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終末への旅  作者: パウエル
第2章
30/33

第29話 王都での対応

「それでは御前会議を開始致します。」


 宰相ロバート・ホーランドの掛け声と伴に会議が始まる。会議の出席者は円卓座る9名の高官とその副官たちの総勢30名ほどで開かれている。列席者は会議の趣旨によっても変わるが大体この位の人数になることが多い。


 今回の議題は国防・治安ということで軍事色の濃い人選になっている。近衛第1騎士団団長ウォーリック・エルシャボーン、近衛第2騎士団団長サーチェス・スタイン、近衛第3騎士団団長ガルシア・エルステッド、魔導師団総監クラーゼ・ヴァルトシュタイン、王立魔法協会会長ジェームズ・ガラハッド、ここまでが近衛騎士と魔法師。そしてエルシャボーン団長とヴァルトシュタイン総監はそれぞれ軍務大臣、魔法大臣を兼ねている。


 そして内政を取り仕切る宰相ロバート・ホーランド、街の治安維持など受け持つ内務大臣オットー・バスタード、外交を担う外務大臣カイオス・ラーゲンボイド。


 そして、アルケリア王国の国王アレクサンドル・アルケリアが列席している。アレクサンドル国王は五十代とは思えない若々しさと野性味溢れる雰囲気を備えた人物。これは短く切り上げた金髪、獅子のような鋭く獰猛な目つき、そして不敵な笑みを常日頃から浮かべるなどの外見的特徴がその印象を強めている。見た目はそれほど鍛え上げられたように見えないが、その身体の中身は極限まで鍛えられており、近衛騎士の中でも国王に勝てる人間はそう多くはない。


 本来なら次期国王である皇太子も出席するところだが、隣国への外遊中となっている。


 御前会議の司会は恒例にのっとってホーランド宰相が進めていく。。


「本日の議題は過日からの懸案であった魔人の件でございます。報告書の写しに関しては昨日の内に皆さま方にお配り致しましたので、それを踏まえて今後の対応を決定したいと思います。」

「内務大臣、その後、魔人の目撃情報は上がってきましたか?」

「いいえスタイン団長、いまだに1件の報告も上がっておりません。」


 ヴァンフォール伯爵から“魔人が領内から逃亡した可能性あり”の第一報がもたらされた王宮はこの事態に対して即座に反応した。国内の領地貴族に対して魔人の襲来と街への警備の強化、国境監視の厳戒命令が言い渡された。


 一方で、いたずらに民を混乱させることは得策ではないと判断されたため、民には重大犯罪者の逃亡という形で通している。人族にとって魔人族というのは恐怖の象徴。その猛威がこの国で奮われたと聞けば、即座に国から逃げ出すような民がいてもおかしくない事態。


 その魔人がヴァンフォール伯爵にあるナニーニャの森で行方をくらませてから10日以上が立っている。


「もう既に逃げ出した後かね。」

「スタイン卿、その判断は早計だろう。報告書によれば魔人はかなりの手傷と大量の魔力を行使している。一旦は身を隠して体力の回復を図っている可能性は高い。今、警備の手を緩めるのは得策ではない。」

「エルステッド卿、だがいつまで厳戒態勢を続けておく? 捜索に行った近衛騎士たちに見つかるまで帰ってくるなとは言えんだろう。」


 第一報をもとに第3騎士団の半数と王都警備隊の一部をヴァンフォール伯爵に急行させた。派遣団は伯爵からの情報を受け取った後は東部地帯を集中的に捜索するように指示している。そして、この派遣団を指揮しているのは第3騎士団の副団長。


 ガルシア・エルステッドはサーチェス・スタインとの仲は良いが、彼と違って王宮内では良識人として通っている。部下を酷使するサーチェスのとんでもない意見に少々呆れてしまったが、それを表には出さずに自身の意見を述べることにした。


「無論だ。……私見ながら最低あと一カ月、出来れば三カ月は捜索と警戒は続けるべきだ。」

「エルシャボーン殿のご意見は如何ですかな?」

「私もエルステッド卿の意見で良いと思っております、宰相。」

「分かりました、一先ずのその意見を採用致しましょう。」


 まだ論点が多かったこともあり、ホーランド宰相はこの段階で国王に対して意見を求めなかった。これには宰相の為すことの全てが気に喰わないと広言しているサーチェス団長も特に反対しなかった。これは御前会議の慣例的な側面を考慮した結果だ。まず御前会議は臣下たちが意見を述べ、その後に国王がその意見を踏まえて決定を下す。そのため、国王は会議の序盤では聞き役に徹するように自制している。


「それでは次に魔人の目的に関する件ですが、ヴァルトシュタイン殿の率直な意見を伺いたいのですが?」

「全く以ってこの世はそれがしの好奇心を刺激して止まないですな。これほど興奮したのは久方ぶり、ふっふっふっ。」

「ヴァルトシュタイン殿。」


 恍惚とした表情を浮かべているヴァルトシュタイン総監に対して、ホーランド宰相としては珍しいことに本気で困ったそうな表情を浮かべる。それは他の出席者にも多かれ少なかれ見られる反応でもあった。


 クラーゼ・ヴァルトシュタインは列席者の中でかなりの異彩を放っている。例えば、豪華な衣装を纏う出席者の中で唯一地味なローブを着ている。そのローブは辛うじて身窄みすぼらしいと表現されない程の代物でこの場に相応しくないが、誰もそれを咎めようとはしない。頭の後ろで束ねられた白髪、顔に刻まれた皺、普段の疲れ切った目を見れば七十代の草臥くたびれた老人といった印象しか受けないだろう。そして王宮内の過半数の人間は実際にそう思っている。


 しかし、この老人をただ老人と表現することはこの会議の出席者たちには出来ない芸当。それはこの場においてこの老人の纏う雰囲気が強烈すぎるからだ。


 クラーゼ・ヴァルトシュタインが王軍の双璧である魔導師団の総監職に就けている理由はその圧倒的な魔法の才能によるところが大きい。アルケリア王国歴代最高の魔法師と評価する者もおり、実際アルケリア王国建国700年余りの歴史の中で6人目の大魔導師の称号を国王より賜っている。


 従って、彼は国民を大部分から最上の敬意を向けられている。しかし強烈な才能というものは得てして大きな欠点を持ち合わせることが多い。ヴァルトシュタインの場合、魔法を探究するためならば病的或いは狂信的な行動力を発揮する、そしてその行動が再々問題になっていた。この会議の出席者たちはそのことを多かれ少なかれ知っているため、狂喜しているヴァルトシュタインの振る舞いを咎めたりはしない。そして……できるだけ関わりたくはないと思っている。


「ヴァルトシュタイン様、落ち着いてください。」


 そんな雰囲気の中でもヴァルトシュタインに話しかけることが出来る猛者がウォーリック・エルシャボーン団長であった。エルシャボーンは幼少時にヴァルトシュタインから魔法の師事を受けていた関係で、王立魔法協会会長ジェームズ・ガラハッドと共にヴァルトシュタインに意見を言える数少ない人物としても知られている。


「エルシャボーン団長、これは失礼を。それにしても興奮しますな。今回、この報告書に書かれていた内容は某も書物でしか知らぬことや始めて聞く事象。精霊や魔泉の魔力を封じた魔結晶、魔剣からの禍々しい魔力、そして精霊を介した魔力の譲渡。どれもこれも興味が尽きませんな。」

「そうなのですか?」


 現在過去を問わず、この国に存在している魔法研究の全てを網羅していると言われている大魔導師ヴァルトシュタインが知らないということは、他の誰も知らないということ。この事実には会議の出席者から少なからず呻き声が上がる。

 

「エルシャボーン団長、精霊を介した魔力の譲渡に関しては我が協会の方でも過去に研究されたことがございます。まぁ、上手くはいきませんでしたが。」

「ふん! あんななんの役にも立たない研究などと比べるでない、ジェームズ。」

「これは手厳しい。」


 ヴァルトシュタインの言葉に笑みを浮かべている男の名はジェームズ・ガラハッド、この円卓に座っている者の中では最年少の人物。年齢は29歳で長身の好青年といった見た目のため貴族の令嬢に大変人気がある。ただ、そのためか女癖が少々悪く時々問題を起こしているが、魔法の腕は一流。29歳の若さにも関わらず王立魔法協会会長の要職につけたのはその実力が万人に認められてのことであり、魔法の実力は国内ナンバー3と目されている。


「それでヴァルトシュタイン様は魔人の目的についてどう思われますか?」


 このままでは二人の知的好奇心を満たすための魔法議論になりそうだったので、頼むような視線をホーランド宰相から浴びせられているエルシャボーン団長はホーランド宰相に代わって司会を務めることにした。


「報告書の通りでしょう。魔泉や精霊数十体分の魔力、もしそれだけの魔力量があれば広域戦術魔法を何十発撃てるか……危険を冒してでも魔人がカルディア大陸に来る価値は十分あるでしょうな。」

「他の可能性はありませんか?」

「魔人は事件を起こしてからも10日近くも森に残っておった。これは魔泉の魔力を残らず吸収するためには時間が必要だったのじゃろう。そう考えれば自然でもあるし、魔泉の魔力或いは精霊の魔力が目的であったと某も考えております。……まぁ、他の目的がない訳ではないですがな。」

「それは?」

「当然、お気付きであろう?」

「魔人が戦争の準備をしていると?」

「そう考えるのが自然じゃろう。400年前の戦争が終わってから魔人たちは大人しくしておるがそれが永遠に続く保証はない。差し詰め、奪った魔力は戦力の増強と考えるのが自然ですな。」


 この推測は会議室の空気をざわつかせるには十分だった。魔人との戦争、そんな未曾有の事態を告げられてしまえば重臣たちの顔にも動揺が浮かんでしまう。魔人を恐怖の象徴と見ているのは民だけでは、ここにいる重臣たちも同様であった。ただ、若干名好戦的な笑みを浮かべている者もいるが、


「現時点でそこまで断定するのは時期尚早でしょう。一応各人が心に留めておく程度でよいと思います。ところでヴァルトシュタイン様、報告書に記載のあった精霊や魔泉の魔力を封じた魔結晶の存在についてどう思われますか?」


 その話を振られてヴァルトシュタインの笑みは非常に無邪気なものへと変化していった。


「興味深いのぉ。魔剣や精霊剣を錬磨する際、剣に本来の備わっている以上の魔力を保有させることが出来る。これは魔力を溜めこむための器が万物に備わっており、この器を広げることでより多くの魔力を保有させることが出来ると解釈されておる。」


 魔法議論ということでガラハッド会長も会話に参加する。


「しかし、魔結晶は魔剣など違って魔力を使うと回復しませんね。」

「その通りじゃ。それを魔結晶に刻まれた魔法陣で実現したというのは素晴らしい技術。」

「実物が見られなかったのが非常に惜しいですね。」

「まったく、その通りじゃ!! 叩き割ってしまうとは惜しいことを。」


 ボリスの報告書には魔結晶を叩き割って、魔結晶を壊したことになっている。これはクルスがリリを丸め込んで、魔法陣の効力を解除した契約魔法の存在を隠したため生じた。契約魔法はその特殊性から国が使用者を厳格に管理しており、本来ならクルスが知っているはずのない魔法。従って、絶対に隠す必要があった。幸いリリは魔法に関して詳しくないため、契約魔法の特殊性をしっかり理解していなかったので説得はそれほど難しくなかった。


「それに精霊を魔結晶に封じ込めるなど方法など想像もつかんな。してや精霊をただの魔力に変えることが出来るとは……。」

「ヴァルトシュタイン様、それ以上の発言はお控えください。」


 まるで“禁忌”に触れることをいとわないような発言に対してエルシャボーンは苦言を呈するのが精一杯だった。


「分かっておるわい。だが、魔人がそのような魔法を使ったということは無視することはできんと思うが、どうかな?」

「仰る通りです。」

「あと精霊を介した魔力の譲渡も気になりますな。」


 この発言した直後のヴァルトシュタインの目の輝きに、円卓に座っている一同は思わず息を飲んでしまった。そして長い付き合いのエルシャボーン団長とガラハッド会長は不味いと思い、それぞれ発言しようと思ったがヴァルトシュタインの言葉の方が一歩早かった。


「陛下、ひとつよろしいでしょうか?」

「どうした。」


 ここで始めてアレクサンドル国王が野太い声で会話に参加した。


「今回の事件は十分国家の重大事といって差し支えないもの、そこで実際に魔人と相対した者たちから直接事情を聞いてみたく思いますが、如何でしょうか?」

「そうだな、悪い考えではないな。」

「ならば王都への招聘に関してご許可頂けますか?」

「ヴァルトシュタイン、お前の言っていることは正しい。が、お前の好奇心に対して無限の自由を与えることは俺には出来ぬ所業だ。言っている意味が分かるか?」

「無論です、陛下。真に王国のために職務に励んでまいります。」


 その返答に対してアレクサンドル国王は心底脱力してしまう。普段は臣下を振り回してその様子を楽しむという悪癖をアレクサンドル国王は持っているが、ヴァルトシュタインの暴走は国王の権力をもってしても止められない数少ない出来事と言える。あの宰相もヴァルトシュタインの後始末で何度か胃を痛めており、過去の悪行を全く気にしないヴァルトシュタインに対して国王も苦言を呈しておく必要を感じ得ずにはいられなかった。


「宰相、あの手紙を呼んでやれ。」

「よろしいのですか?」

「構わん、この場にいる人間なら誰も驚きはしない。」


 国王の疲れた顔を見て、宰相は出来れば読みたくなかったが報告書と一緒に送られてきた短い手紙を読み上げる。


「それでは……我らが主にして偉大なるアレクサンドル国王陛下にご挨拶申し上げます。我が領で発生した事件に関して王宮の力をわずらわせる事態になりましたこと、我らの不徳の致すところであり面目次第もございません。事件が落ち着いた際には改めて謝罪を申し上げに王都へと参ります。……サラ・ヴァンフォール。」


 その最後の言葉を受けてこの場にいた6人の近衛騎士たちは衝撃を受けた。今回の事件はヴァンフォール伯爵の子供たちが中心的な役割を果たしていることをこの会議にいる人間は当然知っている。そして、サラがほとんど関わっていないことも。そのサラが謝罪のために王都に来るという手紙。


 6人の頭の中では先ほどの手紙の内容が“うちの子供に手を出したら承知しないわよ!!”という恫喝に即座に変換された。サラもヴァルトシュタインの本性は十分知っているはずなので早々に釘を刺してきたのだろう。3人の団長はそれぞれアレクサンドル国王の顔を確認し、特に怒って無さそう表情に安堵した。そして、ヴァルトシュタインの方を向いてみたが、本人は全く分かっていないようだった。


「ということだ。ヴァルトシュタイン、あの娘を暴れさせるなよ。」

「はて、申し訳ありませんが某にはいまいち事情が呑み込ませんのですが。」

「エルシャボーン、説明してやれ。」

「はい。」


 疲れたようなアレクサンドル国王に代わって、エルシャボーン団長が説明を開始する。


「以前、近衛騎士に在籍していたサラという騎士の名前を覚えていらっしゃいませんか?」

「いいえ、申し訳ない。最近は物忘れが酷くなってしまったようで。」


 実際のところは魔法以外にほとんど興味を持たないため、人の名前もすぐ忘れるだけなのだがエルシャボーン団長はそのことを指摘せずに話を続ける。


「かつて“魔女”の異名で知られて女性騎士のことです。」

「“魔女”…………おー! それは双剣を振り回しておったあの娘のことですかな。」

「はい、その娘の名がサラと申します。今はヴァンフォール伯爵のもとに嫁いでおります。」

「ほうー、そう言えば結婚するとか挨拶に来ていましたな。……ということは。」

「はい、先ほど招聘しようとお話になった者たちはそのサラの子供・・たちということです。」

「ほー、これはなかなか奇妙な縁ですな。……分かっておりますよ。」


 ある程度、事情を察したヴァルトシュタインはエルシャボーンに対してそう答えた。そしてエルシャボーンにとってはその答えを聞くことが出来たので十分満足のいくものだった。あれは彼に自制するつもりがある時の言葉だ。


 これは多くの人たちが勘違いしていることだが、ヴァルトシュタインは自分の行動が時として病的或いは狂信的なっていることを自覚している。そして他人の目からは分からないことだが、彼の行動のほとんど・・・・コントロール出来ている。彼の暴走は半ば確信犯的な側面が強く、そのことはエルシャボーンやヴァルトシュタインの奥方など本当にごく少数の人しか知らないことだ。


 ヴァルトシュタインは知的好奇心を満たすためには何でもするが、リスクを軽視するわけではない。エルシャボーンは彼がある意味でギリギリのリスクを取ろうとしていると認識している。サラの存在や興味の対象が子供であることは暴走する際のリスクが高いと彼も認識したであろう。


「それではこの話題は一旦終わらせて頂いてよろしいでしょうか。」

「もちろんですな。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 この日の御前会議は珍しく1刻半(3時間)にも及び、魔人襲来の対処として細々とした方針を決定し、ようやく会議の終わりがみえてきた。


「それで宰相、ヴァンフォール伯爵の指摘していたように類似の事件はあったのか?」

「はい、陛下。現時点では一件の可能性がございます。ただ、この件は国内を隈なく再調査する必要がございます。」

「それは何故だ?」

「報告書から予測される事件の痕跡とは魔泉が消失することですが、我等は国内の魔泉の詳細な位置を把握しているわけではございません。寧ろ、ナニーニャの森のように魔泉をきちんと管理できている方が珍しいことです。」


 その考えを捕捉するようにヴァルトシュタインも意見を述べる。


「宰相の考えは尤もなご意見ですな。ですが、ナニーニャの森は精霊の魔法によって魔泉の魔力が森の木々に対して効率的に還元されるため森全体で濃厚な魔力を感じることができます。したがって、その魔泉に異常をきたせば森全体にその影響は波及し、普段から森に出入りしていた木こりならばその以上に気付くでしょう。しかし、それと比較して通常の森の中にある魔泉は基本的に垂れ流しですので、異常はかなり分かり難くいと考えるのが自然ですな。」

「その辺りのことはヴァルトシュタイン殿、ガラハッド殿のお力をお借りせねばなりますまい。我々文官は所詮門外漢ですので。しかし、発生する異常の中身は例えば……森の木々が枯れたり、獣たちが少なくなったりといったような事柄。このような話ならば精々領主に報告される程度、王宮まで報告が上がることはないでしょう。」

「仰る通り。つまり宰相は取りこぼされた情報があるとお考えですかな。」

「はい、領主貴族への聞き取りは私の方で実施致しますので、魔法師の方々には現地調査の際のご同行をお願い致します。」

「分かりました。」


 一つの方針が決まったところでエルステッド団長が確認を取ろうとする。


「一ついいかなホーランド宰相、先ほど一件の可能性があると仰っていたがそのお話をもう少し詳しく聞かせて頂けますか?」 

「分かりました、エルステッド殿。王国北西部のバルスバーグ子爵領のとある山には150年程前から魔獣が住み着いております。この魔獣は非常に知性も高く念話も使えましたので、バルスバーグ子爵は討伐ではなく共存の道を選びました。ところがこの魔獣が2年ほど前から山の中から姿を消したと報告がありました。勿論、魔獣が寿命によって死んでしまった可能性も十分ありますが……。」

「成程成程、今回の件と関連がありそうです。」

「この件も当然現地調査を予定しております。」

「分かりました。ありがとうございます。」


 一応全ての項目について議論を進めたため、宰相は円卓に座る出席者たちを見回してみたが流石に疲労した様子が見て取れる。


「陛下、議題は出尽くしましたが何かご意見はございますか?」

「いや、問題ないが……久々に面白い会議になったな。」

「陛下……。」

「そう睨むな、宰相。だが面白いと言ったのは魔人の件だけではない、サラの子供たちの件だ。」


 これからは雑談のつもりなのか国王は机に腕を突き、手の平に顎を乗せるようにしてリラックスした表情で話を始める。


「サラの子供たちについては数年前からマリアーゼから色々聞かされていたし、時々近衛の連中が噂しているのを聞いていた。だが、成人にも達していない子供のことなど親の七光りだと気にも留めていなかったのだがなー。」

「私も伯爵の父君であるロイス殿から少々話を聞いておりましたし、社交界の方でも噂になっておりました。」


 喋り足りないアレクサンドル国王の雑談に付き合うことはあまり乗り気ではなかったが宰相も話題を提供する。


「宰相は会ったことがあるのか?」

「挨拶を交わした程度です。容姿は母君に似ていると印象で、子供のわりにはしっかりとしていたと記憶しております。」


 ホーランド宰相が二人と出会ったのは3年前の茶会でのこと。普段ならば昼間に開催される茶会にはほとんど参加しないのだが、娘が孫娘を紹介するための茶会を屋敷で開くことになったので気乗りはしないながらも出席した。そして、その茶会で目立つ容姿のアリスと子供らしくない落ち着いた振る舞いを見せたクルスのことはホーランド宰相の印象に残っており、後日部下のロイスとそのことについても雑談をした。


「そうか……エルシャボーン、お前も会ったことはあるのだろう?」

「はい、ここ最近は新年の祝いのたびに練兵場に来ておりました。長女のアリス嬢の腕前は本当に見事なモノでした。流石はサラの娘といったところで、模擬戦では騎士たちを叩きのめしていました。」


 この発言には国王もあまりいい顔をしなかった


「子供に負けたのか?」

「残念ながら……サラの見習い時代もそれは多くの騎士たちのプライドを砕いておりましたから、その光景を思い出しました。」

「確かにあの時は色々大変だったな」


 サラの登場によって引き起こされた近衛の大改革はアレクサンドル国王とエルシャボーン団長にとっても一大事件と言え、二人は過去の話を思い出してお互いが苦笑を交わした。


「近衛に入るつもりはあるのか。」

「サラの時とは違い、彼女は貴族ですので取り敢えずのところは王立学校に入るようです。その後は本人次第でしょうが勧誘は続けるつもりです。」

「そうだな、任せるぞ。……そう言えば息子の方はどうなんだ?」

「確かクルスという名でしたな、アリス嬢と比較すれば幾分腕は落ちましたが子供として異常な水準でした。」

「なんだ、女に負けているのか? それにどっちが上なんだ?」


 それを聞いてアレクサンドル国王の眉間にしわが寄って、少々不機嫌そうな声になる。


「あの姉弟は双子です。一応アリス嬢が姉だったと思います。それにクルス君は剣術よりも魔法の才能が高かったようですから。確か精霊とも契約を交わしていたと思います。」

「成程な、ヴァルトシュタインは会ったことはないのだな。」

「残念ながら。」


 ここで話が終わるのかと列席者たちの大部分が考えているところだったが、その期待は見事に裏切られた。


「陛下、私は少々面識がございます。」

「ほう……どうしてだ、ガラハッド?」

「一昨年のことですがサラ夫人の要望で彼をテストしたことがございます。」


 その言葉にアレクサンドル国王の興味が俄然に高まった。


「何のテストだ? まさか協会に入るための試験か?」

「いいえ、違います。サラ夫人がクルス君の勉強のために上等魔法書の写本が欲しいとのことでした。上等魔法書の所持は国が厳しく管理しておりますので、そのための試験でございます。」

「ほう、それでその試験には合格したんだな。」

「はい、驚くべき才能でした。将来的には十分に魔導師を称号授けられる人材だと思っておりました。」

「うん、ますます興味が惹かれるな。いつ王都に呼ぶかな。」


 アレクサンドル国王は今日の会議のことなど忘れて実に楽しそうな表情を浮かべるため、ホーランド宰相は苦言を呈さずにいられなかった。


「陛下、さすがに今回の一件が落ち着くまではご自重ください。」

「分かっておる。だが、具体的にはいつ頃だ?」

「……早くても夏になってからでしょう。」

「まだ、三カ月以上も先か。つまらんな!」

「陛下」


 先ほどまで会議でここ三カ月の行動計画を決めたのに、それを覆そうとも取れる態度を示す国王に対して宰相の顔つきは自然と厳しいものに変化していく。


「分かっている、ただ言っただけだ。いちいち噛みつくな。」

「それで陛下、そろそろよろしいでしょうか? もう昼食の時間も幾分か越しておりますし、皆も疲れていることでしょう。」

「分かった分かった。会議はこれで終わりだ。俺も疲れたしな。」



ブックマークが増えていると単純に嬉しいです。同時にちゃんと書かないと張り合いもあります。

と言いながらも前言を翻すようで申し訳ないのですが、しばらく投稿間隔が不規則になるかと思います。一日おきに投稿を目指しますが、二日空く日は結構あるかもしれません。

これかもよろしくお願いします。

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