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終末への旅  作者: パウエル
第2章
27/33

第26話 激突

ちょっと遅れました。そして短いです。戦いを敢えて二話に分けてしまいました。

 魔人族の男はゆっくりした動作で左腰に吊り下がった魔剣を抜いてきた。鞘から現れた瞬間、俺たち全員の意識がその魔剣の魔力に奪われた。


 なんて禍々(まがまが)しい魔力!


 クルスはこれまでに100本以上の魔剣を見てきたが、これはその中でも上位10本の内に入る業物だ。魔剣は片刃のごく標準的な長剣、おそらく魔法銀ミスリル製だが多少は成分を弄っていそうな輝き、だが刀身には一切の文字が刻まれていない。そして恐らくは悪魔の魔力が宿っている。


「二人とも! こっちに来て!」


 二人はその言葉を合図に意識を取り戻して、俺の傍に近寄ってくる。


「二人ともジッとしていて、精霊と一時的に契約を結ぶから。」

「えっ、どういうこと?」

「パルとソロの指示に従って。」


 風の精霊ソロがアリスに、地の精霊パルがリリさんとのパスを一時的に接続する。すると二人は始めての念話に戸惑ったように周りをキョロキョロ見渡していたが、精霊たちが自分の肩に乗っていることが分かったようで二人は落ち着きを取り戻した。


「二人ともいい。」


 この言葉に二人の表情が引き締まる。念話で作戦を伝えても良かったが、敢えて自分の口で喋ることを選んだ。


「二人は前衛、僕が後衛、精霊も後衛だけど魔法の援護はあまりできないから。」

「分かったわ。」

「はい。」

「それと精霊を通じて、僕の魔力を渡すから身体強化に全力を注いで、あの魔剣は不味い。」

「そんなことが出来……ごめんない余計なこと言ったわ。」

「はい、あれは……恐ろし過ぎます。」


 不安を隠せない二人の背中を優しく撫でて、二人を落ち着かせる。そして俺は自信を浮かべた表情でそれぞれの瞳を見つめる。そこまで済ませてから魔人の方と相対する、魔人は俺たちの準備が終わるのを待っており、余裕の表情で聞いてくる。


「作戦会議は終わったのか?」

「ええ、あなたは魔神への祈りは済みましたか?」


 その言葉に魔人は始めて顔をしかめた。魔人族にとって“魔神への祈り”とはほふった獲物を神へ奉げることで戦闘前に行うことはない。人族などは必勝などを願って戦う前に祈る習慣があり、魔人族はこれを自分の力を信じられない惰弱な振る舞いと見ている。つまり先ほどの俺の発言は魔人族の習慣に対する侮蔑と自分の力しか信じないことに対する皮肉と取れるだろう。


 しかし次の瞬間、魔人の顔は一気に驚愕へと移った。


 俺は魔人への返答を合図に全力で魔力を充填(チャージ)する。その魔力がソロとパルを通してアリスとリリさんへと渡り、二人の身体が眩しく輝きだす。本来は魔力が見えることはないが、これは過剰配給された魔力の一部が光へと変化することで起き、精霊が強力な魔法を発動させる際に時々起きる現象だ。


「すごい。」


 アリスがポツリと呟き、リリさんも驚愕している。


「小僧、……貴様一体何者だ。」

「行くよ。」


 魔人を無視して、俺たちから仕掛ける。


 まずは、アリスが一気に魔人に詰め寄って正面から一撃を入れるが、これは魔人が正面から受け止める。アリスの剣を覆っている魔力は僅かながら削られるが、あの魔剣に十分拮抗している。


「でやぁー。」


 アリスは最初の一撃が受け止められると身体を左に逸れし、その隙間を埋めるようにリリさんの突きが魔人を襲う。魔人はその攻撃を後退しながら避けるが、アリスが左側から回り込んで横薙ぎの一撃を放ち、魔人の息をつかせない。アリスの剣撃とリリさんの突きの対処に追われていた魔人は強引にアリスの一撃を迎え撃って、リリさんの対処に意識を傾けたがそこでソロの風弾エアブレットが直撃する。


 この一撃はほとんどダメージを与えなかったが、魔人の意識を一瞬逸れし、その時間で

アリスとリリさんの包囲網が再形成された。


「チッ!」


 舌打ち伴に魔人が突撃してくるがアリスは魔人の突進を避けるなど考えもせず、自らも突撃して正面から魔人を迎え討つ。だが、アリスは魔人の振り下ろした魔剣を下段から迎え撃つように見せかけて、相手の魔剣を上手く流してから横から通り抜けざまに魔人の右肩を斬りつけた。しかし、この攻撃は僅かに魔人の魔力を削り取っただけだ。


 リリさんはサポートに徹して、魔人を休ませないように戦っている。リリさんは常に魔人の武器を持っていない左側に位置取り、突きを連打していく。この突きに対して魔人は基本的に避けることしかできない。剣をリリさんの方に向ければアリスに背中を晒すことになるような絶妙な位置取りで戦っている。魔人もそう仕向けられていることが分かっているが、二人が自分の正面になるように細かく位置取りを変えている。


 三人の攻防は一層激しさを増していった。そして押しているのは俺たち。


 魔人は防御のさなか時折反撃を繰り出すが、アリスはそのことごとくをなし、リリさんは盾で防いでいる。魔人の攻撃力、防御力は共に二人を上回っているがアリスの剣撃の多彩さ、リリさんの盾術による反撃に対して後手後手に回っている。その局面を打開するために魔剣に魔力を込め始めるが……。


「アリス下がれ、ソロ!!」

「くたばれ!」


 俺の号令でアリスが後退し、魔人との間にソロが立ちはだかる。そして、それまでの牽制で放っていた風弾エアブレットを止め、俺の魔力を流用した特大の風刃スラッシュを放つ。魔剣から放たれた光の刃と風刃スラッシュによって轟音が響き渡る。風刃スラッシュは魔剣の斬撃に負けたがその威力は十分に減じさせ、残った斬撃は再び前に出たアリスの一刀のもと両断された。


 だが魔人は斬撃の結末に見届けることなく、左手から無詠唱・・・で“抉る風塊スクリューエア”の魔法をリリさんに向けられる。これにはパルが即座に複数の土壁アースフォールを放つことでなんとか防ぐ。


 抉る風塊スクリューエアは風の中位魔法であり、渦を巻くように空気を先端に掻き集めてその塊を飛ばす魔法。風弾エアブレットが空気を無秩序に中央に集めてその塊を飛ばす魔法であり、両者はよく似ているが抉る風塊スクリューエアの“渦を巻く”形態が魔法の貫通力を桁違いさせる。


 魔人がリリさんに追撃を掛けようと接近しようとしたが、そこを俺の魔道剣によって魔力の刀身が魔人の肩に向かって一直線に伸びた。この攻撃は魔人にとって予想外だったようで、まともに直撃して吹き飛ばされた。魔人は右肩を押さえているが、俺の魔道剣は奴の防御を抜けていないで血も流していないが打撃としてそこそこ効いているようだ。


 体勢を崩した魔人に対してアリスが追撃を仕掛ける。正確で的確な突きの五連撃が魔人に襲い掛かる。近衛騎士のテリーナさんに伝授してもらったアリスの必殺だ。魔人は3発までは防いだが、左手と右胸の2発を防ぎきれなかった。そして魔人の顔に始めて苦痛が浮かび上がった。


「火焔のアシャパーダ 我が命ずる 怨嗟の叫び」

「調子に乗るな!!」

「憎悪を宿らせし 蒼炎の楔を 解き放たん 煉獄の槍プルゲートン


 魔剣に再び魔力が込められた瞬間、俺は魔剣の魔力から相手の魔法が推測された。あれは剣撃ではない。魔剣から蒼炎が纏わりつき、その蒼炎をアリスに向けられるが……そこに俺が割り込む。魔人はとっさに標的を俺に向けて放つが俺の方が魔法の方が早いくらいだ。


 炎の上位魔法“煉獄の槍プルゲートン”。この魔法は限界まで高められた炎を槍状にして相手に放つ魔法。単純であるが故にその攻撃力は絶大であり、この蒼炎で貫かれた傷は上位回復魔法でも非常に治りが遅い。更にこの蒼炎によって焼かれた火傷が毒のように機能して体中を巡り、充填(チャージ)の行使を阻害する。


 両者の蒼炎はほぼ同じ威力だったが、一点集中型の俺の魔法と広範囲を標的としていた魔剣の特性の違いによって俺の魔法が魔人を吹き飛ばすことに成功した。


「大地のスプスンター 我は請う 大地の怒りと 大地の嘆きを 隆起陥没アースコラプス


 ここで魔人は一度後退をかけるが、そうはいかない。隆起陥没アースコラプスによって周囲の地面が棒状に隆起し、槍の突きを思わせる連撃が地面から襲う。魔人は咄嗟に上空へと退避するため後ろに木に目掛けて飛び上がるが、そこにソロの風弾エアブレットが襲う。


 そこで俺はアリスとリリさんを念話で呼び戻し、一度体制を整えた。そして、離れた場所には怒りと憎悪を顔に浮かばせながら俺たちを睨んでいる。


「貴様、本当に何者だ。その圧倒的な魔力量、全ての攻撃を見渡すような魔力感知、精霊との連携。本当にガキなのか?」


 魔人は俺に対して本気で問いかけてくる。最初の頃のような、無機質さはなく生の感情が浮かんでいる。


「魔人大陸に引っ込んでいるから世間知らずになるんですよ。」

「押し込めたのは貴様等、人族だろう。」

「否定はしませんが、それは悪魔への供物を奉げるのに他種族を狩りまくったあなた達が悪いですよ。」

「それが我等、魔人族の使命……当然のことだ。」

バリトン・・・・派ですか、いつまでも経っても同じことを言ってるんですねー。」


 この発言には魔人も驚愕した。


「何故、貴様のようなガキがそのことを知っている。業魔大戦は400年以上前だぞ。」

「そっちこそ歴史くらいちゃんと勉強してください。あなた達は相変わらず、魔神や悪魔の存在を勘違いしていますね。創造主も眷属もその存在に違いなんか無いんですよ。」

「貴様等、何が分かる!」

「はぁ、確かに他種族を排斥したのは人族ですよ。しかし、一部の人達は獣人族と結構仲良く過ごしていました。あなた達のように他種族全てを供物する極端な考えがあなたたちを孤立させたんです。バリトン派に巻き込まれた魔人族にとってはいい迷惑でしょうね?」


 魔人族を相当怒らせることになったがおかげで大体事情が分かった。


「まぁ、でも、あなたがバリトン派だってことが分かったので、ここにいる理由が大体分かりましたよ。」


 その発言の途端に魔人の顔から表情が消えた。ようやく喋りすぎたことに気付いたらしい。


「今更、隠したって無駄ですよ。」


 俺の言葉は冷たく淡々とした口調であった。


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