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終末への旅  作者: パウエル
第2章
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第28話 顛末と報告

 魔人との戦いから10日後。


 疲弊した身体を休め、魔人襲来の後始末を終えた俺たち4人は領都へと帰還した。そんな俺たちを待っていたのは……


「クルス!! お前は何をやっているんだ!!」


 ボリスからの怒声と拳骨だった。あの巨体から繰り出される一撃は、手加減してくれても結構痛い! そして拳骨一発でボリスの厳しい顔が緩むことはない、俺の前に仁王立ちしたまま説教が始まる。


「何故、勝手に森に入った。」

「街で文官の人たちから森の状況を聞いて、これ以上時間をかけるべきではないと思いました。」

「何故、お前にそんなことが分かる。」

「精霊たちは森が弱っていると言っていました、あとは……勘です。」

「直感で判断したのか!」

「……はい。」

「旦那様。」


 ボリスの怒気が落ち着く気配を見せず、むしろ更に興奮しそうな雰囲気を心配してアルフォンスが一言はさむ。そこでボリスは自分のことを心配する他の大人たちの視線に気づいて、大きなため息を吐いた。そして声量を抑えながら会話を続けた。


「クルス、俺が怒っている理由は分かっているのか?」

「はい、勝手に判断して森に入ったからです。あれはお父様から任せて貰ったお仕事ではありません。」

「そうだ、森に魔人がいたかどうかは関係ない。」


 ボリスが問題にしているのはおそらく2点。俺が何の権限もなく、自分の判断で問題の解決を図ろうとしたこと。俺もアリスも領主の子供だが、領地の運営に関わっているわけではない。俺の領主教育は一応終わっているので、領地運営に携わればそこそこ仕事を任せられるはず。しかし、実際には俺に何の権限も責任も与えられていない。今回の一件は俺の仕事・・ではない、つまり俺に対処する権限も責任もない。そう、本来はボリスが対処しなければならない問題。今回は俺の背負える責任を越えていることをボリスが言いたいのであろう。


「もし魔人に敵わなければどうなっていた?」

「殺されていたでしょうね……逃がしてくれるような甘い奴じゃなかったですから。」


 そしてもう一点は俺たちの安全についてだろう。正直言って自分のことなら何とか出来る自信はあるが、それをボリスに知られる訳にはいかない。俺やアリスのような子供に関わらせるような案件としては不確定要素が多すぎた。結果的に魔人が現れるという衝撃の事態でもあり、そこらの森に狩りに行くような危険とはレベルが違う。


 今回は勝ったから問題ない。というのは一人前の大人が言えるセリフ、俺が口にしていい言葉ではない。


「お前の判断が多くの人を危険に晒したのが分かっているな。」

「はい、反省しています。」


 俺の項垂れるポーズをしばらく見てボリスは大きなため息を吐いた。


「クルス、お前にはしばらく謹慎を言い渡す。屋敷から外に出ることを一切禁止する。」

「分かりました。」

「そうか、ならクルスとアリスは自分の部屋に戻っていなさい。」

「はい。勝手なことを申し訳ありませんでした。」


 最後に頭を下げて、ボリスの執務室から俺とアリスは出て行った。そして、二人は俺の部屋まで無言で歩いて行った。


 俺は自分の部屋に入ってからアリスの方に振り向くと、予想以上に不満タラタラな表情を顔に浮かべたアリスがいた。


「姉さん、約束を守ってくれてありがとう。」

「……約束したもん。」


 俺はアリスに対して屋敷に着いた後の展開を事前に教えておいた。その際、俺たちは叱られても一切の反論を行わないことを約束していた。今回、ボリスが俺たちを叱る理由についてはアリスにも説明し、理解させた。しかし、納得できている訳ではなかった。


 特に今回は魔人を退けたのに叱られることがとうしても納得できない様子だったが、俺の言うことを聞いてもらった。これは今回の魔人の戦いに対して俺の活躍が非常に高かったことが影響しているんだと思う。というか、アリスは俺の活躍を自分のこと以上に誇らしげに喜んでくれた。その理由は不明だが……。


 唇を尖らせて不満をアピールするアリスの頭を俺はナデナデしてご機嫌取りを行っていると、アリスはため息をついて俺のベッドに飛び乗った。


「もう分かったわよ。約束したから文句は言わないわ。」

「ありがとう、姉さん。」


 その後はしばらく二人で雑談をしてからそれぞれ久しぶりの風呂に入った。そしてマイス、マリーダと共に久々の兄弟交流を深めて時間を過ごした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 クルスとアリスのいなくなった室内では重苦しい雰囲気に包まれていた。


「いいの、あんなに叱って?」

「俺だって叱りたくはなかったさ。」

「あなたの言いたかったことはクルスになら最初から理解していたわよ。」

「そんなことは分かっている。賢いあの子が理解できていないわけがない。でも、大人として叱らなければならなかった。」


 サラは“まったく、不器用ね”と言いたげな苦笑をボリスに向ける。だが、俺の意見は変わらない。クルスは何でも出来て、俺よりも優秀だろう。だからこそ叱った、クルスを慢心させないために。これは譲れなかった。


「でも、アリスは分かっていなかったわよ。不満そうな顔してたわ。」

「そうか、……まぁ、仕方ない。」

「あの子にはもう一度ゆっくりと話したほうがいいわね。」

「分かった、折をみて俺からもう一度話しておくよ。」

「旦那様、その役目は私にお任せください。」

「アルフォンス、……そうだな、俺からじゃない方がいいか。……すまんが頼む。」

「お任せください。」


 アリスの件はアルフォンスに任せるのが正解だろう。恐らく俺は話している内に感情的になり、アリスを叱ってしまうだろう。今の俺では冷静にアリスを諭し、納得させられる自信がない。


「領主様。」


 そんなことを考えていると警備隊のリリが青い顔して、俺の前でひざまずき頭を垂れてきた。


「本当に申し訳ありません。お止しなければならないのが我々のお役目、それなのにお二人の命を危険に晒すことになってしまいました。」

「リリ、頭をあげなさい。クルスたちにはああ言ったが、君たちが止められなかったことを責めるつもりはない。」

「し、しかし。」

「君は二人のことをよく守ってくれたよ。ありがとう。」

「身にあまるお言葉です、自分など大して役に立ちませんでした。」


 その言葉を聞いて、ようやくリリが立ち上がったので全員がテーブルに着席して詳細な報告を聞くことにした。


 まずはリリとノックスによって街を訪れた後のことを説明されたが、これはほとんど既知の内容の確認だった。ナニーニャの森で戦闘音が発生し、翌日から精霊たちは一切姿を見せなくなったこと。街の代官たちでは対処できなかったこと。そして、代官の留守中にクルスたちが街を訪れたこと。


 街の有力者たちからの期待がクルスにとって圧力になったことについてはノックスの裁量でボリスには報告しなかった。クルスたちが倒れたことで街の有力者は青い顔をしていたし、クルスにもこの件を報告しないようにノックスたちは言い含められていたからだ。


 そして森に入り、魔人と遭遇したこと。戦闘を避けることは不可避だったことなどを淡々とリリが報告した。


 魔人との戦闘後、体力の限界に達したアリスとクルスの二人が揃って倒れてしまい。更にアリスの怪我の程度は重く、直ぐに動かせるような状態ではなかった。そこでアリスの治療を二体の精霊にお願いし、リリともう一体の精霊が街に戻ることになった。


 リリは疲れた身体に鞭を入れて、急いで街に戻った。そして精霊が無事なこと、クルスとアリスが怪我で動けないこと、そのために街の人間を何人か森の中に同行して欲しことを説明した。


 そしてこの時、リリは混乱を避けるために魔人のことをノックスとこの街の補佐官にのみ説明した。そして三人で相談した結果、領内或いは国内に警戒を促すべきという結論に達し、その旨を書面に記して領都に早馬を出した。


 その後、食料や寝具などを用意してもらってリリは同行者として10人の木こりを引き連れて森の中に戻っていった。リリたちが戻った頃には一先ず治療は終えており、アリスの火傷は大分目立たない状態になっていた。精霊たちはリリが戻ると自分たちも休むと言って顕現を解いた。リリたちも食事と寝床の用意を済ませて、この日は就寝した。


 翌日の昼頃までには二人も目を覚ました。二人は疲弊していたが動けるということで、その日のうちに街に戻った。そして体調の回復に更に3日充てた。


 その後、魔泉の魔力を森全体に浸透させる魔法陣を精霊とクルスで刻み込む作業、当初の目的であった農地改良を2日掛けて行ってから領都に帰還した。


 ノックスとリリの報告の一通り聞いてからボリスの質疑が開始される。


「結局のところ、魔人の目的はなんだったんだ?」

「精霊ナニーニャ様とクルス様の意見としては、魔泉と精霊たちの魔力を狙っていたのだろうと。」

「そんなことが可能なのか?」

「実際に魔結晶に精霊が封印され、その魔結晶に刻まれた魔法陣によって何体もの精霊がただ魔力に変えられてしまいました。」


 魔結晶は自然の魔力が長い年月を掛けて結晶化したものと言われている。その魔力量は常人の数百人分の魔力を蓄えており、主に軍事用途に利用されるため我が国では国が厳しく管理している。その保有量や利用方法についても王宮の魔導師団によって秘匿さている。


 そして魔結晶は宝石のような見た目だが山から掘り出されることがない。見つかる場所も森の中、山の中、湖の底など多岐に渡り、同じ場所では2つと見つからないことも知られている。また、見つければ一攫千金のお宝でもあり、その価格は平民ならば人生を5度も不自由なく暮らせるほどの金貨が手に入る。 


「……どれだけの被害がでた?」

「中位精霊が1体、下位精霊が18体です。……3割ほどの数が消滅したそうです。」

「……そうか。」

「精霊たちはクルス様に対して一様に感謝を申しておりました。更に上位精霊のナニーニャ様は森のことが落ち着いたら直接領都までお礼に行くと申しておりました。」

「本当か?」


 これには俺も純粋に驚いた。精霊ナニーニャ様と我が領との交流は200年以上経過しているが、こんなことは始めてだ。精霊ナニーニャ様が森から出ることはほとんどなく、ルースベルの街にすら数える程しか訪れない。歴代の領主でも会ったことがある人間の方が少ないのに、わざわざ俺に会いに来るとは……。


「はぁー。」


 ノックスの報告を聞いて、俺は溜め息をつき首を振った。ますますクルスを叱ったことに対して後ろめたさを感じてしまう。


「リリ、魔人の実力はどうだったの。」


 そんな俺の様子をあまり気にすることなく、サラが戦闘面のことについて話を進めていく。


「恐るべき実力でした……少なくとも私一人の力では絶対に勝てるような相手ではありませんでした。」

「うむ、それは副隊長のコンラートよりも上か?」

「副隊長でも一人では絶対に勝てなかったでしょう。」

「それほどか。」


 俺はうめくように呟いてしまった。コンラートは単純な戦闘力で見れば警備隊で随一、そのコンラートが相手でも絶対に勝てないとは……。それ以上となればサラをいて他にはいない。俺が言葉に詰まっているとサラからの疑問が飛んできた。


「リリ、それは武力として、それとも魔法かしら?」

「魔法というよりも、魔力量ですか。とんでもない身体強化でした。それに魔剣も恐ろしい魔力を放っていました。」

「魔人族は魔法に対して人族や獣人族よりも高い適正があると言われているからその所為かしらね。……それにしても、その魔人をあなた達はどうやって退けたの?」

「クルス様の魔力が精霊を通して私やアリスお嬢様に流れ込んできました。その……仮契約と言っていましたが、それによって私たちは普段では考えられない量の魔力を攻撃や防御に向けることが出来ました。その魔力がなければ、私たちでは相手にならなかったと思います。」

「コンラートでも絶対に勝てないって言った訳はそういうことね。」

「はい、単純な剣の技量なら私とアリスお嬢様の方が魔人より幾分か上でした。」


 そこまで話を聞くとサラは腕を組んで少し考え込んでいるようだ。


「確かにリリの話しはお伽噺や私が昔見た王宮での記録に矛盾しないわね。かつて魔人族との間に起こった戦争では、個の能力としては魔人族が他種族を圧倒していた。その要因の一つにその魔力量が挙げられていたわ。」

「随分と詳しいだね。」

「近衛の幹部教育の中に戦史の時間があったのよ。その中で魔人族に関する話しは結構多い方だったわね。」


 なるほど、確かに魔人族との戦争については王宮が情報を統制しているため、俺もお伽噺に毛が生えた程度の知識しか持ち合わせていない。しかし、近衛騎士の副団長にまで上り詰めたサラなら王宮が秘匿した情報に触れる機会もあったのだろう。


「それにしてもその魔人とは私も戦ってみたかったわね。」

「サラ……。」

「ごめんさない、こればかりは戦士のさがみたいなものだからあんまり怒らないで。」


 サラの悪びれのない態度に俺はきっと苦り切った表情を浮かべていたことだろう。


「そう言えばクルス様が言っていたのですが、サラ奥様なら十分に勝てていただろうと漏らしていました。」

「あら、あの子が? でも、理由は?」

「何でも以前、王都でサラ奥様の本気の戦いを見たことがあり、それを踏まえての意見と言っていました。」

「ああ、そう言えばそんなこともあったわね。」


 サラの懐かしむような声の響きに俺は逆に心配になった。そんな話は聞いたことはない……と思ったが一つだけ心当たりがあった。それを踏まえてサラに確認を取ることにする。


「サラ、どういうこと?」

「前に王都に行ったときに近衛の練兵場に顔を出したことがあっただけど、その時にサーチェス団長を本気でシメタことがあったから多分そのときのことを言っているのね。」

「サラ。」


 俺はかなり情けない声を出している。サラの実力は分かっているがあんまり危ない事をしないで欲しい。


「心配かけてごめんなさい。でも、特に大きな怪我はしなかったわ。それに全力を振るえる機会もなかなかないし、あのオヤジの肋骨をへし折ってやって久振りに楽しかったのよ。」


 だが、サラは悪びれもなくこんなことを言ってくる。子供が出来て自重してくれるようになったが、隠れてそんな事をしていたとは……。そして、そんな俺の態度もサラには通じずに話が進んでいく。


「あと報告で気になったのは精霊を介した魔力の譲渡ねー。そんなこと出来たのかしら?」

「どういうこと?」

「確かに仮契約によって精霊とのパスを繋いで精霊・・の魔力を譲渡させることは出来るわ。私も経験したことがある。でも、本来の契約者から精霊を介して仮契約者に魔力を譲渡出来るなんて聞いたことはないのよ。」


 この辺の知識は俺には皆無だ。精霊についても魔法についても勉強したが、クルスやサラから見れば素人の水準だろう。


「カナル、あなたの意見も聞かせてくれないかしら。」


 カナル・ウォルタナー騎士爵は警備隊で最も魔法に精通した人物。魔法の腕前は王都にある魔導師団に十年も所属していたので警備隊の中でも群を抜いている。そして我が領では4人しかいない精霊持ちの1人であり、火の中位精霊と契約している。見た目は大分老け込んだ印象に映るが、まだ50代の現役。内政面において魔法が関わることではボリスも頼りにしている。今回、ボロスト準男爵が領都に来訪した際には、ボリスはカナル卿に事態の調査及び対処を一任した。


「奥様を仰ったことは概ね合っております。」

「というと違うところがあるのね?」

「はい、私も詳しいことは存じませんが王立魔法協会において契約者の魔力が精霊を通して仮契約者に譲渡する技能を研究していたと小耳に挟んだことがあります。」

「王立魔法協会で?」

「はい、実はかなり昔から研究されているのですがほとんど上手くいっていないと聞いておりました。」


 アルケリア王国には魔法を研究する機関として魔導師団と王立魔法協会の二つの組織が存在している。魔導師団が軍事面に特化した魔法の研究と魔法実戦部隊としての性格を持ち、王立魔法協会は非軍事面の魔法を研究している。そして所属している魔法師は両組織を兼職しているものも一定数おり、組織仲はそれほど悪くなかった。


「なら、この事は隠しておいた方がいいかしら?」

「おいおい、サラ。何を言っているんだい。」


 いきなり物騒なことを言い始めたサラに俺はびっくりしてしまったが、カナルの表情には苦笑が浮かんでいる。


「奥様、それは王宮の大魔導師殿のことですかな?」

「ええ、あの魔法狂にこの事が知られるとうちの息子が実験台モルモットにされるわ。」

「確かにそのお考えは否定できませんが、今回の一件を王宮に報告すれば多かれ少なかれ大魔導師殿の興味を引いてしまうのは避けられません。」

「それもそうね。悩ましいわ。」


 二人の会話がいまいち理解できない俺は説明を要求する。


「サラ、どういうこと?」

「大魔導師ヴァルトシュタインは魔法に関することに対しては病的なほど熱心なのよ。普段は何処にでも居そうなお爺さんなんだけ、一度ひとたび興味が向けられると止まらないのよね。」

「大魔導師殿に関しては先王陛下や宰相殿も大分苦労しておいでと聞いたことがあります。私は直接お話したことはございませんが、同僚が苦労しておりましてな。」

「禁忌に手を出したことも何度かあるって噂が出るくらいだし、ちょっと心配になるわね。」


 さらりと口にされた“禁忌”の言葉を聞いて、俺は自分の顔が真っ青になった気がした。“禁忌”とは王宮が禁止している魔法研究の総称。俺が知っている“禁忌”とは最も有名な“不老不死”、“金の生成”、“精霊への冒涜”の3つだが、他にもあることは知っている。我が国では“禁忌”を犯した者は容赦なく極刑だったはず……。


 そして青い顔しているのは俺だけではなく、アルフォンス、オベール、リリ、ノックスも似たような顔していた。平気な顔しているのはサラとカナルくらいだが、カナルは苦々しい顔しながら反論する。


「一応、噂だけでございます。」

「火の無い所に煙は立たないって言うわよ。」

「仰っていることも分かります。ただ、先王陛下や宰相殿も止めることが難しい大魔導師殿ですが、奥方様の言うことは非常によく聞くと聞いたことがあります。宰相殿が自ら奥方にお願いに行ったことが何度かあるとか。そして、奥方は非常に普通の感性をもった御方だとか。」

「……分かったわ。魔力譲渡に関しては一応正直に報告しておきましょう。あと、私が陛下に対して一筆書いておくわ。」


 二人の間に一応の結論が出たが、俺はそれに口を挿む勇気はなかった。出来れば今の話は忘れたい。忘れる意味も含めて、俺は話を進めることにした。


「他に報告するべきことは何かあるか?」

「私から一つございます。」

「続けてくれ、ノックス。」

「クルス様が仰っていたのですが、今回と類似するような事件が過去になかったか王宮で調べてもらうべきだと。」

「……つまり、今回が始めての犯行ではないと。」

「今回の最大目的は精霊の魔力ではなく、魔泉の魔力を全て奪うことだとクルス様は考えていました。魔泉の魔力を奪われた場合、その魔泉のあった辺りの森や山が枯れたりするだけですので、我々が魔人の存在に気付いていなかった可能性があります。」

「森や山で原因不明の異常が起こったと処理されるか。」


 確かに今回が初めての犯行と考えるのは短絡的すぎる。ノックスが言及した可能性は十分考慮されるべき事柄だ。しかし……。


「分かった、この事も一緒に報告しておく。」

「ボリス、あんまり自分を責めないでね。クルスは気にしていないわよ」

「……分かっているよ。」


 俺の表情を見て、サラが慰めてくれる。クルスは本当に色々と考えてくれており、それを認識するたびに俺の罪悪感が刺激される。あの場で叱ったことが正しかったのか、どんどん自信を無くす。俺はこれ以上みんなに心配させたくなかったので、努めて明るく振舞った。


「報告は以上だな。疲れているところ悪いが二人は明日までに報告書の作成を頼む。これから俺も王都への報告書をまとめるが遅くとも明後日に仕上げたい。」

「分かりました。」

「はい。」

「それでは二人も頼む。」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 深夜、クルスは自室の机にて頬杖をつきながら一枚の紙を凝視している。


 その紙に描かれているものはナニーニャの森で遭遇した魔人が魔結晶に刻んでいた魔法陣だ。一瞬しか見ていなかったため完璧に記憶することは出来なかった。否、時間があっても全てを記憶することはできなかっただろう。


 この魔法陣は人族の魔法の知識と悪魔が使う魔法の知識が融合されたモノだと推測される。特に悪魔の魔法に関しては俺も知らないことが多い。精霊の魔法が自然界に働きかけることに重点をおいていることに対して、悪魔の魔法は精神に働きかける魔法を得意としていると聞いていた。


 しかし、この魔法陣を見た後ではその印象は吹っ飛んだ。


 この魔法陣は引き起こされた事象から人族の契約魔法を土台にして、精霊たちの縛っていたことが推測される。だが、契約魔法の中に精霊たちを束縛させるような魔法があったなど聞いたことがない。そして俺の腕輪型魔道具には精霊たちの魔法を参考にして作った魔法陣だが、人族の考えた魔法陣の要素は一切いれていない。二つの魔法を混ぜることは俺も試したことがない。


 というか、出来るなんて考えたこともなかった。


 これは俺にとっても未知の魔法と言え、久々に研究意欲が大いに刺激された。しかし、この魔法陣の研究は正直に言ってお手上げだ。俺は悪魔の魔法も多少は使えるが、精霊魔法ほど理解が進んでいるわけではない。悪魔を召喚して聞き出すという手もあるが、奴等が素直に喋るとは思えない。精霊ナニーニャにも魔法陣を見せたが彼女にも分からなかった。この魔法陣を研究する方法を何か考えておかなければならない。


 そして、ここ400年ほどは魔人族も大人しくしていたはずだが、一部の奴等がまた何か企んでいるのかもしれない。業魔大戦のようなことは勘弁してほしい。


「はぁーーーーーーー。」


 疲れたから今日はもう寝よ。



すいません、サボってしまいました。これも全て自分の不徳の致すところです。

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