序
フォオ・ルーニ・アルカザーク……
美しき音律を紡ぐ声
フォウ・アイク・フェルヘホウ ――
いにしえの詩吟の幕開けを謳う一節を唱え
そして古い楽器を胸に抱いて爪弾く十一弦
遥けき古代、
陽の神イーサシオン
光と風の精霊神アム
大地の帝アーガー
三柱は理の糸を紡ぎ、この世を織りいだしたる
その理の果てに至るは、ルーンファー
遍く神々は三柱のもとに集い、天地を統べた
やがて時果つる悠久の風は神を運び去り
世は唯人の手に委ねられた
神々の力の澱みはなお、薄く厚く世にとどまり
人はそれを知らずに刃を交える
かくて、狩人の子と、裏切りの剣士は、
ともに村を発ち、鉄と血の道を歩み出した――
フォウ・マーナ・リルアータ――
弦の音と詩人の声が夜の空気にしみわたって消える。
遥か頭上には、大洞穴の岩の天蓋が、星明りと闇の境目をかたどっていた。
焚火の前で村の老人が、火と詩人の弦の音色に集まる子供らに、語り聞かせている。
子供たちは、古代語交じりの歌の意味を、老人にせがんだ。
博識の老人にも、詩人が謡う神代の言葉は難解であった。
それはカプアレーン。幾百年を渡り歩いた吟遊の詩人、妖精の末裔とも言われる者が語り継いだ歌であった。老人の曾祖父の代より古い伝承である。
老人は赤熱した薪を掘り熾す。
火が強まり、その表情を深く見せた。
「懐かしいの」
まるでその瞳は昔を思い起こすようだ。老人自身すら、見たことはない、はるか昔のことだというのに。
彼は歌の内容をせがむ子らを、焚火の周りに座らせて語り聞かせた。
「むかしむかし、村の子供二人が兵に取られ、戦へ出た。ひとりは弓をよく射、ひとりは剣をよく振るった。ひょんなことから、少年は聖なる剣を得る。また、聖女の助力を経て、英雄となるその少年の行く末に悲劇が襲う。吟遊詩人が歌うのは、その最初の節じゃ」
歌い手が、老人の語りに合わせるように、胸に抱える弦を再び爪弾く。
フードを目深にかぶる吟遊詩人の耳は、誰も目にすることはなかったが、翌朝、人知れず旅立つかの者を、唯ひとり目にした幼な子が言うには、妖精族のごとき長い耳だったという。
最後の妖精族は、この物語を伝えて人々の前から去った。
その物語を、聖原のルーンファーと、人は伝える。




