終電後あるいは、始発前
無機質なコンクリートの壁に身を任せて目を閉じる。
終電はもうとっくに過ぎてしまった。
空気が冷えて沈んでいるのを肌が感じる。
間に合わないことぐらい分かっていた。それでも、駅までは、いつものように歩いてきた。
知らない街ではないけれど、一夜を過ごせるような場所を知っているわけではない。
急に、よそよそしくなったいつものホームには誰一人いない。
僕は誰かに繋がっているようで、実は誰とも繋がっていないのかもしれない。
何かを考えるのが億劫で、閉じた目を開くことができない。
目を開けたら、何か行動しなければならない。
何かってなんだ…
錆びた鉄の匂いが鼻につく。
どの街でも、動く者は留まってはいられない。
動かなくなったものは朽ちていくだけだ。
古い物は新しい物に替わり、街は新しい物に侵食されていく。
目を開けたら、そこはもう知らない街かもしれない。
24時間開いているコンビニを探すか、インターネットもできる漫画喫茶に入るか。
駅前も、姿を変える。
チカチカと光る目障りなネオン。無言で圧力をかけてくる新しい世界。
一方で痛々しい位、真っ暗な商店街。
ぐるっと見渡せば、新しい世界と古い世界が奇妙に共存している。
静寂が二つの世界の真ん中で揺れ動く。
立ち止まらなければ見ようとしなかったかもしれない。
あるいは、見るために立ち止まったりはしない。
今日もどこかで世界の色が入れ代わり、ぴかぴかのネオンが夜を支配しているのだろう。
夜は長い。始発が来るまではもう少し時間が掛かりそうだ。