「マイス、でもね、毛虫さんを戻してあげよう?」

「えー、えー。」

「毛虫さんはね、いま葉っぱを食べているんだよ。マイスがご飯をとっちゃったら毛虫さんが可哀想でしょ?」

「けもしさん、ごはんたべりぇないの。かわいそー。」

「だから、毛虫さんを葉っぱに戻してあげようね。」

「うん。」


 そう言うとさっきまでいた位置に戻り、毛虫を葉っぱにそっと戻しているマイスの姿を俺は後ろから眺めていた。マイスはとっても優しい子なので、ちゃんと説明すれば言うことを聞いてくれる。今は“一杯ご飯食べてね”と言いながら戻した毛虫を眺めている。


 それからしばらく時間が過ぎて毛虫の緩慢な動きにマイスが退屈してきた頃、アリスとシルビィの二人がこちらに向かってきた。アリスは苦笑を浮かべ、シルビィは若干警戒しながら木の下までやってきた。


「相変わらず木登りが好きね、マイス。」

「ねーさま。」


 マイスはアリスに話しかけてもらうと、さっきまで夢中になっていた毛虫に目もくれずに木からズリズリと降りていく。俺は地面に飛び降りたいところだが、やるとマイスが真似をするのでマイスと同じように木から降りる。するとマイスは早速アリスの足に抱き着いてニコニコしている。


「マイス、木登りは楽しかった?」

「たのひー、けむしさんがいたのー。」


 するとシルビィが一瞬だけビクッリとするが、マイスが何も持っていなさそうな様子に安堵している。


「何、毛虫を触ったの。汚いわね、マイス。……これで手を拭きなさい。」

「はーい。」


 マイスが一生懸命手を拭いている様子を見て笑顔になったアリスはマイスの頭を“いい子いい子”と撫でている。アリスは俺に撫でられるのが嫌いだったのだが、俺がアリス、マイス、マリーダと誰構わず頭をナデナデしているのを見てからは自分も弟たちを撫でることに抵抗をなくしたみたいだ。


 昔は弟や妹が生まれることに不安を吐露したことがあったが、変われば変わるもんだ。


「どうしたの、姉さん? 僕になんか用事?」

「まぁ用事と言えば用事ね。明日、ナニーニャ様がここに来るでしょ。それが終わったら王都に行って事情説明に行くから準備しておきなさいって、さっきお母様に言われたわ。」

「いよいよだね、結局僕らの他に誰が行くことになったの?」

「お母様が行くことになったわ。お父様は残るらしいわ。」

「そっか、分かった。ありがとう、姉さん。」


 これは大分前から決まっていたことだったので驚きはない。気が進まないのは確かだが……。恐らく派遣団の捜索終了に合わせて俺たちを招聘する手紙でも来たのだろう。そして俺たち二人の話を聞いて不安に駆られたのか、マイスが俺とアリスのズボンを引っ張って俺たちを見上げてくる。


「ねーさま、にーさま、おできゃけ?」

「ええ、ちょっと遠くまで行くのよ。」

「マイスは?」

「ごめんね、多分お留守番なのよ。」


 その答えを聞くとマイスの目にじわっと涙が滲んできたが、泣き出すことはなくマイスは聞き分けてくれた。


「はひゃく、ぐすん、はやく、かえぇてきてねぇ。」

「いい子でお留守番していてね、マイス。お土産をいーぱい買ってくるから。」


 アリスは腰を屈めてマイスを抱きしめて再びマイスの頭を撫でて上げている。その様子をクルスとシルビィは微笑ましく思いながら、お互いの顔を見合わせていた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 アルケリア王国から距離的にはかなり離れたカルディア大陸南西部のとある洞窟の中を警戒しながら慎重に歩く男がいる。この男は全身を包む灰色のローブによってその風貌を隠してはいたが、その雰囲気から只者ではないことが想像できる。男は洞窟の中ほどに地底湖に辿り着くと先客がいることに軽く驚いた。


「なんだ、随分早いな。」

「フラータルか。」

「うん? 怪我をしているのか、ガリウス?」


 俺は声の響きからガリウスの様子がおかしいことに気付いた。近づいてみると地面に腰を下ろしていたガリウスの表情には疲れが滲んでいた。


「何があった?」

「……任務に失敗した。」

「失敗? 人族に見つかったのか?」


 ガリウスの怒りと屈辱を噛み締めたような表情を見て、フラータルは驚きを隠せなかった。だが、ガリウスから発せられた次の言葉にはそれ以上の度胆を抜かれてしまった。


「それもあるが、一番の問題は魔結晶が破壊されたことだ。」

「……にわかに信じられないことだな。詳しく聞かせろ。」


 ガリウスは無愛想で無口な男だが、実力は今回任務に就いている仲間たちの中でも上位に位置する。だからこそ、俺のような情報収集役ではなく、戦闘行動が予想される危険な任務に就いている。


「アルケリア王国のある森で魔泉と上位精霊を魔結晶に封じる任務でのことだ。任務は当初は順調に進んだ。さすがに上位精霊はなかなか厄介だったが、精霊たちを全て封じて後は待つだけだった。ところが、10日程経ったころ森に入ってくる者たちが現れた。おそらく精霊たちが消えたことを不審に感じて近くの街の住民が来たのだろうと思っていた。」

「俺は接触を避けるべく、森の中を隠れていたのだが相手に一瞬で気付かれていた。正直何故気付かれたのかが分からなかった……。そこにいたのは若い女騎士と子供が二入、それに下位精霊が2体いた。気付かれたからに当然口を封じるつもりだったが、奴等は異常な強さを発揮した。一人一人が俺と同等クラスの実力だった。」


「……信じられんな。厄介だったのは女騎士か?」

「違う、厄介だったのは子供のほうだ。一人は剣術の腕前がガキとは思えない異常な実力、もう一人のガキは圧倒的な魔力量を持った魔法師だった。保有魔力量、充填(チャージ)の規模を見てもとても人族とは思えなかった。……アストリアス様に匹敵するかもしれん。」

「馬鹿な! ありえん。」


 ガリウスのこの発言には思わず平静さを失ってしまう。アストリアス様は組織の中枢を担っている偉大な魔法師。あの魔結晶に刻まれた魔法陣もほとんどアストリアス様が考案したと言われている。


 あのアストリアス様に匹敵する魔法師が人族にいるとは信じがたい。


 しかし、ガリウスの更なる言葉に俺は二の句が継げなくなってしまう。


「だが、俺は負けた。魔法師のガキはその魔力を仲間たちに分け与え、接近戦を仕掛けてきた二人の身体強化は俺と拮抗するほどだ……そこで俺は魔結晶の力を利用して状況をひっくり返そうとしたのだが、逆に魔結晶を奪われて破壊されてしまった。」

「化け物か、そいつらは。」


 魔力の他人への譲渡、しかもガリウスの身体強化に匹敵する魔力を二人同時に。ただただ、信じられなかった。苦しそうに言葉を吐き出すガリウスの様子が嘘でないことが分かるが、信じることが出来なかった。


あながち間違っていないかもしれん。魔法師のガキは化け物と言って差し支えないことを色々やってきた。さっき魔結晶を破壊したと言ったが剣で割った訳では、契約魔法で魔法陣の効力を解除したんだ。」

「そんなことが出来るのか?」

「俺も後で色々考えてみたが、高位魔法や精霊魔法なら可能性がないと言いきれない。俺たちも魔法の全て明らかにしているわけではないからな。」

「…………。」


 次々明らかになる魔法師の実力に俺は遂に絶句した。もう彼は自分の頭で処理できる限界に達していた。


「しかも、魔法師のガキの口から“バリトン派”や“業魔大戦”の言葉が飛び出してきた。」


 しかし、この言葉を聞いた瞬間に俺の頭を過ったのは恐怖だ。業魔大戦は400年以上も昔の出来事、しかも人族ではこの時の出来事を国が隠匿しているはず。知っている人間は国の中枢にいる極々一部と聞かされていた。


「本当に……子供なのか?」


 こんなありふれた言葉を言うことが俺の精一杯だった。


「見た目以上のことは俺にも分からない。……とにかく、そんな状況になった俺はおめおめと逃げ帰ってきたというわけだ。」


 ガリウスは淡々と報告を終えたが、奴の怒りが俺には十分と伝わってくる。これまで失敗らしい失敗をしてこなかったガリウスにとっては始めての任務失敗だ。


「どうするつもりだ?」

「予定より半年近く早いが、一度報告に戻ろうと思う。魔結晶もなくしてしまったしな。」

「それがいいだろう。しかし一人でか?」

「いや、全員を一旦引き揚げさせたほうがいいと思う。俺の存在も知られてしまったし、人族も警戒しているだろう。」


 その言葉に色々納得してしまった。ガリウスが俺の力を当てにしているらしい。


「成程、それで俺のことを待っていたんだな。分かったお前に言う通りにしよう。」

「すまない。」

「気にするな、気にするな。これから急いで連絡を付けるからお前はもう一日ここで待っていてくれ。」

「分かった。」

「よし、じゃあちょっと行ってくる。」

「面倒なこと頼んで本当にすまない。」


 ガリウスは本当に申し訳なさそうに沈痛な表情を浮かべて深く頭を下げた。


「気にするなって、お前には沢山借りがあるんだから……そう言えば、お前と戦った奴らの情報も収集したほうがいいな。何か情報はないか?」

「名前も覚えていない。……唯一、分かることは奴等と戦った森がアルケリア王国のナニーニャの森という有名な場所だったことぐらいだ。」


 アルケリア王国は大陸最古、そして最強の国家ということで俺も当然警戒していた。業魔大戦でも何人もの騎士や魔法師が俺たちの目的を邪魔したと言われている。だからこそガリウスに対抗できる騎士や魔法師がいる可能性は十分に考えられる。しかし、あのガリウスが子供に後れを取るとは……。


「分かった、それで調べてみよう。」


 俺はそこで踵を返して、洞窟の入り口に向かっていくと……。


「くそっ。」


 その小さな呟きを聞いて、そっと振り返るとガリウスの黄金の瞳が悔しそうに己の拳を睨みつていた。俺はガリウスにそれ以上の言葉を掛けることなく、自分の仕事に向かった。



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