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終末への旅  作者: パウエル
第1章
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外伝1話 動乱への序章

 所変わり、アルケリア王国とは海を隔てた別大陸グルーデ大陸のとある国。


 古代大戦後、グルーデ大陸は争いの堪えない危険な土地になってしまった。カルディア大陸がアルケリア王国によって統一され、平穏なときを過ごしたのとは対照的にグルーデ大陸は小国が乱立してしまい、国同士の争いが激化した。そのため、国の統治は苛烈な傾向になり、農民は虐げられ、治安も悪い国が多かった。その結果として多くの奴隷、流民を生み出すことになった。


 そんな小国の中の一国、その国の王都に多くの市民が広場に集まっていた。いや市民というには見窄みすぼらしい恰好の人たちが多かった。だがそれを気にするような人々はこの広場に集まっていなかった。


 集まった人々は皆一様にその時が訪れるのを待っている。


 集まった人々にとって今日は生涯忘れられない日になるはず。広場の中央には周りよりも一段高い段になっており、30本はくだらない数の丸太が地面から垂直に立てられている。そして、その棒の周りにも薪のような木材が埋め尽くされている。だが、最も注目を集めているのは中央にある置物だ。置物には黒い布が被さっているため中を見ることが出来ないが、集まった人のほとんどがその中身を予想している。


 あの“置物”はこの国の象徴だ。


 集まった人々の中には“置物”を直視できない人や泣き出す人がいるが決してこの場を離れようとしない。あの“置物”が使われるのは今日が最後。


 そして街中に鐘の音が響き渡る。


 鐘の音と伴に広場の奥側から沢山人々がやってくる。一番多いのは武器を持った兵士だが、その兵士たちは正規軍というよりは傭兵のような恰好をしているものがほとんど。そして、その兵士たちに連行されているのは貴族と思われる老若男女。貴族たちは体中を縄で縛られた上に猿轡さるぐつわをされているため何を言っているか分からないが、怒鳴っているか泣いている者がほとんどだ。


「準備しろ。」


 広場に辿り着いた兵士たちは、その言葉を合図に貴族たちを広場に刺さっている丸太に括り付ける。貴族たちは懸命に抵抗するが、兵士たちが2、3発殴ると途端に抵抗が弱まる。流石に30人近い人数を縛り付けるのはそれなりの時間が掛かるが、それを待っていた人々にはあまり長く感じられなかった。


 これまでの苦難の日々を耐えてきた人々にとって、この時間はその苦難を思い出す時間と言えた。


 しかし、そんな心情をまったく把握できていない男が一人、広場の中央に転がされていた。恰好は連行されていた貴族の誰よりも豪華であり、頭の上には王冠が外れないように括り付けられている。その眼には憎悪を宿らせているが、若干の恐怖も併せ持っている。その男を冷然と見下ろしていた兵士タウンゼンはその眼を見て笑った。


“まだ元気があるな”


 転がされていた男を除いた全員が丸太に縛られたのを確認して、タウンゼンは男の頭を蹴っ飛ばした。地面に叩き付けられたことで顔面から血を流してうめいている男の猿轡を外してやるとする。


「き、さ、ま、何をやっているのか分かっているのか!!」

「ああ、地面を這いつくばる蛆虫を蹴っ飛ばしやったのさ。」

「タウンゼン!!」


 この男は非常に元気だ。これまであまり痛めつけてこなかったので、心はまだまだ折れそうにない。男の怒声はこの広場にいる人々の憎悪を一層増幅させる。この男にはこれまで俺自身も色々苦しめられてきたが、今日だけはこの男に感謝しよう。こいつは最高の生贄エサだ。そんなことを考えていると、俺は珍しく笑みが零れてしまう。


「国王である余を縛るなど、奴隷である貴様に許されると思っているか!!」

「さぁ、興味無いな。だが、この広場の人々は誰も文句を言わないようだな。」

「この恥知らずどもめ、貴様ら奴隷は国王である余のお情けで生きていることを忘れたか。」

「そんな妄言、いま始めて知りましたよ、陛下。」


 この俺の返答に周りの兵士たちが可笑しそうに笑っていた。広場に集まっている市民たちは憎悪を宿らせた瞳を隠そうともしないが、俺の周りにいる兵士達やつらは笑っている奴が多い。兵士たちの憎悪はここに集まっている市民たちに決して劣るものではないのだが、それを隠すのが上手くなっている。


 アルの奴が“それは指導者であるタウンゼンの姿を見習っているからさ。泣ける部下たちじゃないか。”とか言っていたな。アルの言うことを肯定するのはしゃくだが事実の一端を捉えていることは否定できない。そして、笑っている俺たちに腹を立てた国王が最後の足掻あがきをしてくる。


「この愚民どもが!! 貴様らなど、余が必ず殺してやるわ――。」

「どうやって?」

「余の宝剣である王国軍がいるわ!! 貴様らなど王国軍のいない隙を狙ったネズミの分際で、何を勘違いしているか!!」


 そう、その言葉を待っていた。お前が虚勢を張っていられるのも隣国に向かった王国軍の存在があったからだろう。きっとこいつは次に命乞いをしてくるぞ、精一杯虚勢を張って。さぁ、俺の期待を裏切るなよ。


「貴様らの助かる方法は今すぐ余の縄を解き、大地に頭を擦り付けることだけだ!! さもなくば貴様らの親兄弟はおろか貴様らの喋ったことのある奴を含めて一人残らず地獄に叩き落としてくれるわ!!」

「(小声で)地獄か、……俺はここ以上の地獄があるとは思えないのだがな。」

「何を言っている。さっさと解け!!」

「持ってこい。」


 俺の言葉を受けて、兵士の一人が白い布にくるまった剣を持ってくる。それを受け取ってから国王にこれを見せる


「これが何だか分かるか?」

「知るか!! 早く解け――。」

「そうか、ならばよく見てくれ。」

「……はぁ、な、ぜ、その宝剣が。」


白い布を取り去って現れたのは魔剣だ。この魔剣を見て国王は呆けている。この魔剣はただの魔剣ではない、この魔剣こそがこの国の国宝。


「知れたこと、俺が奪ったのさ。」

「ば、ばかな、その宝剣は王国軍を束ねる元帥に余が授けたもの。こんなところにあるはずが……」


 国王の声はどんどん小さくなり、その瞳には怯え以外見えなくなってきた。


「お前は本当に愚かな奴だ。俺たちがこの1ヶ月の間遊んでいたと思っていたのか?」

「王国軍は……。」

「この世から抹殺した。」

「……」

「文字通り、一人も残さず根絶やしにした。持って来い!」


 兵士が国王の顔の前に、口から血を流し、目を見開いた元帥の頭部を置いていった。


「……元帥。」

「そう言えば、お前は最初になんて言っていた?ああ、確か“何をやっているのか分かっているのか”だったかな?」

「……」

「お前こそ状況は飲み込めたか?」


 ここに至って国王はようやく状況を理解した。もう助けはいない。それに呼応するように広場から集まった市民からの罵声が鳴り始めた。多くの市民は“死ね”、“くたばれ”と罵っているがあんまりの大きさに俺の耳も痛い。だが、しばらく我慢しなければならない。ここまでの間、俺のくだらない芝居のために市民は良く我慢してくれた。そんな市民の怒りを少しは発散させてやらなければならない。


 それに、この罵声は国王を追い詰めている。地面に転がされていた国王はこの広場にどれだけの市民がいるか理解できていない。分からないということは恐ろしいことだ。自分が今どれだけ敵に囲まれているか分からいない。そしてその中に味方は一人もいない。そのことをやっと理解できたらしい。


 らしくないことに震える国王の顔を眺めながら俺は悦に入ってしまい、奴が失禁した臭いの臭さに正気を取り戻した。そこで俺は手を上げる、すると市民の罵声が一気に止んでいった。


「国王陛下、私から陛下にもう一つプレゼントがあります。」

「……」


 もう国王は何も喋ろうとはしない。俺は目で兵士たちに合図を送ると、4人の兵士が国王を広場中央にある置物の前に立たせた。そして俺は置物の黒い布を引きはがす。そして、国王は“それ”を見て、全身が大きく震えだした。顔面も蒼白になり、今にも気絶しそうだったので俺は先ほどの魔剣で奴の足の甲を刺した。


「ッギャ――――!!!」

「これが何なのかは陛下が一番ご存知でしたね?」


 気絶などさせてやるものか、俺は奴の悲鳴を無視して話を進める。あの置物は“怨嗟の檻”と言う名の処刑具だ。この“怨嗟の檻”は国王のアイディをもとにこの国の総力を結集した魔道具らしい。見た目は大きな卵の殻のような箱。だがこれこそがこの国を多くの人々を葬ってきた残虐な非道な道具。だが、そんな道具だからこそこの場に相応しい。


「この道具の素晴らしさは陛下が十分にお判りでしょう。ぜひ最後の機会に自らの体でお楽しみください。」


 恐らく俺はこれ以上ないくらい笑顔を国王に向けている。


「いやだ―――――。」

「やれ。」


 国王の絶叫を無視して兵士たちが国王を“怨嗟の檻”の中に押し込んでいく。兵士たちは暴れる国王の腹や顔に拳を5、6発入れてから“怨嗟の檻”の所定の位置に足や手を固定していく。言いたくないがこの“怨嗟の檻”は人をなぶり殺すためという観点ではよく出来ている。腹立たしいことに。


「準備が整いました。」


 “怨嗟の檻”の中では身体を固定されていた国王が身体をゆすって、どうにか外に出ようともがいている。最後まで諦めの悪い奴だ。


「よし、起動しろ。」

「はっ。」


 俺の合図によって魔道具に魔力を込められる。すると、「ギャ―――。」という国王の悲鳴が聞こえてくる。まず中の魔道具が国王を縛っていた縄を炎の魔道具によって焼かれ、悲鳴が上がる。もちろん縄だけを焼くような器用なことはしていない。


 そして次に“怨嗟の檻”の床や壁の温度がみるみる上昇していく。特に床の金属の色が段々明るくなってきており、その温度が容易に想像できる。この床や壁の熱さは下に行くほど熱く、上に行くほど冷たくなっている。したがって、国王は叫び暴れながら上へ上へと逃れようと暴れている。だが、その壁には無数の突起がつけてあり、上ろうとする者を阻んでいる。ただこの突起は短いため、根性のある奴は結構上っていく。


 しかし、そこで待っているのが次の仕掛け。


 「ギャ―――。」と国王の汚い悲鳴が広場に響き渡る。二番目の仕掛けとして、ある高さ以上の壁に触れると天井穴から冷たい水が噴き出す。だが“怨嗟の檻”の中は既に高温状態、つまり流れ込んだ水は一瞬で高温の蒸気へと変わる。この蒸気によってこれまで手足のみに広がっていた火傷が全身に広がっていく。また、この火傷は身体の表面にみではなく、息を吸うことによって身体の内部も高温の蒸気で侵す。


 それにしても国王の声が良く聞こえる。“怨嗟の檻”の天井は普通の大人がどうにか脱出できるだけの穴が開いている。あれは中の人間の希望であり、外から悲鳴をよく聞くための窓の役割を果たしている。国王は“怨嗟の檻”で処刑を行うとき必ず、あの窓から中に人間を観察する。俺たちの中にそんな真似をやりたいと思うやついない。あの耳障りな声だけで十分だ。


 1限程|(10分)の間、高温の壁と蒸気にのた打ち回ったあと国王の悲鳴が小さくなってきた。ここで魔道具を一度止めるように指示を出す。そして、周りの兵士たちは次の準備にかかる。最初に丸太で縛り上げていた貴族たちの猿轡を外してやる。連中の中で罵声を吐くような元気のある奴はもういない、泣いているか命乞いをするやつしかしらない。


「陛下、如何お過ごしですか?」

「……」

「もう何も喋れませんか?助けてほしくないんですか?」

「……た…しゅ……け…て……。」


 もう限界だな。なら最後の仕事だ。


「あなたがこれまで処刑した人間が“助けて”と言ってきた時、あなたはどうしましたか?」

「……た…しゅ。」

「それが答えですよ。」


 その答えを最後に俺はこの処刑台から下りる。兵士たちも既に全員下りている。処刑台にいるのはもう国王と貴族たちだけ。


「やれ」


 俺の号令に呼応して、魔法師が火の魔法を処刑台に向けて放つ。処刑台に敷き詰められた木材に火が命中し、処刑台はあっという間に火に包まれる。そして、そこには泣き叫ぶ貴族たちの最後の悲鳴が広場を埋め尽くす。


 その光景を俺と市民たちは静かに見守っている。泣いている者、喜んでいる者と様々だが、不思議と声を上げている市民はいない。ただ、ただ、この地獄のような光景を目に焼き付けている。


 こんな光景を俺は幾度見ることになるのだろう……。


 いや、何度だって俺は同じことをする。


 この腐った世界に俺たちの居場所がないなら、この腐った世界を滅ぼしてから俺たちの居場所を創る。それが俺のために死んでいった仲間に対する罪滅ぼし。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 そして悲鳴も聞こえなくなり、もう木材の焼ける音しか聞えなくなった。


 俺は処刑台から目を離して、市民の方を向く。いつの間にか俺の真後ろにいたはずの市民たちは3歩ほど離れており、わずかな空間が出来ている。その空間にある台の上に上って、俺は今日最後の演説を行った。


「今日、この瞬間、この場所は俺たちの国になった。俺はこの国をエルフェリアと名付けた。これまで本当にありがとう。だが、俺たちの戦いは当分終わることはない。俺たちを“奴隷”とさげずむ奴らを滅ぼすまでは戦い続ける。俺はそれ以外の方法をしらないから。……こんな俺についてきてくれて、ありがとう。」


 この広場に集まった全ての人々がタウンゼンに向かって拍手を行っている。その誰の目を見ても自分たちをここまで導いてくれたタウンゼンに対して尊敬の念を宿していた。




 今日この日より、グルーデ大陸の動乱はより一層加速する。


 そして、その力はカルディア大陸にも及ぼうとしている。


これにて第1章完結です。次話から第2章ですが、時間も場所も変わって、しばらくほのぼのモードです。ドンパチまではまた時間を要します。

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