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終末への旅  作者: パウエル
第2章
22/33

第21話 領内の巡行

遅れました。

そして、今回の話は途中で切ってしまったの少し短めです。

 俺は領都を出て、南西方向の農村に向かっている。


 領都に戻ってきてからの4日間、俺はひたすらアリスとマイスの相手をしていた。アリスの剣術の稽古をつけて貰ったり、アリスの魔法の稽古をつけたり、マイスのごっご遊びに付き合ったり、マイスとかくれんぼしたりと俺に自由時間はなかった。なんだが最近屋敷いても俺の心はちっとも安らがない。


 困ったことにこの二人は俺を振り回すすべを会得している。もちろん二人の相手をするのが嫌だとか言うんじゃないが、とにかく疲れる。肉体的にも精神的にも。なので、外出するほうが楽なんじゃないかと思うようになってきた今日この頃。


 しかし、今回はいつもの様にはいかない。この巡行は領内の農村に対して農地改良や治水などを目的としている。この巡行のお伴として本職の内政官ノックスさん、護衛役の警備隊リリさんが俺に同行している。いつもならこの二人だけなのだが、今回はアリスも連れて行くことになった。


 魔獣退治をして屋敷に帰ってきた翌日、“今度出掛ける時は私も一緒に連れていって”と言われた。しかも、何故か、俺が・・アリスの同行について両親を説得する羽目はめになり、あの日は精神的にクタクタになった。その元凶となるアリスは……。


「それにしても気持ちいいわね。」

「そうですね。兵士の中にも森や川に遠乗りする者たちが幾人かいましたね。」

「いいわね、私も早く覚えたわ。」

「帰ったら私がお教えしますね。」


 外出できることや走っている馬に乗るのが嬉しいみたいで、非常にご満悦な表情でリリさんとお喋りしている。意外だったのはアリスがまだ乗馬の訓練をしていなかったことで、リリさんに後ろから掴まっていることだ。


 俺とノックスは特に会話することもないので、二人の会話に時々加わりながら目的の農村まで急ぐことにする。今回の目的地は南部と西部のちょうど中間の村々で、かなり領都から離れた位置にある。アリスは乗馬初心者だがらゆっくりと馬を走らせると確実に陽があるうちに着かないところだが、余裕そうなので急ぐことにする。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 そして夕方の陽が落ちる前になんとか目的の村に到着した。確か100人を超える程度の中規模の農村だったかな。俺たちが姿を現すと畑を耕していた数人が俺たちに気付き、集まってくる。まだ何もやってないのに俺が領主の息子だと分かると“ありがとうございます、ありがとうございます。”とみんな頭を下げてくる。


 最近はどこの村に行っても似たような歓迎ぶりで、少々照れくさい。村人の歓待を受けながら村の入り口に向かっていくと、そこでも沢山の村人たちが待っていた。俺たちは馬から下りて入口に到着すると村人の中から初老の老人が一人出てくる。


「お待ちしておりました、ご子息様。私がこの村の村長ノドンと申します。」

「領主の息子、クルス・ヴァンフォールです。」

「村民一同、クルス様が来られるのを心よりお待ちしておりました。」


 村長のその言葉を合図に集まった村民全員が頭を下げてくる。


「ご歓迎ありがとうございます。早速ですが作業に入りたいと思います。できれば陽が落ちるまでに終わらせたいので。」

「おお、ありがとうございます。」

「それでは畑を案内してもらえますか?あと馬の世話もお願いできますか?」

「分かりました、畑の方は私がご案内致します。」

「それでは畑の一番外側をぐるっと回るようにお願いできますか?」

「外側ですか?分かりました、こちらにどうぞ。」


 先導する村長についていくが、10歩ほど歩いたところで一回止まることにした。


「村長、すいませんがこれだけの人数で行くのは……。」


 俺の困った顔とゾロゾロついてくる村民を見て、村長が慌てて俺に謝ってくる。


「これは失礼致しました。みんなは仕事に戻ってくれ。」

「すいません、ただ5、6人なら見学して頂いても構いませんよ。」

「本当でございますか!なら、バル、ホワイト、ノロ、カッシノあとアランはついてきてくれ。」


 村人たちが畑や村に戻っていく中で中年4人と若い男が残った。


「それではご案内します。」

「はい。」


 俺たち4人と村人6人で1限(10分)ほど歩いていくと畑の外側に辿り着いた。


「ここが畑の一番外側になります。」

「分かりました、じゃ一周回りましょう。」


 村長への返事と伴に念話で地の精霊パルに合図を送る。そして再び村長についていくことになった。しばらく歩いていると、俺のただ歩いている姿に後ろからついてくる村民が訝しんでいる雰囲気が伝わってくる。そこで俺は説明しようかなと思っていると、その前にアリスからの質問が飛び出した。


「クルス、さっきからパルに何をさせているの?」

「精霊のパルに目印をつけてもらっているだ。」

「目印?」


 アリスはパルが先ほどから歩いている途中で地面に魔力を打ち込んでいる様子に疑問を思ったみたいだ。村長も俺の話に興味があるようで、後ろを気にしてくる。村人への説明がてら一緒に説明してしまおう。


「これから畑に施す魔法“豊穣デーメーテール”は土に栄養を与える魔法なんだ。」

「栄養?」

「そう。植物は太陽の光、水、そして土からの栄養によって成長するんだよ。この内のどれが欠けても植物は大きくなれないし、酷いと植物は枯れてしまう。」

「それだけ聞くと簡単そうに聞こえちゃうわね。」


 アリスも去年の干ばつで大騒ぎしていた状況をしているためか苦笑している。


「もちろん簡単じゃないさ。去年みたいに日照りが続けば作物は枯れるし、逆に長雨が続いても良くない。あと本来は暑くなる時期の夏に寒かったりするとそれも作物の成長に良くない。」

「やっぱり大変ね。」

「農業をする上でちょうどいい量っていうのが一番難しいのさ。まぁ自然を相手にしているから仕方ないと言えば仕方ないことなんだけどね。」


 ここまでの話を聞いて村長が感心した眼差しを時々俺に向けてくる。後ろの雰囲気も大分良くなってきた。貴族のボンボンが自分たちの苦労を知っているのが嬉しいだろう。貴族っていうのはとにかく農民を軽視しすぎる。人は三日も食わなければ死ぬこともあるのに、そのことを忘れている奴の多いこと多いこと。っと思考が逸れてしまった。


「でもさっき挙げた植物に必要な3つの内、土の栄養は特に大変なんだ。」

「どうして?」

「作物が成長していくと土の栄養をどんどん吸っていくから、土の栄養は無くなっていく一方なんだよ。」

「……確か堆肥っていうのが土の栄養になるのよね?」


 アリスはちょっと疑問形で自信が無さそうに聞いてくる。最近はアルフォンスに色々教育を受けているらしく、領地経営についても多少触れていると言ってたな。


「合っているよ、姉さん。でも堆肥で補える栄養よりも作物が吸っていく栄養のほうが多いんだよ。」

「それじゃ、土から栄養が無くなっちゃわよ。どうすればいいの?」

「よくやるのは畑を休ませることかな。堆肥を埋めた後に半年とか一年間ほっておくと栄養が増えることがあるらしいよ。」

「でもその間って何も作物が育てられないのよね?」

「そうだね。だから魔法でぱぱっと補充してあげるんだ。」


 これまでに説明でアリスも大分納得した様子だったが“あっ”と声を上げた。


「クルス、そう言えば最初の質問に答えていないわよ。」

「そうだね。姉さん、魔法を使うとき魔力操作が大事なのは分かっているよね?」

「知っているわよ。っていうかクルスは口を開けば魔力操作、魔力操作ばっかりじゃないの。」


とアリスは可愛く口を尖らせてくるので俺は苦笑して答える。


「そうだね、今回もその魔力操作が大事になるんだ。例えば“水玉ウォータボール”を唱えるときには大きさを自分の眼で確認しながら魔力の量を調節することが出来るようね?」

「そうね、でもクルスは魔法が発現する前に魔力量を調整しなさいっていうじゃない。」


 これにもアリスは不満タラタラで答える。2年前、魔法を覚え始めたころ俺が口を酸っぱくして覚え込ませたからだ。今でこそアリスの魔力操作は上手なもんだが最初はかなり苦戦した。更にほぼ一年間を新しい魔法を憶えさせずに魔力操作の習熟に当てたため、時々不平を言っていた。まぁ、魔力操作は素振りと同じということでアリスを納得させたが当時のことを思い出すと不満が顔にでるのだろう。


「普通の魔法ならその通りだよ。でも今回はこの村の畑全体に魔法を掛けて上げる必要があるよね?」

「そうね。……でもどうやるの?」


 アリスにもこの魔法の難しさが分かったようだ。この村の畑はなかなか広い、そして綺麗な円形でもなく、四角でもない。これでは魔法の効果範囲を決めることが目視や自分の感覚のみの不確かなものになってしまう。


「そこでパルに目印をつけてもらっているんだよ。パルが目印をいくつも設置しているから僕はその内側に向かって魔法の効果範囲することが出来る。そうすれば畑の隅々まで“豊穣デーメーテール”の効果が現れるようになる。」

「そっか、そんな意味があったのね。」


 アリスも納得顔で、村長も感心したようにうんうんと言ってる。ところが村長は俺の話が終わったとみて立ち止まって質問してくる。


「ところでクルス様、そちらのご令嬢様は一体?」

「ああ、こちらは私の姉アリスです。」

「アリス・ヴァンフォールです、よろしくね。」

「これはご挨拶が遅れました。村長ノドンと申します。」

「私のことは気にしなくていいわ。単なるクルスの付添いだから。」

「はぁ。」

「それじゃ、続きをお願いできますか村長。」

「はい。」


 村長が再び歩き出して、4限(40分)ほどで畑を一周した。そこで俺は目印を頼りにして畑の中心部に移動する。見学者たちは俺から少し離れた位置に待機してもらっている。陽も落ちる寸前なのでさっさと終わらせることにする。


『パル、準備はいいか。』

『準備万端ですー。』

『いつも通り微調整は任せるな。』

『はいですー。』


 俺は念話でパルと最終確認を行って、自分の魔力を一気に高める。そして大地に膝を突き、両手を前に差し出して詠唱を始める。


「大地のスプスンター 我が命ずる 疲弊しきった大地 苦しむ我らに 汝の慈愛と 龍脈の力を以て 生命の活力を 再びこの地に」


 そして詠唱の最後に両手を大地につけて魔法を唱える。


豊穣デーメーテール


 その言葉を合図に大地が魔力の影響で薄っすらと光る。これは魔法を使えない村人たちにも見えており、陽が落ちる寸前の景色と相まってなかなか幻想的な光景となっている。其処彼処そこかしこから“おー”だの“すごい”だなと聞こえてくる。しかし、そんな声に構っているほど俺には余裕はない。


 “豊穣デーメーテール”ははっきり言って魔力を馬鹿食いする。俺は魔法の効力を維持するために“充填(チャージ)”と“制御(アフラ)”に全力を注ぐ。そして1限(10分)ほど経った頃ようやく魔法を終了させると、辺りはすっかり暗くなっていた。


 俺は一息入れてからゆっくりと立ち上がる。成長したとはいえ“豊穣デーメーテール”の魔法は俺の3割近い魔力量を消費する。なので、魔法行使後は少しふらつくきながら村長のもとへ向かう。


「村長、終わりましたよ。」

「クルス様、本当にありがとうございます。」

「これでしばらくの間は豊作になるとは思いますが、毎年堆肥作りはやるようにしてください。」

「はい、本当にありがとうございます。クルス様もお疲れでしょう、我が家で簡単ですがご歓迎の用意がしております。どうぞ、いらしてください。」

「そうですか、それではお言葉に甘えさせて頂きます。」


 村長の先導に俺たち4人がついていくが、後ろで“クルスは本当にすごいわね”と落ち着いたアリスの声が聞こえてくる。


 こうして、この村での一仕事を終えた。




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