異国の香り
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俺は夜行列車に乗っていた。
親が「ここにはいられない」と言って、どこから見つけたかわからない学園案内を俺に持たせて早々に送り出したのだ。
「説明しろ」
俺は目の前の女にそう命令する。
昨日、母と話してた女だ。
なぜだか知らんが、こいつは俺の後ろをついてくる。
「開口一番それなのー?
もっということあるでしょ。
『お姉さん、綺麗ですねー』とか。
せっかちな男はモテないわよー」
「俺はそういうもんに興味はない。
大体、女で自分のことを綺麗というやつは大抵クズばかりだろう」
「なに?
折角、蘇らせてあげたのに、礼の一つもないわけ?
礼儀も知らない馬鹿にクズ呼ばわりされたくはないわね」
張り詰めた空気が狭い個室に満ちる。
「うるさいぞ。
そもそも蘇らせたとはどういうことだ。
俺は死んだのか?」
「えっ、気づいてなかったの……?」
女が顔に手を当てる。
『私の年収……』みたいな感じだ。
「俺の記憶は随分曖昧だ。
一昨日までの記憶しかない」
そう言って俺は携帯の日付を見る。
「あ、そう。
それはよかったじゃない」
「何がよかった、だ。
おかげで何が何だかわからんぞ」
「死んだ時の記憶が無いからよかったなのよ」
「そのいい方……マジで俺は死んだのか……」
頭を抱える。
冗談きつい。
「ええ、昨日の夕方に学校の“おともだち”に殺されたのよ」
――――
「“おともだち”だと?
俺にはそんな凶暴な友達はいないはずだが?」
「貴方たちよく言うじゃない。
『“おともだち”とけんかしちゃだめでしょー』とか常套句のように」
「その“おともだち”かよ。
あれはまだ純粋な子供にそれとなく言うためだけの言葉だ。
断じて“おともだち”ではない。
そんなことも知らなかったのか」
「し、知ってるに決まってるじゃない!
いちいちムカつくわね。
大人を舐めてると痛い目見るわよ!」
「うるさい、黙っていろ。
今を何時だと思っている。
深夜2時だぞ。
ほかの客に気を配れ」
「うぐぐ……!」
「それで?
その“おともだち”になんで殺されたんだ、俺」
「…………」
女はそっぽを向いている。
「拗ねるな。
さっきのことは俺が“大人気”なかったよ。
謝るから気を直せ」
「……貴方……今、私を馬鹿にしたでしょ」
「ああ、したな。
まぁ、そんなことはいいから俺の質問に答えな」
「良くないわ――――」
女が立ち上がって声を張り上げ用としたもんだから、俺はすかさず女の口に指を突っ込む。
やんわりと湿っている。
唾液か。
俺は彼女の腔内をいろいろと探索した後に引き抜く。
唾液が糸を引く。
照明が反射してなんとも淫靡だ。
「……な、なにするのよ……!」
女が喉に手を当てこちらを睨みつけてくる。
「言っただろ。
大きな声を出すな、と」
「それなら直接口で言えばいいじゃないのよ……!!」
「口で言って素直に聞いてくれればそうしたんだがな」
俺は眼前に引き抜いたばかりの指を持ってくる。
そして人差し指と中指をくっつけたり、離したりする。
その隙間から女が見えるが、彼女はその光景に顔を赤らめて顔を逸らしている。
「ふむ。
男慣れしてそうで実は清純と見た。
これがギャップ萌えか。
いいぞ、実に素晴らしい。
当初は全くもって眼中になかったが今となってはとても愛らしく見える」
俺はそう言って女の顔に手をやる。
「どうだ。
俺と寝てみないか?」
「は、はぁ!?
だ、誰がお前なんかと……!!」
声を抑えている。
学習したようだ。
惜しい。
女はひどく赤面しながら後ろ側にある二段ベットに逃げる。
「そうは言っても身体は……か。
いいぞ、乗ってやる」
そう言って俺も同じベッドに乗る。
「は……えっ!?
や、やめて……!!」
女はゆっくりと近づいていく俺に両手を差し向けて目を逸らしている。
誠に清純。よきかな、よきかな。
「痛くない。
俺に身を預けろ。
うまくリードしてやるぞ」
「や、やめてよぅ……
こんなところでなんてもうお嫁にいけない……」
泣きが入った。
よほど怯えているらしい。
罪悪感を覚える。
「あー……これ以上は可哀想だからやめようかなぁ……」
「えっ……?」
「なんて気は起きない」
俺はそう言うと女に覆いかぶさった。
こうして俺はこの女と寝た。
とても初々しくて可愛らしい女だった。
――――
――――
「おい、朝だ。起きろ」
「あと5ふん……」
「テンプレ言ってないで起きろ」
俺はそう言って女の脇腹を突く。
「ひゃん!」
女は飛び起きると同時に上のベッドに頭をぶつける。
「……いったぁ~」
頭を押さえる。
それさえ、可愛らしく見える。
この感情は愛か。
出会ってまだ2日と経たない。
……ま、いっか。
世の中にはスピード結婚ってもんがあるしな。
「ほら、目を覚ませ。
それとも昨日の続きをして欲しいか?ん?」
女はぼーっとしていたが彼の言葉で顔を赤らめる。
よほど恥ずかしかったようだ。
「待て。
そんなに赤らめなくてもいいだろう。
ただ一緒に寝ただけじゃないか」
「そうは言っても私は初めてだったのよ……!
こんな男の人と一緒に一夜をともにするなんて……」
さらに顔が赤くなっていく。
「まぁ、いいじゃないか。
責任は俺がとってやるよ。
嫁でもなんでも来い」
「そういう問題じゃないってばぁ……!」
「じゃあ、どういう問題なんだよ」
「え……ほ、ほら!お父さんとかに話したりしないと……」
「そんなのは些細な問題だ。
なんなら今からでも会いにいくか」
「そ、それはやめて!」
「ん?
どうしてだ?」
「理由は聞かないで!
と、とにかくだめなの!」
「なら聞かない」
「え……?」
女は俺が素直に引き下がるとは思っていなかったらしい。
呆けた表情をしている。
「さてと……服を着替えろ」
「ど、どっか行くの?」
「食事に行く。
この列車には高級レストランばりのシェフがいるらしい。
楽しみだ」
そう言うと廊下へと続く扉を開ける。
「早く着替えろよ。
ここのレストランはすぐに満席になるらしいからな」
俺は女の身体を下から上へ舐め回すように見る。
もちろん演技だ。そういう趣味はない。
これも美味しい食事にありつくため。
「俺が脱がせてやってもいいんだぜ。
途中、その豊満な神様を触ってしまうかもしれないが」
「なっ……!?」
女は身体を抱く。
しかし、そのおかげで強調されまくっているのを彼女は知らない。
このうっかりものめ。
しかし、このあざとさが癖になるな。
いいぜ、俺はマイハニーのために席を取っておくか。
ここに残るのもそれはそれで楽しそうだがな……
「じゃあ、早くこいよ。
席は俺が確保しといてやる」
そう言うと扉が閉められる。
女は未だ赤面したままである。
――――
「貴様、名前をなんと言う?」
俺は料理を食べて嬉しそうにしている女に問いかける。
お互い名前を知らない。
しかし、その状態で一夜を共にしたのだ。
我ながら節操なかったと思う。
女は食事を取る手を止めて、こちらを振り向く。
「そういうのは自分から名乗るものじゃないの?」
女は昨日、今日の腹いせに言っているようだ。
広角を上げてコーヒーが注がれているカップをかき混ぜている。
「なんだ。
蘇生してくれたのはお前なのに俺の名前を知らないのか。
つまり、お前は見ず知らずの人間を助けたということなんだな。
なんとも優しいやつだ。
結婚するか?」
「そ、その話には乗らないわよ。
私も学習したの」
「ほぉ……?
まぁ、それはそうと知らないのか?」
「っ……!
しつこいわね。
早く教えなさいよ」
女はゴリ押ししてくる。
この様子……本当に知らないと見える。
「俺の名前は『柳』だ」
「そう。
私は『神坂原カナン』よ」
「ハーフか」
「キリスト教と神道のハーフよ」
「そうか……」
俺は上を向く。
なんだこれ。
コイツは何言っている。
……そういえば、コイツは俺を復活させたらしいし……そういうことか。
ていうかそう思っていたほうが精神衛生上良さそうだな。
「把握。
それより俺の名前を知らないか。
どこにも見当たらないんだが……」
「気になる?」
「あんまり気にならないからいいや」
「え?だって自分の名前よ?
気にならないの?」
「気にならない。
一部なりとも呼称があれば別に良いだろう」
「そ、そうなの……」
カナンは俺の言うことに疑問を持ちつつも納得した。
――――
現在時刻朝9時。
俺は身支度をしている。
残り十分程度で目的地につくらしい。
しかし、対するカナンはというと全く準備をしていない。
「おい、大丈夫なのか。
そんなにのんびりしてたらいざというときに動けないぞ」
ベットでスマートフォンを見ながら足をばたつかせているカナンはその言葉に適当に答える。
「大丈夫よー。
どうせ間に合うってー」
間に合わんな。
仕方ない。
良夫賢父として嫁の荷造りをしようか。
そう思いながら出来るだけ彼女に気取られぬように移動する。
幸い彼女の荷物は俺の共に二つに纏めて部屋の奥に置いてある。
顔を入り口が側に向けている彼女にとっては間反対の位置に当たる。
それに加えスマートフォンを弄っているから気づきようもないと言うものだ。
俺はカナンの持ち物の肩掛けバックをゆっくりと開ける。
背徳とは思わない。
恨むなら無計画な自分を恨め。
彼女のバックの中にはロザリオなどの聖職具に加え、俺の自宅の住所が書かれた紙をファイルしたものなんかがある。
あれだな。男友達の家の自室をガサ入れするときのような気分だな。
つまり、本能が告げているのだ。
このバックには他になにかあると。
柳が幾分か漁っているとそれは見つかった。
それは箱だった。
あった。これが恥辱の部分か。
顔が綻ぶ。
これこそ愉悦なのか。
我ながらお行儀が悪い……ふふっ……!
柳は一応カナンの方を確認してゆっくりとその箱を開ける。
高貴そうな箱だ。
後でバレないように箱のしまり具合や向きを記憶せねばな。
ゆっくりと箱を開閉していくと声が聞こえてくる。
「…………………」
まだまだ小さいその声。
しかし、柳にはそれは十分な注意喚起となる。
……ヤバそうだ。
開けた結果、やばくないにしても俺の知識が警鐘を鳴らしているのがわかる。
ここは……貰っとくか。
柳はさっと箱を自分の背負いバックの中にいれた。
結構奥に入っていたし簡単に気づかれはせんだろう。
俺はカナンを様子を伺いながらそのように考える。
さっさと準備しとくか。
柳はそう思うとカナンに気づかれないよう細心の注意を払いながらベッドに散らばる小物や道具を綺麗にバックに詰め込んだ。
――――
――――
バレた。
途中で太ももに触ったからバレたみたいだ。
俺も自分を律することがまだ出来てない。
改善すべきところが多々あるな。
「そんなことより……ここは何処なんだ?」
「そんなことってなによ。
何考えてたのよ」
「説明しようか?」
「止めて」
「うむ。それでいい。
……で、何処なんだここは」
俺は部屋の窓から外を眺めながら言う。
随分とレトロな駅だ。
まるで19世紀の西洋のような感じである。
なんともいい雰囲気の駅ではないか。
しかし、柳は気づいた。
この駅の異変を。
普通ならば駅には駅の名前が書かれた看板があるはずだ。
しかも、それは地面に突き刺さっていたりどこかに貼り付けられていたりするもんだ。
しかし、この駅は違う。
手足を突き出して歩き回ってる。
動きは早くはないものの奇妙だ。
「おい、あれはなんだ」
柳が看板を窓越しに指をさす。
「矢継ぎ早ね。
えっと……?
あー……あの子ね。
あの子はこの駅の看板娘のミミよ。
可愛いでしょ」
「いや、可愛いもなにもまんま看板じゃないか……」
「あれは看板じゃないわ。
しっかりと身体が付いてるじゃない。
あの子は看板を持った小さな女の子よ」
「そうか。かなり焦ったぞ」
俺がそのように言うとカナンが驚いたような表情になる。
「貴方でも焦ることあるのね。
意外だったわ」
「そりゃあ、予想外のことが起きればそれなりに焦るさ。
俺をなんだと思っている」
「欲情魔」
「うるさい」
柳はカナンの頭に軽く手を置くと荷物片手に個室をでる。
「あ、待ってよ!」
カナンが後ろから追いかけてくる。
どうやら、まだ俺の世話は終わらないらしい。
――――
「初めまして!
ここの案内をしてるミミでーす!
よろしくねー!」
本当に看板を持った小さな女の子だった。
もやしはなかったよ……
「元気いっぱいだな。
というか、今まであった人たちを覚えているのか?」
「覚えてるよー!
皆大切なお客さんだもんね。
忘れるわけないよー!」
「偉いものだ。
この歳でそこまでのことが言えるとなると将来が楽しみだ。
俺は柳。よろしくな」
「うん、よろしくねー!」
ミミは看板を足元に置くと柳が差し出す手を両手で握って握手する。
……なるほど、可愛い。
さすが看板娘といったところか。
さらに将来が楽しみになってきたな。
「そうだ、ミミよ。
ここは何処だ?」
「ココ?
ココは御色駅だよ」
「どこだそれ」
俺は後ろのカナンに振り向きながら言う。
シャフ度痛い。
「御色駅は日本とフランスの間っぽいところにある場所よ」
「どこだそれ!?」
「そりゃ間っぽいところよ」
「っぽいってなんだ!
なんで深夜列車に乗ったら国境またいでるんだよ!」
「そこは深く考えないほうがいいわ。
もし考えたら通常の生活が送れなくなるわ」
そういう彼女の口調にははっきりとした忠告の色がある。
いや、警告かもしれない。
どちらにしろ、彼女の言うことには従うしかなさそうだ。
「わ、わかった。
そういう場所があるとしよう。
それで?
どうして貴様は俺をここに連れてきたんだ?」
カナンはその言葉にきょとんとなる。
「それはあれよ。
貴方が死亡扱いになってるおかげで住民票がないからよ」
「あー……そんなのもあったなぁ……」
「何言ってるのよ。
つい最近のことじゃない」
俺たちがそんなやり取りをしてるとミミが話しかけてくる。
「カナンさん!
これからどっか御用ですか?」
「うん、ちょっと。
こいつを寮まで届けに行くの」
「ちょうどいいです!
これ頼めませんか?」
そう言ってミミはスカートのポケットから小さな袋を取り出す。
巾着袋だ。
しかし、綺麗に刺繍がしてあってとても可愛らしい。
お花にうさぎさん……
あぁ^~心がぴょ(以下略)
「これを寮長のところまで持って行ってくれませんか?」
「別にいいわよ。
何時までとかって言われてる?」
「今日の夕方までには、と言われています」
「なら、それまでには届けるようにするわね」
「よろしくお願いします!」
ミミはそう言って頭を下げる。
「別に頭を下げることじゃないわよ。
私もたまにそっちにお世話になるし」
そう言ってカナンはミミの頭を上げさせる。
「カナンさん……」
ミミはカナンをきらきらした瞳で見ている。
純粋な少女の視線はさぞかし気持ちがよかろう。
「じゃあそろそろ行くわね」
そう言ってカナンは話を切り上げる。
「そうですね。
案内頑張ってください!」
「そちらこそ頑張るのよ」
「はい!」
カナンは俺に合図をすると駅を出ていく。
きっとそこを抜けたところからが俺の新しい生活なのだ。
こんな半端な時期だがなとは思うが、死んだのだから文句は言えないとも思う。
まぁ、そんなこんなで二度目の生を受けた俺は新天地へとカナンを見送った。
――――
「あ、あのぉ……」
「ん?どうしたのだ、ミミよ」
俺は駅に設置されている待合ベンチに腰掛けている。
「い、行かなくていいんですか?」
「付いて来いと言われてないからな。
きっとここで待ってろということだったのだろう。
あの目配せはそういうことだ」
「そ、そうなんですか……?」
「そうに違いない。
見ていろ。
今にカナンが戻ってくるぞ。
寮長とやらに届け物をし終えて戻ってきたのだよ」
「はぁ……?」
ほどなくしてカナンがホームに帰ってくる。
「ほ、ホントですね……!」
「だろう?
俺はどうせ俺がいても彼女の邪魔だろうからここにいたのだよ」
「そうだったんですね!」
「ああ。
俺はあいつのおっ―――」
スパァンッッ!!
頭を思い切り叩かれた。
容赦ない一撃だ。
おそろしく速い打撃、オレでなきゃ受けきれないね。
「痛いな。
愛情表現がすぎるぞ」
「あ、あいっ……!?」
ミミの頭から湯気が上がる。
ピュアなのはいいことよ。
「あんたねぇぇ、何座ってるのよ!!
目配せしたでしょ。
さっさと来なさいよ!!」
「待機命令だと思ったぞ」
「嘘つけぇ!」
「よくわかったな」
「そう言うならもっと隠す努力しなさいよ!」
そう言ってカナンは俺の手を掴んで引っ張っていく。
離れないようにするためにがっちりとだ。
積極的よのう。
俺はそんなカナンに惹かれてホームをでる。
きっとここを抜けたところからが俺の新しい生活なのだ。
こんな半端な時期だがなと(以下略)
―――
●―――●
きっとこれって見にくいですよね。
善処します。




