手記 6 ――帰れない言葉――
手記 6 ――帰れない言葉――
〈地球暦換算:接触後 第二百二十三日〉
召還命令が出た。母星に帰還せよ、と。
帰りたい。帰りたいと思う。家族がいる。生まれた土地がある。一度きりの言葉が咲き続ける、あの清浄な空気がある。
だが、帰ってどうなる。
帰郷した瞬間、仲間は私の言葉を聞くだろう。母星語で話す私の言葉を。そして気づくだろう。私の言葉が、以前と違うことに。新しい音素の生成が遅くなっていること。時折、以前使った音の組み合わせに似た響きが混じること。
完全に同じではなくとも、彼らの耳は聞き分ける。わずかな腐敗の兆候を、彼らは見逃さない。
「おまえは変わってしまった」
彼らはそう言うだろう。大使がそう言ったように。
母星に居場所はない。
* * *
では、地球に残るか。
この星でなら、私は誰にも疑われない。同じ言葉を使っても、嘘をついても、誰の耳にも腐臭は届かない。永遠に自由だ。永遠に。
永遠に、腐った言葉の中で。
それを自由と呼べるのか。
* * *
今日、一つだけ発見したことがある。
地球語には「孤独」という単語がある。何度でも使える。何千回でも使える。地球人はこの言葉を日常的に使い、歌に詠み、物語に綴る。
母星語には、「孤独」に相当する言葉は存在しない。なぜなら、一度きりの言葉で話す我々の間では、すべての会話がすべての瞬間に新しく、すべての言葉が相手のためだけに創られる。孤独が生まれる余地がない。
だが今、私は理解した。孤独という概念を。同じ言葉を繰り返せる世界でしか生まれ得ない、あの広大な空虚を。同じ「愛してる」を千回聞いて、そのどれが本物かわからない恐怖を。同じ「大丈夫」を繰り返しながら、まったく大丈夫ではない夜を。
地球人は、この空虚の中で生きている。生まれた時から。
そして今、私もまた。
* * *
母星語で、この手記を終えたい。
だが書こうとすると、以前使った言葉ばかりが浮かぶ。新しい音が出てこない。かつてなら一瞬で花が開くように言葉が生まれたのに。
最後に一つだけ、新しい言葉を創れた。
翻訳は不可能だ。どの地球語にも対応する概念がない。強いて言えば、それは――
「かつて清浄だったものが、汚染を知った後に見る、汚染される前の自分の記憶の、その記憶すら腐り始めていることに気づいた瞬間の、声にならない叫び」
――に近い。近いが、正確ではない。正確な翻訳は存在しない。それが一度きりの言葉であるということは、それを理解できる者が、宇宙にもう一人もいないということだ。
私だけの言葉。私だけの
彼の手記は、ここで途絶えている。
* * *
編纂者注:
ヴェルの召還命令が出された後、彼が母星に帰還したという記録は、双方のいかなる公式文書にも存在しない。地球に留まったという記録もまた、存在しない。
ファーストコンタクト事象の後、異星人側との外交関係は、新たに派遣された通訳団によって正常化された。サラ・コーエンの発見した言語原理に基づき、双方の意思疎通は飛躍的に改善され、現在に至っている。
ヴェルの手記の最後の一文は、文の途中で断たれている。最後の単語は母星語のまま記されており、翻訳部門はこれを翻訳することができなかった。一度きりの言葉であるがゆえに、対照可能な用例が存在しないためである。
その言葉が何を意味していたのか、知る者はいない。
〈了〉




