ボーダーライン。
「あれ…。なんだこれ?」
オレは目の前を遮るように引かれている線を見ながらそうつぶやいた。朝、この道を通った時はこんな線なんてなかったのに。それも線の色は赤色だ。赤は誰もが知ってるように警告・注意の色である。
「この先に何かあるのか…?というかこの先はオレの家だ。でも…」
オレは無性に不安になった。このラインを渡ったらどうなるというのだ。いや、そもそもなぜ線が引かれているのだ。それも赤色で。なにかの警告なのか?
しかしオレはこのラインを渡らなければならない。
なぜならこのラインを渡らないと家に帰れないのだ。
「工事か何か…か?」
しかし、工事をしている感じはまったくない。足を踏み出すべきかオレは躊躇した。なぜだかわからないがこのラインが越えてはいけない一線のような気がする。
周りを見回す。
夕暮れ時なのに誰もいない。まぁ、オレのアパートは普段から人の疎らな路地裏にあるからとくにおかしいこともないが…。
どうするべきか考えてるまさにその時だった。
「悩んでるのかね?」
後ろを振り向くと初老の男が立っていた。
「あぁ…。悩みというか、なんだか不思議なセカイに来たというか…」
オレは自分に言い聞かせるようにそう言った。
「人生は選択の連続じゃ。今のそなたもその結果じゃろう?」
この老人は何を言ってるんだ?
オレはまるで意味がわからなくなった。
老人は話を続ける。
「たとえば今のお主の境遇、ラインを渡るべきか渡らないべきか、これも人生の選択じゃ。好きな方を選べば良い。どっちを選ぶか実はもう決めておるじゃろ」
老人はニヤリと笑みを浮かべながらそう言った。
「あぁ、たしかにもう決めてる。渡るよ。ていうか渡らないと家に帰れない」
オレははっきりとそう言った。
「いいのか?それで。今、このラインを1人で渡ったら一生後悔することになるかもしれんぞ」
聞けば聞くほどこの老人の話は意味がわからない。
結局、何が言いたいのだ、この老人は。
「あなたは何が言いたいんですか?」
オレは今、思ったことを素直に口にだした。
「おぉ、少ししゃべりすぎたの。それじゃあワシは帰るとしよう。よく考えるんじゃぞ」
そう言って老人は路地裏の奥に消えていった。
いったいなんだったんだ?あの老人。結局、オレの質問に答えずにどっかに行ってしまった。
まぁ、いいか。早くラインを渡って家に帰ろう。でもあの老人の言ってたことが妙に気になる。渡らないと何か起こるのか?渡らないで少し待ってみようか。
考えれば考えるほどよくわからなくなってきた。
「ラインを渡らずにちょっと…待ってみるか」
オレは少し渡らずにいることにした。
「10分たったが何も起こらないじゃないか…!」
あの老人の言葉を信じたオレがバカだった。もうさっさと帰ろう。
そう思ってラインを渡ろうとした時だった。
「あの…すいません」
後ろで誰かが話しかけて来た。
誰だろうと思いながら振り向くと、そこにはとても可愛い女性が立っていた。
「このケーキ屋さん知りません?地図を見るとこの辺りだと思うんですが…」
「あぁ、ここね。このケーキ屋は表通りの方だよ。案内するよ」
「ありがとうございます。私、どうしてもここのチーズケーキ食べたくて。案内してください!」
その時オレは気づいてなかった。
2人でラインを越えたことを。