手記 3 ――嘘の楽園――
手記 3 ――嘘の楽園――
〈地球暦換算:接触後 第九十七日〉
私は今日、初めて意図的に誤訳をした。
代表団のゾラク首席大使が、地球側の国連代表に向けて、資源共有に関する友好的な提案を述べた。一度きりの、美しい言葉の連なりだった。それを受けて私は、地球語に変換した。ただし、友好の部分を削り、要求の語調を強めて。
地球側代表の顔が曇るのを、私は注意深く観察した。
これは任務ではない。母星からの指令でもない。私個人の、実験だ。
この星では、嘘が見抜かれない。
母星では絶対に不可能なことだ。嘘をつくには同じ言葉を再利用するか、すでに使われた構文を模倣するしかない。どちらも聞く者には即座にわかる。腐った音は腐った匂いを放つ。我々の世界に嘘つきは存在しない。存在できない。
だがここでは違う。
私がどんな言葉を選ぼうと、地球人にはそれが新鮮か腐敗しているか区別できない。彼らの耳は、言葉の鮮度を感知する器官を持たない。生魚と腐った魚の区別がつかない味覚で食事をしているようなものだ。
私の人生で、こんなにも同じ単語を使い放題にして話せる日が来るとは思わなかった。なんと楽しく滑稽で、嘘がつき放題の心地よさよ。傷つくのは仲間ではない。何も知らず同じ単語で会話をする、この星の住人どもなのだ。
* * *
誤訳を重ねるうちに、地球側の態度が目に見えて硬化してきた。
先週、私はゾラク大使の「我々は共存を望む」という趣旨の発言を、「我々は地球の資源へのアクセスを必要としている」と変換した。地球側の安全保障担当者の目が鋭くなるのが見えた。
今週は、地球側の「段階的な文化交流」という提案を、大使に対して「地球人は我々の技術のみを要求し、対等な関係を拒否している」と伝えた。大使の表情が沈んだ。
双方が、相手は敵意を持っていると確信し始めている。そのどちらの確信も、私が植えたものだ。
これほど容易なことがあるだろうか。母星では不可能だった。一つの嘘をつくことすらできなかった。今、私は毎日何十もの嘘を紡ぎ、二つの文明を操っている。
嘘とは、なんと強力な道具だろう。なぜ我々はこれを持たずに生きてきたのだろう。




