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終末への旅  作者: パウエル
第2章
28/33

第27話 決着

またしても盛大に遅刻してしまいました。

すみません。

「今更、隠したって無駄ですよ。」


 この言葉を切っ掛けにしてクルスと魔人の間に緊張感が高まったのを私は感じた。


 二人はさっきからよく分からない話をしている。人族が悪いだの、魔人族が悪いだの、歴史がどうだの、私にはさっぱり理解できない。けど、二人はお互いの主張を譲らずに喧嘩している。


 なんか不思議だ。


 クルスはこんなに敵意を剥き出しにして汚い言葉を喋っている姿は自分の知っている弟の姿じゃなかった。何だか別人のように見える。でも別に嫌じゃない。こんな真剣な顔は屋敷でも模擬戦でも見たことがないから。


 そして魔人族の男も私の想像とは大分違っていた。小さい頃から童話や絵本で魔人族の恐ろしさは嫌というほど教えられた。私は長いこと魔人とは熊を狂暴化したような怪物だと想像していた。しかし、実際の魔人は肌の色と目の色が違うだけの同じ人だった。


 私が考え事をしている間に話し合いは終わりになった。魔人の雰囲気が殺伐としたものに変わった。先ほど以上の殺気に自分の肌がピリつき、空気が重くなっていく。リリさんもそれを感じたのか剣と盾を構え始めた。


「小僧、もはや言葉は必要ない。」

「喋り始めたのはあなたですよ。」


「これは使いたくなかったが…………%#&!*|@+¥%&#$|!+。」


 魔人が意味不明な言葉を発したと同時に魔人の身体からこれまでと比較にならない程の魔力がほとばしった。それを合図にクルスから流れ込んでくる魔力も増えていく。自分がこれまで知覚したことのない魔力量に若干息苦しく感じる。


『苦しいの、アリス?』

『大丈夫よ、ソロ。』


 苦しそうな私の姿を見かねて風の精霊ソロが念話で聞いてくる。ちょっと意地っ張りな私は強がってみせるが、多分ソロにばれてるだろう。


 これまで精霊ソロのことはあまりよく知らなかった。ソロは契約精霊だからクルスといつも一緒にいるが、その姿は見えない。魔力感知を覚えてから精霊たちの存在感をはっきりと知覚できるようになり、彼らに触れ合う感触も判るようになった。それからはソロが私の頭の上をくるくる回ったり、肩に乗ったりとしてくれるので私もソロに魔力を分けてあげて仲良くした。


 今回、ソロとの間に仮契約を結ぶことで始めてソロのことが色々と分かった。下位精霊は顕現することができないのでこれまで丸い魔力の塊としか知覚出来なかった。ところが仮契約することで分かったのだが、ソロの姿はモコモコした毛皮に覆われた大きなリスみたいな小動物。


 すんごく、可愛い!!


 戦闘中じゃなきゃ絶対頬ずりしたいところだ。だが、いまはダメ。それは家に帰ってから。


『姉さんに魔力を集中されるから、奴の注意を引きつけて。』


 クルスが有無を言わさずに魔力を分けてくる。苦しいかどうかなんて聞いてこない。そしてあの指示は“私に囮になれ”ってことだ。その指示に不満はない。だった、クルスは魔人を私が抑えられると思ってくれている。むしろ信頼の証だ、その信頼に応えてみせる。そのことがアリスの剣を握る両手をより一層強く握りしめることに繋がる。


 第二ラウンド!!


「ハァーーーー。」


 魔人が飛び出してくるのと同時に私も相手に切り掛かったが、吹っ飛ばされた。息をつく間も魔人の周りを漂う青い炎が追撃を掛けてくるので、飛び上がって避ける。ソロも風を使って炎を逸らして防御してくれる。その間隙を縫ってリリさんも攻撃を仕掛けようとしたが、接近したところで炎の魔法を受けて後退した。


凍てつく大地ブリザードアウト

「フンッッッッ!」


 クルスの魔法によって地面から氷が魔人を取り囲むよう押し寄せてくる。けど、青い炎の勢いが強くて、魔人を覆っていた氷を吹き飛ばした。魔人のスピード、パワー、魔法のどの能力も強くなっている。特に厄介なのはあの青い炎。まるで生きているみたいにあの魔人を守り、こちらに攻撃を加えてくる。


 もっとよ! もっとも速く! もっと強く!


『アリス、くるよ。』


 ソロの言葉と伴に魔人が私に詰め寄ってきたので、私は最初と同じように切り掛かる。しかし、さっきと同じようにはいかない! 体勢を低くして下から切り上げで魔人の一刀を受ける。今度は轟音を響かせてお互いの剣が弾かれる、魔人は驚いているがこの事を予期していた魔人よりも一瞬早く体勢が戻して追撃をかける。


 ここからのアリスは我武者羅で荒々しい剣技を繰り出した。いつもの冷静さを微塵も感じさせない荒々しく、一見すると力任せに見える剣技。戦術などない、相手の動きを見て対応する或いは予測して攻撃を考える“後の先”の剣術ではなく、相手に対して常に先手先手を取って相手に対応策を取らせない“先の先”の剣術。


 だが、アリスの剣筋は不思議と力任せには見えない。


 これはアリスの剣術ではない、これはサラの剣術。


 アリスも数える程しか見たことないが、荒々しくも洗練されたサラの本気の凄まじさを忘れることなど出来ない。この剣術を始めて見た翌日からは隠れてサラの剣術を真似る訓練を日課に入れた。まだ、到底サラの領域には辿り着いていない。しかし、目指すべき理想の動きは覚えている。アリスはその剣術で後ろへ後ろへと下がる魔人を追い込んでいく。


 魔人は追い込まれている状況を変えるために、蒼炎をアリスに向けて距離を稼ごうと後退した。そのときに魔法を向けるためにアリスに左手を向けるが、これが悪手。


「イヤァァァ。」


 アリスは蒼炎に目もくれずにそのまま必殺の四段・・突きを放つ。ソロの魔法によって炎の勢いは多少弱められているが、並の熱量ではない蒼炎がアリスの服と肌を焼く。だが、蒼炎を恐れずに踏み込んだ一歩によって魔人の左肩にアリスの剣が突き刺さる。


 魔人は魔法の狙いを定めるために剣から左手を離してしまい、そのため防御が疎かになった。そして前回の五段突きを覚えていた所為で、最後の狙いを変えた四段目の突きに対して反応が遅れた。


 苦悶の表情で魔人は蹴りを放つが、アリスはその蹴りを左肘で防ぎながらまだ攻撃を止めない。アリスには相変わらず蒼炎が襲い掛かり、その綺麗な肌を焼いているが決して攻撃の手を緩めない。下がる魔人と追うアリス。剣と剣がぶつかり合う轟音の影響で周りの樹木が揺れる程の衝撃を撒き散らしながらの戦いが続く。


 そして多くの手傷を負った魔人はわざとアリスの一撃に対して踏ん張らずに吹き飛ばされて距離を空けた。再びアリスが接近してくる刹那の間に魔力を魔剣に集中させる。防御用の魔力も魔剣に注ぎ、蒼炎で渦巻く魔剣をアリスに向ける。その一撃でアリスを剣ごと切り裂くために。一方でアリスもその殺意と気迫を察知し、渾身の一撃を魔人に向ける。


「ダァァァァァ!!」

「イヤァァァァ!!」


 両者の死力尽くした一撃によってその交点では閃光と爆音が発生する。アリスは後方の樹木に打ち付けられて意識が途切れそうになるが前を見る。魔人も衝突の影響で剣を地面に刺し、片膝を着いた姿勢でアリスを睨んでいる。


 ここで、アリスは笑った。


 そこで、ようやく魔人は迫ってくるクルスとリリの存在を気付いたがもう遅い。魔人は右側から来たリリの盾突撃と左側から来た拳を見届けてアリスは意識を手放した……。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ガハァァァァ!」


 俺とのリリさんの攻撃を予期できなかった魔人が苦悶の叫んでいる。更なる追撃は可能だったが、それ以上の追撃をかけずに魔人の左腰にあったポーチをむしり取ってアリスに駆け寄る。


「アリス様!!」


 これまでなんとか我慢して戦いを見守っていたリリさんは痛々しく傷ついたアリスを抱き上げる。そしてパルがアリスの治療に当たってくれる。俺はそんな二人を横目に見ながら魔人が身に付けていたポーチの中身を確認する。


 中に入っていたのは拳大の魔結晶だった。


 その魔結晶には俺の知らない魔法陣らしきものが刻み込まれている。これが奴の強さの秘密であり、この森にきた目的だろう。戦闘中に魔人語の詠唱をした所為で、この魔結晶の存在を把握できた。


「こ、小僧!! それを返せ!!」


 満身創痍の身体を引きずり起こして、憎悪をたぎらせた視線で俺を射抜く。


「そんな体たらくよくそんなことが言えますね。もうインチキは出来ないんですよ。」


 その言葉に魔人はハッとした表情をした。


「魔法の効果が……切れているのか。……ありえない、何故だ!!」

「それは僕の魔力を使ってあなたとの繋がりを妨害しているですよ。」

「何だと、そ、そんなことが可能なのか。」

「勉強不足ですよ。悪魔の魔法は決して無敵じゃないんですよ。」


 悔しそうな顔をしている魔人はほっておいて、この戦いを終わらせよう。


「リリさん。」

「はい。」


 俺の呼びかけに応えて、リリさんはアリスをゆっくりと寝かせて俺の前に立つ。精霊2体もリリさんの横で最後の力を振り絞ろうとする。そこで俺は……。


「契約のミスラリア 万物の理を理解するその知恵を以て 我の願いにこたえん」

「まさか、止めろーーーー。」


 俺の魔法を阻止ししようと魔人が突っ込んでくるが、リリさんと精霊に阻まれて俺に近づくことは許さない。


「千の耳と 万の目を以て 万物を縛る力を 見通し 解き放たん 断罪の短剣ブレイクミスラ


 その魔法によって魔結晶に刻まれた魔法陣が明滅し、その後魔結晶が細かく砕けた。


「パッリーン。」


 その澄んだ音が響き渡ると戦闘音も同時に止まる。そして、俺たちの周りの魔力が充満してくるのが分かる。あまりの魔力量にリリさんがふらついている。だが、森の中を厳かで優しげな雰囲気が段々と満たしていく。やがて、その魔力たちは形を成し、この世界に顕現する。


 それは3体の精霊たちだった。


 その精霊たちはまるで人間のように疲れた表情を見せて俺のことを見てくる。俺が微笑みかけると、精霊たちは感謝の念を滲ませながら俺に頭下げる。


「ありがとうございます。貴方のおかげで私たちは生き永らえることができました。」

「どう致しまして。」


 その言葉を受けて、この場にいる者たちの視線が魔人に集中する。魔人はたった今起こった出来事を信じることができなかったのか呆然とした表情を浮かべている。


「で、どうしますか貴方は?」

「……。」

「死ぬまで戦いますか?」

「……。」

「別に逃げてもいいでよ。さっさと魔人大陸にでも逃げてください。」

「何故、俺を逃がす。」

「こんなことを計画していたお馬鹿さんに伝言をお願いします。“歴史は繰り返す”と。」

「……」

「どうするんですか?」

「……覚えていろよ。」


 その捨て台詞と伴に魔人は後方に下がっていき、やがて姿は見えなくなった。


「良かったの、少年?」

「いいですよ。実は僕も魔力が空っぽなんですよ。もう限界ギリギリです。」

「そうか、本当にありがとう。」

「もう倒れちゃいますけど、僕の姉の火傷を治してもらえますか? かなり酷いんですよ。」

「分かった、我々が責任を持って治療を行う。」

「あり…が……ご…ざい……。」


 こうして俺は意識を手放した。倒れるその身体を精霊ナニーニャがそっと支えた。


 長かった戦いに一応の決着をつけることが出来た。


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