第15話 魔法②と精霊
年が明けて、2日目。
新年の催しのため、大人たちが出掛けているのをいいことにクルスは自室に籠っていた。取り掛かっているのは魔道具の改造。一昨日、カトリーナに腕輪型と指輪型の魔道具を一個ずつ買ってもらった。その腕輪型の魔道具の内側に新たに刻み込む魔法陣を設計している。
魔道具の改造はある意味、転生直後の恒例行事のためいつもの魔法陣を刻めばそれで事足りるのだが今回は久々に改良を加えようと思う。そこで、今俺の前には魔法陣のアイディアとなる素案が記されたメモが机の上に広がっている。昨日から書きまくっているから、ナターシャに見つかったときは小言を頂戴した。
だが、その成果か大体の素案は完成した。この魔法陣は見ても誰もこれが魔法陣だと気付く奴はいないだろう。玄人ならば辛うじて精霊語が書かれていることが分かる程度だ。魔法陣は“魔力操作、詠唱、遷移といった魔法発動のプロセスの大部分を代用する道具”だが、この魔法陣には詠唱を担当する部分しか描かれていない。
まぁ、このこと自体は珍しくない。魔法師が魔道具を作成する際には魔力操作、遷移と言った部分を魔法陣が省くことがある。これは魔法陣のスペースを確保するためだ。上位魔法、高位魔法クラスになると魔法陣がこの部屋では収まらない大きさ(直径10m)になるので、必要のないモノは省くのは当然だ。
だが、この魔法陣に描かれている魔法は精霊が使っている魔法にかなり近い効果を発揮する。
精霊の魔法と人の魔法には決定的に違いがある。人が使う魔法は“火を生み出す”というように何もないところに魔力から火を作り出す。もちろん精霊も“火を生み出す”ことはできるが、もうひとつの技能がある。それは自然界にある“火”を精霊の制御下におき、その火を操る魔法だ。
この前、神殿騎士との戦いで“灼熱の業火”で発生した炎を“炎の城壁”で再利用したが、これは普通の魔法師にはできない技能だ。この技能を身につけた人間はほんの一握り。
この魔法陣は精霊と同じように自分の魔力で生み出した“火”と自然界にある“火”を自分の魔法として制御することが可能になる。この魔法陣の意味としては炎よと同じだが、炎に関してあらゆる干渉を行えるように調整されている。また、新作の魔法陣ということで他にもいくか機能を追加した。
この魔道具によって火に関しては高位精霊を上回りかねない実力を俺は手にする。
そう言えば、精霊のソロが朝から西広場の仲間たちのもとに出掛けていたな。
あのあと俺は風の下位精霊ソロと正式に契約を結んだ。出会ったあの日、一時的にパスを繋いだせいでソロはそれ以降も毎日俺と会おうとする。魔道具を買いに行ったあの日、王立魔法協会に行った俺のもとに飛び込んできた。前日、疲れて寝込んでいたため会いに行かなかったので心配したらしい。これは毎日会いに行かないと大騒ぎしそうなので、俺は契約を交わすことにした。これには家族一同びっくりしていた。
目立つことは控えたがったがしかたない。ソロはよっぽど俺の魔力が気に入ったらしく、俺から離れたがらない。元々精霊は魔力を糧に生きている。魔力はこの世界のあらゆるモノに宿っており、精霊はその魔力を貰って生きている。
さて、そんな精霊がどうして人と契約するか? これは人から貰える魔力が精霊にとって非常に“おいしい”らしい。精霊たちが言うには大地や水など自然物に宿っている魔力はそれぞれ微妙に違うらしい。なので、風の精霊は風から魔力を貰うのを好んでいる。大地からも貰えるが、風のほうが美味しいらしい。
あらゆるモノから魔力を貰うことのできる精霊だが人の魔力は別格に美味しいらしい。精霊曰く、人の魔力は自然の魔力を濃縮したような深い味わいがあるらしい。もちろん全ての人がそんな味がするわけじゃないが、魔法に高い適正を持つ人ほどその傾向が高い。
まぁ、俺としてもいずれ精霊とは契約するつもりだったからいいかと納得した。下位精霊を一から育てるのは手間だが仕方ない。
精霊は下位、中位、上位、高位の4段階の位階に分かれている。下位精霊とはこの世界に顕現できない若い精霊だ。中位、上位と成長するごとに扱える魔力も増え、自我も発達してくる。そして最終的に高位精霊にまで成長するらしい。俺も上位精霊までは育てたことがあるが高位精霊まで育てたことはないし、達成できた人がいるとも聞いたことがない。
そんなことを考えていると、ノックが鳴った。
「クルス様、入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
入室を求めたナターシャに返事をした後、俺は自分の大失態に気付いた。俺のこの周りの惨状に。昨日以上に散らかっている……。
ヤバい。
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王都のヴァンフォール家別邸において、アリスは自分に与えられて部屋で暇を持て余している。
祖父母と父は今日も王宮に出掛けており、明日以降は大貴族の屋敷で開かれるパーティに出席する。その間、私にはやることがなくて暇で暇で仕方ない。ナターシャと礼儀作法の稽古やシルビィとのお喋りなども出来るが、二人には仕事があるのであんまり迷惑はかけられない。
いつもなら剣の稽古をやるところだが、これは祖父母に止められてしまった。来てみて分かったが王都は領都よりも大分寒い。この前クルスが体調を崩したのも“この寒さにやられたんじゃないか”と父も言っていた。ただそのせいで、しばらく外で稽古をしないでくれと言われた。
正直嫌だったが、我が儘は言わなかった。
取り敢えず部屋の中でも素振りだけは出来るから、多少は身体を動かせる。しかし、素振りだけで1,2刻(2,4時間)も使えない。だから私は時間を持て余している。ナターシャには“本を読んでみたらどうか”と勧められたがこの屋敷にある本は難しい本ばかりで私には読めなかった。というか、この屋敷の本は細かい字がビッシリと書いてあって、良く分からない単語、挿絵もない本で私が本と思っていたものとは別物だった。
私がこれまで読んでいたのは子供用の童話くらいしかなかったので、本とは本来こういうものだと教えられた。それを聞いて、仕事中の父が本を読みながら唸っているを思い出して、お父様も頑張っていたんだと少し見直した。
でもここで聞き捨てならないことを聞いた。クルスはこんな難しい本を普通に読んでいるらしい。確かにこの前見してもらった魔法書は凄かった。私は何が書いてあるかさっぱり分からなかったが、あれをクルスは理解しているらしい。あの子はやっぱり凄いと思った。
そのクルスは今部屋に籠って何かしている。何かの模様や文字を紙に沢山メモしていた。それが何を意味しているのか分からなかったので私は教えてと頼んだに“ナイショ”と誤魔化してきた。
弟のくせに生意気な!
でも、私がムッとしたのが分かったのだろう交換条件を出してきた。この前買ってもらった指輪の魔道具を私にくれると言ってきた。正直、すーごく嬉しかった。魔法工房でクルスが色々な魔法を試し打ちしているとき、凄く羨ましくて私も欲しいと言いかけた。でも魔法の使えない私が魔道具を欲しがるのは変なのかと思った。店員さんも最初クルスに魔道具を使わせるのを大分渋っていたし。それに私は可愛いアクセサリも買ってもらったし、さらに魔道具を欲しがるのは良くない事だと思った。
でも、クルスはその魔道具を一つ私にくれると言ってきた。“本当にいいの?”と私が聞くとクルスは“元々私の魔法の練習用に買ったもので家に戻ったら魔道具はあげるつもりだったよ”と言った。それを聞いて私は一気に機嫌が良くなった。
まったく、弟のくせに気が利くじゃない。
やっぱりクルスは凄い子だ。前から知っていたけど改めてそう思う。勉強も出来るし、剣術も出来るし、魔法も出来る。逆に出来ないことがないじゃないと思うくらいだ。この前はなんでか庭師のカールと一緒に庭の手入れをやっていた。ナターシャは貴族がやることじゃないと言っていたが、あれこれ言ってナターシャを説得していた。
そう、あとクルスは口も上手い。大人たちに自分の意見を伝えるのが上手く、クルスの意見は大体通る。それに相手の気持ちも良く分かってくれる。だから私も困ったことがあればクルスによく相談する。そして相談すると大抵のことは解決する。
本当にあの子はすごい。
ただクルスは性格的なところがお父様に似ていて男らしくないところがある。一言で言うとビシッとしないのだ。お母様はもっと男らしく振舞いなさいと時々言っている。私もそう思う。けど、クルスが男らしくなったら、もうクルスの弱点がなくなっちゃう。
それは困る。
やっぱり姉としては弟に負けてたくない。あんまりクルスが凄くなりすぎると私も恰好がつかない。取り敢えず剣術では私が一歩リードしているが、気を抜いたら直ぐに抜かれる。それに新しく家族になる赤ちゃんには尊敬されたい。そして慕って欲しい。私は立派で優しさを備えた姉になろうとあの後決めたのだ。
そんなことを考えていると、隣のクルスの部屋から誰かの怒ってる声が聞こえてくる。ちょっと見に行ってみよっと。
そして、そこには机の周りに紙屑が溢れて汚く散らかした部屋があり、ナターシャに叱られているクルスの姿があった。珍しくナターシャが本気で怒っており、クルスも平謝りしている。
そんなクルスの姿を見ると少し可笑しくて、声を上げて笑ってしまった。
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翌朝、朝食の席で今後の予定がボリスから伝えられた。
俺とアリスは4日後のお茶会にボリスと一緒に参加することになった。これは王国西部の貴族が一堂に会する大事なイベントだ。そこには俺たちのような小さな子供も出席して親睦を深めることになっている。まぁ、最初から予定してしたので特段驚きはなかった。
その他にも大小様々なお茶会があり、それが残り滞在日の半数以上に及んだのを聞いたときは俺も流石に面倒臭くなった。隣にいるアリスも同様だったが、ボリスが近衛騎士団の練兵場に連れて行くと言った途端に目を輝かせだした。
ボリスの話を聞くとサラの親友の近衛騎士にぜひ来てくれと頼まれたらしい。確か近衛騎士団や王立魔法協会は外部の人間に対して厳しかったはずで、貴族とは言え簡単に入れるところじゃなかったはずだが、先方が俺とアリスに会いたくて堪らないらしい。ボリスの予定に合わせて日取りを調整していたら、“あなたはいらない”とまで言われたらしい。
可愛そうなボリス。
正直に言えばパーティなど行きたくないが、これは俺の大事な仕事と割り切るしかない。
そして、クルスとアリスはあるお茶会で二人の人生を大きく左右する人と出会うことになる……
あと2話で第1章を終わらせます。ですが、続く第2章との絡みで残り2話を上手く繋げるために、第2章もある程度書いてから残り2話をアップさせたいので少しお休みします。
再開は一週間後目途にアップしたいと思います。これからもよろしくお願いします。




