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終末への旅  作者: パウエル
第2章
20/33

第19話 狩りと魔獣

前話のしこみはしばらく保留で、今日からは成長したクルス達の日常の話です。

 アルケリア暦769年の春、クルス・ヴァンフォールは9歳へと成長した。


 この3年で身体はかなり大きく成長して大分逞しくなった。未だにアリスの身長に追いついていないのは少々引っ掛かるが、まぁ仕方ない。だが、成長した身体のおかげで剣術と魔法も大きく成長しており、もうかなりの力を取り戻しつつある。


 そんな俺は今、領都から2日ほど離れた小さな山でコソコソしている。俺の隣には友達のエルも一緒だ。こんなところで何しているのかというと俺たちは狩りをしている。エルはもうすでに3年近く親父さんの傍で仕事を覚えて一人前になった。俺はそんなエルの仕事に時々に同行させてもらっている。


 もちろん最初は親父さんを含めた狩人たちに大反対された。彼らも領主の息子にこんな事やらせられない、怪我をさせたら大変と思ったに違いない。だが、そこを巧みな話術で大人たちを騙して、取り敢えず一回は連れて行こうという流れになった。


 そして、エルの親父さんたちは俺に山の歩き方、動物の探し方、気配の隠し方など狩人必須の技術を教えてもらった。俺はその教えを3,4日というあっという間に習得して、親父さんたちを驚かせた。当然、俺は元から狩りの技術を習得しており、知らない振りして習っただけだ。能力的に問題なく、また俺の両親も許可を出したので親父さんたちは俺の同行を認めてくれるようになった。


 そして今、俺たちの前方の少し離れたところ(約30m)にはコウライ鳥が木の枝で羽を休めている。俺たちは木の枝が弓の射線に入らない場所へとゆっくりと移動している。とにかく音を立てないように慎重に……。


 予定の位置まで近づくと、エルは弓に矢を番えてゆっくりと弓を引いた。弓を支えるエルの左腕は微動だにしない。大したもんだと感心していると矢が放たれ、コウライ鳥が地面に落ちる音がした。


「やったね、エル。」

「そうだね、クルス。」


 エルは緊張を解いて俺に笑顔を向けてくる。二人でコウライ鳥の傍まで行くと矢は見事首の辺りに命中している。


「さすがだね。」

「ありがとう、じゃ血抜きをしちゃおうか。」

「うん。」


 狩りは通常、2人一組でやることになっている。今回の獲物はエルが仕留めたので、俺はその後の血抜きを担当する。俺は手持ちの短刀でサクサクと鳥の血抜きを済ませると“水玉ウォータボール”を唱えて鳥や手を綺麗に洗う。最後に持っていた袋に獲物を突っ込んで作業は終了。これで獲物は2匹、まずまずでしょう。


「クルスがいるといつでも水を出してもらえるから本当に助かるよ。」

「エルも覚えてみたら?多分できるよ。」

「えー本当?クルスは何でも直ぐに出来ちゃうから信用できないな。」


 俺とエルはお互いに苦笑い。俺はここ数年で大分派手な活躍を見せたので、エルはそのことを言っているんだろうな。まぁ、確かに領内では結構な噂になっちまったし、仕方ないか。


「今日はここでおしまいにしよう。」

「そうだね、馬車に戻ろうか。」


 エルの言う通りそろそろ戻った方がいい、そろそろ日も暮れる時間帯だし、馬車に戻っても獲物を解体作業が残っている。俺たちは狩りの緊張感を緩め、お喋りをしながら馬車に向かって歩き出した。そして俺はちょっと悪戯を思いたような顔してエルを弄ることにした。


「そう言えば、この前オルドに会ったらエルの文句ばっかり言ってたよ。」

「えっ、僕何かしたっけ?」


 エルには自覚がなさそうだ。まぁ、仕方ない。オルドが女々しいやつだからな。


「この前さ、リサちゃんに手作りのお菓子を貰ったんでしょ?」

「あー、うっん。」

「オルドが悔しがっていたよ。」

「その事か……この前リサちゃんの弟と遊んであげたんだけど、そのお礼に貰っただけなんだよ。」


 エルは少し困った顔をしている。去年から、エルに対する女の子からアプローチが多くなっている。俺が知っているだけでも5人の女の子が本気だ。多分他にもいるだろう。


 子供の頃からエルはなよっとした可愛らしい男の子だったが、仕事に就いてから身体が逞しくなってかなりの美男子に成長した。そんな美男子を領都の女の子たちが放っておいてはくれなかった。エルは今年13歳、平民の結婚年齢は15~20歳といったところ。そこでエルの嫁の座を巡って領都では火花が散っており、俺も傍観している。


 だが、この状況に対して非常に面白くないのが同年代の男たち。厳密に言えば女の子たちに相手にされない男の子たち。その一人がオルドの奴だ。オルドは面倒見のいい奴だから年下の男の子には慕われているが、乱暴で粗野なところが女の子には不人気らしい。


 しかもオルドはリサのことが好きらしく、自分の思い人がエルにアプローチしている状況に一人憤慨している。可哀想な奴だ、そしてエルはオルドがリサのことを好きなのを知らない。ある意味、三角関係だがエルとリサの思いは伝わっていないぽい。


「リサちゃんはエルのことがきっと好きなんだよ。」

「そうなのかな?」

「そうに決まってるじゃん。エル、自分が女の子に人気があるのは流石に分かってるよね?」

「……うん、僕のどこがいいのかな?」


 俺はこの憂いを帯びた顔つきに女の子たちが“キャーキャ”しているんだと言ってやりたかったが止めておく。


「だってエル恰好いいし、優しいし、人気でるのは当然じゃん。」

「それを言うなら、クルスの方が格好いいよ。勉強も出来るし、魔法も使えるし、みんなが凄いって言ってるよ。」


 まぁ俺も大分有名になってしまったが、まだ9歳なんで同年代の子供たちはまだ色気づいていないからアプローチを掛けられたことはないな。あと、一応貴族の嫡男だからか遠慮している子たちが多いんだよ。正直、エルと同じ年頃の子たちのほうが気安く声も掛けてくれるしな。


「僕のことはいいんだよ、それよりも誰かと付き合ってみればいいじゃない。そうすればオルドたちも少しは落ち着くよ。」

「……でも。」

「好きな子いない?」

「……。」


 驚いたことにエルがみるみる赤くなっていく。おぉー意外だ、ちゃんと好きな子はいたんだ。朴念仁かとも思ったが、これは俺の勘違いだった。


「誰?教えてよ?」

「うっ、い、言えないよ。」

「えー、いいじゃん。大丈夫誰にも言わないから。」


 あと1限(10分)もあればエルの口を割らせることができるところだったが状況が変わった。雑談に夢中になっていると“ビー”と大きな笛の音が山の中に鳴り響いた。


「エル、乗れ!」

「うん。」


 エルは躊躇せず俺の背中に飛び乗った。俺は魔力を身体強化と魔力感知に注いで、山の中を全力で飛び跳ねていく。


 あの笛の音は緊急を報せるモノ、親父さんたちの身に何かあったらしい。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 しばらく走ると、怒号と雄叫びの渦中に飛び込むことになった。俺たちが最後に到着したようで親父さんたちは全員いる。しかし、7人の内、2人が怪我を負い、2人がその治療に当たり、3人が魔獣と相対している。


「エルとパルは怪我人のところへ、ソロはついてこい!」

「分かった。」


 エルを背中から降ろした俺はソロと一緒に魔獣と戦っているエルの親父さんたちの加勢に向かう。親父さんたちは魔獣を相手にかなり苦戦している。前衛の2人は従軍経験もある一流の狩人だが、近接戦闘は得意じゃない。


「おじさん、僕が相手をするから援護して!」

「すまん!」


 俺の“水玉ウォータボール”と風の精霊ソロの“風弾エアブレット”を大量に放ちながら魔獣を俺たちに釘付けする。魔獣も俺たちを厄介な敵として認めたのか、木を盾にするようにして魔法を避けながら接近してくる。そこで、魔獣をこの場から離れるように誘導していく。


 魔獣は俺たちを追いかけてきたがしばらくすると開けた場所に辿り着き、俺は静止して魔獣を迎え撃つ体勢をとる。魔獣は勢いそのままに俺に向かってくるが、ソロが特大の“風弾エアブレット”を放ったことで魔法の回避を優先し、俺たちへの突撃を諦めた。


「ガルッルルルル。」


 魔獣は大分興奮しているようで眼が血走っている。目の前にいるのは狼型の魔獣で大きさは通常の狼の3,4倍でかなり若い個体に見える、これは説得するのは無理そうだなと心中でぼやく。仕方ない、俺は念話でソロとの打ち合わせを済ませて段取りを決めてから魔獣に突貫をかける。


 魔獣も俺の動きに合わせて正面から突撃してくる。あの赤い眼は俺の頭ごとを食い破ろうと狙いを定めて、大きな口を開けて牙を剥き出しにしてくる。しかし、そんな狼の定石は当然予測しており噛み付く口を魔力で覆った両手で抑え、渾身の力と魔獣の勢いを利用した上空に投げ飛ばす。


 この攻撃には流石の魔獣も信じられないような顔しているが、空中では満足な動きが出来ない。なんとか俺の方に視界を向けた魔獣だが今度は真下から吹き付ける突風によって更に上空へと飛ばされる。ソロの魔法だ。


 この魔法によって魔獣は空中で回転を余儀なくされて、敵の存在を完全に見失った。何とか体勢を立て直した魔獣は森の中を見下ろすと、そこには精霊しかいない。“何処だ!!”と思ったときにはもう遅い。


稲妻ライトニング

「グッフウウウウ」


 俺は魔獣の注意がソロに向いている内に魔獣より更に高い位置に飛び上がって詠唱を行い、魔獣の体勢が整ったと同時に急降下して魔獣に肉薄して魔法を完成させた。身動きの取れない空中でこの魔法を受けた魔獣は受け身も取ることなく地面に落下した。


 雷の下位魔法“稲妻ライトニング”、相手の体内に電撃を浴びせることで体中を麻痺させる魔法。下位魔法で最も威力が高いと言われているが、相手に直接触れなければならないという欠点も抱えている。


 地面に叩き付けられた魔獣は、遅れて地面に降り立った俺に憎しみの籠った眼で俺を睨んでくる。まだ、闘志は萎えていないみたいだが、残念ながら勝負はついた。魔獣が動き出す前に、魔獣の右眼と首に2本の矢が深々と刺さる。


「ギャオーーーー」


 親父さんたちの矢だ。魔獣の防御魔力はなかなかのモノだったが、親父さんたちの技量も流石だ。かなり魔獣の身体の奥深くまで矢が貫いている。魔獣は最後の足掻きをしたいところなんだが、恐らく矢に塗ってあった痺れ薬が効いてきたようで足が震えている。


 俺は短剣を握り締め、最後まで闘志の萎えない魔獣に止めを刺す。しばらくすると魔獣の眼から力が失われた。事切れた魔獣を見ると俺は息を吐きながら、安堵で緊張を緩める。今回の転生ではこれが魔獣に遭遇した始めての経験だ。


 魔獣とは魔力を操ることが出来る獣のことだ。狼や熊などの獣たちも魔力を持っているが、ほとんどの個体が魔力を使うことが出来ない。なかには魔力で身体強化をしている獣がいるが、ほとんど初心者魔術師並のザコ。そんな獣たちの中で魔力に対して異常に高い適正をもつ獣たちのことを“魔獣”と呼ぶ。


 魔獣は精霊と同じように魔力を自在に操る。特に身体強化に対して高い適正があり、倒すには身体強化を操れる騎士が4,5名はいないと歯が立たない。また、個体によっては魔法も詠唱なしで使えることがあり、非常に厄介な存在だ。


 今回戦った魔獣は標準的な強さで、下位精霊より少し上の魔力量だった。そして魔獣としては若い個体だったので、倒すのにはそんなに苦労はしなかった。場所によっては上位精霊並の強さをもつ魔獣も発生するので、その場合は力を隠すことが出来なかっただろう。


 しかし、上位精霊並の魔獣なら説得することも出来た。その水準になると魔獣は人語を理解し、念話が出来る個体も珍しくない。獣神の眷属である聖獣たちも元々は魔獣だった言われており、非常に理知的な魔獣も存在する。だが、そんな魔獣も同族を殺されている状況ではなかなか融通を聞かせてはくれないが。


「クルス君、助かったよ。」

「おじさんこそ、流石です。」

「君が足止めしておいてくれたからさ。」


 俺が物思い耽っているとエルの親父ガルさんが声を掛けてきた。魔獣に矢を放ったのはガルさんともう一人の狩人。ガルさんは無精髭が伸びている今は山賊のような風貌だが、髭を剃ると結構渋い顔つきのかっこいい人だ。そしてこの狩人たちのまとめ役でもある。


「取り敢えず、怪我人のところに戻りましょう。」

「そうだな、しかし久々の大物だな。魔獣なんて2年ぶりだ、しかも俺たちだけ仕留めたのは始めてだな。」


 通常、魔獣が現れた場合は一旦逃げて盾役の兵士たちを呼んでからの大捕り物になる。親父さんは怪我人を逃せたら、全員で逃げるつもりだったのだろう。


 俺たちが元の場所に戻ると既に誰もおらず、馬車がある方角に向かって急ぐと途中でようやく仲間たちと合流できた。怪我をした二人はなかなかの重傷だったが、すぐに地の下位精霊パルが治療を開始したため命に別状はなかった。俺たちは先ず怪我人を馬車まで連れて行ってから、倒した魔獣のもとに急いで駆け付けた。既に陽が落ちる寸前だったので、急いで血抜きだけを行い、四人がかりで魔獣を運んだ。


 俺とエルはそんな大人たちを後ろから見学しているだけだったが、親父さんたちは誰もが嬉しそうだった。魔獣の肉や皮は普通の獣とは段違いに高いらしい。魔獣は相当重そうだが親父さんたちはこの儲けでなんか買おうかと楽しそうにしている。


「クルスはやっぱり凄いね。」

「何が?」

「だって、あんな大きな魔獣を一人でやっつけたんでしょ。」

「おじさんたちも助けてくれたし、ソロがいたおかげだよ。」


 エルは始めて見る魔獣に興奮しているみたいだ。俺に対して領都の女の子たちを虜にしたキラキラした眼を向けてくる。正直、その顔をやられると居心地が悪い。


「そうだな、俺たちだけで魔獣を仕留められたのはクルス君のおかげだな。」

「確かになぁー、俺っちは正直逃げることしか考えていなかったぜぇ。」

「だな、俺も魔獣は始めてだから、マジでビビったし。」

「魔獣退治は盾役がいないとどうにもならんしな。本当に助かったよ、クルス君」


 ガルさんたちも俺のことを褒めちぎってくる。そしてみんなが浮かれている。


「しかも今回の儲けってかなりの金額っすよね?」

「いつもだと領主様に兵隊を借りるからその経費が結構掛かるが、今回は丸々浮くからな。」

「いつもそうだといいんだけどなー。」

「おい、馬鹿。」


 まるで領主を批判しているとも取られかねない言動にガルさんが苦言を呈し、俺に申し訳なさそうな顔を向けてくる。


「すまん、クルス君。別に領主様に文句があるわけじゃないだ。領主様は安全第一に考えていらっしゃるから……。」

「おじさん、分かってますよ。別に言いつけたりなんかしませんよ。」


 俺の笑顔に他の狩人の人たちがホッとした顔している。


「でもクルス君、分け前を渡さなくて本当にいいのかい?今回の儲けは軽く見積もってもいつもの倍の金額になるよ。」

「いつもの通り、お肉を少し分けてもらえればそれでいいですよ。僕は精霊たちを山に連れて上げたかっただけですから。」


 こうして仲良くお喋りをしていると馬車ところまで戻ってきた。そして今日の獲物の解体作業や燻製作業が始まった。魔獣がある所為でこの日の作業は深夜近くまでに及んだが誰も文句を言うことなく作業を行って、ようやく就寝することになった。


 こうして長い一日が終わった。



次話は明後日更新になります。

これからもよろしくお願いいします。

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