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ゼーリエ1「訓練完了」

取敢えず完成している第1話を掲載してみます。


1942年4月25日キール周辺海域


麗らかな春の陽射しがバルト海の海面に降り注ぎ穏やかな波によって撹拌されて煌めいていた。

優しげな潮風が風となって穏やかに凪いだ海面を駆け抜け、澄んだ春空では鴎達が餌となる魚達を探して悠然と舞ってい、ドイツ第三帝国海軍(クリーグスマリーネ)最大規模の軍港キールから程近いこの海域は激化を続ける第二次世界大戦の影響を微塵も感じさせぬ長閑な雰囲気に包まれていた。

その時、麗らかな春の陽射しを浴びて輝いている海面の下に突如として黒い影が出現し、徐々にその姿を大きくしながら海面へと近付いていった。

影が大きくなるにつれて穏やかに凪いだ海面が大きく盛り上がり、若干のタイムラグと共に小振りな艦体と艦体に相応した小型の司令塔(セイル)を持ったU―ボートが海面を切り裂きながら浮上して来た。

司令塔の横に小さくU―120と記されたU―ボートが海面上に姿を現すと同時に海水が滴り落ちる司令塔床のハッチが開け放たれ、青灰色を基調色としたドイツ海軍の作業服と黒いふちどりのついたウール帽に身を包んだ5人の女性乗組員が姿を現した。

この年(1942年)1月に発令された国家総動員指令にもとずいてドイツ海軍が試験的に採用した女性U―ボート乗員の第1陣として採用された彼女達の内4人が狭い司令塔上部の手すりに命綱を固着させた後にツァイス社製の双眼鏡を使って周囲を監視を始め、残る1人が艦内から持ち出して来た十字型のアンテナを司令塔中央部に差し込んでいると、彼女達に続いて士官用の帽子を着用した2人の女性士官が司令塔上部へと上がって来た。

艦長用の純白の帽子から覗くセミロングの金髪と、澄んだライト・ブルーの瞳の活発的な美貌が人目を惹く女性士官…訓練U―ボートU―120艦長のエルザ・カールテンベルク大尉…が狭苦しい司令塔上部のスペースの一角に我が身の置き場を確保していると黒い士官用帽子を被った哨戒長兼先任士官のクラリス・ファルケンファイン中尉が周囲の監視にあたる4名の乗組員からの報告を受けた後にエルザに向けて声をかけてきた。

「艦長、異状ありません」

ポニーテールの金髪とライト・ブラウンの瞳の物静かで整った面立ちのクラリスの報告を受けたエルザは小さく頷く事でそれに応じると、司令塔に装備された伝声管を使い機関室へと命令を下した。

「機関室、水上航行を開始するわ、機関両舷半速前進」

了解(ヤーヴォール)

エルザの命令を受けた機関室からは機関長のアリア・クノッケンドルフ中尉の静かな口調の返答が返され、一瞬の間を置いた後にU―120の艦体が小さく身震いを始めた。

それに続いてU―120が水上航行用として2基搭載するMAN社製RS―127Sディーゼル・エンジンがディーゼル・エンジン特有の重厚な駆動音と共に動き出し、それに伴って発生した排気によってバラスト・タンクを満たしていた海水を艦外へと押し流しながらU―120が静かに前進を始め、それと同時に司令塔中央部でアンテナを接続していた水兵が作業を完了した事をエルザに告げてきた。

「艦長、ビスカヤ・クロイツ設置完了しました。」

「ごくろうさまエリーゼ、哨戒作業に回って頂戴」

了解(ヤー)

エルザの言葉を受け、後ろで纏められたセミロングの金髪と翡翠の瞳にソバカス混じりの健康的であどけなさの残る面立ちが魅力的なエリーゼ・シュナウファー二等水兵が明るい声で復唱しながらツアィス社製の双眼鏡を使用して周辺海域の監視を始め、それを目にしたエルザは頷きながら伝声管を使って司令塔直下の発令所を呼び出した。

「艦長よ、ビスカヤ・クロイツの設置を完了したわ」

「確認しました、リーザが電波監視を開始しています。」

「了解」

発令所からの返答を受けたエルザは伝声管から顔を離し、エリーゼが装着した逆探装置(ESM)FuMB―1メトックスの電波測定用アンテナ…通称ビスカヤ・クロイツ…を一瞥した後に再び伝声管に顔を近付けながら発令所に命令を下した。

「操舵手、取り舵一杯、目標キール」

「了解」

監視作業を続けながらエルザと発令所のやり取りに耳を傾けていたエリーゼ達の間に安堵の雰囲気が流れ、それに気付いたエルザはわざとらしく顔をしかめさせながら彼女達に声をかけた。

「駄目よみんな、気合い抜いちゃっ、キールの埠頭に帰りつくまでが訓練なのよ…はっちゃけるのはキールのビアホールまでとって置きなさい」

「「了解」」

エルザの言葉を受けたエリーゼ達は双眼鏡から眼を離さずに小気味良く返答し、その返答を受けたエルザが満足げに頷いているとU―120がゆっくりと艦首を巡らせ母港であるキールに舳先を向けて前進を始めた。

(訓練完了…か)

前進するU―120の司令塔からキールの方向を見詰めていたエルザは胸中で小さく呟くと今までの訓練の事を思い出しながら内心で顔をしかめさせた。

(あたし達はどうなるんだろう…)

海軍が女性U―ボート乗員の採用を見送るであろうと言う噂は既に訓練部隊内にすら届いており、エルザ達は自分達の境遇に不安を抱きながらも訓練を続けてきたのだ。

訓練を完了したエルザ達26名の女性U―ボート乗員の今後の予定については訓練を終えてキールに到着した後にエルザに告げられる事になっており、彼女は帰港後に司令部に出頭する事になっていた。

(まあ、成るようにしかならないわね…)

エルザは自分達を待ち受ける境遇に対して達観した結論を出した後に狭い司令塔上部でクラリスやエリーゼと共に周辺を監視している四人の乗組員を見渡した。

170センチの長身とショートヘアの金髪にヴァイオレットの瞳のボーイッシュな美貌が魅力的なライーザ・ラステンベルク二等下士官、ライーザとは対照的な小柄な肢体と後ろで纏められたライト・ブラウンの髪と瞳の整った面立ちが印象的なドロテーア・ハーベルト二等下士官、同盟国である日本に伝わる日本人形の様に短く刈り揃えられた黒髪と黒瑪瑙の瞳が魅力的な日独ハーフのミレーヌ・ヨシザキ二等水兵、二つに纏められたセミロングの金髪とエメラルド・グリーンの瞳の活発そうな面立ちのアイビス・ハウゼン二等水兵はツアィス社製の双眼鏡と目視を併用しつつU―120の周辺を油断無く監視していた。

(皆、随分立派になったわね…あたしも随分助けられたわね…)

約4ヶ月前に集まった彼女達の様子を思い出したエルザが感慨深げな微笑を浮かべていると、前方を監視していたライーザが身を前に乗り出しながら口を開いた。

「艦長!2時の方向約3000より小型艇1隻が高速でこちらに接近しています!」

ライーザの報告を受けたエルザが弾かれた様に双眼鏡をその方向に向けると、視界に凪いだバルト海の水面を切り裂きながら前進して来る1隻の小型艇の姿が飛び込んで来た。

エルザが見詰める内に小型艇は徐々に姿を露にしていき、正体を確認したエルザは口元を微かに緩めながら口を開いた。

「Sボート(魚雷艇)ね…」

エルザが呟いている内にSボートは更にU―120へと接近すると、速度を緩めながら舳先を巡らせてU―120と平行する形となり乗員達がエルザ達に向けて手を振ってきた。

「……機関室、機関停止」

「……了解」

エルザはSボートに対して手を振り返しながら機関室に命じるとU―120はゆっくりと洋上に停止し、それを確認したSボートは更にU―120に接近した後にエンジンを停止させた。

「エルザー!訓練完了おめでとう!!」

停止したSボートから栗毛のポニーテールとブラウンの瞳の美貌と軍服に包まれたしなやかな肢体が魅力的な女性がメガホンを使用して言葉を発し、それを受けたエルザもメガホンを取り出して口に押し当てながら言葉を返した。

「ありがとうミーア!貴女達は一足先に訓練完了し筈よね?そのフネが実戦艦かしら?」

エルザがそう告げるとエルザ達女性Uボート乗員と同時に海軍が錬成を開始した女性Sボート乗員のミーア・シュタインドルフ大尉が頷きながら言葉を返してきた。

「S―47、S―38型の新造艇よ」

エルザの問い掛けを受けたミーアはそう返答しながら微笑を浮かべ、エルザは小さく頷いて両舷に配置された艇体内臓式の魚雷発射官が特徴的な高速戦闘艇を一瞥しながら言葉を続けた。

「習熟航海ってわけね」

「これから1ヶ月で皆をこの子に馴れさせる予定よ…それじゃあ、あたし達は訓練海域に移動するわ、また飲みましょう!」

「了解」

エルザの言葉を受けたミーアは微笑を浮かべながら頷くと前進するよう命令を発し、S―47は3基搭載されたダイムラー・ベンツ社製ディーゼル・エンジンMB―502(1320PS)を再始動させて滑らかな海面を高速で前進して行った。

エルザは暫く離れて行くS―47を見送った後に機関室にエンジンの再始動を命じU―120はキールに向けて再びゆっくりと進み始めた。


キール軍港


S―47と別れたU―120はゆっくりとした速度で前進を続けた後に沖合で合流したRボート(小型掃海艇)のR―102に先導されながらキール軍港へと入港した。

深く切れ込んだ入り江の奥に存在するドイツ第三帝国海軍有数の軍港には哨戒任務から帰投したUボートに新造されたUボートやSボート、更には訓練任務に携わる軽巡洋艦等の大小様々な艦艇が停泊し物々しい雰囲気に包まれていた。

U―120はR―102の先導の下で停泊する他の艦艇の脇を通過しながら停泊用に指定された埠頭へと前進し、艦体を埠頭に接岸させた後にディーゼル・エンジンを停止させた。

「こちら機関室、機関停止しました。」

「了解」

機関室のアリアの報告を受けたエルザは了解の言葉を返して伝声管の蓋を閉めると、司令塔上のクラリス達を見渡しながら言葉を続けた。

「到着したわ、下に降りて下船の準備にかかりなさい」

「「了解!」」

エルザの言葉を耳にしたライーザ達は弾んだ声で応じるとあっという間に司令塔のハッチから艦内へと潜り込んで行った。

「…現金な()達」

その様子を目にしたエルザが微苦笑と共に呟いていると、傍らのクラリスが頷きながら言葉をかけてきた。

「でも、皆よく頑張ってたわね…」

「…ええ」

感慨深げなクラリスの言葉を受けたエルザは、一瞬の間を置いた後にそう応じると、クラリスは微かに眉を潜ませながら言葉を続けた。

「どうなるんだろうね、あたし達…」

「…なるようにしかならないわね」

「……そっか」

短く言葉を交わしたエルザとクラリスが、近くに停泊している軽巡洋艦「ニュールンベルグ」を見るとは無しに見詰めていると、ライーザが司令塔のハッチから上半身を覗かせ訝しげな表情と共に声をかけてきた。

「艦長、哨戒長、下に降りないんですか?」

ライーザの言葉を受けたエルザとクラリスは一瞬互いの顔を見詰め合ったが、次の瞬間には微笑を浮かべながら頷き合いライーザへと視線を向けながら口を開いた。

「直ぐに降りるわ…」

「貴女も早く下船準備を整えなさい」

了解(ヤー)

エルザとクラリスが相次いで言葉を発すると、ライーザは歯切れの良い口調で応じながら再び艦内へと潜り込んでいき、エルザはそれを見送りながらクラリスに向けて口を開いた。

「さてと、あたし達も行きましょうか?」

「了解です、艦長」

クラリスはエルザの言葉に頷くとハッチからU―120の艦内に潜り込んで行った。

残されたエルザはU―120の小さな司令塔のトップから、見慣れたキール軍港をぐるりと一度見渡すと小さく頷きながらハッチから艦内に降りて行った。


約30分後


埠頭に接岸したU―120の前に純白の水兵服に着替えたライーザ達が整列し、真新しい軍服に着替えたエルザとクラリスが彼女達の前に立っていた。

「アリアはどうしたのかしら?」

「もうそろそろ来る頃なんだけど…あっ、来た来た…」

エルザとクラリスがまだ到着していない機関長のアリアについて会話をしていると、クラリスが声を上げながらU―120を指差すとハッチから真新しい軍服に身を包んだアリアが水兵服姿の機関員数名と共に艦体の後部ハッチから出てくるのが確認された。

淡い栗色のセミロングの髪と落ち着いた輝きを放つブラウンの瞳と眼鏡と言う落ち着いた雰囲気の美貌の持ち主であるアリアは、U―120と埠頭を繋ぐ道板を通ってエルザとクラリスの元に駆け寄るとエルザに向けて敬礼を送り、苦笑と共に口を開いた。

「ごめんなさい、ディーゼルと電動機の最終チェックをしてたの、異常無しよ」

「了解」

アリアの言葉を受けたエルザは答礼しながら応じるとクラリスとアリアを自分の傍らに並べさせ、一列に並んだライーザ達に視線を向けた。

敬礼(アハトゥング)!!」

クラリスが鋭い口調で号令を発した刹那、ライーザ達は一糸乱れぬ動作でエルザに向けて敬礼を送り、それを受けたエルザは流れる様な動作で答礼を返した。

「直れ!!」

エルザの答礼を目にしたクラリスが続けて発した号令を受けたライーザ達は素早く気をつけの態勢を取り、それを目にしたエルザは小さく頷きながらライーザ達に向けて号令を発した。

「休め!」

エルザの号令を受けたライーザ達は気をつけの姿勢から休めの姿勢となり、それを確認したエルザはライーザ達を見詰めながら静かに口を開いた。

「本日の訓練航海をもってあたし達女性U―ボート乗員候補生の訓練課程は全て終了したわ、皆、今までお疲れ様、新米艦長のあたしに従ってくれてありがとう。」

エルザの訓示を受けたライーザ達は面映ゆげなそしてどこか誇らしげな表情を浮かべ、それを目にしたエルザは穏やかな口調で言葉を続けた。

「皆も薄々は気付いてると思うけどあたし達女性U―ボート乗員の今後については未定となっているわ、あたしはこの後司令部に移動して訓練課程終了を報告して来るからあたし達の今後についてはその時に決定される筈よ…」

エルザの言葉を耳にしたライーザ達から微かなざわめきがあがるがエルザは笑顔を浮かべながらライーザ達に向けて言葉を続けた。

「落ち着いて皆、これからあたし達の行く末がどうなるにせよ、あたしにとって貴女達は最高のU―ボート乗員よ、貴女達と共に訓練課程を終了出来た事はあたしにとっての誇りよ」

エルザは一度言葉を区切り、ライーザ達をゆっくりと見渡した後に笑顔のまま言葉を重ねた。

「皆、訓練課程終了おめでとう、今夜はアドラーで慰労会を実施するわよ、では解散!」

「敬礼!!」

エルザが訓示を締め括ると同時にクラリスが鋭い口調で号令を発し、ライーザ達は流れる動作でエルザに向けて敬礼を送り、エルザは穏やかな微笑を浮かべながら答礼を返した。

「解散!!」

エルザが答礼を解いた事を確認したクラリスが解散を命ずると同時にライーザ達は一斉にエルザの元へと駆け寄った。

「艦長、今までありがとうございます。私達、艦長のおかげで訓練課程を終了する事が出来ました。」

皆を代表してライーザが感謝の言葉を発し、それを受けたエルザははにかむような微笑を浮かべながら言葉を返した。

「大袈裟ね、貴女達なら誰が艦長であっても立派に訓練課程を終了出来たわ、あたしこそ皆には沢山助けられたわ、ありがとう…」

エルザがそう言いながらライーザ達に微笑を向けていると、クラリスとアリアがエルザの元に近寄り、クラリスが皆に向けて笑顔で声をかけた。

「それじゃあ行くわよ皆!」

「「了解!!」」

クラリスの声が響くと同時にライーザ達は弾んだ声をあげながらエルザの身体を抱えあげた。

「ちょっ、皆、何を!?」

「「艦長、今までありがとうございます!!」」

突然の事態にエルザが慌てた声をあげると、ライーザ達は弾んだ声でエルザの言葉に応じながらエルザを胴上げし始めた。

「キャッ!ッコラ!……フフッ!」

ライーザ達に胴上げされたエルザの身体が浮き上がり、エルザは笑顔を浮かべながら空中を舞った。

「…あれが、女性U―ボート乗員候補生か」

胴上げされるエルザの様子を埠頭に程近い高台に立って眺めていた中背の提督が小さく呟き、彼の傍らに控えていた幕僚が頷きながら口を開いた。

「本日を持って訓練課程を終了したとの事です。」

幕僚の言葉を受けた提督は小さく頷く事で応じると、もう一度エルザ達の様子を見詰め微笑を浮かべながら頷いて傍らで尻尾を振っているアルザス犬に向けて声をかけた。

「行くぞ…ヴォルフ」

そう言った提督は幕僚を促しながらアルザス犬と共に高台から離れて行った。

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