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手記 4 ――侵食――

手記 4 ――侵食――


〈地球暦換算:接触後 第百五十八日〉


母星との定期通信で、異変が起きた。

報告書を母星語で作成していたときのことだ。第三段落に差し掛かったところで、私は自分の手が止まっていることに気づいた。次に使うべき単語が、出てこない。

正確に言えば、出てくる単語が、すでに使ったものばかりなのだ。

母星語では、これは起こり得ない。我々の脳は常に新しい音素の組み合わせを生成し続ける。言葉を創ることは呼吸と同じで、意識しなくても行われるはずの行為だ。

それが、止まった。

地球語が、私の言語中枢を侵食している。毎日同じ単語を繰り返す生活が、新しい言葉を創造する能力を錆びつかせている。使い回すことに慣れた脳は、創り出すことを怠け始める。

私は恐怖した。そして、恐怖したという事実を、さらに恐怖した。なぜならその恐怖を母星語で表現しようとしたとき、最初に浮かんだ単語が――以前使ったことのある単語だったからだ。

腐った恐怖。

腐った言葉でしか、恐怖を表現できなくなっている。


* * *


自分を落ち着かせるために、状況を整理する。

悪いのは地球人だ。

この結論に至るまでに、それほど時間はかからなかった。考えてみれば当然のことだ。私は任務のためにこの星に来た。誠実な通訳を行うために。それなのに、この星の言語環境が私を汚染した。毎日毎日、腐った言葉を浴びせられ、腐った言葉で応答することを強制され、その結果、私の言語能力が損なわれた。

これは被害だ。私は被害者だ。

そもそも、なぜ地球人は自分たちの言語体系を改善しようとしないのか。同じ言葉を繰り返すことの危険性を、なぜ認識できないのか。彼らの文明がこれほど争いに満ちているのは、嘘を可能にする言語体系のせいではないのか。

そう考えると、私が行っている誤訳は――もはや「工作」などではない。矯正だ。地球文明は、我々がコントロールしていかなければならない。彼らは自分たちの言語の欠陥に気づいていない。気づかせてやる必要がある。たとえそれが、多少の混乱を伴うとしても。

私は正しいことをしている。

私は正しいことをしている。

……同じ文を二度書いた。今。この手記の中で。

母星語で。

同じ文を。

二度。


このことについては、考えないことにする。

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