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スペル・エラー ~娘が生まれるのに異世界に召喚されたので、何があっても帰ります~  作者: とろたま愚鈍
間章

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第十一話「手がかりの輪郭」

カルディアに戻って、三日が経った。


肩の傷はまだ完全には治っていないが、日常生活には支障がない程度には回復した。

エルナに「動かすな」と言われたので、おとなしく従っている。


正直、この三日間は何もしていない。

荷物の整理。

ちょっとした世界に関する調査。

それだけだった。


体は休んでいるが、頭の中は休んでいない。

リアのことを考える。

アイラのことを考える。

ダンのことを考える。

殺した工作員のことを考える。

そして——帰ることを、考える。


「ジュディ。」


エルナが部屋に顔を出した。


「ガレスから連絡が入ったわ。通信繋いでいい?」

「うん。お願い。」







空中に淡い光の膜が広がる。

ガレスの顔が映し出された。

いつもと変わらない、最小限の表情だった。


「久しぶりだな。エルナ。ジュディ。」

「どうも。お世話になってます。」

「ん?お世話?」


え。何?

ただの挨拶だけど。


「ちょっと。何気色悪いこと言ってんの?ふざけないで。」


エルナが、ジト目でこちらを見てくる。

ふざけてないもん。

未だに、世界間の常識の違いを痛感する。


「まぁ、いい。世界間での常識の違いみたいなものだろう。」


ガレスさん。

あんたはって人は本当に。

超クールだぜ。


「依頼の件、報告は受けた。」

「はい。」



ガレスは少し間を置いた。


「よくやったな。結果としてクレームはなし。バイオストーンもアルカナの情報となる人材を手に入れご満悦だ。」


それは、ダンの契約も上手くいったということだろうか?

心配していたが、そちらは概ね問題がないようだ。



「ありがとうございます。色々と、予定外のことも起きましたが。」

「完了させたなら十分だ。」



エルナが横で得意げな顔をしている。

まぁ、結果オーライではあったのか。



「さて。本題に入ろう。」


ガレスが腕を組んだ。


「元の世界に帰りたいのだろう?情報を集めておいた。」


僕は頷いた。



「ただ、残念ながら召喚魔術というものは、この世界でもほとんど研究されていない。記録も少ない。大した情報は得られなかった。」


ガレスは一度エルナを見た。


「まずは、ジュディが元の世界に帰るために、必要な条件を整理する。」

「一つ目。」


ガレスが指を一本立てた。


「向こうの世界に、何らかの形で干渉できること。」

「まぁ、それは当然ね。そもそも干渉できなければ、ジュディがここにいることもないわ。」


エルナが、当たり前のことでしょ?と鼻をならす。



「この干渉というのは、繋がりだな。二つの世界の間に、橋のようなものが必要になる。召喚が起きた時点で、一度その橋が繋がったはずだ。それをもう一度開けられるか、あるいは別の方法で接続できるかが問題になる。」

「エルナ。無視されてるぞ。」

「うっさい。」


ガレスは僕達の会話に一切口を出さない。

時間を惜しむように言葉を続ける。


「二つ目。」



今度は二本。


「時間と、場所に関する問題を解決すること。」


時間。

エルナに言われた言葉が頭をよぎる。


——可能性は、ゼロじゃない。


「召喚は場所だけでなく、時間軸にも影響する。ジュディ、お前は今16歳の体をしているな。」

「……はい。」

「それが証拠だ。元の世界と、この世界の時間の流れは必ずしも一致していない。帰還する際に時間軸と、場所を正確に指定しなければ、帰ったとしても望んだ時間には戻れない可能性がある。」

「逆に時間のことを考えなければ、難易度はもっと下がるわけ?」


エルナが珍しく質問をする。


「場所も適当でいいというのなら、間違いなく下がるだろうな。」


だがな——。とガレスは続ける。


「エルナ、お前の目標はただジュディを異世界へ送り返すのではない。安全に送り返さなければ、ジュディは満足しないぞ。」

「……そうね。さっきの質問は撤回させて。なしよ。なし。」


エルナは舌を出して手を振る。


望んだ場所と時間。

娘が生まれる前に帰りたい。

いや——生まれた瞬間に間に合いたい。


「三つ目。」



三本目の指が立つ。


「再現性の確保と検証のために、装置を準備すること。」

「——装置?」


僕は首を傾げる。



「そうだ。理論を実行に移すには、それを形にするものが必要になる。魔力だけでどうにかなる話ではない。」


僕は、今エルナと住んでいる魔術工房。

住宅エリアを思い返しながら、周りに目をやる。

装置らしい装置はどこにも見当たらないし、あった記憶もない。


ガレスが僕を見た。


「この三つの条件をクリアしなければ、帰還は難しい。逆に言えば、この三つを一つずつ解決していけば、道は見えてくる。」


・世界への干渉方法

・時間と場所の指定方法

・検証のための装置の確保…か。



しばらく黙っていた。

帰れるかもしれない。

その可能性が、少しだけ輪郭を持ち始めた気がした。



「……ありがとうございます。」

「礼は帰ってから言え。まだ何も解決していない。」

「そうしたら、お礼は言えないですよ?」

「……。帰る前に菓子折りを持って来い。」



菓子折り。

ガレスらしくない答えで少し笑いそうになる。


「一つだけ聞いていいか。」



通信を切る前に、僕はエルナに声をかけた。


「なに?」

「エルナは、なぜ召喚魔術を研究していたんだ?」


エルナが少し間を置いた。

ほんの一瞬。気にならない程度の間だったかもしれない。


「……魔術の研究よ。様々な魔術の中に召喚魔術も含まれていた。それだけ。」

「そうか。……だとすれば、エルナはもう今の条件の中でクリアしているものってあるの?」

「……あるわけないでしょ。」


……あるわけないのか。

くそぅ。

まぁ、それもそうか。

手がかりが一つもないって言っていたもんな。

だからこそ、こうしてガレスと話しているわけだし。


ガレスが、僕とエルナの会話に割って入る。



「とはいえ。召喚された時の状況を整理しておくのは悪くない。」

「……。」


なんだか、エルナはバツが悪そうだ。

ガレスはそのまま言葉を続ける。


「カルディア政府への申請なしで、禁術である召喚魔術を使ったお前が悪い。」


……え?

禁術?今禁術っていった?

禁止の『禁』に魔術の『術』で禁術だよな?多分。


——ぐりん。

エルナの方に振り返り、見つめる。

というか、睨みつける。


「……。」


エルナは口笛を吹く素振りをしながら天井を見ている。

口笛、吹けてねーぞ。

こっち見ろ。ゴラァ。


「その分だと、魔術ログも残していないな。まったく、魔法使いはこれだから厄介だ。」


ガレスがやれやれと言葉を吐き出す。


「魔術ログ?ってなんですか?」

「本来、ストーンウェアを介した魔術にはストーンウェア側にログが残るものなのさ。いつ、どんな魔術を行使したのかな。」

「……なるほど?」

「そのログが、事件・事故が起きた時の証拠となり得たり、予期せぬトラブルが起きた時の対処にもなると言うわけだ。」


へー。

これは、なかなか新情報だ。

僕もこの世界に来て、色々調べているつもりではあったが。

まだまだ知識不足だな。


……ん?


「つまり、ストーンウェアを介さずに魔術を行使できるエルナにはログが残らないと?」

「いや、別端末に残すことはできる。エルナの反応を見るに、やっていないだろうがな。」

「禁術を無許可でやるのに、ログ残すバカがどこにいんのよ。」


……こ、こいつ。

開き直りやがったよ。

マジかよ。こいつ。マジかよ。


「……となると。当時どんな魔術が発動し、どこでどんな間違いが起きたかも知ることは不可能ということだな。」

「だから言ったでしょ?手がかりが何一つないって。」

「エルナ。今日ご飯抜き。」

「……なんでよ!あんたにそんな権限ないでしょ!」

「喧嘩なら、この通話が終わった後にしてくれ。時は金なりだ。」


ガレスに注意される。

二人で先生に怒られた生徒のように肩を落とした。


「話しを進めるぞ。まずは、検証のための装置、これが最優先だ。」

「そもそも、なぜ装置が必要なんですか?エルナは装置がなくても魔術を使えるんですよね?」

「精度の問題だな。毎回一発で弾丸を頭に的中できないように。どうしても人の手では正確性にかける。」

「……。そこに関しては反論できないわね。」

「特に、今回の魔術は繊細だ。正確にログを取り、検証を繰り返して、初めて実行に移せる。」



方針が見えてきた。

まずは、装置の確保だな。


「装置の件は、どう進めるんですか?」

「私の方で動く。ただし、時間がかかる。」

「どのくらいですか?」

「一週間でなんとかしよう。」


一週間。

長いようで、短いようで。


「その間は、カルディアにいろ。肩もまだ完治していないだろ?」

「了解です。」

「それと——」


ガレスが少し間を置いた。


「次は直接会いたい。通信越しでは話せないこともある。」

「直接、というのは?」

「会う時に座標を送る。そこまで来てくれればいい。迎えを寄越す。」

「わかりました。お会いできるのを楽しみにしています。」

「やめろ。気色悪い。——ではな。」


それだけ言って、通信が切れた。

気色悪いって言われた…。


光の膜が消え、部屋が静かになる。



「……次は直接会うのか。」

「そうみたいね。」



エルナは窓の外を見ていた。



「ガレスが直接動くとなると、相応の話があるってことよ。」

「相応の、か。」

「悪い話ではないと思うわ。あなた、多分気に入られてる。」


だといいけど。

人から嫌われるよりは、気に入られていたほうがずっといい。



「……待つしかない。か。」

「焦らない。まずは、その肩治しなさい。」

「ウッス、先輩。」

「キモい。」



エルナが僕を一瞥した。

でも、口元がわずかに動いた気がした。



………………。

…………。

……。



その夜。

ベッドに横になりながら、ガレスの言葉を頭の中で繰り返した。


三つの条件。

元の世界への干渉。

時間軸の問題。

装置の準備。


一つずつ解決していけば、道は見えてくる。


明里と娘。

名前をまだ決めていない自分の子。


——必ず帰る。


その気持ちが薄れないように、強く思う。

もはや、寝る前の習慣にもなっていた。


ただ、今夜は少しだけ違った。


——魔術の研究よ。様々な魔術の中に召喚魔術も含まれていた。それだけ。


あの時、なぜかエルナの表情に違和感を感じた。

正体の掴めない違和感は、眠ることで薄れていった。




第十一話、お読みいただきありがとうございます!

今回から第一章を終え、物語は第二章へと繋がる「間章」に突入します。

本話も含めて3話程度になる予定です。


本日、「あらすじ」やタグも「マジック・パンク」としての色を強めてリニューアルしました。


続きが気になる!と思ってくださったら、

ブックマークやコメントで応援いただけると、執筆のスピードが大幅に向上します(たぶん)。

あ、あと作者が泣いて喜びます。


明日も20:10に更新予定です。

これからも『スペル・エラー』をよろしくお願いします!

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