第13話 後始末
今回は長く、くどい話になってしまいました。すいません。
あと半刻(1時間)ほどで日が昇り始める時刻、王宮に隣接する近衛騎士団の建物で不機嫌そうに歩く男がいる。男の名はサーチェス・スタイン、近衛第2騎士団の団長の役職にある。年齢がもうすぐ50歳とは思えないほど鍛え拭かれた体つきと精悍な顔つきの騎士。普段は部下に対して気安く、冗談を交えて話をするなど近衛騎士あるまじき緩い男だが……。
「くそったれ、なんだってんだ。」
「申し訳ありません。」
朝日も昇らぬ時間に理由も示されず叩き起こされたサーチェスはかなりのご立腹具合であり、状況を完全に理解していない部下の男は委縮している。
「アルバートは理由を言わなかったんだな。」
「はい、とにかく一刻も早く団長をお呼びしろと。」
サーチェスの部下である副団長のアルバート・グライゼは出来る奴だ。小言多くて辟易することもあるが仕事は出来る。そんなあいつがこんな中途半端な報告で俺を呼び出すとは何が起きているのか想像がつかん。
新年を前にして王都の警備は厳重なものとなる。臨時ながら近衛が警備隊に加入して王都の警備を強化する。そして今晩の近衛の責任者はアルバート。俺が呼ばれたのは奴が判断できる限界以上の事態が生じたことは想像できる。だからこそ状況が分からない現状に対してイラつく。
そして俺が会議室の前まで来ると意外な人物が待機していた。五人いるが二人は近衛の副団長、一人は宰相の腰巾着と顔見知り、俺をもっとも驚かせたのは残りの二人の神殿騎士。いったい何の用だ?それにこの面子が外で待機している……この状況は異常だ。神殿騎士はともかく残りの3人は会議に参加していても不思議じゃない。しかし、外で待機しているということはそれほど事態。
「すでに皆さまお揃いです。」
「ああ。」
第1の副団長に促されて、俺は会議室に入室する。そして俺は更に度胆を拭かれた。
「早朝からお呼び立てして申し訳ありません、スタイン殿。席にご着席ください。」
「ああ。」
動揺していた俺はあのいけ好かない宰相に生返事をしてから席に着く。出席者は6人。近衛第1騎士団団長ウォーリック・エルシャボーン、近衛第3騎士団団長ガルシア・エルステッド、宰相ロバート・ホーランド。部下もいたことだしこの三人は分かる、国家の一大事となれば俺を含めて呼ばれるだろう。
だが残りの3人……という表現は適切ではないが、残りのメンツが問題だ。一番若い女性は最近何かと名を売っている神殿騎士ルテシア・ロズワルド、もう1人は教会の支柱である聖女マリア様、そして最後の1人は高位精霊のディアナ様。ディアナ様が顕現することは滅多になく、俺もほぼ1年ぶりにご尊顔を拝する。不謹慎ながら俺がまじまじとディアナ様を眺めていると宰相が仕切りだした。
「それでは皆様、会議を始めさせて頂きます。」
「陛下は如何した?」
「陛下はお呼びしておりません。陛下には起床しだい私からこの会議の結果をご報告いたします。」
この言葉に“カチン”ときた。この野郎はいつもこうだ。陛下を蔑ろにすることも隠そうともしないこの態度。俺が宰相に罵声を浴びせようとしたら、俺の罵声を予期していたガルシアが邪魔をする。
「それは些か浅慮ではありませんか。我々3名が呼ばれたということは国防に関する重大事。したがって、この重大事に関して陛下のご判断を仰ぐのはむしろ当然と小管は思いますが。」
「確かにエルステッド殿の仰る通りですが、今回の事態に対しては私の判断で止めさせて頂きました。」
「貴様、何様のつもりだ!」
俺は両手でテーブルを叩き、立ち上がって殺気を放つ。宰相は武術の心得がない癖に、こういう時は非常にふてぶてしい顔をする。頭に血が上った俺は奴に詰め寄ろうと動き出す。
「お止め下さい。お怒りはご尤もですが落ち着いてください、スタイン様。陛下への報告を先延ばすように進言致しましたのは私でございます。」
「誠でございますか?」
普段から口数の少ないウォーリックもかなり驚いて声を上げる。
「はい、事情はこれから説明致します。ですからどうかお座りください。」
「……分かりました。」
聖女様から告げられた言葉に俺は衝撃を受けた。聖女マリア様が陛下を蔑ろにしているとも捉えかれない発言をしたなど聞いたこともない。そのことが俺を幾分と冷静にさせた。そこで俺は席に着いて、聖女マリア様のお言葉を待つ。
「まずは無理なお願いを聞いて頂き、ありがとうございます。今日皆さまにお集まりした事態に対して私と神殿騎士ルテシアから説明させて頂きます。」
「まず、結論から申し上げます。昨晩、王都において悪魔召喚の兆候がありました。」
会議室に衝撃が走った。宰相を含めて4人が絶句している。
一体、何が起きているんだ……。
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絶句する4人を一度見渡して、私は話を続けることにする。
「召喚された悪魔はアモンと呼ばれておりました。精霊ディアナに確認したところ魔神に仕えた眷属にその名があったと申しています。現在、アモンの存在は感じられず、契約者も王都を脱出したことが確認されています。」
「魔人族が王都に侵入していたということでしょうか?」
「いいえ、契約者は小人族だったようです。」
「そんなことがあり得るのですか?」
「人族が悪魔召喚を行った記録はこの王宮にもあるはずです。お調べください。」
最初に立ち直ったホーランド宰相の質問に答えると、残りの3人も幾分落ち着きを取り戻したようだ。
「話を戻させていただきます。この会議の主題となりますが、悪魔召喚を行った契約者が王都へ戻ってくる可能性があります。そして私からのお願いは、この契約者が王都へ戻って来るのを見逃して頂きたいのです。」
再び、4人が絶句している。無理もありません。私と彼女に対する敬意によって、辛うじて罵声を受けていないのでしょう。そんなことを考えていると、普段は寡黙なエルシャボーン団長が遠慮がちに質問してくる。
「聖女様のご意向を疑うことは私の本意でありませんが、本気でしょうか?」
「はい。」
「理由を教えて頂けないでしょうか。悪魔の恐ろしさは我々よりも聖女様と何より精霊ディアナ様のほうがご承知のはず。」
「はい、ですがここからは実際に契約者と相対したルテシアより報告させて頂きます。」
すると私の右後ろで控えていたルテシアが前に出る。他にも言いたいことはあるだろうが、彼らは私たちを立てて黙って話を聞いてくれる。彼らの敬意を利用して話を自分の望む方向に誘導するのは心苦しいが止むを得ない
「ルテシア、お願い。」
「はっ。私は聖女マリア様の要請で、悪魔召喚を行った契約者を追跡しました。追跡の結果、王都西部の城壁を越えた地点で男を捕捉しました。私は男と悪魔に対して詰問を行いましたが答える意思はないと判断し、戦闘を開始しました。」
「ところが理由は不明ですが、悪魔は男を加勢しようとしませんでした。そのため、当初は私と私の契約精霊が戦闘を優位に進めていました。ですが、次第に押し返される場面が増え、私は目的を捕縛から増援を意識した時間稼ぎに移行しました。おそらく男もそれが分かったのでしょう、」
「そして男は突如意味不明な言語で私たちに話しかけてきました。私にはこの行動の意味が分かりませんでしたが、男が精霊たちに話しかけていたことが後に分かりました。」
「男の言葉に精霊たちは非常に動揺していました。そして精霊はこの男とこれ以上戦ってはいけないと私に言いました。理由を聞くと、これ以上戦闘を続けると契約者が王都を灰にすると言ってきました。私はそんな妄言を信じることが出来ませんでしたが、精霊があまりにも必死に私を説得するため……私は男の追撃を断念しました。」
「男は立ち去る前にこう言いました。“自分の名はヴィンジャーノ。王都では仕事をしていない。殺したのは暗殺者だ。これ以上王都を乱すことはない。自分は墓参りをしたら、王都を出る。精霊ディアナ様にそう伝えろ。”と。」
ルテシアの話が終わっても誰も喋ろうとしない。この話のどう理解すればいいのか困っているのだろう。
「質問してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、ホーランド宰相。」
「まず、騎士ルテシアの行動を聖女様は支持なさっているのでしょうか?」
「はい、ルテシアは良くやってくれたと思っております。」
「男を追うように命じておきながら、取り逃がしたことを咎めないと?」
「はい。」
私はなるべく自信を持って断定した。彼らの不信感は当然であり、それを払拭しなければならない。しかし、私には秘密にしておかなければならない情報がいくつかある。出来るだけ少ない情報で彼らを納得させなければならない。
「何故取り逃したことを咎めないのですか?」
「エルシャボーン団長、私は王都に住む全国民の命を犠牲にするようなリスクを負うべきではないと考えております。」
「悪魔を召喚するような男の言うことを鵜呑みにしたわけですか。」
彼の目から威圧感が増してくる。他の二人の団長も同じ意見のようだ。やはり、もう少し情報出す必要がある。
「ディアナ、契約と精霊魔法について説明してもいいでしょうか?」
「致し方ありません。」
ここにきて始めて精霊ティアナが発言し、会議室にいる全員が緊張する。
「これから話すことは決して他言なさらないようにお願い致します。これから話す内容は高位精霊と契約できた者だけが知ることを許される秘密です。……先ほどルテシアの報告の中に“意味不明な言語で話しかけてきた”とありましたが男が喋った言葉は精霊語です。」
「精霊語?ひょっとして精霊剣に刻まれているあの文字のことですか?」
「その通りです、スタイン団長。精霊語は精霊たちのみが使う言語であり、精霊たちにとって特別なものです。精霊たちは念話によって意志疎通を図り、一見言葉を必要としておりませんが実際には精霊語を使って念話しております。これだけ聞きますと精霊語を喋れるからといって何があるのかと疑問に思うでしょう。」
「ですが、精霊語を喋ることが出来る者は精霊と特別な契約を結んだ者だけです。」
「特別な契約ですか?」
「はい、一般的に精霊契約とは精霊と契約者がお互いを同格の者と認め、お互いの力で助け合うことを誓います。しかし、高位精霊のみ契約者と特別な契約を結ぶことができます。それが“従属契約”。高位精霊が契約者に対して従属し、高位精霊の持てる全ての力を差し出します。」
「従属……、全ての力とは一体……。」
「精霊たちは通常魔法を使用する際に詠唱を行いません。それは精霊たちが神々からすでに魔法を使うことを許された存在だからです。しかし、高位精霊には精霊語を使って詠唱することで発動する精霊魔法と呼ばれる魔法を使えます。ここで言う精霊魔法とは皆さんが想像したものとは別物であり、高位精霊の使うことのできる最大級の魔法のことを指します。」
「そして、従属契約を結んだ契約者はこの精霊魔法を使うことができます。」
「どれほどの威力があるのでしょうか?」
「攻撃魔法だった場合、広域戦術魔法の数倍といったところでしょうか。」
質問した宰相が絶句している。一流の魔法師が10人以上の魔力を費やして使用するのが広域戦術魔法。戦争では広域戦術魔法で勝敗が決することも多く、各国は広域戦術魔法の改良に多くの予算を費やしている。その広域戦術魔法の数倍、魔法に疎い宰相でも精霊魔法の危険性は分かっただろう。
「つまり、その男は精霊語を操り、その精霊魔法を使うことが出来たということですか?」
「はい、ほぼ間違いありません。男はヴィンジャーノと名乗っていましたが、ディアナは彼のことを憶えていました。彼は赤鬼ヴィンジャーノと呼ばれる暗殺者。160年ほど前、我が国でも数件の犯行が確認されています。当時、ディアナは彼を捕縛しようとした近衛騎士との戦いを見守っていたことがありました。そのとき彼の隣には火の高位精霊がいました。ただ、そのときは精霊魔法を使わなかったので従属契約を結んでいたかまでは分かりませんでしたが。」
3人の団長は私の言葉を食い入るように聞いていた。私に対する不信感は大分拭えたようで少し安心する。そして、目の前にあるコップを手に取って喉を潤した。
「聖女様、確認させて頂きたい。精霊たちが騎士ルテシアの戦闘を止めたのはその精霊魔法の存在を知ったからということですか?」
「その通りです。精霊たちにとって彼は高位精霊よりも各上の相手、そのような相手の意向に逆らうことなど出来ません。」
「……ちなみに聖女様は従属契約を結ばれているのでしょうか?」
スタイン団長は恐る恐ると聞いてきた。私が不機嫌になるとでも思っているのでしょうか?
「いいえ、結んでおりません。恐らく私が従属契約に耐えうる力を身につけるまでには更に10年近い修業が必要となるでしょう。」
私の説明は聞き終えて、皆さんが難しい顔をなさっています。それぞれ情報の整理をなさっているのでしょう。本当はここで休憩を挿みたいところですが、朝までにすべての準備を整えなければならないので続けましょう。
「皆様にはこれまでの説明で、赤鬼ヴィンジャーノが如何に危険な存在が分かっていただけたと思います。さて、話が少し変わりますが悪魔召喚の直前に起きた出来事についてお話し致します。」
「調査をお願いした第2騎士団のグライゼ副団長からの報告でいくつか分かったことがあります。まず、ヴィンジャーノは王都内で2件の殺人事件を起こしています。犠牲者は7人で外国人である可能性が高いそうです。この7人の死因は不明。外傷はありませんが、全員この世の地獄を見てきたような顔で亡くなっていたそうです。」
「悪魔は人の負の感情を好み、悪魔の魔法は人の精神を壊すことが出来ると伝えられています。したがって、この7人の死因に悪魔が関わっている可能性が高いと考えています。ただ、この死亡した7人が一般の方ではなかったことも判明致しました。」
「7人が死亡した部屋から多数の武器、暗器、毒物が発見されました。また、特定の誰かを調べている痕跡も発見されました。恐らく、この7人が他国から入ってきた暗殺者の類いではないかと報告しています。」
さて、ここからが山場です。私は意識して自分の表情を厳しくする。
「さて、皆さん。ここでもう一度ルテシアの報告は思い出して頂けますか。ヴィンジャーノは逃亡する直前に“都では仕事をしていない。殺したのは暗殺者だ。これ以上王都を乱すことはない。自分は墓参りをしたら、王都を出る。”と言っておりました。彼が7人の暗殺者を殺した理由は分かりませんでしたが、これ以上の殺人を働かないなら彼の捕縛を諦めても良いと考えています。」
「聖女様、それは些か浅慮でありませんか。確かにその男が殺した相手は犯罪者かも知れませんが、その男自身も犯罪者であることには変わりありません。その男が嘘を言っていない保証はありません。」
「エルシャボーン団長、確かに彼の言葉をそのまま信じることが出来ないのは分かります。ですが、私が問題にしているのは彼の発言の真偽ではありません。」
「どういうことですか?」
「恐らく彼は悪魔召喚を行えば、王都を守護しているディアナがそれを感知して追手をかけてくることを予測していました。これは悪魔と精霊の関係性からみても当然でしょう。ですが、彼はその事を知りつつも、リスクを冒して悪魔召喚を実行しました。今回殺された7人に対して悪魔召喚する必要性が何かしらあったのでしょう。」
「……確かに聖女様からお話から想像されるその男の実力は普通の暗殺者などどうとでもなりそうですね。」
「それに皆さん、彼が王都に戻ると言わなければ、私たちのとれる手段はほとんどなかったと思いますが?」
「確かに、精々国境や主要都市に向けて伝令を飛ばすぐらいしか出来なかったでしょう。」
「ですが彼の発言によって“積極的に捕縛する”という選択肢が生まれてしまった。」
「つまり、これがその男を誘いであると?」
「残念ながら分かりません。」
「うむ……。」
エルシャボーン団長が考え込んでしまった。他の2人の団長も同じように悩ましい顔でいる。
「皆さん、これまで色々とお話しましたが赤鬼ヴィンジャーノの捕縛を止めて頂きたい最大の理由をお話しします。もし、この会議に陛下が出席されていた場合、この話を聞いてどのような決断を下されたと思いますか?」
「……」
「皆さんのご想像の通り、好戦的な陛下は全力で捕縛に力を注ぐことでしょう。それこそ、新年の祝いを止めて王都中を調査なさるかもしれません。そして、発見すれば御三方や大魔導士ヴァルトシュタイン様などを動員して捕縛に移るでしょう。もしかすると捕縛の現場に陛下も立ち会う事態になるかもしれません。」
ここで全員の顔を確認すると、皆一様に私が提示した可能性を容易に想像できてしまったのだろう。
「つまり我が国の誇る最高戦力である4人、陛下、そして王都の国民をリスクにかけて戦う事態。これは国家の存亡の危機と言っても大袈裟ではないと思いますが?」
「そして、大変失礼な発言ですが、私は御三方とヴァルトシュタイン様よりも赤鬼ヴィンジャーノのほうが強いと考えています。」
さすがにこの発言はそのまま納得できないのだろう。スタイン団長が何か言おうとして堪えており、エルステッド団長も渋面を浮かべている。唯一、落ち着いた顔のエルシャボーン団長が質問をしてくる。
「それは聖女様のご意見ですか?」
「いいえ、私です。」
ディアナの発言にエルシャボーン団長は納得いったような表情をした。
「先ほど、ヴィンジャーノと近衛騎士の戦いを見ていたとマリアがお話しましたね? その時、戦っていた近衛騎士の名前はローゼンバーグ。」
「やはり、槍聖ローゼンバーグ様でしたか。」
槍聖ローゼンバーグ様? この話は初耳ですね。でも、伝説と言われた幾人かの近衛騎士団長の中に槍の達人がいると聞いたことがあります。その方のことでしょうか?
「はぁー、なるほど槍聖ローゼンバーグ様と比べれば私など未熟者。ディアナ様と聖女様のご懸念も理解できました。」
「ありがとうございます、エルシャボーン団長。」
ようやく一息つける。
「それでは皆様、陛下へのご報告どうなさいますか?選択肢としてはこれまでのお話をそのままお話する、あるいはヴィンジャーノが王都に戻ってくることのみを隠してご報告する。」
容易には決断できないだろう。ある意味、反逆罪に訴えられかねない決断です。
「致し方ないですか。」
ところがあっさりとホーランド宰相が発言した。
「私は隠す案を支持致します、聖女様。」
「それが最良の判断でしょう。」
「はぁ、分かりました。」
「私も承知しました。」
ホーランド宰相の発言を皮切りに3人の団長が次々に了承した。
「ありがとうございます、皆さん」
最後に私は立ち上がって、深々と頭を下げた。
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4人が慌ただしく会議室から出ていく。ここからは私が出来ることはほとんどない。後は彼らにお任せするしかない。
「ルテシア、今回はあなたにも苦労をかけました。ありがとうございます。」
「いえ、当然のことをしたまでです。」
「当然ですが、この会議の内容は忘れてください。」
「承知しております。」
相変わらず、実直な子です。
「ルテシア、紅茶のお代わりを貰ってきてくれないかしら。あと、1限(10分)ほど誰も部屋に入れないようにしてください。」
「分かりました。」
そう言って、彼女が部屋を出たのでようやく肩の力が抜ける。ルテシアにあまりだらしない姿を見せるわけにはいかない。純真な彼女に今の姿を見せたら、泣き出すか怒り出してしまう。先ほどの会議を振り返ると自然とため息が出てくる。私は隠しておきたかった最大の秘密を告白することなく、この難所を乗り切った。
従属契約を結んだ契約者にはある資格が与えられる。
それは“眷属神”との契約。
悪魔と契約するような者が、“眷属神”と契約することが国民に知られればどんな事態になるか想像がつかない。彼女にとってそれだけは避けなければならない事態だった。
最悪の事態を回避することができたのです、束の間の休息をとっても許されることでしょう。
マリアは目をつぶり、会議室にはしばしの静寂が訪れる。




