おかしな盗賊
『人は案外簡単に死ぬ。殺すことより、生かすことの方がよっぽど難しいんだ』
と、ことあるごとに友人は言った。
『俺はほら、チャレンジャーだからさ、簡単なことをするんじゃあ満足できねえ。
だからよ、俺は人を生かす人間になりたいって、そう思ってんだ』とも。
そんな彼は今、盗賊をやっているわけだが、人の命を奪うことを頑なに拒むので、ハッキリ言えば足手まといである。
なんで盗賊になろうと思ったのか、そう尋ねれば、こう答えてくれる。
『俺は人を殺さねえだろ? だったら、盗賊とか、兵士とかになった方が、難しそうじゃねえか。
ほら、俺はチャレンジャーだから。人を殺さずに、盗賊として生きていけるのかってな!』
頭がいかれているとしか思えない。
〜
まあ、そんなことを言いつつも、俺も引きずられるようにして、盗賊の一員をやっているのだが。
一つ言っておけば、俺の方はバンバン人を殺す。
それに関しては、友人とは違って、語ることは何もない。
人を殺すのは、考えなくてもできるのだ。だから俺はゴチャゴチャ考えたりしない。その方が無駄が出ない。
俺たちは基本的にはコンビで活動しているのだが、その役目はこう分けられている。
殺し:俺
略奪:友人
人は殺さないとはいえ、お前も十分酷いことやってるからな、と言ってやりたい。
それは良しとしても、アイツは、金持ちから奪った物資を、俺に内緒で貧民共に配っていたりもする。
それに関しての弁明は、
『金持ちは、人間の中でも生きやすい方だろ? 貧乏人は、その日の食事にも困ってる。貧乏人の方が、生きるのは難しいってことだ。だったら、俺はそっちを応援してえよ』
と言うことらしい。
〜
朝起きて、目をこすり、部屋の隅に放っておいた食料がないことに気付く。
そういう時に、盗まれたのかを疑う前に、友人を疑うようになっている現状が悲しかった。
聞いてみると、やはり、友人が貧乏人共に配ってしまったらしい。
そして、俺はついに、友人の行動にしびれを切らしてこう言った。
「おい、そんなに配ったりしたら、俺たちの分はどうなるんだ。無くなっちまうぞ。
だいたい、お前は自分で自分を生き辛くして、どうするんだ」
当然、盗賊なんてやっていれば、景気がいいわけもない。
友人も俺も、かなりの苦労を重ねて、今まで生きてきた。
他人より多少腕が立つのが、これまで生きてこれた理由だろう。
知り合いは、大抵、そのうち行方知れずになる。
俺は、その知らせを聞く度、というよりは普段から割と頻繁に、これでいいのか、と悩むのだ。
無論、いいわけがない。
対して友人は、普段から、全くそういうそぶりは見せない。いつも笑って、チャレンジ精神を貫いている。
度々、『バカはいいな』と羨ましくなる。
そんな彼が、今度は珍しく、真面目な顔つきに変わっていた。どこか泣きそうな目をしているようにも見える。
「いいさ。俺たちが生き辛くなればなるほど、俺はどうしても生きたくなるんだからよ。
俺は自分からそうやってるんだ。じゃねえと、こんな世界、生きる気力も湧いてこねえ」
いろいろと我慢してきた部分があったのだろう。その一端が、涙のように零れ出た、そういう風に見えた。
俺は、その情けない尻に蹴りを入れ、叱ってやる。
「何が、『俺たち』だよ。俺を勝手に含めんなよ。俺は、豊かに生きたいし、楽しく生きたいし、生きやすいところで生きたいんだ! 盗んで殺して独占して、それで、豊かになるんだよ! とにかく、豊かに!」
えらく甘ったれたことを言っている自覚はある。
長年、どうしてうまくやっていけているのか不思議なほど、俺と友人とは価値観が合わない。
俺はチャレンジャーではなかった。そう思っていたところ、友人が言った。
「やっぱ、お前、俺なんかよりよっぽどチャレンジャーだな」
「は?」
何を言っているのか、友人はウンウンと頷いている。
聞き返そうとすると、それを遮るように、言葉を被せられる。
「いや。これからもよろしくな、相棒」
何のことやらわからないが、友人が先に歩き出してしまったので、追いかける。
さて、今日はどこを襲おうか。
ファンタジーが書きたくなったので書きましたが、相変わらずあまりファンタジーしてませんね。すみません。
ファンタジー長編の案も思い浮かんだので、また改めて挑戦するかもです。
感想等、お待ちしております。