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手記 1 ――腐臭の星――

――異星人通訳官ヴェルの手記――


我々もヴェルのようになる日が来るかもしれません。

言葉というものは時代でゆっくり変化していきます。

その変化のスピードが速いか、ゆっくりか。

その違いでしかないのです。


翻訳・編纂:国際異星言語研究機構(IAXL)

本文書は機密指定解除済 公開承認番号 FC-2189-V


前 書 き


以下の文書は、人類史上初の異星文明接触――いわゆる「ファーストコンタクト事象」――において通訳官を務めた異星人ヴェル(人類側呼称)が残した手記を、可能な限り忠実に翻訳したものである。

原文はヴェルの母星語で記されているが、周知の通り、彼らの言語は一度使用された単語が即座に「腐敗」し、再使用が不可能になるという性質を持つ。したがって、この手記そのものが、書かれた瞬間にしか存在し得ない言葉の集積であり、我々が読んでいるのはその影に過ぎないことを、読者には予めご了承いただきたい。

また、手記の末尾は唐突に途絶えている。ヴェルに何が起きたのかについて、本機構は一切の推測を控える。


国際異星言語研究機構 翻訳部門主任

リン・カーター


手記 1 ――腐臭の星――


〈地球暦換算:接触後 第三日〉


この星の大気は、腐っている。

比喩ではない。空気の組成のことを言っているのでもない。私が言っているのは、音のことだ。この星に満ちるあらゆる音が、腐敗している。

着陸船から初めて外に出たとき、私は地球人の出迎えの言葉を聞いた。

「ウェルカム・トゥ・アース」

私の聴覚器官は即座にその音素配列を記録した。問題はその直後だった。別の地球人が、まったく同じ音素配列で、まったく同じ言葉を発したのだ。

「ウェルカム・トゥ・アース」

同じだった。完全に、同じだった。

私は吐いた。文字通り、吐いた。

母星の上官たちは私を叱責するだろうか。通訳官としての任務初日に、外交の場で嘔吐するとは。だが理解してほしい。あの感覚を。使用済みの言葉が再び空気を振動させたときの、あの耐えがたい腐臭を。

我々の言語では、一度発した音の組み合わせは、その瞬間に使命を終える。言葉は花のようなものだ。咲いた瞬間が最も美しく、その一瞬のためだけに存在する。二度咲くことはない。二度咲く花を、我々は「枯死した花の模造品」と呼ぶ。

地球人は、枯死した花の模造品を何百回も何千回も口にしながら、それを「会話」と呼んでいる。


* * *


今日、地球側の言語学者チームと初めて公式に顔を合わせた。彼らは友好的で、知性的で、明らかに善意に満ちていた。それが事態をいっそう困難にしている。

彼らは私に何度も同じ質問をした。私の名前を尋ね、私の母星の名前を尋ね、我々の言語の構造を尋ねた。そのたびに同じ単語を使って。

「あなたの名前は?」

「あなたの名前は?」

「あなたの名前は?」

三度。三度同じ音の列が繰り返された。私の聴覚が悲鳴を上げた。腐った食物を三度口に押し込まれるのと同じだ。いや、それよりひどい。なぜなら彼らは、それが腐っていることに気づいてすらいないのだから。

私は努めて冷静に答えた。だが答えるために、私は彼らの言語を使わねばならなかった。彼らの、腐った言語を。同じ「私」を何度も、同じ「は」を何度も、同じ「です」を何度も発音しなければならなかった。

なぜ理解できないのだ。同じ言葉はすでに腐っているのだ。異臭を放つ汚物なのだ。なぜ地球人はそれを理解できない? それを伝えるために私は何度も何度も腐った単語を口にしなければならない。なんという屈辱だ。

任務を終えて着陸船に戻ったとき、私は長い時間、口を清めた。母星の言葉で、一度きりの、新鮮な音の連なりを紡いだ。それは祈りに似ていた。汚れを落とすための祈り。

明日もまた、腐臭の中に出ていかねばならない。

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