放課後
お昼。
何時も通り、礼と龍太郎のクラスで昼食を食べていると、校内放送が入った。
ジジジ……
その音がしばらく聞こえ、止んだところで声が聞こえた。
『こんにちは、生徒の皆さん。生徒会長の一文 雨です。
唐突の放送ですが、一部の生徒にとっては大事なものとなりますので、失礼します』
「雨ちゃんだね」
「ああ。
やっぱ、切り替え上手いな」
『皆さんにも担任の先生方から連絡を受けたと思いますが、御色大学から教授が見え、講義をして下さります。
その件に関してですが、いくつか変更点があります。
前半、後半でAグループ、Bグループと分けていますが、B-1,B-3,B-5のグループにおいては、実際に実験を行い講義を行うため開始時刻が遅れる可能性があります。
ですので、そのことを承知の上で各自行動をしてください』
こう聞くと、随分と真面目な生徒会長のように思える雨なのだが、そんなことはない。
「そろそろかな?」
「だろうな」
周りを見てみると、顔をしかめるもの、ワクワクテカテカしているもの、気にせず食事をとっているものなど様々である。
『放送は以上です。
……続きましてはァ↑↑→? 生徒ォ↓会ィ↑ェェ↑↑の☆REN☆RA☆KU☆ですゥ↓↓』
「始まったね」
「始まったな」
『今日の講義に先立ちまして、臨時で生徒会に協力できる人をォ↓ボシュウゥゥゥ↑↑↑シマァァス↓↑↑。
やる気がある奴は昼休み中に生徒会室か、俺の所にくるようにッ。
協力した奴らには学食無料券1000円分、または白英とお散歩できるけ…………って痛え! 何しやがる白英! 今放送中だ――――』
ツー……
マイクが切られたようだ。
電話が切られた後のような音が聞こえる。
「白英ちゃんも大変だねー」
「ホントだな」
数秒後、マイクが入る。
『というわけで、手伝ってくれた奴らにはそれなりのものが出るので奮って参加するように。
以上! 引き続き昼ヲタノシメヨォォ↑↑!!』
放送が終わり、静かだった教室内に活気が戻る。
それに合わせるように食事を礼たちも再開した。
「今日、あんまりEFボイス無かったね」
「仕方ねえよ。あいつは大事なことはちゃんと言うからな。
学園祭の時が最も光るんだぜ」
「そうだね。
去年のなんかはEFボイスで一曲歌ってたもんね」
「歌ってたというか、演奏じゃねえか?
声ネタ系は歌うとは言えねえだろ」
「そうなんだ。
雨ちゃん、今年もやってくれるかな?」
「やるだろうよ」
朝作ってきた弁当を口に運ぶ龍太郎。
礼もそれに倣って弁当をつついた。
――――
礼は書道部に所属している。
彼は小学校から書道をしたおり、その延長線上に立っていた。
書道部は月に一度、作品の展覧会を行うと同時に書道パフォーマンスを実演する。
大掛かりなものより、細かい作業の方が好きだった彼はパフォーマンスに参加しないため、参加する人達とは違った場所、書道部の部室へと歩いている。
校舎と別れている部室棟に向かう途中、この高校の生徒会副会長である十市雪下に出会った。
「あれ? 雨ちゃんは一緒じゃないの?」
副会長である彼女だが、大抵、雨と一緒にいることが多い。
付き合っている何て浮かれた話も度々上がるが、接してみた感じでは礼はそのような印象を受けなかった。
一応、強い信頼関係からただならぬ関係にあるということは推測できたが、それ以上は誰にも分からなく、謎に包まれている。
「ん? 礼か。
雨は今、陣頭指揮を取っていてな」
「そっか、確か講義があったもんね」
「ああ、君たち2年生には来年の事で関係ないかもしれないが、受験を控えた3年生には大事なことだよ」
「そうみたいだね。
……そう言えば、雨ちゃんと雪ちゃんはどこいくかとか決めてるの?」
礼の言い方に雪下が眉をぴくりと動かす。
「なぜ雨と一緒にされるのか甚だ疑問だな?」
礼は引き下がらない。
そんな彼に彼女はため息をついた。
「まぁいい……。
私は御色大学に進学するつもりだ」
「雨ちゃんは?」
「…………私に聞くな。
何故雨のことを私が知っているんだ」
そう言って雪下は背を向けるが、あれは絶対に知っている。
しかし、これ以上追求すると、彼女との間に溝が生じそうなので止めておく。
「お仕事頑張ってね」
立ち去る背中に呼び掛けると、一瞬戸惑ったようだが、礼に向き直り手を挙げた。
「君も部活に勤みたまえ」
彼女は踵を返して部室棟を後にした。
――――
部室に行くと、パフォーマンスに参加しない部員が4,5名各自個人の作品に取り組んでいた。
その中に、同じ寮で生活する二年生の北村倫がいる。
クラスが同じなので一緒に行こうかと思っていたが、先に来ていたようだ。
「倫ちゃ――――」
話しかけるのを止めた。
彼女は今まさに筆を取り、一筆したためている。
一作品書き終えるまで邪魔してはならない。
それがこの部活のルール、しいては書道界のエチケット。
礼も部活内に保管してある自分の道具を取りに行く。
そして、いつものように、硯を取り出し、墨をすり、筆を用意したところで、書き終えたらしい倫がやってきた。
「見てくれる?」
そう言って差し出すそれは先ほど書き上げた作品だ。
彼女も小学生から書道をやっているだけあって、字のバランスも取れているし、一筆一筆が非常に流麗だ。
特に文句の付け所がない。
「良いと思うよ」
礼は本心からそう言ったのだが、彼女は不満らしく、眉をしかめた。
「結婚15年目に『あなた、今日の晩ご飯どう? 腕によりをかけて作ったの』って言われた夫みたいな受け答えをするのね」
「ピンポイント過ぎるよ!」
「じゃあ、他に何か言いなさいよ」
彼女の作品が突きつけられる。
幾度見ても綺麗な線、そしてバランスの取れた構成だ。
「……強いて言うなら」
「何よ?」
「まとまり過ぎてる様に感じる。
他の人の作品と比べたとき、一文字、一文字がはっきりしている――――。
一画、一画に力がないっていうのかな? 文字にならないと心に訴えてくるほどの力が無い……」
自分でも言い過ぎかなとは思った。
しかし、恐る恐る盗み見る彼女は顎に指を当てて思案している。
満足いく回答を提示できたようだ。
「じゃあ、次気をつけてみるわ」
倫は自分の場所へと戻っていく。
礼は彼女の後ろ姿を一瞥すると、自らも作品制作に取り掛かった。
――――
部活も終わり、倫はしおねを迎えに美術部へ、礼は龍太郎を迎えにグラウンドへと向かう。
礼は靴に履き替え、グラウンドに向かう道中、瓶折白英に出会った。
見ると、彼女は何かを探しているようでキョロキョロしている。
今日は生徒会役員に縁があるなと思いながら声を掛けた。
「やぁ、白英ちゃん。
誰か探してるの?」
礼の声に振り向いた白英は彼を視認する。
そして、再びきょろきょろしながらも、問うてきた。
「薪芝君じゃないですか。
会長を知りませんか?」
ここでいう会長とは十中八九、生徒会長『一文雨』のことだろう。
「雪ちゃんと一緒いるんじゃない?」
「きっとそうなんでしょうけど、副会長もいないんですよ」
「携帯は?」
「通じませんね」
「どうしたんだろ?」
「どうしたんでしょう?」
二人でうんうんと唸っていると、グラウンドの方から見知った人物が歩いてきた。
龍太郎だ。
彼は礼と白英に近づき、口を開く。
「礼、こんなところでどうしたんだ?
白英とお散歩――――」
軽い冗談のつもりで言ってみたが、言い切る前に脛に蹴りが入った。
「いってぇ……!! 何しやがる……!?」
「私をからかわないでください」
「だからって脛はねえだろ!」
「ならふざけたことを言わないことです!」
がしっがしっ、と蹴り続ける彼女に耐えかねて逃げ出す龍太郎。
白英はそんな彼を一瞥すると、礼に向き直る。
「再び、私は会長を探してきます。
もし、会長に会ったら、白英が探していたと伝えておいてください」
「うん、頑張ってね」
「はい」
彼女と別れる。
それと同時に遠くに退散していた龍太郎が戻ってきた。
「なんの話してたんだ?」
「雨ちゃんの話だよ。見つからないんだって」
「携帯とかは?」
「通じないみたい」
その一連の受け答えから、龍太郎は雨の居場所が想像できた。
「そりゃ、あれだ。
…………神坂原のとこだ」
彼はそう言って歩き出す。
『話を終わらせる』そんな風にも思える動きだった。
敷地内の図書館に待ち合わせをしていた柳と合流して彼らは帰路につく。
歩いてそんなに時間がかかる道のりではないけども、今日は長く感じられた。
それは、龍太郎が珍しく黙り込んでいたからにほかならない。
雨のことが気になっていたのだろうか……
彼は次の日までずっとそんな調子だった。
――――




