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終末への旅  作者: パウエル
第2章
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第20話 姉弟妹

 魔獣を仕留めた俺たちは翌日から領都に戻るべく移動を開始した。一日早かったが予定の量の肉を確保しており、更に魔獣まで仕留めることが出来たので十分と言えた。予想以上の荷物のため領都までは二日半の旅であり、皆嬉しそうにしながら帰途についた。


 屋敷に戻ると、居間からシルビィとマイスが出迎えてくれた。


「クルスお坊ちゃま、お帰りなさいませ。」

「にーさま、おかぁえりにゃちゃいませ。」


 マイスのたどたどしい喋り方に俺とシルビィは和んでしまう。


「ただいまシルビィ、マイス。元気にしてたかい?」

「はぁい、げんきひぃぱいでしゅ。」


 マイスは俺が6歳のときに生まれた俺の弟で4歳になる。年齢の割に幼い喋り方で、大分子供っぽい男の子だ。ここ最近はシルビィが大のお気に入りで、屋敷ではシルビィの後ろをトコトコついている姿をよく見かける。そんなマイスは俺の脚に引っ付いてくるので、俺はマイスを抱き上げてヨシヨシしてあげる。


「お母様は?」

「居間でマリーダお嬢様のお世話をなさっています。」

「そう。」


 それを聞いて先ずはサラに帰宅の報告をすることにする。


「ただいま戻りました、お母様。」

「お帰りなさい、クルス。予定より早かったのよね?」

「はい、順調だったので一日早く戻りました。」

「そう。」


 サラは俺の話には大して興味なさそうだった。まぁ、仕方ない。サラの腕の中には2歳になった赤ちゃんマリーダがサラの方を向いて“あうあう”言っている。この赤ちゃんがもう一人の新しい家族、妹のマリーダ。もうすぐで生まれてから一年経つが、早産だったのでマイスのときと比べても小さい身体だ。


「マリーダ、ただいま。」


 俺はマリーダの小さな手に自分の人差し指を触らせようと近づけたが、サラは俺からマリーダを遠ざける。


「クルス、着替えてからになさい。マイスもクルスから降りなさい。」

「……分かりました。」


 5日も山で生活していた俺は確かに清潔とは言えないので、触らせてくれないのだろう。結構本気で睨んでくるので、マイスを降ろしてやる。マイスは“えー”と不満そうにして、降ろしからも俺の脚にしがみつく。


「はぁ、マイスも一緒にお風呂に入れて上げなさい。」

「はい。」

「シルビィ、お願いね。あとアンナ、お茶を持ってきてくれる。」

「はい。」

「畏まりました、奥様。」


 アンナさんが厨房に向かっていく。彼女はマイスが生まれてから乳母兼侍女として雇った女性だ。確かサラよりも一つ年上で、五人のお子さんを育てている。母親としての経験は我が家の中でも頭一で、サラも頼りにしている。マイスが生まれた当初は我が家の中が大変だった。


 マイスは非常に手のかかる赤ちゃんだった。俺とアリスは非常に手の掛からない赤ん坊だったらしく、母親初心者のサラでもなんとか世話が出来る水準だった。しかし、マイスの世話はサラにかなりの負担で参ってしまっていた。マイスは何と言ってもよく泣く。まぁ、俺も“赤ん坊とは泣くもの”と知っていたがあれほど耳に残る鳴き声は俺も初めてだ。


 そんなマイスを世話する助っ人としてアンナさんが登場した。彼女の能力は流石の一言だった。おかげでサラの負担も激減して、更に俺の安眠も約束された。マイスの成長ともに乳母として役目を終えたが、その後も雇用は維持されて通いで働いてもらっている。


 俺はもう一度マイスを抱っこして、風呂場に直行する。マイスは再び抱っこしてもらえたのが嬉しいらしく、俺の頬をペチペチしている。マイスは俺にもかなり懐いている。マイスは俺、シルビィ、ナターシャに非常に懐いており、逆にマリーダはサラとアリスがお気に入りみたいだ。我が家はこの二人のおかげで賑やかな毎日を送っている。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 風呂から上がって俺はマイスの相手をしていたが、しばらくするとマイスは昼寝を始めた。マイスのことをシルビィに任せて、俺は出掛けることにする。どうやらアリスは練兵場に行っているらしいので、ちょっと様子を見に行く。


 練兵場に着くと、アリスとリリが模擬戦を行っていた。どちらも刃のついた真剣を使った模擬戦だ。去年の暮れ、サラはアリスに真剣を持たせることを許可した。これにはアリスも大喜び。サラの前ではちょっと嬉しそうな顔しただけだったが、後で部屋に行くとベッドで飛び跳ねるようにキャキャしてた姿には俺も絶句してしまった。どうやら、滅多に褒めないサラが自分の成長を認めてくれたが嬉しくて堪らなかったらしい。


 それ以来、剣術に対するアリスの意気込みは一気に高まった。そしてやる気と成長した身体とが相まって、ここ数ヶ月で実力が一気に跳ね上がっている。今の模擬戦も押されているのはリリさんで“この勝負は分が悪そうだ”と思っているとアリスの剣がリリさんの鎧を叩き、勝負がついた。


 本当に強くなったな。最近、俺は剣術の稽古量が減少の一途を辿っているのも関係して、ここ半年の間はアリスから一本を取った覚えがない。魔力による身体強化を目一杯高めれば力押しできるが、それでは稽古として意味がない。それにアリスの稽古相手が務まるのは警備隊の中でも副隊長コンラートさん、槍の達人ニコルさん、若手一の剣士リリさんだけしかいなくなるほどだ。一体どこまで強くなるのやらと考えていると、アリスと目が合った。


「クルス、いつ戻ったの?明日じゃなかったけ?」


 額についた汗を手で軽く払いながら、俺に近づいてくる。


「さっきだよ、一日早く帰ってきたんだ。」

「そう、なら今から稽古しましょ。」


 一気にやる気を上げるアリスだが、正直言って勘弁だ。


「今日はもう疲れちゃったから、まだ今度ね。」

「クルス、最近そんなことばっかり言ってあたしの相手をちっともしないじゃない。」

「もう僕の実力じゃ、姉さんの稽古にはならないよ。」


 この言葉にムッとした表情で睨んでくるが“ふっ”と表情を緩めてきた。良いことでも思いついたか?


「私の稽古じゃないは、あなた(・・・)の稽古をつけて上げるの。」


 上手いこと言えたせいか、アリスの顔は得意げな表情をしている。確かに最近アリスはかなり思慮深くなってきたと思う。幼さが薄れ、感情をコントロールしている様も見受けられるようになった。これも剣術の上達とは無関係ではないだろう。そして俺は諦めて、最後の抵抗を試みる。


「分かったよ、でも明日にしてくれる?」

「しょうがないわね、約束よ。」


 俺の返答に満足したのか、今日は引き下がってくれるようだ。アリスは踵を返して井戸に向かっていくが、肩にかかるまで伸びた赤髪を後ろで纏めているので機嫌の良い馬みたいに見える。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 その後、俺は警備隊のカナルさんという魔法師やリリさんと談笑していた。


 ところが昼寝から目が覚めたマイスは俺がいないと大騒ぎして、シルビィが俺を迎えに来た。急いで家に戻ると玄関でサラに抱っこされながらマイスはぐずっていた。そしてマイスは俺を見つけると途端に機嫌が良くなって俺に抱っこを要求。その後、夕食の時間まではマイスと遊ぶことになった。


 マイスはお気に入りの童話“マルスの英雄記”のごっこ遊びがしたいと言ってきたので遊んで上げることにした。マイスは“カキンカキン”、“バビューン”と効果音を出しながら敵(=俺)を容赦なく一刀両断することでご満悦。俺は敵役、仲間役、村人役と3役こなさなければならずなかなかの重労働。それに“マルスの英雄記”は初代国王バルパネスをモデルにしているため子供向けのくせに100冊近くも存在する。我が家にも20冊近くあるため、マイスの冒険は1刻(2時間)にも及んだが終わらなかった。


 中断した冒険は明日以降も続けることになって、俺は夕食にありつけた。本当に疲れた。


 夕食になると俺たちの魔獣退治が話題に上がった。夕食のメインは魔獣の肉を煮込んだシチューであり、この時間には俺が魔獣を倒したことは領都内で結構な噂になっていた。狩りの様子を話すとみんな感心しているが、正直言ってボリスとサラから小言が飛んでくると思っていた。


 “魔獣は危険な獣、何故逃げなかった”と叱責されることはないと思っていたが、まさか絶賛されるとは。サラもボリスも俺ならば普通の魔獣ぐらい倒して当然という雰囲気を醸し出しており、これは去年の事件で俺の実力の一端を知られた所為なんだろう。そんな中、アリスだけが面白くなさそうな顔をしていた。あれは俺に“ズルい”と文句を垂れるときの顔つきだ。


 なんかフォローしたほうがいいかもしれないが、藪蛇になるかもしれない。ちょっと面倒臭いので、考えるのは後にしよう。それに今はマイスが眼をキラキラさせて続きをねだっているので、こっちを落ち着けるのが先だな。


 そんなこんなで楽しい夕食の時間を過ごした。その後はマリーダが寝るまでの間相手をしていた。マリーダはおとなしい子、そして身体がちょっと弱いみたい。俺たちやマイスのときと比べると熱を出す頻度が高く、熱を出すたびにボリスやサラが重い病気じゃないかと疑っていた。しかし、アンナさん、アルフォンス、医者にも“心配しすぎ”とたしなめられてきた。


 しかし、心配する両親を余所にマリーダはすくすくと育っていた。まだ、身体は小さいが熱を出す頻度も半年前に比べれば大分少なくなった。今も俺の言葉を聞いても笑いながら“あー”だの“やー”だのという言葉を返すのみ。マリーダの小っちゃい手を自分の指でツンツンして遊び、マリーダは俺の指を掴もうとしていた。


 半刻(1時間)ほど遊んで上げるとサラが風呂から出てきたのでマリーダのことをお願いして俺も寝ることにした。ここ数日野宿だったので疲れていた俺は直ぐに眠りにつくことができた。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 夕食、風呂も済んでしまい後は寝るだけという状態になっているアリスだが、正直言って面白くなかった。


 何が面白くないかというと夕食で話題になった魔獣退治の件だ。魔獣は時々山や森に現れて、領民に被害を出す危ない獣。通常の獣よりも大きく危険なため、普通は領都から兵士を送って退治する。ところが今回の狩りでクルスは魔獣を倒したらしい。


 これはちょっとズルい。


 それにクルスばっかり外に出てる。もちろん私も領都から外出することはあるけど、その理由はどこぞの貴族とのお茶だのパーティだのと全くもって楽しくないことばかり。それなのにクルスは好き勝手に彼方此方あっちこっち出掛けている。


 ただ、クルスが出掛けるのはそれなりに理由がある。クルスが狩りに参加するのは精霊たちのため。風の精霊ソロと地の精霊パルはクルスと契約しているので、いつも一緒に行動している。だけど精霊とは本来自然豊かな場所で生きるもの。これは精霊が生きるために魔力が必要であり、その魔力が山や森のような自然の中に多く存在するからだ。王都西広場のように街中で精霊が集まる場所もあるが、あれは例外中の例外らしい。


 ソロとパルはクルスから魔力を貰えるので問題ないのだが、精霊たちはやっぱり山とか森に行きたがる。そこでクルスが目を付けたのが“狩り”だった。狩りならば森の中や山の中で数日間暮らすことになるので精霊たちも満足するらしい。そのことはお母様も理解しているから、クルスの外出に反対しなかった。


 更に去年の事件があった所為で、今年からクルスは農村にも行き始めた。そのため一月の内の半分近くを領都の外で過ごしてる。けどお父様もお母様もそんなクルスの行動を許している。


 前にアルフォンスに聞いたところ、クルスは王立学校に行くまでに済ませなければならない教育はとっくに終わっているらしい。更に難しいことも色々教えているが、以前のように毎日勉強を続けているといずれ教えることがなくなるとアルフォンスが苦笑いしていた。


 私もアルフォンスから歴史とかを教えてもらっているが、正直言って勉強はあまり得意じゃない。アルフォンスは私のことも優秀だと言ってくれるがクルスと比較すると悲しくなる。


 違う!!話が逸れたわ。


 クルスが優秀だから自由時間が多いのはいい。これは仕方ない。でもクルスだけが外でいろんなことを出来るのはズルい。私だってたまにはいつもと違うことがしたいわ!


 でも、それにはどうすればいいのかしら?


 例えば魔獣を倒しに行きたいといっても、魔獣なんてそんな簡単に見つかるものじゃないとお父様が言っていた。実際、うちの領内で魔獣が現れたのは2年ぶりだし、探して見つめられるものでもないのだろう。外に出てみたいとは思っているが明確な目的があるわけじゃない。


 うーんとベッドに転がりながら考えていてもいい考えはなかなか浮かんでこない。どうしよう、クルスに相談しようかな?と思っていたらとっても良いことに気が付いた。


 全部クルスに任せればいいんだ。


 外に行く目的も外に行くためにお父様とお母様の説得の方法もクルスに任せてしまおう。妙案を思いついた私はその後すぐにぐっすりと寝ることができた。


 翌日の朝、この話をクルスにしたら生意気にも自分でやってくれと泣きそうな顔していたが、姉の強権をもってクルスをなんとか納得させた。するとその日の夕食前には作戦を考えてきてくれて、夕食後クルスと二人でお父様たちを説得できた。クルスの話術は流石で、お父様たちはしぶしぶだが私がクルスのお出掛けについていくことを許可した。勉強があるため、毎回クルスについていける訳じゃなかったがとっても嬉しかった。


 クルスにお礼をしたら“次からは自分ひとりでやってくれ”と言われた。最初は“生意気な”とも思ったが折角頑張ってくれたクルスが嫌な気持ちになるのは良くないので“これからも頼りにしてるわ”と笑顔で言ったら、ガックリとして自分の部屋に帰っていた。


 その様子がちょっと面白かった。



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